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小学生編
新緑の輝き 13
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「潤、今のうちに昼休みに入れ」
「はい! あの、その……」
「あぁ、奥さんと息子さんに会いに行ってもいいぞ」
「あっ……知って?」
「ははっ、周知の事実だ。そうだ、せっかくだから『エンジェルズガーデン』を案内してあげたらどうだ?」
「ですが、あそこはまだオープン前なのでまずいんじゃ」
「ふむ、ではモニターということで、どうだ?」
「お気遣いありがとうございます!」
「潤の今後のモチベーションアップにもなるだろう」
「はい!」
上司には妻子が職場に来ていることが、すっかりバレていた。
あぁそうか……去年ここでガーデンウェディングを挙げさせてもらったので、職場の人は皆、オレの家族の顔を知っている状態だ。
昔だったら気まずくて逃げ出してしまっただろうが、今は有り難いことと受け止め、幸せの中に飛び込んでいく。
物事は受け止め方で、幸せにも不幸にも変わるんだな。
とにかく上司の計らいで、6月にオープンする『エンジェルズガーデン』にすみれといっくんを案内出来る!
コホンと咳払いして、ガーデンレストランでホットケーキを食べる二人に近づくと、満面の笑みで迎えてくれた。
「潤くん、もしかしてお昼休み?」
「あぁ、今から1時間フリーなんだ」
「わぁ、パパとあそべるの?」
「そうだよ。今度オープンする新しいガーデンを案内するよ」
「嬉しいわ」
「さぁ、二人とも行こう!」
まだ工事中と赤字で書かれた扉を開けて、中に入る。
ローズガーデンの中に新しくオープンする『エンジェルズ・ガーデン』は、オレが去年からコツコツと整備しってきた庭だ。
「潤くん ここは薔薇が満開になったらすごいでしょうね」
「あぁ、ここは白薔薇だけなんだ」
「すてき! 天国みたいね」
薔薇の見頃はまだ先だ。
都心の薔薇は5月が満開だが、軽井沢は気候の差で 6月上旬に一斉に開花する。
「6月の開花、お腹の赤ちゃんと一緒で待ち遠しいわ」
「すみれ、『待ち遠しい』ってさ、すごく明るい言葉だな」
「そうね、夢と希望があるから言える言葉よね。潤くん……私に新しい命をありがとう」
「オレこそ、お腹の中で育ててくれてありがとう」
オレとすみれの間に立っていたいっくんが、待ち遠しそうな顔をしている。
「いっくん、パパのところにおいで」
「うん!」
手を広げれば、ニコニコ笑顔で走ってくる。
オレの腕に飛び込むようにジャンプ! ジャンプ!
しっかり抱きしめ、高く抱き上げてやれば、弾ける笑顔!
「パパ、はっぱさんもおはながさくのワクワクまっているみたい」
「あぁ、そうだな。もうすぐ薔薇が咲いて賑やかになるよ」
「いっくんとおなじ! あかちゃんうまれるのワクワクしてきたよ」
「そうだぞ」
「あの……ね……さみしくは……ならないよね?」
「あぁ、絶対にならないよ」
「よかったぁ……」
いっくんの心配が、痛い程分かる。
オレは広樹兄と10歳も離れて生まれて来た。父親は既に他界していたので、母に溺愛されて育ってきた。
そこに、ある日突然、もうひとり兄弟がやってきた。
瑞樹兄さんは可愛くて優しい子だったから、オレも優しくしたかったし、可愛く甘えて懐きたかった。なのに、たった一つボタンを掛け違えただけで、台無しにしてしまったんだ。
いっくんには、そんなことにならないようにしてやりたい。
いっくんには寂しい思いは絶対にさせないよ。
「いっくん、赤ちゃんがうまれてもいっくんはいっくんだ。抱っこもおんぶもまだまださせて欲しいし、パパとママは、いっくんがだいすきだ」
「うん! いっくんもパパとママがだいしゅき! あかちゃんもだいしゅき。いっくんね、おにいちゃんになるんだよ。めーくんみたいにやさしくてかっこいいおにいちゃんになりたいの」
「あぁ、いっくんなら、なれるさ」
いっくんは心の底から安心した様子になってくれた。
