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小学生編
白薔薇の祝福 4
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「やぁ、瑞樹くん」
「雪也さん、おはようございます」
「うん、おはよう」
僕と雪也さんが挨拶すると、隣の斉藤くんがビクッと固まった。
「斉藤くん、こちらが『柊雪』のオーナーの冬郷雪也さんだよ。『白金薔薇フェスティバル』の会場の一つ『レストラン&カフェ月湖』のオーナーでもあって」
「あ、その、事前に一度お会いしたので、存じております」
そうか、面識があったんだね。
例の青い薔薇騒動の時かな?
下手な口出しはしない方がいい。
この後どういう流れになるのか、そっと見守ることにした。
「あのっ、冬郷さん、先日は申し訳ありませんでした。私はこの薔薇のことを何一つ知らないのに、いや、知ろうともせずに、目先の利益と安易な思いつきで、あのような暴言を吐いてしまいました」
斉藤くんが深く頭を下げた。
彼は見た目より、ずっとしっかりしているようだ。
きちんと自分から詫びる真摯な姿に好感を持った。
そして、ふと宗吾さんのお母さんと庭の手入れをした時の会話を言葉を思い出した。
……
「瑞樹、芽を摘むのは簡単だけれども、育てていくのは大変よね。でも手は掛かるけれども花が咲いた時の達成感は最高よ」
……
人間関係も同じなんだね。
駄目な人間だと、一度の過ちで斬り捨ては何も残らない。
きっと雪也さんもそう思っているだろう。
「どうか顔を上げて下さい」
雪也さんがそっと、斉藤くんの肩に手を置いた。
生きて来た分だけの重みがある手だ。
「……」
「ありがとう。その言葉を聞けて安心したよ。瑞樹くんと一緒にチームを組んで『柊雪』の良さを伝えてもらえるかな?」
「は、はい! 頑張ります」
雪也さんも僕と同じ気持ちなのがじんわりと伝わって来た。
その後、僕たちは『柊雪』の薔薇園に案内してもらった。
薔薇は朝咲くので、一面に芳しい香りが漂っている。
「すごい! 薔薇って本当に薔薇の香りがするんですね。あ、すみません、そんな当たり前のことを」
「いや。当たり前のことに気付くのが大切なんだよ。『柊雪』は甘美な香りだから、香りごとブーケにしてあげたいね」
「はい! なんだか薔薇が可愛くなってきました」
斉藤くんは目を細めて薔薇の香りを嗅いでいた。
「斉藤くんに水揚げの仕方を教えるので、手伝ってもらえる?」
「はい! なんでもやってみたいです。葉山先輩についていきます! 6日間専属助手として頑張ります!」
ええっと……仕事で専属の助手を持つことはないので、少し照れ臭いな。
でも斉藤くんの勢いに乗ってみよう。
「いいね! 僕もせっかくの機会だ。いろんなことに挑戦したいよ」
斉藤くんの若さ、ガッツ、素直な心。
どれも今の僕には心地良い刺激で、新鮮だ。
宗吾さんが斉藤くんを助手につけてくれた理由が伝わってくる。
****
打ち合わせをしながら薔薇園の前を通ると、雪也さんと瑞樹と斉藤の姿が見えた。
おい、斉藤、ちゃんとやっているか。
お前は根は悪い奴じゃないんだ。少し軽はずみな言動が目立つが、けっして悪意ははなく、純粋にイベントを盛り上げようとしてくれたのは伝わっている。
お前は自分の過ちをきちんと受け止められる人間だ。
俺はお前を信じている。
だから俺の大事な瑞樹の助手を任せたんだ。
瑞樹をしっかりサポートしてくれ!
で、瑞樹はどんな調子だ?
目を凝らして表情を窺うと、瑞樹特有のはにかむような可憐な笑顔を振りまいていた。
ははは、なるほど、あれはきっと助手に慕われるのが、照れ臭いんだな。
謙虚で控えめな俺の恋人。
仕事が終わったら、君が主人公だ!
