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小学生編
白薔薇の祝福 7
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「よし、準備万端だ。今日はこれで解散しよう! 明日に備えて休養してくれ!」
パンっと手を叩いて、解散を促した。
皆、積極的に良いイベントにしようと心を合わせてくれた。
歩み寄ってくれた。
だからスムーズに事が運んだ。
皆が方々に散っていく中、最後まで残って後片付けをしていたのは斉藤だった。
へぇ、やっぱり俺が見込んだけあるな。
斉藤は失敗を乗り越えて成長できる人間だ。
「あ、滝沢さん、お疲れ様でした」
「斉藤が手伝ってくれたお陰で段違いに捗ったぞ。サンキュ!」
「あの……葉山さんの下で働かせてくれてありがとうございます」
「うん、外部の人間と触れあう貴重な機会だ。しっかり学べよ。俺はお前だから任せるんだ」
瑞樹の下で働くのには、斉藤のような人間がいいと思った。
その考えは間違えていなかったようだな。
「明日から頑張ります」
「よし、もう帰っていいぞ。今日はゆっくり休め」
「あの、滝沢さんはまだ帰らないのですか」
「俺は最終確認してから帰るよ」
斉藤を見送って、一度大きく伸びをした。
午後はかなり集中した。
さぁ、俺も仕事は終わりだ。
そろそろいいか。
『瑞樹の誕生日企画屋』に変身しても?
今日は愛しい君の節目の誕生日だ。
ついに30代突入だな。
出逢った時は、間もなく26歳になろうとしていた青年だった。
今より更に若く、まだ大学生のようなあどけなさを持っていたよな。
だが……可憐な顔立ちなのに、深い哀しみを抱えたまま大人になった脆さが見え隠れする人だった。
放っておけなかった。
一人にさせたくなかった。
歩み寄りたくなった。
君を知れば知るほど、好きになった。
ありったけの愛で包んであげたくなった。
その気持ちは、今も変わらないよ。
君を探して、ローズガーデンの奥庭にやってきた。
雪也さんは俺の誕生日企画にすぐに興味を持ってくれた。
いや、俺が雪也さんの企画に乗ったと言う方が正しいのかもな。
……
「なるほど、瑞樹くんの誕生日企画ですか。ではこの白薔薇を彼に贈るのはどうですか」
「いいのですか! 最高ですよ」
「もちろんですよ。えっと30歳なら、やっぱり30本の薔薇ですよね。あぁ……僕の兄さまが30歳を迎えた日を昨日のように思い出します。あの日は30本の薔薇を海里先生と一緒に楽しそうに摘んでいました。もちろん薔薇の棘は控えていた庭師がすぐに処理をし、黒子のように海里先生に渡したのですが……ふふ、海里先生ってば1本贈るたびに、兄さまに甘いキスをつけていました。兄さまの甘く蕩けそうな顔を、僕は二階の窓から見守っていました」
男の俺でもうっとりする話だ。
「最高のおとぎ話ですね。俺は仕事中なので、何か違う方法で瑞樹が30本の薔薇を手にして欲しいのですが」
「なるほど自然にですね。きっとなるようになりますよ。このガーデンはおとぎの国ですから」
……
さてと、瑞樹はちゃんと薔薇を手に入れたか。
俺が近寄るとちょうど2本ずつ束ねた山積みのブーケの前で、瑞樹が感極まった顔をしていた。
俺はそれをすべて抱き寄せ、君の心に届けた。
「宗吾さん……」
「瑞樹、30歳だな。ハッピーバースデー!」
優しく揺れる花影。
白薔薇に包まれた瑞樹は、幸せそうに微笑んだ。
それからスッと背伸びして、くちづけしてくれた。
キスがこんなに神聖なものだなんて――
気恥ずかしくなるほどロマンチックだった。
雪也さんはいつの間にか姿を消して、夕暮れの道にはキャンドルが灯されていた。
「瑞樹、皆、待っているよ。帰ろう」
「はい」
自然と俺たちは手を繋いだ。
子供の頃、大切な人といつも手を繋いだろう?