「パパ、おんりする。おててつなご」
「あぁ、すみれも一緒に」
オレたち手と手を繋ぎあって『エンジェルズガーデン』の真ん中に立った。
「潤くん……子供は天使って言うけど本当ね。いっくんに白い羽が見えるわ」
「いっくんの羽は、この世を自由に飛び回るための羽だよ」
「うん、ずっといっくんと二人世界から隠れるように生きて来たから、いっくんが自由に世界を羽ばたけるのが嬉しい」
初夏のローズガーデン。
白薔薇が風に揺れて、天使の羽のように花びらが舞う庭。
ベビーカーを押して、オレたち家族はまたここに来る。
ここは、オレの家族が幸せを感じる場所となる。
****
白金に向かう車中で、宗吾さんの手と僕の手が軽くぶつかった。
「あっ……」
何度も身体を繋げているのに、ほんの少し肌が触れただけで狼狽してしまった。
「すみません」
「い、いえ」
宗吾さんがよそよそしく謝ったので、僕もつられて他人行事になってしまった。
そんな僕たちのぎこちない様子を、助手席の雪也さんがあたたかい眼差しで見守っていた。
「二人共リラックスして下さい。せっかく二人きりになれたのに硬いですね」
宗吾さんが真面目な顔で咳払いする。
「いや……今は仕事中ですので……運転手さんもいらっしゃるのにそんなわけには」
「そ、その通りです」
僕も同意すると、何故か運転手の男性に笑われてしまった。
「ははっ、堅苦しいことは必要ないですよ。おれも同士だし」
同士?
雪也さんより年上そうだが、若々しく魅惑的な男性が肩を揺らしている。
「桂人さんは相変わらず大胆な発言をするね」
「雪也さん、これはこれは失礼いたしました」
「いや、宗吾さんと瑞樹くんを仕事でくっつけたのは僕なので、二人にはせめて、今だけでもリラックして欲しいんだ」
「雪也さん、楽しそうですね」
「桂人さんにはバレていましたか。まぁ昔取った杵柄かな。瑞樹くん、実は僕は兄さまと海里先生の恋のキューピットだったんですよ。海里さまは北極星のような王子さまで……あぁ、待って下さい。あなたたちの場合は、瑞樹くんが草原の王子様ですね、宗吾さんはなんだろう? 野獣とか? くくっ」
お茶目に笑う雪也さんに、一気に場が和んだ。
「ははっ、雪也さんには敵わないな。ではお言葉に甘えて少し寛がせて下さい。いやぁ……さっき会議室で変な汗をかいて暑かったんですよ」
宗吾さんがドサッと後部座席にもたれ、ネクタイを緩める。
白いワイシャツを腕まくりし逞しい腕を見せて、ニカッと笑う。
あまりにもいつもの宗吾さんだったので、僕はほっとした。
「瑞樹ぃ、会いたかった!」
「くすっ、ずっと会っていましたよ」
「お互い余所行きモードだったからさ」
「はい、僕も会いたかったです」
「なぁ、白金に着くまでは、こうしていてもいいか」
後部座席のシート上に置いた手に、逞しい手を重ねられる。
トクンと世界が色づく瞬間だ。
「あ……はい」
僕らの様子を見た、雪也さんが嬉しそうな声を出す。
「その調子ですよ。海里先生と柊一兄さまも、いつもそんな風に後部座席でイチャイチャと……あぁ、懐かしいです」
雪也さんのお墨付きならと安心して、僕も宗吾さんの肩にそっともたれた。
「宗吾さん、会社でカッコよすぎます。僕、なんだかハラハラします」
「それはオレの台詞だ。さっき膝をついてボールペンを拾って、ニコって、あれは駄目だ! あの場にいた全員が堕ちたぞ!」
「そ、そんなつもりでは」
「あー 改めて思ったよ。君がどんなに魅力的な男なのか。そんな君を独り占めしていることに感謝しているよ!」
宗吾さんが大声で叫ぶので、僕は真っ赤だ。
雪也さんと運転手の方は、こんなやりとりは日常茶飯事だったようで、ニコニコ微笑ましく見守っていた。
「宗吾さんと瑞樹くんの幸せオーラを、『柊雪』にも注いで下さいね。薔薇も喜びます。なにより天国の海里先生と兄さまが喜びます」
「はい、到着しましたら気を引き締めて、心をこめて仕事をさせていただきます」
「やっぱり君に任せてよかった」
先程までの緊張が解けた僕にはやる気が漲っていた。
頑張ろう!
