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小学生編
幸せが集う場所 12
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「お兄ちゃん、病院……行きたくないなぁ」
「……芽生くん」
「だって、またあのケンサするんでしょう?」
「……うん」
困ったな。今日は退院後初めての診察日なのに、芽生くんのテンションが落ちている。血液をサラサラにするお薬は頑張って毎日飲んでいるが、診察と検査は別物なのだろう。
「……検査は大変だよね」
「うん、一番いやなのはじっとしないといけないことだよ。あのケンサのキカイ……冷たいんだもん」
「確かにそうだよね」
芽生くんは何でも我が儘を言う子じゃない。
心の底から嫌なのだろう。
だから返す言葉がない。
すると芽生くんが言葉を続けてくれた。
「でもね、やっぱりがんばる」
「芽生くん?」
「だってね、明日、いっくんに会えるんでしょう? また具合わるくなりたくないもん」
芽生くん……いつの間にか成長して、自分で答えを探せるようになったんだね。
「そうだね、お兄ちゃんがそばにいるよ」
「うん、あのね……がんばるから、今日はいっしょにねてほしいな」
「うん! もちろんだよ。喜んで」
「えへへ」
早退して病院に連れて行き、心臓の超音波検査を受けた。
芽生くんがじっと耐えている様子に、涙が出そうだった。
小さな身体で頑張っているんだね。
本当に偉い、本当にすごいよ。
すぐに経過は良好だと先生から教えてもらえ、ほっとした。
その晩は宗吾さんが残業で遅かったので、芽生くんを先に寝付かすことにした。
「約束通り一緒に寝ようね」
「うん! くまちゃんもいい?」
「もちろん! みんな、おいで!」
まだまだ身体を大事にして欲しい。いっくんと水族館に行くという楽しいイベントが待っていることだし、体調には充分気をつけてあげたい。
「パパ、毎日たいへんそうだね」
「そうだね。イベントを二つかけもちで担当しているからね」
「パパ、だいじょうぶかな?」
「心配だね」
「でも、パパにはお兄ちゃんがいるからダイジョウブ!」
「芽生くんもいるよ」
「あのね、ボク、おうちに帰ってきたらすごくほっとしたよ。きっとパパもお仕事から帰ってきたら、ほっとするんだろうね」
眠りにつく芽生くんは小さい頃にように、ボクにしがみついてくれた。
抱っこは流石にもうそろそろキツくなりそうだが、こうやって抱きしめることはもう少しできるかな?
「お兄ちゃん、ずっとだいすきだよ」
甘くて優しい言葉をいつも芽生くんは僕に与えてくれる。
「僕も大好きだよ。芽生くんは僕の天使だ」
眠りにつく芽生くんの黒髪を何度も撫でてあげ、深く眠りについたのを見計らって、そっとベッドを抜け出した。
残業で疲れた宗吾さんを迎えるために。
スマホを確認すると帰宅まで30分ほどかかりそうだ。
そこに潤からの電話がかかってきた。
「兄さん、兄さん、頼む! 教えてくれよ」
「くすっ、今度は何だろう?」
「あ、あのさ、新幹線で気をつけることは何?」
「ん? あぁいっくんのことだね」
「そう!」
僕は4歳の子連れで想定されるトラブルを、潤に事細かく教えてあげた。
「まずは緊張しているからトイレが近くなるかも。もじもじしていたら促してあげて」
「おぅ!」
「それから、お腹が空くと機嫌が悪くなるかも」
「朝早いから、菫さんが弁当作ってくれるって」
「うん、それが一番いいね。ママの味なら安心できるし。あとは飽きないように、小さなテーブルで遊べるシールブックやお絵かきできるものも用意した方がいいかも」
「よっし! 全部メモした!」
潤、きっと必死にメモしているんだろうな。
こんなに真剣になるなんて、弟が可愛くて溜らないよ。
僕を頼ってくれてありがとう!
