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小学生編
七夕特別番外編『七夕ドライブ』②
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朝ごはんを食べ終わると時間があったので、ソファに座ってテレビを観たよ。
そうしたらニュースで幼稚園の様子がうつったんだ。小さな女の子が、たどたどしい文字で短冊にお願いごとを書くのが、かわいかったよ。
『アイドルになりたい』
うんうん、ボクも小さい頃は『グリーンレンジャー』や『少年けんし』になりたかったから分かるよ。
今だったら、なんて書くかな?
「あっ、芽生くん、そろそろ時間だよ」
「あ! 本当だ」
「宿題は持った?」
「あー 大変! やるのわすれてた」
「えっ?」
「今からやるよ」
「間に合うかな?」
「5分あるから、間に合わすよ」
「くすっ、そういうところパパと似ているね。決めたことはやり通すのカッコいいよ、頑張って」
お兄ちゃんって、優しい。
やってなかったこと頭ごなしに怒られると思ったのに、違うんだね。
怒られてもしょうがないのに、まずそうやって励ましてくれてありがとう。
よーし、頑張って終わらせるよ。
「できた!」
「頑張ったね。丁度時間だよ。さぁ気をつけて行っておいで」
「あのね……お兄ちゃん、ごめんなさい」
「ん? どうした? ちゃんと間に合ったんだから元気出して」
「うん! 今度はバタバタしないように前の日に終わらせるよ」
「そうだね。僕も芽生くんとゆっくりおしゃべりしたいから、そうお願いできたら嬉しいよ」
「うん! お約束するよ。お兄ちゃん……あのね」
「うん」
お兄ちゃんがしゃがんで僕をギュッと抱きしめてくれる。
お花の匂いのお兄ちゃん。
ボク……お兄ちゃんが大好きだ。
「可愛い芽生くん、大好きだよ」
「ボクも! ボクもだよ! えへへ、行ってきます」
ずっとずっと一緒にいたいな。
お兄ちゃん、ずっとパパと仲良くしてくれるかな。
ママみたいに消えちゃったりしないよね?
お兄ちゃんは大丈夫。
そう思うのに、なんだか心配になっちゃった。
うーん、今日が七夕だからなのかな?
おりひめさん、ひこぼしくん。
1年に1度しか会えないのはさみしくないのかな?
ボクは毎日一緒がいいよ。
そうだ! 短冊に書いてお願いしよう。
学校に着くと、玄関がにぎわっていたよ。
なんだろう?
「おはよー 芽生」
「おはよ!」
「こっち、こっち」
大きな笹の葉が玄関に飾られていたよ。
校長先生が短冊を配っていて、みんなその場でお願い事を書いていた。
わぁ、短冊だ!
「おはよう。滝沢くん」
「校長先生おはようございます」
「さぁ、これは短冊だよ。ここにお願いごとを書いてごらん」
「はい!」
でもね……いざ書こうと思ったら、手が止まっちゃった。
「芽生はやっぱサッカー選手?」
「え?」
「オレは野球選手になりたいって書くつもり」
「え……えっと」
「やっぱ、夢はでっかくだよなー もう3年生だしな」
「う、うん」
どうしよう?
お兄ちゃんとパパとずっと一緒にいられますように。
と、書こうと思っていたのに……
なんだか、そんなこと書くの変なのかな?
恥ずかしいなんて思ったことないのに、ボクどうしちゃったんだろう?
もじもじしていると、校長先生に話しかけられたよ。
「どうしたのかな?」
「あ、あの……」
「お願い事はないの?」
「あるけど……」
「あのね、無理にここで書かなくてもいいんだよ。書きたい場所で書くといい」
「あ……はい」
ボクのお願い事はね、とっても大切なことなんだ。
だから大事にお持ち帰りしたよ。
だから……その晩、お兄ちゃんが笹を買いにいこうって行ってくれた時、泣いちゃうくらい嬉しかった。売り切れでお兄ちゃんはがっかりしていたけど、ボクはお兄ちゃんの気持ちがうれしかったよ。
そしてパパ!
パパは本当にかっこいいよ。
ボクとお兄ちゃんをニコニコにしてくれる天才だ。
ボクは、本当にしあわせだ。
お兄ちゃんを見ているといつも思うの。
優しい人になりたい。
お兄ちゃんからもらった優しさを、今度は周りに届ける人になりたいよ。
今のボクに出来ることはないかな?
そうか……七夕は一年に一度だけしか会えないんじゃなくて、一年に一度会いたかった人に会える日なんだ。
お兄ちゃんには会いたくても会えない人がいるのを知っているよ。
天国へ遊びに行くことはできないかな?