頑張りたいと思えるのは、前向きに生きている証拠。
この先に続く明るい未来に出逢うのが、待ち遠しいよ。
「はい! あの、その……」
「あぁ、奥さんと息子さんに会いに行ってもいいぞ」
「あっ……知って?」
「ははっ、周知の事実だ。そうだ、せっかくだから『エンジェルズガーデン』を案内してあげたらどうだ?」
「ですが、あそこはまだオープン前なのでまずいんじゃ」
「ふむ、ではモニターということで、どうだ?」
「お気遣いありがとうございます!」
「潤の今後のモチベーションアップにもなるだろう」
「はい!」
上司には妻子が職場に来ていることが、すっかりバレていた。
あぁそうか……去年ここでガーデンウェディングを挙げさせてもらったので、職場の人は皆、オレの家族の顔を知っている状態だ。
昔だったら気まずくて逃げ出してしまっただろうが、今は有り難いことと受け止め、幸せの中に飛び込んでいく。
物事は受け止め方で、幸せにも不幸にも変わるんだな。
とにかく上司の計らいで、6月にオープンする『エンジェルズガーデン』にすみれといっくんを案内出来る!
コホンと咳払いして、ガーデンレストランでホットケーキを食べる二人に近づくと、満面の笑みで迎えてくれた。
「潤くん、もしかしてお昼休み?」
「あぁ、今から1時間フリーなんだ」
「わぁ、パパとあそべるの?」
「そうだよ。今度オープンする新しいガーデンを案内するよ」
「嬉しいわ」
「さぁ、二人とも行こう!」
まだ工事中と赤字で書かれた扉を開けて、中に入る。
ローズガーデンの中に新しくオープンする『エンジェルズ・ガーデン』は、オレが去年からコツコツと整備しってきた庭だ。
「潤くん ここは薔薇が満開になったらすごいでしょうね」
「あぁ、ここは白薔薇だけなんだ」
「すてき! 天国みたいね」
薔薇の見頃はまだ先だ。
都心の薔薇は5月が満開だが、軽井沢は気候の差で 6月上旬に一斉に開花する。
「6月の開花、お腹の赤ちゃんと一緒で待ち遠しいわ」
「すみれ、『待ち遠しい』ってさ、すごく明るい言葉だな」
「そうね、夢と希望があるから言える言葉よね。潤くん……私に新しい命をありがとう」
「オレこそ、お腹の中で育ててくれてありがとう」
オレとすみれの間に立っていたいっくんが、待ち遠しそうな顔をしている。
「いっくん、パパのところにおいで」
「うん!」
手を広げれば、ニコニコ笑顔で走ってくる。
オレの腕に飛び込むようにジャンプ! ジャンプ!
しっかり抱きしめ、高く抱き上げてやれば、弾ける笑顔!
「パパ、はっぱさんもおはながさくのワクワクまっているみたい」
「あぁ、そうだな。もうすぐ薔薇が咲いて賑やかになるよ」
「いっくんとおなじ! あかちゃんうまれるのワクワクしてきたよ」
「そうだぞ」
「あの……ね……さみしくは……ならないよね?」
「あぁ、絶対にならないよ」
「よかったぁ……」
いっくんの心配が、痛い程分かる。
オレは広樹兄と10歳も離れて生まれて来た。父親は既に他界していたので、母に溺愛されて育ってきた。
そこに、ある日突然、もうひとり兄弟がやってきた。
瑞樹兄さんは可愛くて優しい子だったから、オレも優しくしたかったし、可愛く甘えて懐きたかった。なのに、たった一つボタンを掛け違えただけで、台無しにしてしまったんだ。
いっくんには、そんなことにならないようにしてやりたい。
いっくんには寂しい思いは絶対にさせないよ。
「いっくん、赤ちゃんがうまれてもいっくんはいっくんだ。抱っこもおんぶもまだまださせて欲しいし、パパとママは、いっくんがだいすきだ」
「うん! いっくんもパパとママがだいしゅき! あかちゃんもだいしゅき。いっくんね、おにいちゃんになるんだよ。めーくんみたいにやさしくてかっこいいおにいちゃんになりたいの」
「あぁ、いっくんなら、なれるさ」
いっくんは心の底から安心した様子になってくれた。
「パパ、おんりする。おててつなご」
「あぁ、すみれも一緒に」
オレたち手と手を繋ぎあって『エンジェルズガーデン』の真ん中に立った。
