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小学生編
幸せが集う場所 18
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「滝沢さん、一旦休憩しましょう」
「お、おう!」
汗だくになって水族館でアザラシマンを演じていた俺は、一旦小林の誘導してもらいヨロヨロと控え室に入った。そしてそのまま壁にもたれ崩れ落ちてしまった。
流石の俺も、体力の限界だ。
場を盛り上げるために、振り切った。
「滝沢さん、大丈夫ですか。今、頭部を外しますね」
「た……頼む」
小林に急いで頭部を外してもらうと、やっと息がまともに出来た。額からは汗がボタボタ滴り落ち全身汗だくだ。整えた髪も何もかもボロボロになっていた。
「ぷはーっ、やっと息が出来るぞ」
「お疲れ様です。水分を取って下さい」
「おぅ」
キンキンに冷えたペットボトルを手渡されたが、着ぐるみのままトイレに行くのが面倒なので一口でやめておいた。
「さっきは女の子が泣き出してしまって、一瞬どうなるかと思いました。あのまま悪役アザラシマンになってしまうと思いきや、一気に皆のヒーローになりましたね。やっぱり滝沢さんはカッコいいです!」
誉めてくれるのは嬉しいが、反省すべきことが山積みだ。
「あのさ、これ……皆のアドバイスを聞かず欲張って大きくし過ぎたな。ピンチヒッターも見つけ難いし、小さい子供が見え難くて苦労したよ」
「じゃあ改良しましょうよ。お腹をスパッと切って縮めてチクチク縫えばいいんですよ!」
小林の目は輝いていた。手には鋏を持っている。
「おいおい、ちょっと待て! 今日はこのままでいい。明日からの改良はお前に任せるよ」
「やった! 僕に任せて下さるんですね」
「あぁ、いろんな人が関わった方がうまく行くと痛感したよ」
ひとりよがりでは駄目だ。
皆の意見を聞くことの大切さを痛感していた。
「そうですね。あっ、そういえばさっき滝沢さんを助けてくれた坊やたち、めちゃくちゃ可愛かったですね。一生懸命触って声をかけて『怖くないよ』ってアピールしてくれていましたね」
「あれはエンジェルズだよ」
「納得です。天使って、この世にいるんですねぇ」
あれは俺の息子と甥っ子だ。
そう言いたかったが、俺だけの秘密にした。
天使を引率する妖精は、極度の恥ずかしがり屋だからな。
瑞樹……芽生、いっくん、ありがとう。
さっきは声しか聞けなかったので、急に家族が恋しくなり様子を見たくなった。
どうだ? 水族館、楽しんでいるか。
ところが外に出ようとすると、小林に制された。
「わー 滝沢さん、そのまま出ちゃ駄目ですよ!」
「どうして?」
「夢を壊しちゃ駄目です。子供たちには中の人は見えていませんから」
「あ、そっか、そうだよな。あんだけ触っても人間だって分からないんだもんな」
「その着ぐるみはアザラシの皮膚のようにしっとりぺったりしてますしね」
「なるほど~」
「あ、そろそろ二度目の登場時間です」
「もう時間なのか」
「早く頭を被って下さい」
「お、おう!」
流石に疲労困憊だが、力を振り絞って二度目のアザラシマンのパフォーマンスに臨んだ。
ところが……
あれ? おかしいな。
身体に力が入らない。
ヤバイ。
****
本物のアザラシとの交流の列にいっくんと芽生くんを連れて並んでいると、再び館内から歓声が聞こえた。
「兄さん、さっきのアザラシマン、かなりの大人気だな。本物よりも騒ぎになっているなんてやるな」
「本当にそうだね」
僕は歓声につられて、後ろを振り返った。
宗吾さん……大丈夫かな?
着ぐるみの中の人って、体力的にも大変だ。
その不安と心配は的中した。
(宗吾さん……?)
さっきより明らかに動きが悪く、息が上がっているのが分かった。
まさか具合が……!