何か乗り物があれば……
そこでお兄ちゃんの大事な青い車を持ってきた。
それでね、夢の中で待ち合わせをしたんだ。
ワクワクしすぎてなかなか眠れなかったけど、パパも一緒だったみたい。
今、ボクは、窓の外から満天の星空を見ているよ。
青い車に三人も乗ったら重たくて飛べないかもと思ったけど、大丈夫だった。白い天使の羽が、ボクたちを雲の上の世界に連れて行ってくれたから。
「あなたが、芽生くんなのね。瑞樹の母の澄子です」
お兄ちゃんに似た優しそうなママだね。
「やぁ、芽生くん、俺は瑞樹の父の大樹だよ」
お兄ちゃんのパパ、すごくカッコいい!
「はじめまして。ボク、滝沢芽生、9歳です」
「ハキハキして可愛い坊やだな」
「瑞樹の愛情がたっぷり詰まって満ち足りた顔をしているわね。優しい坊や。ここまで瑞樹を連れてきてくれてありがとう」
「え? ボク何もしてないよ」
二人は優しく微笑んで……
「今日、もう一度瑞樹と会えたのは、宗吾さんと芽生くんの愛情のお陰よ」
「お父さん、お母さん、俺と息子は瑞樹が大好きです。毎日毎日愛情を注いでいます」
「ボクもお兄ちゃんが大好きなの、ずっと一緒にいたいの」
お兄ちゃん、目に涙をいっぱい溜めている。
「お父さん、お母さん……僕はこの二人に愛されています。幸せにしてもらっています」
「みーくん、よかったわ。私たちが伝えられなかった分も沢山愛してもらっているのね」
「うん……うん。僕あの頃はとても寂しかったけど……今はもう大丈夫だよ。今は……地上でいつまでも宗吾さんと芽生くんと過ごしたいよ」
お兄ちゃんのママが、ぽろぽろと涙をこぼしたよ。
「良かった……本当に良かったわ。あなたの10歳の誕生日は身が引き裂かれそうな程辛かったわ。思わず「もういいから、一人で泣かないで。こちらにいらっしゃい」と手を伸ばしそうになったの。でもね、お父さんが止めてくれたわ。『大丈夫だ。瑞樹は地上で必ず幸せになるよ。時間がかかっても、ちゃんと幸せになる。幸せになったら自分たちの力でここに遊びに来てくれるよ』って言ってくれたの」
「お母さんとお父さんに会いたかったです。あぁ、そうだ……報告が遅れましたが、熊田さんと再会出来ました。それで僕のお父さんになってくれました」
くまさんのこともちゃんと報告できてよかったね。
「全部知っているよ。潤くんの結婚式の時、風船が届いたからな。熊田になら全部任せられる。アイツは瑞樹のもう一人の父親なんだよ」
「はい……はい!」
それから、ボクたちは雲の上で少しおしゃべりをしたよ。
「お母さん、夏樹は?」
「今日も双葉くんと海よ。あの子真っ黒よ」
「そうなんだ」
「会っていく?」
「うん、帰りに車で通るから会えるよ」
帰り道、青い海を通ったよ。
白いヨットの上で、二人は仲良く手をふってくれていた。
「おにいちゃーん! 元気ー?」
「元気だよ! 夏樹は?」
「僕も元気! ヨットの乗り方教えてもらってる」
「よかった」
そのまま、ボクたちは地上に戻ることにしたよ。
朝が来ちゃうからね。
戻る最中、遠くから汽笛が聞こえたよ。
「あれ? あんなところに汽車が走っているよ」
「あぁ、あれは『七夕トレイン』だよ」
「誰が乗っているのかな?」
「誰だろうね?」
****
これはおれが9歳の時の、七夕の思い出だ。
あの日のことは、今でも鮮明に思い出せる。
三人で同じ夢を見て、雲の上までドライブした。
夢のような夢、幸せな夢を見た。
そしてあの日の『いつまでも一緒にいたい』という願い事は、今もずっと叶い続いている。
「芽生くん、おはよう! 朝ご飯をつくろうか」
「おれ、トーストを焼くよ」
「ありがとう!」
「あ、兄さん、今日は七夕だよ」
「じゃあまた……夢の中で待ち合わせだね」
「あぁ」
あの頃のように、朝まで夢の内容を覚えてはいられないが……
おれたちは今夜も『七夕ドライブ』をする。
****
あとがき
七夕の物語はここまでです。
最後は高校生になった芽生をイメージしてみました。
明日からは白薔薇フェスタに戻ります。
長い寄り道を温かい目で見守って下さってありがとうございます。
そうしたらニュースで幼稚園の様子がうつったんだ。小さな女の子が、たどたどしい文字で短冊にお願いごとを書くのが、かわいかったよ。
『アイドルになりたい』
うんうん、ボクも小さい頃は『グリーンレンジャー』や『少年けんし』になりたかったから分かるよ。
今だったら、なんて書くかな?
