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小学生編
幸せが集う場所 31
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「さぁ~ 飲め飲め飲め」
「流、顔が近い!」
「聞いたぞ、宗吾は今晩、瑞樹君と同衾するんだってなぁ」
「ちょっ! なんちゅう言葉を! 静かにしろっ」
「ハハハッ、誰も聞いてないって」
「私は聞いていますよ」
「丈ちゃんも、もっと飲め飲め。なんだ、まだ素面なのか」
夕食は30畳ほどの大広間で宴会と思いきや、飲んでいるのは俺と流と丈だけで、俺たち以外のメンバーは食事をさっさと終え、今は床の間近くでカルタでキャッキャッと遊んでいる。
「じゃあ、読むよ~」
翠さんの甘い声がする。
いっくんが前のめりになるのを潤が後ろから抱えて、芽生は目を大きく開いてキョロキョロしている。瑞樹と洋くんはそんな様子を優しく見守っていた。洋くんは、また表情が柔らかく明るくなったな。いいことだ。
おっと! ちゃっかり混ざっている小坊主こもりんは、いっくんより更に前のめりじゃねーか! 誰か押さえつけろと念じたくなるが、こもりんの子守役の流は、今は俺の前で飲んだくれている始末だ。
やれやれ……いっくんが泣かないといいが。
「小豆《あずき》煮て~ あんこをつくろう、冬休み。『あ』だよ」
「あ、あ、あ……あんこは僕のものですよー!」
こもりんがシュッとカルタを取る。
そしてあんこの絵を眺めて、デレッと笑う。
まったく子供に譲る気がないのかと、苦笑する。
「あーん、またとれなかったよぅ」
「いっくん、がんばろう!」
「いっくん、いちまいもないよぅ」
「よし、パパがとってあげるよ」
「ううん、いっくんじぶんのおててでとってみたいの」
なるほど、こんな時、どうしたらいいのか。
酒を飲みながら横目で見ていると、流にど突かれた。
「取ったり、取られたりを経験して子供は大人になっていくのさ」
「流もか」
「あぁ、一番取られたくないものを取られた時もある」
「……翠さんのことか」
「すまん、失言だ。翠を物のように扱うつもりはなかったのに」
「いや……相当辛かったよな……翠さんの結婚は……」
つい、口が滑ってしまった。
すると流が酒をグイッと煽る。
「まぁな。だがあの時はまだそのタイミングではなかったのさ。そう前向きに考えると一皮剥けた気がしたぜ」
「確かに俺も……瑞樹のことは彼氏と付き合っている姿を指を咥えて眺めていた時期もある。まさか手に入ると思ってなかった……って俺も物みたいな言い方をしてしまったな」
「……私だって……洋とは後悔だらけだ」
本当に物事にはタイミングが存在すると思う。
「もっと早く洋に出会えていれば」
「もっと早く瑞樹と知り合っていれば……一馬よりも早く」
「翠にもっと早く本音を伝えていれば」
それぞれの口から漏れたのは、すべて仮定形だった。
「仮定形は本当に無意味なだけだな。時間は巻き戻せないのに」
「あぁ」
「それに、あの時仮にアクションを起こしても、今の幸せには辿り着けなかった気がするんだ」
「あ、それ同感だ」
「同じく」
過去に執着するのはよそう。
「割り切って流していこうぜ! それが今、俺たちが過去に対して出来る唯一のことだから」
「あぁ」
男三人、タッグを組んだ。
「もうちょっと飲むか」
「あー でもほどほどにしないと、後でお楽しみが」
「確かに」
丈には洋くんがいて、流には翠さんがいて、俺には瑞樹がいる。
俺たちは皆、今は満たし合える相手が目の前にいる。
それが幸せだ。
「幸せが集う場所だな、ここは」
流が言えば、丈も頷く。
もちろん俺も――
「たまにこの三人で集まろうぜ」
「あぁ」
「いいな」
そこに翠さんのおっとりとした声が届く。
「和菓子の日~ たくさん食べて歯を磨こう。『わ』だよ~」
ははは、これはこもりんには取れないだろう!
案の定、こもりんは真っ青になってほっぺたを押さえていた。
するとその横で、芽生が必死にジェスチャーをしている。
「いっくん、このへんだよ。このへん!」
「めーくん、しょうなの? えっと、えっと……あっ! あったー!」
いっくんが『わ』のカードを両手で取って、大事そうに胸に抱いた。
「とれた、いっくんにもとれたよぅ。パパぁ、みてー! いっくん、うれちいよ」
「いっくん、よかったなぁ」
「いっくん、良かったね」
「いっくん、すごいぞ」
「いっくん、やったな」
皆が口に出して褒めると、いっくんがペコッとお辞儀して、砂糖菓子にみたい可愛らしく笑った。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう」
一人ひとりに丁寧にお礼を言う様子に、ハッとした。
たった1枚……カルタが取れたことが、こんなに嬉しいなんて。
グッとくる!
「いっくんには心が洗われるな。俺たちも初心を忘れずにいよう! 手が届かないと憧れていた日々を忘れずに……この先もずっと相手を大切にしていこう」
「おぅ!」
「あぁ、その通りだ」
3人が逞しい手を重ねれば、力強いパワーが生まれる。
胸が高鳴っていく。
ドキドキと――
高揚感は心がポジティブになっている証拠さ!