楽しみに待っていてくれ。
午後も張り切ってバリバリと仕事をしていると、俺をこのチームに推した上司がやってきた。
「やぁ滝沢くん、捗っているか」
「えぇ、順調です」
「君はよく身体を動かしているな」
「じっとしているのは好きじゃないので」
「ははっ、滝沢くんらしいな。君のお陰でスタッフに活気があっていい。白薔薇は見事だし明日が楽しみだ。君をこのチームに投入して大成功だな」
「ありがとうございます」
俺さ、瑞樹と知り合ってからフットワークが更に軽くなった気がする。
愛しい瑞樹と可愛い息子が待っているから頑張れるのを実感しているよ!
「ところで、女史の件、もう聞いたか」
ん? 急になんだ?
さっき瑞樹に悪さをしようとしたことなら知っているが。それは瑞樹の名誉のために、黙っておく。
「何でしょう?」
「足を捻挫して暫く歩けなくなった。だから、この仕事からは外れてもらうことにしたよ」
「え? それ、いつですか」
さっきまでピンピンしていたのに。
「……どうも彼女は仕事が上の空だったようだな。君たちが汗水垂らして働いているのに何も手伝わず、あげく休憩しようと勝手に抜け出して、カフェの階段に躓いて派手に転んだんだ」
おいおい、あいつ、何やってるんだ?
同期のよしみといっても、フォローできないぞ。
いや、さっき瑞樹にちょっかい出そうとした次点でアウトだ。
「彼女がこれを生垣に放り投げたのを目撃して後を追ったら、派手に転んでいたというわけさ」
あーあ、そりゃ目も当てられないな。
上司の目の前でやらかしたのか。
で、渡されたのはグリーンのポロシャツだった。
おっと、この水浸しのポロシャツには見覚えのあるぞ。
「あー! これ、俺のですよ」
「ははは、そうだったのか。やれやれ」
俺の汗が染み込んだ『生ポロシャツ』を放り投げるとは、やってくれるな。
瑞樹のは喉から手が出るほど欲しそうだったのにさ。
まぁ俺の魅力に気付くのは瑞樹だけでいいのでヨシとするか。
「泥だらけなので洗って来ます!」
濡れたポロシャツを片手に洗濯場を探していると、瑞樹がタタッと軽やかに駆け寄ってきた。
同じグリーンのポロシャツなので、二人だけだとペアルックのようだ。
「そっ、滝沢さん、どうしたのですか」
「あー これを洗わせてもらおうと思ってな」
「うわっ、どうしたんですか。泥まみれですね。あの庭師の小屋にある洗濯機を使っていいそうです。実は僕もテツさんの所に行く所です」
「丁度良かった。案内してくれるか」
「はい!」
ラッキーだ!
瑞樹と設営会場を離れられる。
言っておけど、これはサボりじゃないからな。
女史と一緒にしないでくれ。
「確かこの辺りだったはず……」
都心の洋館のなのにかなり広大な庭だ。
茂みを掻き分けると二人で「あっ」っと息を呑んだ。
庭の東屋の前で、庭師のテツさんが薪を割っていた。
暑いのか上半身を脱いでいる。
「おぉ?」
すごいな。老体とは思えない見事な筋肉だ。
そこに執事の桂人さんがやってくる。
桂人さんはきちんと執事服を着ていた。
「テツさん! おれも手伝うよ」
「桂人も久しぶりにやるか」
「あぁ」
執事の桂人さんが艶めいた笑みを浮かべ、ネクタイをスッと外し、ジャケットをひらりと木の枝にかけ、白いシャツを腕捲りした。
「おぉ……」
一連の動作が美しすぎて、瑞樹と目を擦ってしまった。
「こっちへ来い」
「あぁ」
桂人さんの細い腰にテツさんが手を回し、グイッと引き寄せる。
年齢なんて関係ないんだな。
愛があれば、そこはいつでも愛で溢れる。
「宗吾さん、あの……ここはおとぎの国なんでしょうか」
「そうだな。ここで見たことは俺たちだけの秘密だ」
その時、桂人さんの声がした。
「だれかそこにいるのか」
「あっ……」
「しっ!」
瑞樹のぷるんとした可愛い唇に指をあてて、黙らせた。
瑞樹は目を見開きキョトンとしていた。
「あ、あの?」
「君もあとで、おとぎ話の住人になるから今は邪魔しないでおこう」
「え? どういう意味ですか」
「仕事が終わったらのお楽しみだ」
瑞樹とそっとその場を離れた。
この先は二人だけの秘密だろう。
俺はこんな甘い秘密が大好きだ。
たぶん息子の芽生も同じだ。
「雪也さん、おはようございます」
「うん、おはよう」
僕と雪也さんが挨拶すると、隣の斉藤くんがビクッと固まった。
「斉藤くん、こちらが『柊雪』のオーナーの冬郷雪也さんだよ。『白金薔薇フェスティバル』の会場の一つ『レストラン&カフェ月湖』のオーナーでもあって」
「あ、その、事前に一度お会いしたので、存じております」
そうか、面識があったんだね。
例の青い薔薇騒動の時かな?