「兄さん、ありがとう。オレ、いっくんとこんな風に旅に出るの初めてで……ワクワク、ドキドキしている」
「あ、じゅーん、今のが全て当てはまるとは限らないよ。でもきっと潤なら、いっくんが求めていることに気付けるよ。今の潤なら大丈夫。お兄ちゃんのお墨付きだよ」
「なんかさぁ、兄さんって……本当に兄さんなんだな」
潤がしみじみと呟く。
僕も自分の口調に少し驚いてしまった。
「もしかして……お兄ちゃんらしかったか」
「はは、兄さんは明るくなった。宗吾さんの影響だよな」
「そうかも……いつも日溜まりの中にいるから」
「よかった! もうすぐ会えるの楽しみしているよ」
「うん、じゅーん、早く会いたいよ」
「へへ」
潤とは幸せな会話を出来るようになった。
それが嬉しくて電話を切った後、心がぽかぽかしていた。
優しい言葉で溢れ、優しさを贈りあえることが嬉しくて堪らないよ。
人と人がいがみ合うのは簡単だ。相手の気持ちなんてお構いなしに切り捨てればいいだけだから。でもね、それでは……寂しいよ。
僕と潤の心は全く別のもので、性格だって何もかも違う。それでもこんなにポカポカな気持ちになれるのは、潤が歩み寄ってくれるから。そして僕も歩み寄るからだ。
『二人が一歩ずつ前に踏み出したら、心の距離もぐっと近づける』
僕は『幸せの方程式』を知っている。
そこに、宗吾さんが帰ってきた。
「お帰りなさい」
「瑞樹、ただいま、芽生は?」
「……30分程前に寝てしまいました」
「くー! 起きている時に帰りたかったよ」
ネクタイを緩めながら苦い顔で呟く宗吾さんを、僕は両手で抱きしめた。
「宗吾さん、お疲れ様、お仕事大変でしたね」
「瑞樹……君が幸せな顔で迎えてくれるだけで、疲れは吹っ飛ぶよ。ありがとう」
潤にもらった幸せを、今度は宗吾さんに伝えよう。
幸せは連鎖する――
「……芽生くん」
「だって、またあのケンサするんでしょう?」
「……うん」
困ったな。今日は退院後初めての診察日なのに、芽生くんのテンションが落ちている。血液をサラサラにするお薬は頑張って毎日飲んでいるが、診察と検査は別物なのだろう。
「……検査は大変だよね」
「うん、一番いやなのはじっとしないといけないことだよ。あのケンサのキカイ……冷たいんだもん」
「確かにそうだよね」
芽生くんは何でも我が儘を言う子じゃない。
心の底から嫌なのだろう。
だから返す言葉がない。
すると芽生くんが言葉を続けてくれた。
「でもね、やっぱりがんばる」
「芽生くん?」
「だってね、明日、いっくんに会えるんでしょう? また具合わるくなりたくないもん」
芽生くん……いつの間にか成長して、自分で答えを探せるようになったんだね。
「そうだね、お兄ちゃんがそばにいるよ」
「うん、あのね……がんばるから、今日はいっしょにねてほしいな」
「うん! もちろんだよ。喜んで」
「えへへ」
早退して病院に連れて行き、心臓の超音波検査を受けた。
芽生くんがじっと耐えている様子に、涙が出そうだった。
小さな身体で頑張っているんだね。
本当に偉い、本当にすごいよ。
すぐに経過は良好だと先生から教えてもらえ、ほっとした。
その晩は宗吾さんが残業で遅かったので、芽生くんを先に寝付かすことにした。
「約束通り一緒に寝ようね」
「うん! くまちゃんもいい?」
「もちろん! みんな、おいで!」
まだまだ身体を大事にして欲しい。いっくんと水族館に行くという楽しいイベントが待っていることだし、体調には充分気をつけてあげたい。
「パパ、毎日たいへんそうだね」
「そうだね。イベントを二つかけもちで担当しているからね」
「パパ、だいじょうぶかな?」
「心配だね」
「でも、パパにはお兄ちゃんがいるからダイジョウブ!」
「芽生くんもいるよ」
「あのね、ボク、おうちに帰ってきたらすごくほっとしたよ。きっとパパもお仕事から帰ってきたら、ほっとするんだろうね」
眠りにつく芽生くんは小さい頃にように、ボクにしがみついてくれた。
抱っこは流石にもうそろそろキツくなりそうだが、こうやって抱きしめることはもう少しできるかな?
