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小学生編
白薔薇の祝福 21
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「芽生、今日は私より早く目覚めたようだな」
「うん! あのね、どうしてもパパとお兄ちゃんのお見送りをしたかったの! だからだよ」
「何かしたかったことがあったのか」
ふと興味を持った。
芽生がその小さな頭の中で、何を考えているのか知りたくなった。
「あのね、エールをおくりたかったの」
「エール? 子供が親にか」
「うん、だってパパもおにいちゃんも本当はおやすみだったのに、お仕事がんばっているから……ボクはまだ小さいから何もできないけど、応えんならできるかなって」
「なるほど、宗吾も瑞樹も喜んだろうだな。確かに子供からの『頑張れ』はパワーになる」
確かに私も美智と彩芽に見送ってもらうと元気が出る。
そうか……
愛する人、大切にしたい人、その存在自体が生きる力になるのだな。
今なら芽生の気持ちが分かるよ。
優しい子供の心から、もっともっと『幸せな気づき』をもらいたい。
野球場までの道すがら、芽生と色々な話をした。
ここでひとつ気付いたことがある。
私が想像していたよりも、芽生の思考回路は大人だった。
私の中では幼稚園生のままだった芽生も……もう3年生か。
ぐっと成長したのだな。
「芽生は頼もしいから、きっと大人になったら宗吾と瑞樹の良き相談相手になるだろうな」
「わぁ、ほんと? ボクも役立てる日がくるかな? なれるかな? わーい!」
パァっと光り輝く笑顔の中に、精一杯背伸びをしているのが見え隠れして、それもまた愛おしかった。
息子がいたら、こんな感じなのか。
男同士で和気藹々と過ごすのもいいな。
宗吾とはお互い歩み寄れず意固地になって、そうはいかなかった。
だが宗吾とは、まだまだこれからだ。
これからは家族ぐるみで交流していきたい、
生きているのだから、可能性は無限だ。
球場最寄りの『電気橋』駅に着くと、駅のホームに人が溢れていた。
連休初日、近場のレジャー施設が大賑わいなのは予想していたが、あまりの人混みに怖気ついてしまう。
「おじさん、すごい……人だらけだよ」
「いいか、私から絶対に離れないように」
芽生のオレンジ色のTシャツは迷子防止に目立って助かると思ったが、しまった! 私が贔屓にしている『月ハムフレーフレーズ』のチームカラーはオレンジだった!
駅のホームにはオレンジ色のユニフォームやポロシャツ、Tシャツを着た老若男女でごった返していた。
「芽生! みんなオレンジ軍団だ。おじさんと手をつなごう」
「うん! そうしよう」
「よし、東京ドリームを一気に目指すぞ」
「おー!」
芽生の手は絶対に離さない。
私がしっかり守る。
同時に、同志のような熱い気持ちがこみ上げていた。
甥っ子と二人きりで出かける。
私の人生において、とても新鮮だ!
****
白金薔薇フェスタがいよいよ開幕した。
5月の連休初日。
抜けるような青空、爽やかな行楽日和なのもあり、午前中から想像より多くの人が来場し大賑わいだった。
受付と誘導係を買って出たので、午前中は休む暇もなくあくせく働いた。
グリーンのポロシャツはすでに汗塗れだ。
色が変わるレベル。
お客様を誘導するのにこれはないよなと、休憩時間を利用して着替えようとカフェに向かうと、雪也さんが歩いて来た。
真剣な面持ちだが、何かあったのだろうか。
「あ、ちょうどよかった。宗吾さん、ちょっといいですか」
「どうしたのですか」
「実は、瑞樹くんのことで」
「えっ! 瑞樹に何かあったのですか」
俺は真っ青になって思わず叫んでしまった。
「お、落ち着いて下さい。何もないです、まだ今は……」
「ふぅ、良かった。でも今はってどういう意味ですか」
よく考えたら不特定多数の人に瑞樹を晒している。だから悪い方向へ悪い方へと考えてしまうのは、良くないな。
「すみません。取り乱して」
「いや……やっぱり何かあるのですね。瑞樹くんさりげなく右手を庇っていました」
「あ……えぇ、実は以前……大怪我をして神経をやられて一時期動かなかったんです」
「そうだったのですか。じゃあやっぱり『ワークショップスタイル』にする方が良いですね」
「?」
雪也さんから午前中の盛況っぷりと、瑞樹が働き詰めで疲弊していること。 そこに大沼のお父さんが来て助言してくれたことを掻い摘まんで聞いた。
いいじゃないか! ブーケ作りのワークショップ。
瑞樹の負担も減るし来場者をある程度把握できるし、『柊雪』をより大切に扱ってもらえる。
良いこと尽しなのに、どうして思いつかなかった?
俺の目は節穴か。
いや、そんなことを言っている場合じゃない。
すぐに切り替えよう。
早速本社に電話して上司に掛け合い、急な変更をOKしてもらい、POP広告の掛け替えなど、それに伴いやることは一杯だ。
あぁ、でも……それより先に!
「宗吾さん、今、瑞樹くん庭師の小屋で休憩していますよ。よかったら行ってあげて下さい」
「あ、ありがとうございます。まずは瑞樹に会ってきます」
勢いよく駆け出そうとしたら、雪也さんに呼び止められた。
「これは英国製のハンドクリームです。ワセリンと精油を混ぜたもので、ラベンダーの香りで心が落ち着きますよ。瑞樹くんに塗ってあげてくださいね」
「あ、ありがとうございます」
チューブ式のワセリンか。
ドキドキするのは何故だ?
いやいや今はそんな場合じゃない。
胸ポケットに突っ込んで、俺は庭を走った。
雪也さん、小さな声で何か言っていたような……
(僕は耳年増ですみません)とは、一体何のことだろう?
