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小学生編

白薔薇の祝福 37 

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 緑のポロシャツを着てみたら、まだダボダボで大きかったよ。

 あれれ、どうしてかな?

 でも、雪也さんの説明でよく分かったよ。

 そうか、そうなんだね!

 このポロシャツがぴったりになる頃には、ボク、今よりずっとずっと大きくなっているんだね。

 そのころには、もっともっとお兄ちゃんのお手伝いが出来る! 

 お兄ちゃんを守ってあげることだって出来るかも!

 そう思うと、ワクワクしてきたよ。

「芽生くん、いい表情を浮かべているね。ワクワクするのは良いことだよ。君はまだ9歳だ。これからも夢を沢山抱いてスクスク成長するんだよ」
「はい!」

 可愛いお部屋でサンドイッチをごちそうになったよ。

 とても可愛くて、優しいお部屋だったから、みんなの気持ちもニコニコしてるんだね。

 ボクのお家……ママがいた頃は、家具もカーテンも白と黒のものしかなくて、ボクのお洋服も白と黒ばかりで……いつもなんとなく寒かったの思い出したよ。

 あのね、あの時はうまく言えなかったけど……

 ボクは明るい色が好き。
 
 優しい色が好き。

 ボクは明るくて優しい人になりたいんだ。

 ずっとパパみたいに明るく笑って、お兄ちゃんみたいに優しく笑っていたい。

「芽生、素敵なお洋服をいただいたわね」
「おばあちゃん、ボクが大きくなるまで、ずっとずっと元気でいてね」
「まぁ、可愛いことを言ってくれるのね。もちろんよ。おばあちゃんに生きる元気をくれてありがとう」

 おばあちゃんがボクの手を握ってくれたよ。

 少ししわがふえたけど、あったかい手を持っている大好きなおばあちゃん。

 ママがいなくなってから、ボクたちすごく仲良しになったよね。

 おばあちゃんがいつも気にかけてくれるから、なんでも話せるようになったよ。

 うれしかったこと、かなしかったこと、さみしかったこと。

「あのね、ボク、大きくなるのが楽しみ。そのためにも毎日、ていねいにたいせつに、すごそうと思うんだ」
「まぁ、たった9歳でそんな風に思えるなんて……そうね、人に対して雑になってはだめよ。でも芽生はまだ9歳。子供らしくのびのび大らかに育ってほしいわ」
「じゃあ、お外で遊んできてもいい? くまのおじいちゃんがお庭にいるの」
「そうね、こんなに良いお天気なんですもの。雪也さん、孫を庭で遊ばせてもいいですか」
「もちろんですよ。この館の庭は、そのために出来ています」

 お庭に出ると、まるでそこは『おとぎの国』のようだったよ。

 小鳥のさえずり、白いバラの香りがして、かわいいチャペルもあったよ。

「わぁ~ 広い。おじいちゃーん、なにしているの?」

 おじいちゃんがトンカチでトントン、何か作っているよ。

「家具だよ。椅子とテーブルを作っているんだ。オーダーが入ったからね」
「わぁ~ おじいちゃんって魔法つかいさんなの?」
「ははっ、大工というんだよ。久しぶりにやり出したら楽しくてとまらないんだ。芽生坊たちの家を建てる手伝いもしたいから、ウォーミングアップさ」
「わぁ、おじいちゃんすごい! すごい!」

 おじいちゃんが笑って、ボクの頭をなでてくれたよ。

「芽生くんは、みーくんの小さい時と似ているな」
「え? そうなの? うれしいよ。どんな所が?」
「素直で優しい子な所さ。いつも俺のこと、すごいすごいって褒めてくれたよ」
「そうなんだ。お兄ちゃん、そんな子だったんだね」
「あぁ、いつも優しくて、誰に対しても優しくて天使みたいだった。天使の子は天使なんだな」
「えへへ」

 くまのおじいちゃんと話すのも大すき。

 お兄ちゃんと似ているって言われるのも大好き。

 大好きな人に似ているって言われるの、うれしいね。

****

「それでは今からワークショップを始めます」

 テーブルを見渡すと、芽生くんとお母さんの姿が見えた。

 二人ともワクワクした表情で座っている。

 そして僕を真っ直ぐに見守ってくれている。

 その横には函館の母の姿も見えた。

 斉藤くんがテーブルに白薔薇を配ると、芽生くんが大きな声で「お兄さん、ありがとう」と言ってくれた。

 ハキハキした様子に、目を細めてしまう。

「お花もそれぞれ個性があります。配られた薔薇は、あなたと縁あって巡り逢えた花です。どうか花の気持ちに寄り添って、花が居心地がいい、落ち着く感じにまとめてみてください」

 かみ砕いて優しく促すと、皆、薔薇を愛おしげに見つめてくれる。

 花びらにそっと優しく触れてくれる。

 その様子を見ているだけでも、このワークショップを開催して良かったと思える。

 あっ、函館の母が、僕を見つめてくれている。

 お母さん……僕の今の姿を見て下さい。

 両親と弟を突然亡くし傷心で塞ぎ込んでいた僕に、花を最初に教えてくれたのはお母さん、あなたです。

……
「瑞樹、酷い顔色ね。また眠れなかったのね」
「……ごめんなさい、ごめんなさい」
「謝らなくていいのよ。でも……こんな調子じゃ学校には行けないわね。また登校途中で吐いたり倒れたりしたら危ないわ」
「ごめんなさい、迷惑かけて……」
「……どうしたらいいのかしら、そうだわ……お店の花を見に来ない?」
「いいんですか」
「もちろんよ。花を見てあげて」

 花は、ただそこにいてくれた。
 
 精一杯の命を、美しい咲くことで見せてくれる花に、僕は惹かれた。

 それから毎日花の名前を覚えた。

 お母さんは店番をしながら丁寧に教えてくれた。

 しばらくすると、もう売れない枯れかけた花を僕にくれた。

 僕はそれを花瓶にいけたり花束にしたりして、来る日も来る日も花に触れて、過ごした。

 あの日々が、今の僕を生み出してくれた。

 全部、お母さんのおかげです。

 心をこめて母にお辞儀をすると、優しく微笑んでくれた。

 くまさんと結婚して、第二の人生を歩む母の幸せは、僕の幸せだ。

「瑞樹、どうかしら?」
「お母さんの花束は、慈愛で満ちています」
「まぁ、そんな風に言ってくれるのね。優しい子」

 お母さんはその花束を庭で家具作りをしているくまさんにプレゼントした。

「ええ、さっちゃん、俺には繊細は花なんて似合わないよ?」
「そんなことないわ。勇大さんの心の色よ」
「さっちゃん」

 二人はもう大丈夫。

 とても上手くいっている。

「さぁ、これでワークショップは終了です。お手元のブーケは、あなたの大切な人に届けてもいいし、自分の宝物にしても良いと思います。花は人を癒やし、人を和ませる存在です。人は花と共に生きてきました。これからもこの先も――」

 締めくくりの挨拶に、函館の母が泣きながら拍手をしてくれた。

 僕は函館の母と巡り会えてよかった。
 
 10歳から僕の心を育ててくれて母は、心の恩人だ。

 あのまま親戚を厄介者としてたらい回しにされたら、今の僕とは出会えなかった。心が萎れてしまっていただろう。

 愛されたから、愛せるのですね。

 お母さん、ありがとう。

 白薔薇に、僕のここまでの人生を祝福されているような心地になった。



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