「お兄ちゃん、ずっとだいすきだよ」
甘くて優しい言葉をいつも芽生くんは僕に与えてくれる。
「僕も大好きだよ。芽生くんは僕の天使だ」
眠りにつく芽生くんの黒髪を何度も撫でてあげ、深く眠りについたのを見計らって、そっとベッドを抜け出した。
残業で疲れた宗吾さんを迎えるために。
スマホを確認すると帰宅まで30分ほどかかりそうだ。
そこに潤からの電話がかかってきた。
「兄さん、兄さん、頼む! 教えてくれよ」
「くすっ、今度は何だろう?」
「あ、あのさ、新幹線で気をつけることは何?」
「ん? あぁいっくんのことだね」
「そう!」
僕は4歳の子連れで想定されるトラブルを、潤に事細かく教えてあげた。
「まずは緊張しているからトイレが近くなるかも。もじもじしていたら促してあげて」
「おぅ!」
「それから、お腹が空くと機嫌が悪くなるかも」
「朝早いから、菫さんが弁当作ってくれるって」
「うん、それが一番いいね。ママの味なら安心できるし。あとは飽きないように、小さなテーブルで遊べるシールブックやお絵かきできるものも用意した方がいいかも」
「よっし! 全部メモした!」
潤、きっと必死にメモしているんだろうな。
こんなに真剣になるなんて、弟が可愛くて溜らないよ。
僕を頼ってくれてありがとう!
「兄さん、ありがとう。オレ、いっくんとこんな風に旅に出るの初めてで……ワクワク、ドキドキしている」
「あ、じゅーん、今のが全て当てはまるとは限らないよ。でもきっと潤なら、いっくんが求めていることに気付けるよ。今の潤なら大丈夫。お兄ちゃんのお墨付きだよ」
「なんかさぁ、兄さんって……本当に兄さんなんだな」
潤がしみじみと呟く。
僕も自分の口調に少し驚いてしまった。
「もしかして……お兄ちゃんらしかったか」
「はは、兄さんは明るくなった。宗吾さんの影響だよな」
「そうかも……いつも日溜まりの中にいるから」
「よかった! もうすぐ会えるの楽しみしているよ」
「うん、じゅーん、早く会いたいよ」
「へへ」
潤とは幸せな会話を出来るようになった。
それが嬉しくて電話を切った後、心がぽかぽかしていた。
優しい言葉で溢れ、優しさを贈りあえることが嬉しくて堪らないよ。
人と人がいがみ合うのは簡単だ。相手の気持ちなんてお構いなしに切り捨てればいいだけだから。でもね、それでは……寂しいよ。
僕と潤の心は全く別のもので、性格だって何もかも違う。それでもこんなにポカポカな気持ちになれるのは、潤が歩み寄ってくれるから。そして僕も歩み寄るからだ。
『二人が一歩ずつ前に踏み出したら、心の距離もぐっと近づける』
僕は『幸せの方程式』を知っている。
そこに、宗吾さんが帰ってきた。
「お帰りなさい」
「瑞樹、ただいま、芽生は?」
「……30分程前に寝てしまいました」
「くー! 起きている時に帰りたかったよ」
ネクタイを緩めながら苦い顔で呟く宗吾さんを、僕は両手で抱きしめた。
「宗吾さん、お疲れ様、お仕事大変でしたね」
「瑞樹……君が幸せな顔で迎えてくれるだけで、疲れは吹っ飛ぶよ。ありがとう」
潤にもらった幸せを、今度は宗吾さんに伝えよう。
幸せは連鎖する――
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