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小学生編
幸せが集う場所 16
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「さぁ、もう着くよ」
江ノ島の水族館は、宗吾さんから聞いていた通り、駅から広い道を10分ほど歩いた海の近くにあった。
「あそこ?」
「わぁ、しゅごいでしゅね」
「うん!」
芽生くんもいっくんも水色の建物を前に、目を輝かせていた。
いっくんが小さな手を、思いっきり広げる
「めーくん、めーくん、おっきいよ」
「とっても広そうだね。いっくん、まいごにならないように手をつなごう」
「あい!」
ふふっ、芽生くん、すっかりお兄ちゃんになっている。
いつもは僕が言う台詞を、いっくんに向けて話しているのが可愛くて目を細めてしまうよ。普段は大人の中で過ごすことが多いので、いっくんの存在がよほど嬉しいようだ。いっくんにとっても同じだろう。お兄ちゃんという憧れを抱いているのが、手に取るように分かるよ。
芽生くんといっくん。
君たちは、お互いがお互いを求め合っている。
ずっとずっと仲良くして欲しい。
血の繋がりではなく深い縁があって繋がったの者同士だから。
一つの出逢いを大切にしていけば、いろんな優しい出逢いに繋がっていくんだよ。僕がそうであったように――
「兄さん、さっきの聞いていた?」
「ん?」
潤が照れ臭そうに鼻の頭を擦って、笑っていた。
「オレ、いっくんにとってスペシャルなんだって」
「潤はいっくんのパパだから、スペシャルに決まっているよ」
「……じーんとする。兄さん、オレ、ちゃんといっくんの父親を出来てるかな?」
潤、本当に変わったね。
お父さんを知らない潤は、父の日が大っ嫌いだった。
そんな潤が父になり、父であることに喜びを感じているなんて――
「さぁ入ろう」
宗吾さんからもらったチケットを、入場口でそれぞれに配った。
「これは芽生くんといっくんの分だよ」
「わぁぁ、いっくんにもあるの? いっくんも中にはいっていいの?」
「もちろんだよ」
ゲートの上には『~Hopeful Sweet~』という大きな看板があった。
このキャッチコピーは宗吾さんが考えたものだと聞いている。
改めて数ヶ月前から、このイベントのために奔走してきた宗吾さんのすごさを感じた。こんなに大きなイベントの総指揮を執っているなんて、すごいな。
僕も大小のイベントに携わるが、これは規模が違う。
出掛けに宗吾さんから「今日頑張れるようにネクタイを選んで欲しい」と甘く頼まれた。なんだか擽ったい気分だった。
……
「僕でいいんですか」
「当たり前だよ。君しかいない」
「じゃあ……これはいかがでしょう?」
「お! マリンブルーか」
「はい、これが似合います。空の青、海の青、爽やか風が吹きますように」
仕事が上手くいきますように。
そっと願いながら、宗吾さんの頬にキスをした。
宗吾さんは目を見開き、それから破顔した。
……
中に入ると、『チョコレートアザラシと過ごすハッピーバレンタイン! 触れ合いに来てね』と大きなポスターが貼ってあった。
いっくんと芽生くんは目をますますキラキラさせている。
「お兄ちゃん、あとで行くのって、これでしょ?」
「いっくんもぺったんできるの?」
「そうだよ。まだその時間じゃないから、中を見てよう」
「うん!」
水族館は賑わっていた。
バレンタイン当日だからなのか、カップルの来場が多いような。
それにしても宗吾さんはどこにいるのかな?
「お兄ちゃん、パパは?」
「うーん、姿が見えないね」
ざっと見渡すが姿は見えない。
「きっとおおいそがしなんだね。今日のパパ、スーツでカッコよかったよね」
「うん、カッコよかった」
芽生くんと話していると、いっくんも一生懸命会話に参加してくる。
なるほど、いっくんって積極的な面もあるんだね。
背伸びして可愛いな。
「そーくん、かっこいいよね! ね!」
わ! ありがとう。
そう返事しそうになると、また潤がやってくる。
「いっくん、オレは?」
「パパ? パパはすぺしゃする、すぺしゃるかっこいよぅ!」
くすっ、いっくんってば、パパたらし?(そんな日本語ないか)
潤はもうデレデレで、目尻がずっと下がっている。
そこに子供たちの大歓声が鳴り響く。
「わぁー あざらしマンだ」
「あざらしくーん」
着ぐるみのアザラシがやってきた。
手にはプラカードを持っている。
『バレンタイン限定のアザラシチョコパン、限定発売中』
なるほど、宣伝告知も大変なんだな。
それにしても随分大きなアザラシの着ぐるみだな。普通着ぐるみって子供たちに威圧感を与えないため小さいものが多いのに、この着ぐるみは180cm近くあるんじゃないかな?
すると……案の定、女の子が怖がって泣き出してしまった。
わ! 大変だ。
一人が泣けば、連鎖していく。
男の子にはウケがいいけど、女の子には怖いのかも。
「ママ、おばけあざらしぃー」
「ちょっと怖いわねぇ 愛嬌もないし」
この声が聞こえたようで、あざらしの着ぐるみはキョロキョロしてオロオロし出した。
まずいな、これではせっかくのイベントが台無しだ。
宗吾さんの企画したイベントだ。
なんとかフォローを!