「どうした? 兄さん、急に真っ青になって」
「……な、何でもないよ」
「嘘だ! 何かあったんだな。隠さずにオレを頼ってくれ」
「……じゅ……じゅーん、どうしよう……あの、アザラシマンの中は宗吾さんなんだ」
僕は芽生くんやいっくんには聞こえないように、潤に告げた。
「そうだったのか。そんなこと聞いてなかったが」
「たぶんピンチヒッターで……なんだか苦しそうだ」
潤がハッとした表情でアザラシマンを見つめた。
「あれは脱水症状かもしれない」
「えっ!」
「兄さん、いっくんを任せてもいいか。そんで、宗吾さんはオレに任せてもらえるか」
潤に肩を掴まれ、訴えるように見つめられた。
潤が大切にしているいっくんを任せてもらう。
宗吾さんを潤に任せる。
そうか……もう僕たちは互いを信頼し、任せられるようになっているんだね。
「頼むよ、宗吾さんをお願い!」
「あぁ、任せてくれ。兄さんはいっくんに楽しい思い出を作ってあげて欲しい」
「うん、任せて」
「じゃあ代打の代打をしてくるよ!」
「じゅーん、ありがとう!」
「へへ、兄さんの役に立てて嬉しいよ」
****
いっくんと芽生くんは、おしゃべりに夢中になっている。
あとでいっくんの口から直接楽しかった思い出を聞こう。
いっくんはきっと沢山おしゃべりしてくれるだろう。
柱の陰で息を切らすアザラシマンを見つけた。
「滝沢さん、大丈夫ですか」
「小林、なぁに少し休めば大丈夫さ」
「でも……」
小柄なスーツ姿の男が、アザラシマンの周りを右往左往して、オロオロしている。
オレはそこにヌッと現れた。
「オレが中の人やりますよ」
「え?」
「代打の代打です!」
「わぁ、あなたならサイズがぴったりです」
「誰だ?」
宗吾さんの腕を掴み、控え室で急いで着ぐるみを脱がせた。
やっぱり顔色も相当悪いし、息も苦しそうだ。
「やっぱ脱水症状だな」
「あ……なんだ、潤だったのか」
「宗吾さん、ちゃんと水分取りました?」
「あぁ、さっき少し」
「少しじゃダメだ。そんなに汗をかいているのに。さぁ衣装を貸して下さい。代わります」
「え? これはハードだぞ」
「オレ、ガテン系なんで体力には自信あります。真夏の炎天下の工事現場やローズガーデンの庭作業で慣れてる」
「そうか、悪いな」
「それに若いしな」
ニカッと笑うと、宗吾さんも笑ってくれた。
「言ったな!」
宗吾さんがほっとした様子でアザラシの頭を渡してくれた。
「潤、任せてもいいか」
「もちろんです」
アザラシマンは、代打の代打に任せてくれ!
いっくんがアザラシと触れ合うシーンに立ち会えないのは残念だが、兄さんの役に立つのも嬉しいんだ。
「滝沢さんは少し休んで、しっかり水分を取って、あとはこれを」
脱水症状の危険がある職場で働くオレは、常に塩分のタブレットを持ち歩いていた。
「水分だけでなく、塩分もチャージしないと」
「そっか、そうだったな。抜け落ちていたよ。潤、サンキュ! 頼もしいよ」
今度は宗吾さんに肩を掴まれ、気が引き締まった。
「宗吾さん、なりきりのコツを教えて下さい」
「それは……潤が心から楽しめばいいのさ!」
「了解! オレは今からアザラシマンです」
「潤になら出来る!」
「はい!」
いっくん、パパ、頑張るよ!
いっくんが見ていない所でも頑張る!
「お、おう!」
汗だくになって水族館でアザラシマンを演じていた俺は、一旦小林の誘導してもらいヨロヨロと控え室に入った。そしてそのまま壁にもたれ崩れ落ちてしまった。
流石の俺も、体力の限界だ。
場を盛り上げるために、振り切った。
「滝沢さん、大丈夫ですか。今、頭部を外しますね」
「た……頼む」
小林に急いで頭部を外してもらうと、やっと息がまともに出来た。額からは汗がボタボタ滴り落ち全身汗だくだ。整えた髪も何もかもボロボロになっていた。
「ぷはーっ、やっと息が出来るぞ」
「お疲れ様です。水分を取って下さい」
「おぅ」
キンキンに冷えたペットボトルを手渡されたが、着ぐるみのままトイレに行くのが面倒なので一口でやめておいた。
「さっきは女の子が泣き出してしまって、一瞬どうなるかと思いました。あのまま悪役アザラシマンになってしまうと思いきや、一気に皆のヒーローになりましたね。やっぱり滝沢さんはカッコいいです!」
誉めてくれるのは嬉しいが、反省すべきことが山積みだ。
「あのさ、これ……皆のアドバイスを聞かず欲張って大きくし過ぎたな。ピンチヒッターも見つけ難いし、小さい子供が見え難くて苦労したよ」
「じゃあ改良しましょうよ。お腹をスパッと切って縮めてチクチク縫えばいいんですよ!」
小林の目は輝いていた。手には鋏を持っている。
「おいおい、ちょっと待て! 今日はこのままでいい。明日からの改良はお前に任せるよ」
「やった! 僕に任せて下さるんですね」
「あぁ、いろんな人が関わった方がうまく行くと痛感したよ」
ひとりよがりでは駄目だ。
皆の意見を聞くことの大切さを痛感していた。
「そうですね。あっ、そういえばさっき滝沢さんを助けてくれた坊やたち、めちゃくちゃ可愛かったですね。一生懸命触って声をかけて『怖くないよ』ってアピールしてくれていましたね」
「あれはエンジェルズだよ」
「納得です。天使って、この世にいるんですねぇ」
あれは俺の息子と甥っ子だ。
そう言いたかったが、俺だけの秘密にした。
天使を引率する妖精は、極度の恥ずかしがり屋だからな。
瑞樹……芽生、いっくん、ありがとう。
さっきは声しか聞けなかったので、急に家族が恋しくなり様子を見たくなった。
どうだ? 水族館、楽しんでいるか。
ところが外に出ようとすると、小林に制された。
「わー 滝沢さん、そのまま出ちゃ駄目ですよ!」
「どうして?」
「夢を壊しちゃ駄目です。子供たちには中の人は見えていませんから」
「あ、そっか、そうだよな。あんだけ触っても人間だって分からないんだもんな」
「その着ぐるみはアザラシの皮膚のようにしっとりぺったりしてますしね」
「なるほど~」
「あ、そろそろ二度目の登場時間です」
「もう時間なのか」
「早く頭を被って下さい」
「お、おう!」
流石に疲労困憊だが、力を振り絞って二度目のアザラシマンのパフォーマンスに臨んだ。
ところが……
あれ? おかしいな。
身体に力が入らない。
ヤバイ。
****
本物のアザラシとの交流の列にいっくんと芽生くんを連れて並んでいると、再び館内から歓声が聞こえた。
「兄さん、さっきのアザラシマン、かなりの大人気だな。本物よりも騒ぎになっているなんてやるな」
「本当にそうだね」
僕は歓声につられて、後ろを振り返った。
宗吾さん……大丈夫かな?