だが大人になると自分ひとりで生きていると錯覚し、差し出される手を拒み、相手を拒み、自分だけを守って、相手の心を蔑ろにしてしまうことがある。
そうじゃない。
違うんだな。
俺は君と出会って気付けたよ。
心を寄り添わせて生まれる優しさが、どんなに心地良いものなのか。
深い思いやりが、どんなに心を潤わせるのか。
人生に『優しさ』というエッセンスを忘れないでいたい。
「宗吾さん、キャンドルの道、綺麗ですね」
「あぁ、俺たちの道だ」
門まで続くキャンドル。
その先に黒塗りの車が停まっていた。
「どうぞお乗り下さい」
ドアを開けて待っているのは、冬郷家の執事の桂人さんだった。
「えっ、こんなサプライズまで?」
これは企画外だぞ?
「雪也さんから頼まれました。まぁ、頼まれなくても送るつもりでしたが。白薔薇を30本抱えて電車に乗るのは大変でしょう。さぁ、あなたたちが行きたい場所へお届けしますよ。どこへ行きますか」
俺と瑞樹の声が揃う。
「家族の元へ」
「御意」
なんてスマートな案内なんだ。
俺が住所を告げると、桂人さんがフッと微笑む。
「東京の地図は頭に入っている。懐かしいな。その辺りは昔、妹が住んでいた場所だ。さぁ行こう!」
****
「おばあちゃん。ボクがケーキもつよ」
「でも、平らにしてもたないといけないのよ」
「気をつけるよ。お兄ちゃんのケーキ運んでみたいんだ」
「……そうね。じゃあお願い」
だってね、おばあちゃん、他の荷物で大変そうなんだもん。
だから、お兄ちゃんのおたんじょうびケーキはまかせてね。
がんばるよ。
お兄ちゃんのよろこぶお顔がみたいから。
そっとそっと、大切に大切に。
ボクの大切なお兄ちゃん。
もうすぐ帰って来るかな?
パパと一緒に、ニコニコで帰ってくるよね!
パンっと手を叩いて、解散を促した。
皆、積極的に良いイベントにしようと心を合わせてくれた。
歩み寄ってくれた。
だからスムーズに事が運んだ。
皆が方々に散っていく中、最後まで残って後片付けをしていたのは斉藤だった。
へぇ、やっぱり俺が見込んだけあるな。
斉藤は失敗を乗り越えて成長できる人間だ。
「あ、滝沢さん、お疲れ様でした」
「斉藤が手伝ってくれたお陰で段違いに捗ったぞ。サンキュ!」
「あの……葉山さんの下で働かせてくれてありがとうございます」
「うん、外部の人間と触れあう貴重な機会だ。しっかり学べよ。俺はお前だから任せるんだ」
瑞樹の下で働くのには、斉藤のような人間がいいと思った。
その考えは間違えていなかったようだな。
「明日から頑張ります」
「よし、もう帰っていいぞ。今日はゆっくり休め」
「あの、滝沢さんはまだ帰らないのですか」
「俺は最終確認してから帰るよ」
斉藤を見送って、一度大きく伸びをした。
午後はかなり集中した。
さぁ、俺も仕事は終わりだ。
そろそろいいか。
『瑞樹の誕生日企画屋』に変身しても?