「あっ、芽生くん、そろそろ時間だよ」
「あ! 本当だ」
「宿題は持った?」
「あー 大変! やるのわすれてた」
「えっ?」
「今からやるよ」
「間に合うかな?」
「5分あるから、間に合わすよ」
「くすっ、そういうところパパと似ているね。決めたことはやり通すのカッコいいよ、頑張って」
お兄ちゃんって、優しい。
やってなかったこと頭ごなしに怒られると思ったのに、違うんだね。
怒られてもしょうがないのに、まずそうやって励ましてくれてありがとう。
よーし、頑張って終わらせるよ。
「できた!」
「頑張ったね。丁度時間だよ。さぁ気をつけて行っておいで」
「あのね……お兄ちゃん、ごめんなさい」
「ん? どうした? ちゃんと間に合ったんだから元気出して」
「うん! 今度はバタバタしないように前の日に終わらせるよ」
「そうだね。僕も芽生くんとゆっくりおしゃべりしたいから、そうお願いできたら嬉しいよ」
「うん! お約束するよ。お兄ちゃん……あのね」
「うん」
お兄ちゃんがしゃがんで僕をギュッと抱きしめてくれる。
お花の匂いのお兄ちゃん。
ボク……お兄ちゃんが大好きだ。
「可愛い芽生くん、大好きだよ」
「ボクも! ボクもだよ! えへへ、行ってきます」
ずっとずっと一緒にいたいな。
お兄ちゃん、ずっとパパと仲良くしてくれるかな。
ママみたいに消えちゃったりしないよね?
お兄ちゃんは大丈夫。
そう思うのに、なんだか心配になっちゃった。
うーん、今日が七夕だからなのかな?
おりひめさん、ひこぼしくん。
1年に1度しか会えないのはさみしくないのかな?
ボクは毎日一緒がいいよ。
そうだ! 短冊に書いてお願いしよう。
学校に着くと、玄関がにぎわっていたよ。
なんだろう?
「おはよー 芽生」
「おはよ!」
「こっち、こっち」
大きな笹の葉が玄関に飾られていたよ。
校長先生が短冊を配っていて、みんなその場でお願い事を書いていた。
わぁ、短冊だ!
「おはよう。滝沢くん」
「校長先生おはようございます」
「さぁ、これは短冊だよ。ここにお願いごとを書いてごらん」
「はい!」
でもね……いざ書こうと思ったら、手が止まっちゃった。
「芽生はやっぱサッカー選手?」
「え?」
「オレは野球選手になりたいって書くつもり」
「え……えっと」
「やっぱ、夢はでっかくだよなー もう3年生だしな」
「う、うん」
どうしよう?
お兄ちゃんとパパとずっと一緒にいられますように。
と、書こうと思っていたのに……
なんだか、そんなこと書くの変なのかな?
恥ずかしいなんて思ったことないのに、ボクどうしちゃったんだろう?
もじもじしていると、校長先生に話しかけられたよ。
「どうしたのかな?」
「あ、あの……」
「お願い事はないの?」
「あるけど……」
「あのね、無理にここで書かなくてもいいんだよ。書きたい場所で書くといい」
「あ……はい」
ボクのお願い事はね、とっても大切なことなんだ。
だから大事にお持ち帰りしたよ。
だから……その晩、お兄ちゃんが笹を買いにいこうって行ってくれた時、泣いちゃうくらい嬉しかった。売り切れでお兄ちゃんはがっかりしていたけど、ボクはお兄ちゃんの気持ちがうれしかったよ。
そしてパパ!
パパは本当にかっこいいよ。
ボクとお兄ちゃんをニコニコにしてくれる天才だ。
ボクは、本当にしあわせだ。
お兄ちゃんを見ているといつも思うの。
優しい人になりたい。
お兄ちゃんからもらった優しさを、今度は周りに届ける人になりたいよ。
今のボクに出来ることはないかな?
そうか……七夕は一年に一度だけしか会えないんじゃなくて、一年に一度会いたかった人に会える日なんだ。
お兄ちゃんには会いたくても会えない人がいるのを知っているよ。
天国へ遊びに行くことはできないかな?