「うん! あのね、どうしてもパパとお兄ちゃんのお見送りをしたかったの! だからだよ」
「何かしたかったことがあったのか」
ふと興味を持った。
芽生がその小さな頭の中で、何を考えているのか知りたくなった。
「あのね、エールをおくりたかったの」
「エール? 子供が親にか」
「うん、だってパパもおにいちゃんも本当はおやすみだったのに、お仕事がんばっているから……ボクはまだ小さいから何もできないけど、応えんならできるかなって」
「なるほど、宗吾も瑞樹も喜んだろうだな。確かに子供からの『頑張れ』はパワーになる」
確かに私も美智と彩芽に見送ってもらうと元気が出る。
そうか……
愛する人、大切にしたい人、その存在自体が生きる力になるのだな。
今なら芽生の気持ちが分かるよ。
優しい子供の心から、もっともっと『幸せな気づき』をもらいたい。
野球場までの道すがら、芽生と色々な話をした。
ここでひとつ気付いたことがある。
私が想像していたよりも、芽生の思考回路は大人だった。
私の中では幼稚園生のままだった芽生も……もう3年生か。
ぐっと成長したのだな。
「芽生は頼もしいから、きっと大人になったら宗吾と瑞樹の良き相談相手になるだろうな」
「わぁ、ほんと? ボクも役立てる日がくるかな? なれるかな? わーい!」
パァっと光り輝く笑顔の中に、精一杯背伸びをしているのが見え隠れして、それもまた愛おしかった。
息子がいたら、こんな感じなのか。
男同士で和気藹々と過ごすのもいいな。
宗吾とはお互い歩み寄れず意固地になって、そうはいかなかった。
だが宗吾とは、まだまだこれからだ。
これからは家族ぐるみで交流していきたい、
生きているのだから、可能性は無限だ。
球場最寄りの『電気橋』駅に着くと、駅のホームに人が溢れていた。
連休初日、近場のレジャー施設が大賑わいなのは予想していたが、あまりの人混みに怖気ついてしまう。
「おじさん、すごい……人だらけだよ」
「いいか、私から絶対に離れないように」
芽生のオレンジ色のTシャツは迷子防止に目立って助かると思ったが、しまった! 私が贔屓にしている『月ハムフレーフレーズ』のチームカラーはオレンジだった!
駅のホームにはオレンジ色のユニフォームやポロシャツ、Tシャツを着た老若男女でごった返していた。
「芽生! みんなオレンジ軍団だ。おじさんと手をつなごう」
「うん! そうしよう」
「よし、東京ドリームを一気に目指すぞ」
「おー!」
芽生の手は絶対に離さない。
私がしっかり守る。
同時に、同志のような熱い気持ちがこみ上げていた。
甥っ子と二人きりで出かける。
私の人生において、とても新鮮だ!
****
白金薔薇フェスタがいよいよ開幕した。
5月の連休初日。
抜けるような青空、爽やかな行楽日和なのもあり、午前中から想像より多くの人が来場し大賑わいだった。
受付と誘導係を買って出たので、午前中は休む暇もなくあくせく働いた。
グリーンのポロシャツはすでに汗塗れだ。
色が変わるレベル。
お客様を誘導するのにこれはないよなと、休憩時間を利用して着替えようとカフェに向かうと、雪也さんが歩いて来た。
真剣な面持ちだが、何かあったのだろうか。
「あ、ちょうどよかった。宗吾さん、ちょっといいですか」
「どうしたのですか」
「実は、瑞樹くんのことで」
「えっ! 瑞樹に何かあったのですか」
俺は真っ青になって思わず叫んでしまった。
「お、落ち着いて下さい。何もないです、まだ今は……」
「ふぅ、良かった。でも今はってどういう意味ですか」
よく考えたら不特定多数の人に瑞樹を晒している。だから悪い方向へ悪い方へと考えてしまうのは、良くないな。
「すみません。取り乱して」
「いや……やっぱり何かあるのですね。瑞樹くんさりげなく右手を庇っていました」
「あ……えぇ、実は以前……大怪我をして神経をやられて一時期動かなかったんです」
「そうだったのですか。じゃあやっぱり『ワークショップスタイル』にする方が良いですね」
「?」
雪也さんから午前中の盛況っぷりと、瑞樹が働き詰めで疲弊していること。 そこに大沼のお父さんが来て助言してくれたことを掻い摘まんで聞いた。
いいじゃないか! ブーケ作りのワークショップ。
瑞樹の負担も減るし来場者をある程度把握できるし、『柊雪』をより大切に扱ってもらえる。
良いこと尽しなのに、どうして思いつかなかった?
俺の目は節穴か。
いや、そんなことを言っている場合じゃない。
すぐに切り替えよう。
早速本社に電話して上司に掛け合い、急な変更をOKしてもらい、POP広告の掛け替えなど、それに伴いやることは一杯だ。
あぁ、でも……それより先に!
「宗吾さん、今、瑞樹くん庭師の小屋で休憩していますよ。よかったら行ってあげて下さい」
「あ、ありがとうございます。まずは瑞樹に会ってきます」
勢いよく駆け出そうとしたら、雪也さんに呼び止められた。
「これは英国製のハンドクリームです。ワセリンと精油を混ぜたもので、ラベンダーの香りで心が落ち着きますよ。瑞樹くんに塗ってあげてくださいね」
「あ、ありがとうございます」
チューブ式のワセリンか。
ドキドキするのは何故だ?
いやいや今はそんな場合じゃない。
胸ポケットに突っ込んで、俺は庭を走った。
雪也さん、小さな声で何か言っていたような……
(僕は耳年増ですみません)とは、一体何のことだろう?
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