着ぐるみの中の人って、体力的にも大変だ。
その不安と心配は的中した。
(宗吾さん……?)
さっきより明らかに動きが悪く、息が上がっているのが分かった。
まさか具合が……!
「どうした? 兄さん、急に真っ青になって」
「……な、何でもないよ」
「嘘だ! 何かあったんだな。隠さずにオレを頼ってくれ」
「……じゅ……じゅーん、どうしよう……あの、アザラシマンの中は宗吾さんなんだ」
僕は芽生くんやいっくんには聞こえないように、潤に告げた。
「そうだったのか。そんなこと聞いてなかったが」
「たぶんピンチヒッターで……なんだか苦しそうだ」
潤がハッとした表情でアザラシマンを見つめた。
「あれは脱水症状かもしれない」
「えっ!」
「兄さん、いっくんを任せてもいいか。そんで、宗吾さんはオレに任せてもらえるか」
潤に肩を掴まれ、訴えるように見つめられた。
潤が大切にしているいっくんを任せてもらう。
宗吾さんを潤に任せる。
そうか……もう僕たちは互いを信頼し、任せられるようになっているんだね。
「頼むよ、宗吾さんをお願い!」
「あぁ、任せてくれ。兄さんはいっくんに楽しい思い出を作ってあげて欲しい」
「うん、任せて」
「じゃあ代打の代打をしてくるよ!」
「じゅーん、ありがとう!」
「へへ、兄さんの役に立てて嬉しいよ」
****
いっくんと芽生くんは、おしゃべりに夢中になっている。
あとでいっくんの口から直接楽しかった思い出を聞こう。
いっくんはきっと沢山おしゃべりしてくれるだろう。
柱の陰で息を切らすアザラシマンを見つけた。
「滝沢さん、大丈夫ですか」
「小林、なぁに少し休めば大丈夫さ」
「でも……」
小柄なスーツ姿の男が、アザラシマンの周りを右往左往して、オロオロしている。
オレはそこにヌッと現れた。
「オレが中の人やりますよ」
「え?」
「代打の代打です!」
「わぁ、あなたならサイズがぴったりです」
「誰だ?」
宗吾さんの腕を掴み、控え室で急いで着ぐるみを脱がせた。
やっぱり顔色も相当悪いし、息も苦しそうだ。
「やっぱ脱水症状だな」
「あ……なんだ、潤だったのか」
「宗吾さん、ちゃんと水分取りました?」
「あぁ、さっき少し」
「少しじゃダメだ。そんなに汗をかいているのに。さぁ衣装を貸して下さい。代わります」
「え? これはハードだぞ」
「オレ、ガテン系なんで体力には自信あります。真夏の炎天下の工事現場やローズガーデンの庭作業で慣れてる」
「そうか、悪いな」
「それに若いしな」
ニカッと笑うと、宗吾さんも笑ってくれた。
「言ったな!」
宗吾さんがほっとした様子でアザラシの頭を渡してくれた。
「潤、任せてもいいか」
「もちろんです」
アザラシマンは、代打の代打に任せてくれ!
いっくんがアザラシと触れ合うシーンに立ち会えないのは残念だが、兄さんの役に立つのも嬉しいんだ。
「滝沢さんは少し休んで、しっかり水分を取って、あとはこれを」
脱水症状の危険がある職場で働くオレは、常に塩分のタブレットを持ち歩いていた。
「水分だけでなく、塩分もチャージしないと」
「そっか、そうだったな。抜け落ちていたよ。潤、サンキュ! 頼もしいよ」
今度は宗吾さんに肩を掴まれ、気が引き締まった。
「宗吾さん、なりきりのコツを教えて下さい」
「それは……潤が心から楽しめばいいのさ!」
「了解! オレは今からアザラシマンです」
「潤になら出来る!」
「はい!」
いっくん、パパ、頑張るよ!
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