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小学生編

Brand New Day 15

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「潤、瑞樹、兄ちゃんが来たぞー!」

 驚いたことに、潤と僕を一纏めにガバッと抱擁したのは、函館にいるはずの広樹兄さんだった。

 兄さんの逞しい腕と顎の短い髭のくすぐったさに、これは夢ではなく現実だと実感する。

「に、兄さん、一体どうして?」
「実は急遽母さんに交替してもらったのさ。潤が二児の父になった顔と瑞樹の頑張った顔を、どうしても……この目で見たくてたまらなくなって」

 僕は不思議なことに、今日、兄さんのことばかり思い出していた。兄さんに食べてもらいたくて、思い出のカップケーキを買ってしまうほどに。

「兄さん……お兄ちゃん……すごく会いたかったよ」
「瑞樹、俺も会いたかったよ!」

 つい甘ったれた言い方になってしまう。

 昔から広樹兄さんは、僕を甘やかしてくれた。

 それが懐かしくて、つい。

「俺、今日はどうしても来たくて……来て良かったよ」

 あれ? 広樹兄さん、今日は少し感じが違う。

 もしかして、くまのお父さんのおかげなのかな?

 そうか、今日は……兄さんがしたいことを出来ているのか。

 兄さんが嬉しそうだと、僕の心もポカポカになるよ。

 いつも休む間もなく働いていているので、なかなか会えない兄さんが、軽井沢に単身で来てくれた。

 会いたいから、会いに来てくれたなんて、嬉しいよ。

 だから僕の方からも、甘えて抱きついてしまう。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんが会いたいと思って、来てくれて嬉しい」
「どうした?」
「お兄ちゃんがしたいこと出来ているのが嬉しいんだ! 今までもこれからもありがとう」
 
 今日だから、今だから言えるありがとうを届けたい。
 
「瑞樹、よしよし、元気そうだな。幸せそうだな」
「宗吾さんと芽生くんに幸せにしてもらっているから……そう見えるんだよ」

 これも自信を持って言えること。

 毎日生きていると、想像もしなかった事に遭遇する。

 良い事も、悪いことも半々にやってくる。

 でも基盤がしっかりしていたら、どちらもフラットにしていける。

 基盤は愛だ。

 人を愛せる心の柔軟さ。

 人に愛される素直な心。

 どちらも大切なことだ。

 亡き母の言葉を思い出す。

……

「可愛い瑞樹、ねぇ、ずっと可愛げのある人でいてね。成長するといろんなことがあると思うけど、素直なのが一番よ。嬉しかったら笑って、悲しかったり泣いていいのよ。素直で優しい人の周りには、人が集まってくるわ」

……

 母がいなくなってから、なかなか素直になれなかった。控えめになることで心をガードして、心は閉ざしてばかりだった。

 そんな僕が、宗吾さんと芽生くんと出逢って変化した。

 宗吾さんの直球の愛を受け、芽生くんから素直な愛情を分けてもらい、母との約束を再び思い出せた。

「瑞樹、よかったな」
「はい、宗吾さん」
「お兄ちゃん、よかったね」
「うん、芽生くん、ありがとう」

 この二人はいつも僕の幸せを願い、喜んでくれる。

 だから僕も愛してる。

「むにゃむにゃ……むにゃ」 

 そこで潤の腕の中の、いっくんが目覚めたようだ。

「お、いっくんおはよう!」
「パパぁ、もう……あさでしゅか」
「いや、まだ夜だよ」
「んん……なんだかここ、キラキラあかるいでしゅよ」
「いっくんのごほうびが届いたからな」

 潤がいっくんを抱き直しキラキラした世界を見せてやると、広樹兄さんとお父さんが肩を並べ和やかに笑っていた。

「広樹、来て良かったな」
「はい、お父さんの言う通り……だったよ」
「そうそう、その調子だ。もっと砕けろ、甘えろよ」
「う……がんばります」
「ははは!」

 広樹兄さんとお父さんは、まるで最初から親子だったように馴染んでいる。

 とても素敵な光景だね。

 ずっと見たかったよ、兄さんが誰かに甘えている姿を。

「あー おじいちゃんだ! ひろくんもいる」
「いっくん、何をお願いしてくれたの?」
「みーくん、あのね……」

 僕はどうしても聞いてみたくなった。

 すると、いっくんが教えてくれた。

 とてもシンプルな願いごとを――

「あのね、あいたいひとがあえますよーにだよ。いっくんね、おとうとにあえたからうれしくって、みんなも、あいたいひとにあえましゅよーにって、おそらのパパにおねがいしちゃった」

 いっくんが小さな手を大きく広げて、目を輝かせてジェスチャーで教えてくれる。

 あぁ、君はやっぱり天使だ。
 
 僕が会いたい人を連れてきてくれた。

 それは潤も同じだ。潤にとってもくまさんはお父さんで、広樹兄さんは大事なお兄さんだ。

「会いたい人が会いたい人に会えるって最高だ。いっくんお願いごとしてくれて、ありがとう」
「うふふ、パパ、ニコニコうれちい! あーパパのおひげくちゅぐたい~」

 いっくんも起きたので、皆でカップケーキを食べることにした。

 広樹兄さんも菫の花びらがのったカップケーキを食い入るように見てた。

「兄さん、あの日はありがとう。僕、甘いものが大好きなのを知っていたから、食べずに持って帰ってきてくれて」
「瑞樹に笑って欲しくてな」
「うん、自然と頬が緩んだよ」
「今日もな」

 広樹兄さんに頬を優しく撫でられた。

「幸せな顔になったな」
「毎日、宗吾さんと芽生くんに幸せにしてもらっているので」
「俺も瑞樹には幸せにしてもらっているよ」
「兄さん? 僕は……何も出来てないよ」
「いや、カップケーキが縁でみっちゃんとの距離がぐっと近づいたのさ。だから俺の中じゃ瑞樹が恋のキューピットだ」


 兄さんはいつもすごい。

 こうやって僕の気持ちをどんどん上げてくれる。

 僕を生かしてくれた人、それが広樹兄さんだ。

「お兄ちゃんの役に立てたの? 嬉しいよ」




 潤の家には、今宵、アパートの床が抜けそうなほどの人数が集まった。

「そろそろ眠るか」
「狭いな」
「キャンプみたいですね」
「くっついたらなんとかなるって!」

 客布団を出し三枚の敷き布団に、大人五人と子供二人が川の字だ。

 おしくらまんじゅうみたいにギュウギュウで可笑しかった。

 でも、やっぱり危ないので、芽生くんといっくんは座布団の上に避難。

 残りの人たちは、くっつき合って眠りについた。

 持ち寄った幸せを広げて――

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