「潤くん……子供は天使って言うけど本当ね。いっくんに白い羽が見えるわ」
「いっくんの羽は、この世を自由に飛び回るための羽だよ」
「うん、ずっといっくんと二人世界から隠れるように生きて来たから、いっくんが自由に世界を羽ばたけるのが嬉しい」
初夏のローズガーデン。
白薔薇が風に揺れて、天使の羽のように花びらが舞う庭。
ベビーカーを押して、オレたち家族はまたここに来る。
ここは、オレの家族が幸せを感じる場所となる。
****
白金に向かう車中で、宗吾さんの手と僕の手が軽くぶつかった。
「あっ……」
何度も身体を繋げているのに、ほんの少し肌が触れただけで狼狽してしまった。
「すみません」
「い、いえ」
宗吾さんがよそよそしく謝ったので、僕もつられて他人行事になってしまった。
そんな僕たちのぎこちない様子を、助手席の雪也さんがあたたかい眼差しで見守っていた。
「二人共リラックスして下さい。せっかく二人きりになれたのに硬いですね」
宗吾さんが真面目な顔で咳払いする。
「いや……今は仕事中ですので……運転手さんもいらっしゃるのにそんなわけには」
「そ、その通りです」
僕も同意すると、何故か運転手の男性に笑われてしまった。
「ははっ、堅苦しいことは必要ないですよ。おれも同士だし」
同士?
雪也さんより年上そうだが、若々しく魅惑的な男性が肩を揺らしている。
「桂人さんは相変わらず大胆な発言をするね」
「雪也さん、これはこれは失礼いたしました」
「いや、宗吾さんと瑞樹くんを仕事でくっつけたのは僕なので、二人にはせめて、今だけでもリラックして欲しいんだ」
「雪也さん、楽しそうですね」
「桂人さんにはバレていましたか。まぁ昔取った杵柄かな。瑞樹くん、実は僕は兄さまと海里先生の恋のキューピットだったんですよ。海里さまは北極星のような王子さまで……あぁ、待って下さい。あなたたちの場合は、瑞樹くんが草原の王子様ですね、宗吾さんはなんだろう? 野獣とか? くくっ」
お茶目に笑う雪也さんに、一気に場が和んだ。
「ははっ、雪也さんには敵わないな。ではお言葉に甘えて少し寛がせて下さい。いやぁ……さっき会議室で変な汗をかいて暑かったんですよ」
宗吾さんがドサッと後部座席にもたれ、ネクタイを緩める。
白いワイシャツを腕まくりし逞しい腕を見せて、ニカッと笑う。
あまりにもいつもの宗吾さんだったので、僕はほっとした。
「瑞樹ぃ、会いたかった!」
「くすっ、ずっと会っていましたよ」
「お互い余所行きモードだったからさ」
「はい、僕も会いたかったです」
「なぁ、白金に着くまでは、こうしていてもいいか」
後部座席のシート上に置いた手に、逞しい手を重ねられる。
トクンと世界が色づく瞬間だ。
「あ……はい」
僕らの様子を見た、雪也さんが嬉しそうな声を出す。
「その調子ですよ。海里先生と柊一兄さまも、いつもそんな風に後部座席でイチャイチャと……あぁ、懐かしいです」
雪也さんのお墨付きならと安心して、僕も宗吾さんの肩にそっともたれた。
「宗吾さん、会社でカッコよすぎます。僕、なんだかハラハラします」
「それはオレの台詞だ。さっき膝をついてボールペンを拾って、ニコって、あれは駄目だ! あの場にいた全員が堕ちたぞ!」
「そ、そんなつもりでは」
「あー 改めて思ったよ。君がどんなに魅力的な男なのか。そんな君を独り占めしていることに感謝しているよ!」
宗吾さんが大声で叫ぶので、僕は真っ赤だ。
雪也さんと運転手の方は、こんなやりとりは日常茶飯事だったようで、ニコニコ微笑ましく見守っていた。
「宗吾さんと瑞樹くんの幸せオーラを、『柊雪』にも注いで下さいね。薔薇も喜びます。なにより天国の海里先生と兄さまが喜びます」
「はい、到着しましたら気を引き締めて、心をこめて仕事をさせていただきます」
「やっぱり君に任せてよかった」
先程までの緊張が解けた僕にはやる気が漲っていた。
頑張ろう!
頑張りたいと思えるのは、前向きに生きている証拠。
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