「いっくん、芽生くん、あのアザラシくん、困ってるよ。怖くないって教えてあげよう」
「うん! いっくんいこう」
「あい!」
アザラシは自分の大きさが原因だと気付いたらしく、その場にしゃがんだ。
わ! 頑張っているな。
そこに芽生くんといっくんが笑顔で近づいていった。
「わー アザラシさん、かわいい」
「いっくん、こわくない。ぺったんできる」
「ふれあいコーナーのれんしゅうできるね」
「うん、ぺったん。ぺったん」
「……‼‼」
子供に全身をペタペタされて、アザラシの声にならぬ悲鳴が聞こえたような。
それにしてもあのアザラシ……
どこかで会ったような?
初対面とは思えない。
いやいやそんなはずないよな。
相手はあざらしだ。
でも……この身体を張って気合いで乗り切ろうと頑張る様子は……まるで……
「まさか……もしかして……中の人は、宗吾さん?……ですか」
近くで囁くと、アザラシの身体がビクッとした。
やっぱり!
僕が見間違うはずない。
どんな姿でも、宗吾さんは宗吾さんだ。
宗吾さん、スーツよりも、ずっとずっとカッコいいです!
総指揮者と聞いていたが、身体を張ってイベントを盛り上げようとする様子に感動した。自分も動いてこそ、人はついてくる。
「宗吾さん……頑張って下さい。僕……心から応援しています」
僕はありったけの愛をこめてエールを送った。
優しくアザラシの背中を撫でてみると、やっぱり宗吾さんだと確信した。
この背中のラインには……(って僕、何を考えて?)
僕のエールが届いたのか、アザラシがスクッと立ち上がった。
真っ直ぐピンと立つアザラシが、元気に手を振った。
ブンブンと愛嬌を振りまいて……!
「アザラシさんごめんね。もうこわくないよ。せがたかくて、かっこいいよ」
泣いていた女の子が、笑ってくれた。
笑顔は笑顔を生み出す。
そこからはアザラシは人気者になった。
誰かが受け入れてくれば、世界は変わる!
受け入れてもらえると、それは自信に繋がる!
「アザラシしゃーん」
「アザラシくん、かっこいい」
宗吾さんの頑張る姿に、僕の心はさっきから震えっぱなしだ。
宗吾さん、あなたが好きです。
明るく元気に頑張る宗吾さんは、僕の希望です。
江ノ島の水族館は、宗吾さんから聞いていた通り、駅から広い道を10分ほど歩いた海の近くにあった。
「あそこ?」
「わぁ、しゅごいでしゅね」
「うん!」
芽生くんもいっくんも水色の建物を前に、目を輝かせていた。
いっくんが小さな手を、思いっきり広げる
「めーくん、めーくん、おっきいよ」
「とっても広そうだね。いっくん、まいごにならないように手をつなごう」
「あい!」
ふふっ、芽生くん、すっかりお兄ちゃんになっている。
いつもは僕が言う台詞を、いっくんに向けて話しているのが可愛くて目を細めてしまうよ。普段は大人の中で過ごすことが多いので、いっくんの存在がよほど嬉しいようだ。いっくんにとっても同じだろう。お兄ちゃんという憧れを抱いているのが、手に取るように分かるよ。
芽生くんといっくん。
君たちは、お互いがお互いを求め合っている。
ずっとずっと仲良くして欲しい。
血の繋がりではなく深い縁があって繋がったの者同士だから。
一つの出逢いを大切にしていけば、いろんな優しい出逢いに繋がっていくんだよ。僕がそうであったように――
「兄さん、さっきの聞いていた?」
「ん?」
潤が照れ臭そうに鼻の頭を擦って、笑っていた。
「オレ、いっくんにとってスペシャルなんだって」
「潤はいっくんのパパだから、スペシャルに決まっているよ」
「……じーんとする。兄さん、オレ、ちゃんといっくんの父親を出来てるかな?」
潤、本当に変わったね。
お父さんを知らない潤は、父の日が大っ嫌いだった。
そんな潤が父になり、父であることに喜びを感じているなんて――
「さぁ入ろう」
宗吾さんからもらったチケットを、入場口でそれぞれに配った。
「これは芽生くんといっくんの分だよ」
「わぁぁ、いっくんにもあるの? いっくんも中にはいっていいの?」
「もちろんだよ」
ゲートの上には『~Hopeful Sweet~』という大きな看板があった。
このキャッチコピーは宗吾さんが考えたものだと聞いている。
改めて数ヶ月前から、このイベントのために奔走してきた宗吾さんのすごさを感じた。こんなに大きなイベントの総指揮を執っているなんて、すごいな。
僕も大小のイベントに携わるが、これは規模が違う。
出掛けに宗吾さんから「今日頑張れるようにネクタイを選んで欲しい」と甘く頼まれた。なんだか擽ったい気分だった。
……
「僕でいいんですか」
「当たり前だよ。君しかいない」
「じゃあ……これはいかがでしょう?」
「お! マリンブルーか」
「はい、これが似合います。空の青、海の青、爽やか風が吹きますように」
仕事が上手くいきますように。
そっと願いながら、宗吾さんの頬にキスをした。
宗吾さんは目を見開き、それから破顔した。
……
中に入ると、『チョコレートアザラシと過ごすハッピーバレンタイン! 触れ合いに来てね』と大きなポスターが貼ってあった。
いっくんと芽生くんは目をますますキラキラさせている。
「お兄ちゃん、あとで行くのって、これでしょ?」
「いっくんもぺったんできるの?」
「そうだよ。まだその時間じゃないから、中を見てよう」
「うん!」
水族館は賑わっていた。
バレンタイン当日だからなのか、カップルの来場が多いような。
それにしても宗吾さんはどこにいるのかな?