下手な口出しはしない方がいい。
この後どういう流れになるのか、そっと見守ることにした。
「あのっ、冬郷さん、先日は申し訳ありませんでした。私はこの薔薇のことを何一つ知らないのに、いや、知ろうともせずに、目先の利益と安易な思いつきで、あのような暴言を吐いてしまいました」
斉藤くんが深く頭を下げた。
彼は見た目より、ずっとしっかりしているようだ。
きちんと自分から詫びる真摯な姿に好感を持った。
そして、ふと宗吾さんのお母さんと庭の手入れをした時の会話を言葉を思い出した。
……
「瑞樹、芽を摘むのは簡単だけれども、育てていくのは大変よね。でも手は掛かるけれども花が咲いた時の達成感は最高よ」
……
人間関係も同じなんだね。
駄目な人間だと、一度の過ちで斬り捨ては何も残らない。
きっと雪也さんもそう思っているだろう。
「どうか顔を上げて下さい」
雪也さんがそっと、斉藤くんの肩に手を置いた。
生きて来た分だけの重みがある手だ。
「……」
「ありがとう。その言葉を聞けて安心したよ。瑞樹くんと一緒にチームを組んで『柊雪』の良さを伝えてもらえるかな?」
「は、はい! 頑張ります」
雪也さんも僕と同じ気持ちなのがじんわりと伝わって来た。
その後、僕たちは『柊雪』の薔薇園に案内してもらった。
薔薇は朝咲くので、一面に芳しい香りが漂っている。
「すごい! 薔薇って本当に薔薇の香りがするんですね。あ、すみません、そんな当たり前のことを」
「いや。当たり前のことに気付くのが大切なんだよ。『柊雪』は甘美な香りだから、香りごとブーケにしてあげたいね」
「はい! なんだか薔薇が可愛くなってきました」
斉藤くんは目を細めて薔薇の香りを嗅いでいた。
「斉藤くんに水揚げの仕方を教えるので、手伝ってもらえる?」
「はい! なんでもやってみたいです。葉山先輩についていきます! 6日間専属助手として頑張ります!」
ええっと……仕事で専属の助手を持つことはないので、少し照れ臭いな。
でも斉藤くんの勢いに乗ってみよう。
「いいね! 僕もせっかくの機会だ。いろんなことに挑戦したいよ」
斉藤くんの若さ、ガッツ、素直な心。
どれも今の僕には心地良い刺激で、新鮮だ。
宗吾さんが斉藤くんを助手につけてくれた理由が伝わってくる。
****
打ち合わせをしながら薔薇園の前を通ると、雪也さんと瑞樹と斉藤の姿が見えた。
おい、斉藤、ちゃんとやっているか。
お前は根は悪い奴じゃないんだ。少し軽はずみな言動が目立つが、けっして悪意ははなく、純粋にイベントを盛り上げようとしてくれたのは伝わっている。
お前は自分の過ちをきちんと受け止められる人間だ。
俺はお前を信じている。
だから俺の大事な瑞樹の助手を任せたんだ。
瑞樹をしっかりサポートしてくれ!
で、瑞樹はどんな調子だ?
目を凝らして表情を窺うと、瑞樹特有のはにかむような可憐な笑顔を振りまいていた。
ははは、なるほど、あれはきっと助手に慕われるのが、照れ臭いんだな。
謙虚で控えめな俺の恋人。
仕事が終わったら、君が主人公だ!
楽しみに待っていてくれ。
午後も張り切ってバリバリと仕事をしていると、俺をこのチームに推した上司がやってきた。
「やぁ滝沢くん、捗っているか」
「えぇ、順調です」
「君はよく身体を動かしているな」
「じっとしているのは好きじゃないので」
「ははっ、滝沢くんらしいな。君のお陰でスタッフに活気があっていい。白薔薇は見事だし明日が楽しみだ。君をこのチームに投入して大成功だな」
「ありがとうございます」
俺さ、瑞樹と知り合ってからフットワークが更に軽くなった気がする。
愛しい瑞樹と可愛い息子が待っているから頑張れるのを実感しているよ!