今日は愛しい君の節目の誕生日だ。
ついに30代突入だな。
出逢った時は、間もなく26歳になろうとしていた青年だった。
今より更に若く、まだ大学生のようなあどけなさを持っていたよな。
だが……可憐な顔立ちなのに、深い哀しみを抱えたまま大人になった脆さが見え隠れする人だった。
放っておけなかった。
一人にさせたくなかった。
歩み寄りたくなった。
君を知れば知るほど、好きになった。
ありったけの愛で包んであげたくなった。
その気持ちは、今も変わらないよ。
君を探して、ローズガーデンの奥庭にやってきた。
雪也さんは俺の誕生日企画にすぐに興味を持ってくれた。
いや、俺が雪也さんの企画に乗ったと言う方が正しいのかもな。
……
「なるほど、瑞樹くんの誕生日企画ですか。ではこの白薔薇を彼に贈るのはどうですか」
「いいのですか! 最高ですよ」
「もちろんですよ。えっと30歳なら、やっぱり30本の薔薇ですよね。あぁ……僕の兄さまが30歳を迎えた日を昨日のように思い出します。あの日は30本の薔薇を海里先生と一緒に楽しそうに摘んでいました。もちろん薔薇の棘は控えていた庭師がすぐに処理をし、黒子のように海里先生に渡したのですが……ふふ、海里先生ってば1本贈るたびに、兄さまに甘いキスをつけていました。兄さまの甘く蕩けそうな顔を、僕は二階の窓から見守っていました」
男の俺でもうっとりする話だ。
「最高のおとぎ話ですね。俺は仕事中なので、何か違う方法で瑞樹が30本の薔薇を手にして欲しいのですが」
「なるほど自然にですね。きっとなるようになりますよ。このガーデンはおとぎの国ですから」
……
さてと、瑞樹はちゃんと薔薇を手に入れたか。
俺が近寄るとちょうど2本ずつ束ねた山積みのブーケの前で、瑞樹が感極まった顔をしていた。
俺はそれをすべて抱き寄せ、君の心に届けた。
「宗吾さん……」
「瑞樹、30歳だな。ハッピーバースデー!」
優しく揺れる花影。
白薔薇に包まれた瑞樹は、幸せそうに微笑んだ。
それからスッと背伸びして、くちづけしてくれた。
キスがこんなに神聖なものだなんて――
気恥ずかしくなるほどロマンチックだった。
雪也さんはいつの間にか姿を消して、夕暮れの道にはキャンドルが灯されていた。
「瑞樹、皆、待っているよ。帰ろう」
「はい」
自然と俺たちは手を繋いだ。
子供の頃、大切な人といつも手を繋いだろう?
だが大人になると自分ひとりで生きていると錯覚し、差し出される手を拒み、相手を拒み、自分だけを守って、相手の心を蔑ろにしてしまうことがある。
そうじゃない。
違うんだな。
俺は君と出会って気付けたよ。
心を寄り添わせて生まれる優しさが、どんなに心地良いものなのか。
深い思いやりが、どんなに心を潤わせるのか。
人生に『優しさ』というエッセンスを忘れないでいたい。
「宗吾さん、キャンドルの道、綺麗ですね」
「あぁ、俺たちの道だ」
門まで続くキャンドル。
その先に黒塗りの車が停まっていた。
「どうぞお乗り下さい」
ドアを開けて待っているのは、冬郷家の執事の桂人さんだった。
「えっ、こんなサプライズまで?」
これは企画外だぞ?
「雪也さんから頼まれました。まぁ、頼まれなくても送るつもりでしたが。白薔薇を30本抱えて電車に乗るのは大変でしょう。さぁ、あなたたちが行きたい場所へお届けしますよ。どこへ行きますか」
俺と瑞樹の声が揃う。
「家族の元へ」
「御意」
なんてスマートな案内なんだ。
俺が住所を告げると、桂人さんがフッと微笑む。
「東京の地図は頭に入っている。懐かしいな。その辺りは昔、妹が住んでいた場所だ。さぁ行こう!」
****
「おばあちゃん。ボクがケーキもつよ」
「でも、平らにしてもたないといけないのよ」
「気をつけるよ。お兄ちゃんのケーキ運んでみたいんだ」
「……そうね。じゃあお願い」
だってね、おばあちゃん、他の荷物で大変そうなんだもん。
だから、お兄ちゃんのおたんじょうびケーキはまかせてね。
がんばるよ。
お兄ちゃんのよろこぶお顔がみたいから。
そっとそっと、大切に大切に。
ボクの大切なお兄ちゃん。
もうすぐ帰って来るかな?
パパと一緒に、ニコニコで帰ってくるよね!
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