「流、顔が近い!」
「聞いたぞ、宗吾は今晩、瑞樹君と同衾するんだってなぁ」
「ちょっ! なんちゅう言葉を! 静かにしろっ」
「ハハハッ、誰も聞いてないって」
「私は聞いていますよ」
「丈ちゃんも、もっと飲め飲め。なんだ、まだ素面なのか」
夕食は30畳ほどの大広間で宴会と思いきや、飲んでいるのは俺と流と丈だけで、俺たち以外のメンバーは食事をさっさと終え、今は床の間近くでカルタでキャッキャッと遊んでいる。
「じゃあ、読むよ~」
翠さんの甘い声がする。
いっくんが前のめりになるのを潤が後ろから抱えて、芽生は目を大きく開いてキョロキョロしている。瑞樹と洋くんはそんな様子を優しく見守っていた。洋くんは、また表情が柔らかく明るくなったな。いいことだ。
おっと! ちゃっかり混ざっている小坊主こもりんは、いっくんより更に前のめりじゃねーか! 誰か押さえつけろと念じたくなるが、こもりんの子守役の流は、今は俺の前で飲んだくれている始末だ。
やれやれ……いっくんが泣かないといいが。
「小豆《あずき》煮て~ あんこをつくろう、冬休み。『あ』だよ」
「あ、あ、あ……あんこは僕のものですよー!」
こもりんがシュッとカルタを取る。
そしてあんこの絵を眺めて、デレッと笑う。
まったく子供に譲る気がないのかと、苦笑する。
「あーん、またとれなかったよぅ」
「いっくん、がんばろう!」
「いっくん、いちまいもないよぅ」
「よし、パパがとってあげるよ」
「ううん、いっくんじぶんのおててでとってみたいの」
なるほど、こんな時、どうしたらいいのか。
酒を飲みながら横目で見ていると、流にど突かれた。
「取ったり、取られたりを経験して子供は大人になっていくのさ」
「流もか」
「あぁ、一番取られたくないものを取られた時もある」
「……翠さんのことか」
「すまん、失言だ。翠を物のように扱うつもりはなかったのに」
「いや……相当辛かったよな……翠さんの結婚は……」
つい、口が滑ってしまった。
すると流が酒をグイッと煽る。
「まぁな。だがあの時はまだそのタイミングではなかったのさ。そう前向きに考えると一皮剥けた気がしたぜ」
「確かに俺も……瑞樹のことは彼氏と付き合っている姿を指を咥えて眺めていた時期もある。まさか手に入ると思ってなかった……って俺も物みたいな言い方をしてしまったな」
「……私だって……洋とは後悔だらけだ」
本当に物事にはタイミングが存在すると思う。
「もっと早く洋に出会えていれば」
「もっと早く瑞樹と知り合っていれば……一馬よりも早く」
「翠にもっと早く本音を伝えていれば」
それぞれの口から漏れたのは、すべて仮定形だった。
「仮定形は本当に無意味なだけだな。時間は巻き戻せないのに」
「あぁ」
「それに、あの時仮にアクションを起こしても、今の幸せには辿り着けなかった気がするんだ」
「あ、それ同感だ」
「同じく」
過去に執着するのはよそう。
「割り切って流していこうぜ! それが今、俺たちが過去に対して出来る唯一のことだから」
「あぁ」
男三人、タッグを組んだ。
「もうちょっと飲むか」
「あー でもほどほどにしないと、後でお楽しみが」
「確かに」
丈には洋くんがいて、流には翠さんがいて、俺には瑞樹がいる。
俺たちは皆、今は満たし合える相手が目の前にいる。
それが幸せだ。
「幸せが集う場所だな、ここは」
流が言えば、丈も頷く。
もちろん俺も――
「たまにこの三人で集まろうぜ」
「あぁ」
「いいな」
そこに翠さんのおっとりとした声が届く。
「和菓子の日~ たくさん食べて歯を磨こう。『わ』だよ~」
ははは、これはこもりんには取れないだろう!
案の定、こもりんは真っ青になってほっぺたを押さえていた。
するとその横で、芽生が必死にジェスチャーをしている。
「いっくん、このへんだよ。このへん!」
「めーくん、しょうなの? えっと、えっと……あっ! あったー!」
いっくんが『わ』のカードを両手で取って、大事そうに胸に抱いた。
「とれた、いっくんにもとれたよぅ。パパぁ、みてー! いっくん、うれちいよ」
「いっくん、よかったなぁ」
「いっくん、良かったね」
「いっくん、すごいぞ」
「いっくん、やったな」
皆が口に出して褒めると、いっくんがペコッとお辞儀して、砂糖菓子にみたい可愛らしく笑った。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう」
一人ひとりに丁寧にお礼を言う様子に、ハッとした。
たった1枚……カルタが取れたことが、こんなに嬉しいなんて。
グッとくる!
「いっくんには心が洗われるな。俺たちも初心を忘れずにいよう! 手が届かないと憧れていた日々を忘れずに……この先もずっと相手を大切にしていこう」
「おぅ!」
「あぁ、その通りだ」
3人が逞しい手を重ねれば、力強いパワーが生まれる。
胸が高鳴っていく。
ドキドキと――
高揚感は心がポジティブになっている証拠さ!
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