何か乗り物があれば……
そこでお兄ちゃんの大事な青い車を持ってきた。
それでね、夢の中で待ち合わせをしたんだ。
ワクワクしすぎてなかなか眠れなかったけど、パパも一緒だったみたい。
今、ボクは、窓の外から満天の星空を見ているよ。
青い車に三人も乗ったら重たくて飛べないかもと思ったけど、大丈夫だった。白い天使の羽が、ボクたちを雲の上の世界に連れて行ってくれたから。
「あなたが、芽生くんなのね。瑞樹の母の澄子です」
お兄ちゃんに似た優しそうなママだね。
「やぁ、芽生くん、俺は瑞樹の父の大樹だよ」
お兄ちゃんのパパ、すごくカッコいい!
「はじめまして。ボク、滝沢芽生、9歳です」
「ハキハキして可愛い坊やだな」
「瑞樹の愛情がたっぷり詰まって満ち足りた顔をしているわね。優しい坊や。ここまで瑞樹を連れてきてくれてありがとう」
「え? ボク何もしてないよ」
二人は優しく微笑んで……
「今日、もう一度瑞樹と会えたのは、宗吾さんと芽生くんの愛情のお陰よ」
「お父さん、お母さん、俺と息子は瑞樹が大好きです。毎日毎日愛情を注いでいます」
「ボクもお兄ちゃんが大好きなの、ずっと一緒にいたいの」
お兄ちゃん、目に涙をいっぱい溜めている。
「お父さん、お母さん……僕はこの二人に愛されています。幸せにしてもらっています」
「みーくん、よかったわ。私たちが伝えられなかった分も沢山愛してもらっているのね」
「うん……うん。僕あの頃はとても寂しかったけど……今はもう大丈夫だよ。今は……地上でいつまでも宗吾さんと芽生くんと過ごしたいよ」
お兄ちゃんのママが、ぽろぽろと涙をこぼしたよ。
「良かった……本当に良かったわ。あなたの10歳の誕生日は身が引き裂かれそうな程辛かったわ。思わず「もういいから、一人で泣かないで。こちらにいらっしゃい」と手を伸ばしそうになったの。でもね、お父さんが止めてくれたわ。『大丈夫だ。瑞樹は地上で必ず幸せになるよ。時間がかかっても、ちゃんと幸せになる。幸せになったら自分たちの力でここに遊びに来てくれるよ』って言ってくれたの」
「お母さんとお父さんに会いたかったです。あぁ、そうだ……報告が遅れましたが、熊田さんと再会出来ました。それで僕のお父さんになってくれました」
くまさんのこともちゃんと報告できてよかったね。
「全部知っているよ。潤くんの結婚式の時、風船が届いたからな。熊田になら全部任せられる。アイツは瑞樹のもう一人の父親なんだよ」
「はい……はい!」
それから、ボクたちは雲の上で少しおしゃべりをしたよ。
「お母さん、夏樹は?」
「今日も双葉くんと海よ。あの子真っ黒よ」
「そうなんだ」
「会っていく?」
「うん、帰りに車で通るから会えるよ」
帰り道、青い海を通ったよ。
白いヨットの上で、二人は仲良く手をふってくれていた。
「おにいちゃーん! 元気ー?」
「元気だよ! 夏樹は?」
「僕も元気! ヨットの乗り方教えてもらってる」
「よかった」
そのまま、ボクたちは地上に戻ることにしたよ。
朝が来ちゃうからね。
戻る最中、遠くから汽笛が聞こえたよ。
「あれ? あんなところに汽車が走っているよ」
「あぁ、あれは『七夕トレイン』だよ」
「誰が乗っているのかな?」
「誰だろうね?」
****
これはおれが9歳の時の、七夕の思い出だ。
あの日のことは、今でも鮮明に思い出せる。
三人で同じ夢を見て、雲の上までドライブした。
夢のような夢、幸せな夢を見た。
そしてあの日の『いつまでも一緒にいたい』という願い事は、今もずっと叶い続いている。
「芽生くん、おはよう! 朝ご飯をつくろうか」
「おれ、トーストを焼くよ」
「ありがとう!」
「あ、兄さん、今日は七夕だよ」
「じゃあまた……夢の中で待ち合わせだね」
「あぁ」
あの頃のように、朝まで夢の内容を覚えてはいられないが……
おれたちは今夜も『七夕ドライブ』をする。
****
あとがき
七夕の物語はここまでです。
最後は高校生になった芽生をイメージしてみました。
明日からは白薔薇フェスタに戻ります。
長い寄り道を温かい目で見守って下さってありがとうございます。
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