「お兄ちゃん、パパは?」
「うーん、姿が見えないね」
ざっと見渡すが姿は見えない。
「きっとおおいそがしなんだね。今日のパパ、スーツでカッコよかったよね」
「うん、カッコよかった」
芽生くんと話していると、いっくんも一生懸命会話に参加してくる。
なるほど、いっくんって積極的な面もあるんだね。
背伸びして可愛いな。
「そーくん、かっこいいよね! ね!」
わ! ありがとう。
そう返事しそうになると、また潤がやってくる。
「いっくん、オレは?」
「パパ? パパはすぺしゃする、すぺしゃるかっこいよぅ!」
くすっ、いっくんってば、パパたらし?(そんな日本語ないか)
潤はもうデレデレで、目尻がずっと下がっている。
そこに子供たちの大歓声が鳴り響く。
「わぁー あざらしマンだ」
「あざらしくーん」
着ぐるみのアザラシがやってきた。
手にはプラカードを持っている。
『バレンタイン限定のアザラシチョコパン、限定発売中』
なるほど、宣伝告知も大変なんだな。
それにしても随分大きなアザラシの着ぐるみだな。普通着ぐるみって子供たちに威圧感を与えないため小さいものが多いのに、この着ぐるみは180cm近くあるんじゃないかな?
すると……案の定、女の子が怖がって泣き出してしまった。
わ! 大変だ。
一人が泣けば、連鎖していく。
男の子にはウケがいいけど、女の子には怖いのかも。
「ママ、おばけあざらしぃー」
「ちょっと怖いわねぇ 愛嬌もないし」
この声が聞こえたようで、あざらしの着ぐるみはキョロキョロしてオロオロし出した。
まずいな、これではせっかくのイベントが台無しだ。
宗吾さんの企画したイベントだ。
なんとかフォローを!
「いっくん、芽生くん、あのアザラシくん、困ってるよ。怖くないって教えてあげよう」
「うん! いっくんいこう」
「あい!」
アザラシは自分の大きさが原因だと気付いたらしく、その場にしゃがんだ。
わ! 頑張っているな。
そこに芽生くんといっくんが笑顔で近づいていった。
「わー アザラシさん、かわいい」
「いっくん、こわくない。ぺったんできる」
「ふれあいコーナーのれんしゅうできるね」
「うん、ぺったん。ぺったん」
「……‼‼」
子供に全身をペタペタされて、アザラシの声にならぬ悲鳴が聞こえたような。
それにしてもあのアザラシ……
どこかで会ったような?
初対面とは思えない。
いやいやそんなはずないよな。
相手はあざらしだ。
でも……この身体を張って気合いで乗り切ろうと頑張る様子は……まるで……
「まさか……もしかして……中の人は、宗吾さん?……ですか」
近くで囁くと、アザラシの身体がビクッとした。
やっぱり!
僕が見間違うはずない。
どんな姿でも、宗吾さんは宗吾さんだ。
宗吾さん、スーツよりも、ずっとずっとカッコいいです!
総指揮者と聞いていたが、身体を張ってイベントを盛り上げようとする様子に感動した。自分も動いてこそ、人はついてくる。
「宗吾さん……頑張って下さい。僕……心から応援しています」
僕はありったけの愛をこめてエールを送った。
優しくアザラシの背中を撫でてみると、やっぱり宗吾さんだと確信した。
この背中のラインには……(って僕、何を考えて?)
僕のエールが届いたのか、アザラシがスクッと立ち上がった。
真っ直ぐピンと立つアザラシが、元気に手を振った。
ブンブンと愛嬌を振りまいて……!
「アザラシさんごめんね。もうこわくないよ。せがたかくて、かっこいいよ」
泣いていた女の子が、笑ってくれた。
笑顔は笑顔を生み出す。
そこからはアザラシは人気者になった。
誰かが受け入れてくれば、世界は変わる!
受け入れてもらえると、それは自信に繋がる!
「アザラシしゃーん」
「アザラシくん、かっこいい」
宗吾さんの頑張る姿に、僕の心はさっきから震えっぱなしだ。
宗吾さん、あなたが好きです。
明るく元気に頑張る宗吾さんは、僕の希望です。
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