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小学生編
新緑の輝き 8
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新年度が始まり1週間ほど経った、いつもの朝だった。
「葉山、おはよう」
「菅野、おはよう!」
「なぁ、昨日の社内アナウンスを見たか?」
「何?」
「これ、瑞樹ちゃんにぴったりだと思って」
菅野が見せてくれた用紙には、『花の世界大会開催』と書かれていた。
「ん?」
「葉山の腕前なら、世界にも充分通用するよなって目に留まったんだけど、残念なことにもう世界大会のメンバーは決まっていたんだ」
「世界大会なんて夢の世界だね」
「でも興味はあるだろう? 世界のフラワーアーティストの作品には」
「それは生で見てみたいけど……」
「だろ? ここを見てくれよ」
「うん?」
……
追加企画!
なんと国内在住のフラワーアーティストにもチャンスが! 世界のフラワーアーティストと交流をしてみませんか。
一般公募コンテスト・緊急開催!
……
もう締め切り目前だが、世界のアーティストと触れ合えるなんて、またとないチャンスだ。
「……詳細を教えてくれるか」
「よしよし、食いついたな! 瑞樹ちゃんが積極的になって嬉しいよ」
「今年度はいろんなことに挑戦してみたくて」
「いい傾向だな」
菅野の言う通り、僕は前向きになっていた。
芽生くんの入院を通じていろんな人に触れて、僕も今を精一杯生きていこうと今までよりも強く思えるようになった。
「『心の妖精』というテーマで、フラワーデザインを制作して写真をWEBから応募すればいいらしい。で、書類選考で選ばれた人は、現地に招待してもらえ、作品を生で披露出来るそうだ」
「現地って?」
「それが長崎の『フェアリーハウス』で開催されるんだ」
「え! あの有名なレジャー施設で?」
「そっ、しかも書類選考で選ばれた人には、副賞として長崎旅行を最大4名まで贈呈って書いてあるんだ。珍しい賞品だよな~ 瑞樹ちゃんは長崎に行ったことある?」
「ないよ」
「じゃあ、是非行ってこいよ。『フェアリーハウス』は楽しいぞ。芽生坊も喜ぶだろうな」
長崎には行ったことがない。
九州はあの湯布院への旅行のみだ。
もしもこのコンテストで選ばれたら、僕が宗吾さんと芽生くんを長崎旅行に招待出来るのか。
そう思うと一気に胸が高鳴った。
社会人になってからもコンテストには何回か応募したが、それは全てリーダーからの指示だった。
自分から積極的に参加したくなったのは、あの時以来だ。
高校で全国フラワーコンクールに応募したのは、三位までに入賞すれば東京の大学に推薦入学出来て、しかも奨学金までもらえると聞いたからだった。
あの時は自分のことしか考えていなかった。
でも、今は自分と僕の大切な宗吾さんと芽生くんのことを思っている。
「参加したい」
「よし! さっそくリーダーに相談に行ってこいよ」
「うん!」
早速リーダーに相談すると、加々美花壇のフラワーアーティストとして応募してよいと言われた。
「葉山にとって、海外のアーティストと触れ合えるのは、またとないチャンスだ。いい作品を期待しているぞ。早速、今日の午後は応募作品の制作に時間を使っていいぞ」
「ありがとうございます」
応募の締め切りは三日後に迫っていた。
じっくり考えるには時間が足りない。
それでも挑戦したかった。
『心の妖精』か。
僕の心の中の妖精は、雲の上にいる夏樹だ。
作品には、あの日の雪のように真っ白な花びらを使いたいな。
そうだ、あの『柊雪』という白薔薇を使わせてもらえないだろうか。
「リーダー、午後、外出してもいいですか。使いたい花があるので、交渉に行きたいのですが」
「いいぞ。だが、その前にホテルオーヤマ店の助っ人に2時間だけ入ってくれるか」
「承知いたしました!」
加々美花壇ホテルオーヤマ店は、主にホテルのブライダルやイベント向けの花を扱う店舗で、僕も何度も助っ人に行ったことがある。
黒いエプロンをして白いシャツを腕まくりして働いていると、一人のシルバーグレイの紳士が目の前に立った。
「君は……」
「あ、カフェ月湖の雪也さん!」
「やぁ、瑞樹くん、久しぶりだね。元気だったかい?」
「はい。ちょうど良かった。君にアレンジメントを作って欲しくて」
「畏まりました。どのようなご用途で?」
「仏壇に手向けたいので、この薔薇を使ってくれるか」
雪也さんの後ろに控えていた黒いスーツ姿の40代位の男性が大輪の薔薇……『柊雪』の入った箱を持ってきた。
「あ、あの、加々美花壇以外の花で作ることは……その、今、僕は勤務時間なので」
後ろに立っていた男性が口を開く。
「あぁそれなら大丈夫だ。加々美花壇の社長とは先祖代々、懇意にしているので」
「え! どういうことですか」
雪也さんの後ろに立っていた男性がフッと微笑む。
どこかで見たような。
まさかこの人は……
「はじめまして! 雪也さんから加々美花壇に腕の良いフラワーアーティストさんがいると聞いていました。私は森宮雄太郎です」
この方は最近代替わりしたホテルオーヤマの若社長だ!