「ところで、女史の件、もう聞いたか」
ん? 急になんだ?
さっき瑞樹に悪さをしようとしたことなら知っているが。それは瑞樹の名誉のために、黙っておく。
「何でしょう?」
「足を捻挫して暫く歩けなくなった。だから、この仕事からは外れてもらうことにしたよ」
「え? それ、いつですか」
さっきまでピンピンしていたのに。
「……どうも彼女は仕事が上の空だったようだな。君たちが汗水垂らして働いているのに何も手伝わず、あげく休憩しようと勝手に抜け出して、カフェの階段に躓いて派手に転んだんだ」
おいおい、あいつ、何やってるんだ?
同期のよしみといっても、フォローできないぞ。
いや、さっき瑞樹にちょっかい出そうとした次点でアウトだ。
「彼女がこれを生垣に放り投げたのを目撃して後を追ったら、派手に転んでいたというわけさ」
あーあ、そりゃ目も当てられないな。
上司の目の前でやらかしたのか。
で、渡されたのはグリーンのポロシャツだった。
おっと、この水浸しのポロシャツには見覚えのあるぞ。
「あー! これ、俺のですよ」
「ははは、そうだったのか。やれやれ」
俺の汗が染み込んだ『生ポロシャツ』を放り投げるとは、やってくれるな。
瑞樹のは喉から手が出るほど欲しそうだったのにさ。
まぁ俺の魅力に気付くのは瑞樹だけでいいのでヨシとするか。
「泥だらけなので洗って来ます!」
濡れたポロシャツを片手に洗濯場を探していると、瑞樹がタタッと軽やかに駆け寄ってきた。
同じグリーンのポロシャツなので、二人だけだとペアルックのようだ。
「そっ、滝沢さん、どうしたのですか」
「あー これを洗わせてもらおうと思ってな」
「うわっ、どうしたんですか。泥まみれですね。あの庭師の小屋にある洗濯機を使っていいそうです。実は僕もテツさんの所に行く所です」
「丁度良かった。案内してくれるか」
「はい!」
ラッキーだ!
瑞樹と設営会場を離れられる。
言っておけど、これはサボりじゃないからな。
女史と一緒にしないでくれ。
「確かこの辺りだったはず……」
都心の洋館のなのにかなり広大な庭だ。
茂みを掻き分けると二人で「あっ」っと息を呑んだ。
庭の東屋の前で、庭師のテツさんが薪を割っていた。
暑いのか上半身を脱いでいる。
「おぉ?」
すごいな。老体とは思えない見事な筋肉だ。
そこに執事の桂人さんがやってくる。
桂人さんはきちんと執事服を着ていた。
「テツさん! おれも手伝うよ」
「桂人も久しぶりにやるか」
「あぁ」
執事の桂人さんが艶めいた笑みを浮かべ、ネクタイをスッと外し、ジャケットをひらりと木の枝にかけ、白いシャツを腕捲りした。
「おぉ……」
一連の動作が美しすぎて、瑞樹と目を擦ってしまった。
「こっちへ来い」
「あぁ」
桂人さんの細い腰にテツさんが手を回し、グイッと引き寄せる。
年齢なんて関係ないんだな。
愛があれば、そこはいつでも愛で溢れる。
「宗吾さん、あの……ここはおとぎの国なんでしょうか」
「そうだな。ここで見たことは俺たちだけの秘密だ」
その時、桂人さんの声がした。
「だれかそこにいるのか」
「あっ……」
「しっ!」
瑞樹のぷるんとした可愛い唇に指をあてて、黙らせた。
瑞樹は目を見開きキョトンとしていた。
「あ、あの?」
「君もあとで、おとぎ話の住人になるから今は邪魔しないでおこう」
「え? どういう意味ですか」
「仕事が終わったらのお楽しみだ」
瑞樹とそっとその場を離れた。
この先は二人だけの秘密だろう。
俺はこんな甘い秘密が大好きだ。
たぶん息子の芽生も同じだ。
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