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小学生編

白薔薇の祝福 14

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 20年前大沼……

「瑞樹、10歳のお誕生日おめでとう! 1/2成人式だから、今日のケーキはスペシャルよ」

 10歳の誕生日、僕の目の前には大きな苺のホールケーキが置かれた。

「わぁ、すごい! お父さん、お母さん、ありがとう。僕、嬉しいよ」
「瑞樹、おいで」
「みーくん、おいで」
「え、でも、僕もうお兄ちゃんだからいいよ」
「そんなの関係ないさ! 瑞樹は俺たちの大事な息子だ。さぁおいで!」

 お父さんが僕を天井につくほど高く抱き上げてくれた。

「わぁ、高いね」

 お父さんの抱っこなんて久しぶりだから、照れ臭いけど嬉しいなぁ。

 それからお母さんが僕を抱きしめてくれて、背中を優しく撫でてくれたよ。

 お母さんの手、あたたかくて、優しくて……大好き。

「私の小さな天使がこんなに大きくなったのね。そして、10年20年と……この先もっともっと大きくなるのね」
「うん、お母さんの背丈も抜かすよ。大人になったら青い車にも乗せてあげるね」
「うん、うん、この先、二十歳の瑞樹、三十歳の瑞樹に会えるのを楽しみしているわ」

 優しい手で髪を掻き分け、額をこつんと合わせてくれた。

「でもね……瑞樹、我慢しすぎちゃ駄目よ。あなたがそういう性格なのはお母さんよく知っているから……ちょっと心配なの。あのね……困った時には、寂しい時は寂しい。悲しい時は悲しい。怖い時は怖いって、ちゃんと伝えるのよ」
「うん、お母さんの言う通りにするよ」
「瑞樹は優しくて良い子だから……沢山の幸せに恵まれますように。いっぱい笑ってね。お母さんはみーくんのこの笑顔が大好き。少し恥ずかしそうに微笑むの、スズランみたいだなって」

 お母さんが僕の頬を指でつんつんとしてくれた。

「うふふ、ふっくらして可愛いなぁ」






 母の温もりに包まれて、ありったけの愛情を注いでもらった10歳の誕生日の様子を、僕は鮮明に思い出していた。

 お父さんとお母さんの横には、くまさんが愛情深い瞳を潤ませて、座っていた。

「あの小さかった坊やが10歳になるなんて、大樹さん、人の成長はすごいですね」
「熊田も成長したぞ、瑞樹のもう一人のお父さんを任命するよ」
「そんな、恐れ多いですよ」
「熊田には沢山サポートしてもらったからな」

「おにーちゃん、おにーちゃん、これぇ」

 それから夏樹が僕にお絵描きをくれたよ。

 僕と夏樹が手をぎゅっと握っている絵だった。

「これ、僕と夏樹?」
「うん! あのね、おにーちゃん、だいすき、だいすき、だいだいだいすき。だから、ずーっといっしょだよ」
「うん、夏樹のこと僕も大好きだよ」
「えへへ、お兄ちゃんおめでとー!」

 ケーキには10本のキャンドルが灯っていた。

「ハッピーバースデー みずき!」

 歌とともに、ふぅと消すと一瞬真っ暗になって、怖かった。
 
 でもすぐに電気がついて、みんなの笑顔が見えたのでほっとした。

 あの頃は、大好きならずっと一緒にいられると信じて疑ってなかった。


……

 あの日から、よくケーキのろうそくを吹き消すシーンから始まる夢を見た。

 吹き消すと、みんなの笑顔も一緒に消えてしまい、どんなに待っても誰もいなくて、一人きりになってしまう怖くて寂しくて悲しい夢だった。




「おーい、瑞樹、大丈夫か」
「あ、はい」
「よしっ、じゃあ、みんな瑞樹の周りに集まってくれ」

 宗吾さんが皆を呼び寄せてくれる。

「瑞樹、実は他にも招待しているんだ」
「え?」
 
 一体誰だろう?

 宗吾さんを見つめると真面目な顔でコクンと頷き、部屋の電気を全て消した。

 すると大きなスクリーンの向こうに、星のイルミネーションが光り出した。

 大きな二つの星は僕のお父さんとお母さんだ。あ、その横に小さな星な弟の星もある。

 幾千万もの星はお空に逝った人の瞬きだ。
  
 きっと宗吾さんのお父さんやいっくんのお父さん、潤や広樹兄さんのお父さんもいる。

 みんなあそこにいる。

「あっ……」
「ハッピバースデー瑞樹! 天国のご両親と夏樹くんも君を見守っているよ」

 スクリーンも再び明るくなる。

 なんと、二分割にした画面に再び潤家族と広樹兄さんの家族が映っていた。

「宗吾さん、宗吾さん……」
 
 函館から、軽井沢から、次々に届くバースデーソング。

 僕の周りで皆が歌ってくれる歌声に、もう堪えきれなくなってボロボロ泣いてしまった。

 お母さんがあの日願ってくれた、僕がいる。

 沢山の幸せに恵まれて、笑顔で暮らしています。
 
 お母さんはもういないけれども、沢山の人が傍にいてくれます。

「瑞樹、ろうそくを吹き消してくれ。怖くないから」
「はい……」

 ふぅっと息を吹きかけると、真っ暗にはならず星が輝いていた。

「なっ、真っ暗にはならなかっただろう」

 宗吾さんには何でもお見通しなんだ。

 分かってもらえる喜び。

 寄り添ってもらえる心強さを感じた。

「はい、みんないます。空には星が瞬いています」
「曇り空で見えなくても、雲の上にはみんないるんだ。そして君の傍には今、こんなに人が集まっている」
「はい、宗吾さん……こんなに素晴らしい誕生日を……僕にありがとうございます」

 宗吾さんは明るく朗らかに笑ってくれた。

「みーんな瑞樹が大好きだから、みんな乗り気だった。俺が想定した以上のサプライズの連続だった」
 
 あ……大沼のお父さんとお母さんどこ?

 見渡すとくまさんが大きく手を広げてくれていた。

 あの日のお父さんのように。

「みーくん、おいで」
「瑞樹、飛び込め!」

 宗吾さんに背中を押され、僕は子供の頃のようにくまさんの胸に飛び込み、お母さんに抱きしめてもらった。

「瑞樹、私達に会いたいと願ってくれてありがとう」
「会いたかったから……ただ会いたかったから……」
「その一言を待っていたわ」
「みーくん、あの日の願いは俺が代表で……30歳になったみーくんをしかと見たぞ!」
「くまさん……くまさんがいてくれてよかったです。僕も安心出来ました」

 天の星に……

 僕はこの地上で……あれから深い愛に恵まれ、優しい愛を注いでもらって生きていますと伝えて欲しい。

 だから安心してと――

「お兄ちゃん、なっくんのお星さまずっとキラキラしてるよ。うれしいんだね」
「うん、そうだね」

 芽生くんが僕の涙をティッシュでふいてくれた。

「ボクね、お兄ちゃんとあえて本当によかった。これからもずっとずっと、おたんじょうびのおいわいをさせてね」
「ありがとう。芽生くん……僕こそ――」

 幼い芽生くんとの約束は、未来へ続く光となる!

 



 

 





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