「失礼致しました。加々美花壇の葉山瑞樹です。宜しくお願いいたします」
「今日は私の大叔父の命日で、それで大叔父が大好きだった『柊雪』を手向けたくて……」
「畏まりました」
「じゃあ、雪也さん、後ほど」
社長を見送って、心臓がバクバクした。
「驚かせて悪かったね。そうだ、瑞樹くんの名刺をもらっても?」
「あ……ご挨拶が遅くなりました」
改めて雪也さんと名刺交換をした。
「やっぱりいいね。君が触れると花が喜ぶ。僕の兄は柊一、そして兄の生涯のパートーナーは森宮海里さん。つまりホテルオーヤマの現社長の大叔父にあたる人なんだ」
「そういうことだったのですね」
「不思議な縁が続いていくね。君とはこの先も縁がありそうだ」
雪也さんは僕がアレンジメントを作っている間、ずっと他愛もない会話をした。
お互いの誕生日を聞いたりも……
「僕は雪の日に生まれたから雪也と名付けられたそうだよ。瑞樹くんは、もしかして瑞々しい新緑の季節・五月生まれかな?」
「わ、すごいです! はい、その通り5月2日生まれです」
「もうすぐだね。そうだ、僕から余った薔薇は君にプレゼントするよ」
「よろしいのですか。あの、この薔薇を使ってコンテストに応募させていただきたいのですが」
「君ならこの薔薇の良さを分かってくれるから、好きに使っていいよ」
「ありがとうございます」
僕はその日の午後、心を込めて柊雪のアレンジメントを作った。
ちょうど故人に手向けるアレンジメントを作ったばかりだったので、気持ちが乗っていた。
僕の『心の旅』はこれだと思える会心の作だった。
「葉山、これが応募作品か」
「リーダー! はい、これで挑戦してみようと思います」
「白い薔薇だけなのに深いな」
「ありがとうございます。旅立ちを表現してみました」
「穏やかな気持ちになるよ」
写真に撮って応募した。
どうか、どうか……僕の夢が叶いますように。
「葉山、おはよう」
「菅野、おはよう!」
「なぁ、昨日の社内アナウンスを見たか?」
「何?」
「これ、瑞樹ちゃんにぴったりだと思って」
菅野が見せてくれた用紙には、『花の世界大会開催』と書かれていた。
「ん?」
「葉山の腕前なら、世界にも充分通用するよなって目に留まったんだけど、残念なことにもう世界大会のメンバーは決まっていたんだ」
「世界大会なんて夢の世界だね」
「でも興味はあるだろう? 世界のフラワーアーティストの作品には」
「それは生で見てみたいけど……」
「だろ? ここを見てくれよ」
「うん?」
……
追加企画!
なんと国内在住のフラワーアーティストにもチャンスが! 世界のフラワーアーティストと交流をしてみませんか。
一般公募コンテスト・緊急開催!
……
もう締め切り目前だが、世界のアーティストと触れ合えるなんて、またとないチャンスだ。
「……詳細を教えてくれるか」
「よしよし、食いついたな! 瑞樹ちゃんが積極的になって嬉しいよ」
「今年度はいろんなことに挑戦してみたくて」
「いい傾向だな」
菅野の言う通り、僕は前向きになっていた。
芽生くんの入院を通じていろんな人に触れて、僕も今を精一杯生きていこうと今までよりも強く思えるようになった。
「『心の妖精』というテーマで、フラワーデザインを制作して写真をWEBから応募すればいいらしい。で、書類選考で選ばれた人は、現地に招待してもらえ、作品を生で披露出来るそうだ」
「現地って?」
「それが長崎の『フェアリーハウス』で開催されるんだ」
「え! あの有名なレジャー施設で?」
「そっ、しかも書類選考で選ばれた人には、副賞として長崎旅行を最大4名まで贈呈って書いてあるんだ。珍しい賞品だよな~ 瑞樹ちゃんは長崎に行ったことある?」
「ないよ」
「じゃあ、是非行ってこいよ。『フェアリーハウス』は楽しいぞ。芽生坊も喜ぶだろうな」
長崎には行ったことがない。
九州はあの湯布院への旅行のみだ。
もしもこのコンテストで選ばれたら、僕が宗吾さんと芽生くんを長崎旅行に招待出来るのか。
そう思うと一気に胸が高鳴った。
社会人になってからもコンテストには何回か応募したが、それは全てリーダーからの指示だった。
自分から積極的に参加したくなったのは、あの時以来だ。
高校で全国フラワーコンクールに応募したのは、三位までに入賞すれば東京の大学に推薦入学出来て、しかも奨学金までもらえると聞いたからだった。
あの時は自分のことしか考えていなかった。
でも、今は自分と僕の大切な宗吾さんと芽生くんのことを思っている。
「参加したい」
「よし! さっそくリーダーに相談に行ってこいよ」
「うん!」
早速リーダーに相談すると、加々美花壇のフラワーアーティストとして応募してよいと言われた。
「葉山にとって、海外のアーティストと触れ合えるのは、またとないチャンスだ。いい作品を期待しているぞ。早速、今日の午後は応募作品の制作に時間を使っていいぞ」
「ありがとうございます」
応募の締め切りは三日後に迫っていた。
じっくり考えるには時間が足りない。
それでも挑戦したかった。
『心の妖精』か。
僕の心の中の妖精は、雲の上にいる夏樹だ。
作品には、あの日の雪のように真っ白な花びらを使いたいな。
そうだ、あの『柊雪』という白薔薇を使わせてもらえないだろうか。
「リーダー、午後、外出してもいいですか。使いたい花があるので、交渉に行きたいのですが」
「いいぞ。だが、その前にホテルオーヤマ店の助っ人に2時間だけ入ってくれるか」
「承知いたしました!」
加々美花壇ホテルオーヤマ店は、主にホテルのブライダルやイベント向けの花を扱う店舗で、僕も何度も助っ人に行ったことがある。
黒いエプロンをして白いシャツを腕まくりして働いていると、一人のシルバーグレイの紳士が目の前に立った。
「君は……」
「あ、カフェ月湖の雪也さん!」
「やぁ、瑞樹くん、久しぶりだね。元気だったかい?」
「はい。ちょうど良かった。君にアレンジメントを作って欲しくて」
「畏まりました。どのようなご用途で?」
「仏壇に手向けたいので、この薔薇を使ってくれるか」
雪也さんの後ろに控えていた黒いスーツ姿の40代位の男性が大輪の薔薇……『柊雪』の入った箱を持ってきた。
「あ、あの、加々美花壇以外の花で作ることは……その、今、僕は勤務時間なので」
後ろに立っていた男性が口を開く。
「あぁそれなら大丈夫だ。加々美花壇の社長とは先祖代々、懇意にしているので」
「え! どういうことですか」
雪也さんの後ろに立っていた男性がフッと微笑む。
どこかで見たような。
まさかこの人は……
「はじめまして! 雪也さんから加々美花壇に腕の良いフラワーアーティストさんがいると聞いていました。私は森宮雄太郎です」
この方は最近代替わりしたホテルオーヤマの若社長だ!
「失礼致しました。加々美花壇の葉山瑞樹です。宜しくお願いいたします」
「今日は私の大叔父の命日で、それで大叔父が大好きだった『柊雪』を手向けたくて……」
「畏まりました」
「じゃあ、雪也さん、後ほど」
社長を見送って、心臓がバクバクした。
「驚かせて悪かったね。そうだ、瑞樹くんの名刺をもらっても?」
「あ……ご挨拶が遅くなりました」
改めて雪也さんと名刺交換をした。
「やっぱりいいね。君が触れると花が喜ぶ。僕の兄は柊一、そして兄の生涯のパートーナーは森宮海里さん。つまりホテルオーヤマの現社長の大叔父にあたる人なんだ」
「そういうことだったのですね」
「不思議な縁が続いていくね。君とはこの先も縁がありそうだ」
雪也さんは僕がアレンジメントを作っている間、ずっと他愛もない会話をした。
お互いの誕生日を聞いたりも……
「僕は雪の日に生まれたから雪也と名付けられたそうだよ。瑞樹くんは、もしかして瑞々しい新緑の季節・五月生まれかな?」
「わ、すごいです! はい、その通り5月2日生まれです」
「もうすぐだね。そうだ、僕から余った薔薇は君にプレゼントするよ」
「よろしいのですか。あの、この薔薇を使ってコンテストに応募させていただきたいのですが」
「君ならこの薔薇の良さを分かってくれるから、好きに使っていいよ」
「ありがとうございます」
僕はその日の午後、心を込めて柊雪のアレンジメントを作った。
ちょうど故人に手向けるアレンジメントを作ったばかりだったので、気持ちが乗っていた。
僕の『心の旅』はこれだと思える会心の作だった。
「葉山、これが応募作品か」
「リーダー! はい、これで挑戦してみようと思います」
「白い薔薇だけなのに深いな」
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