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小学生編

心をこめて 39

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 昨夜のことだ。

 想くんと駿くんが、芽生のお見舞いに駆けつけてくれると聞いたのは。

 寝室で俺にその旨を告げる瑞樹は、少し緊張した面持ちだった。

「なるほど、想くんを呼ぶとはな」
「あの……僕、勝手に……芽生くんのことで、出しゃばり過ぎていませんか」

 瑞樹の瞳が不安そうに揺れている。

 こんな時の君は幼子のように心許ない。

 瑞樹、瑞樹……

 君の居場所はここだ。

 君の家族はここだ。

 何度も何度も伝えているのに、君はまだ時折怯んでしまう。

 じっくり、ゆっくり時間をかけてでも伝えたいのは、揺らがない愛があるということ。

 君を通じて、俺は変わった。

 だから瑞樹も俺を通じて、自信を持って欲しい。

 君の判断は、素晴らしい。

 芽生の立場になって考えてくれる君が大好きだ。

「何を言う? 俺が思いつかなかったことだから感心したんだよ」

 優しく抱きしめてやると、瑞樹はようやくほっとした様子で微笑んでくれた。

「良かった。あの……それで想くんからアドバイスされたのですが」
「ん?」
「芽生くんは小児病棟なので……やはり子供の面会は駄目なんでしょうか。病院によっていろいろ細かい規則や例外もあるから調べてみるといいと。もし可能なら芽生くんが心許せる友達が面会に来てくれると、きっと力になるとアドバイスを受けました」
「なるほど、最初から子供は駄目だと決めつけていたが、ちょっと調べてみるよ」
「はい!」

 すぐに問い合わせてみると土日祝日は、親御さんが引率の小学生以上の子供なら個室に限り面会可能だという返事だった。

 そこで、久しぶりに芽生の幼稚園時代の親友コータくんママに連絡をしたわけさ。

 玲子が突然芽生を置いて出て行ってしまい、何もかも勝手が分からない俺をフォローしてくれたのがきっかけで、連絡先をやりとりしておいて良かった。

 二つ返事で「芽生に会いたい」と言ってくれたコータくん親子に感謝だ。


****

「宗吾さんも瑞樹くんも……本当に大変でしたね」

 駿くんと喫茶コーナーに行くと、テキパキとオーダーを聞いて、あっという間に注文してくれた。セルフサービスの水もさっと取ってきてくれた。

 どうやら駿くんは、とても気が利くタイプのようだ。

「……想も小さい時、よく入院したんだ。俺が想と出会ったのは8歳の時だったから、それ以前の入院については分からないけど、赤ちゃんの時から体が弱くて入院を余儀なくされていたようだ」
「8歳といえば、今の芽生くんと一緒だね」
「俺と出会った年の冬にも、大きな発作で入院してしまって……想は一人っ子で家も裕福だったから、いつも個室だった。だが、それが寂しそうで……子供だったからお見舞いに行けるのは限られていたが、初めてお見舞いに行った時、想、嬉しくて泣いちゃって、可愛くて。あ、これはナイショで!」

 駿くんって、笑うと途端に人懐っこい笑顔になるんだね。

「きっと今頃、芽生くん、コータくんと楽しく遊んでいるだろうな」
「そうですね」
 
 宗吾さんと顔を見合わせて微笑むと、背後から声がした。

「コータ君は、芽生くんにとって力になると思いますよ」
「想くん!」
「瑞樹くん、芽生くんとゆっくり話す機会をくれてありがとう」
「こちらこそだよ。芽生くん、どうだった?」
「うん、いい子だね。芽生くんって本当に真っ直ぐ育っていて、素直で……僕の話もよく聞いてくれたよ」
「想、何を話したんだ?」

 駿くんが聞くが、想くんはニコニコ微笑むだけ。

「内緒だよ」
「そっか、うん、それもいいかもな!」

 コクリと想くんが頷く様子を見て、あぁ、きっと芽生くんと同じ視点になってくれたんだなと思った。

 長い間点滴が取れないもどかしさ。10日以上病室から一歩も出られない閉塞感。味わったした人にしか分からない部分に触れてくれたんだね。

「想くん、ありがとう。君が来てくれて良かったよ」
「瑞樹くんの役に立てて嬉しいよ。でも、あんなに広い部屋にひとりは辛いね。おたふく風が出たのが理由だそうだけど、少し気になってナースステーションに聞いてきたんだ」
「え? 何を?」

 想くんって大人しそうなのに、大胆な面もあるんだね。

「想は病院に慣れているし、看護師さんキラーなんだ」
「駿、僕は、そんなつもりじゃ」
「へへ、でも想は、もう俺の想だ」
「しゅ、駿! 恥ずかしいよ」

 二人はとっても仲良しだ。

 その様子に宗吾さんと僕の気持ちも、一気に解れた。

 そうか……僕たちの気持ちを二人が解してくれているのだね。

「本題に戻るね。この病院には院内学級があって、そろそろ芽生くんも通えるみたいだよ」
「院内学級! 気付かなかったな」
「芽生くん、喜ぶでしょうね」

 芽生くんの明るい笑顔が浮かんできた。

「想くん、僕たちだけでは気付けないことに気付いてくれて、ありがとう」
「僕も同じだったから、芽生くんの気持ちが痛い程分かるんだ。僕の入院生活が役立つ日が来るなんて思いもしなかった。だから僕の方こそ、ありがとう」

 声をかけて良かった。

 声をかけてもらえて、嬉しかった。

 双方が優しい気持ちを持ち寄れば、優しさがまた生まれるんだね。

****

 久しぶりに、コータくんに会えたよ!

 うれしい! うれしいよ!
 
 幼稚園の年少さんからずっと同じクラスだったコータくんは、ボクにとって、とても大切な友だちだよ。

「メイ、久しぶりだな。もうしんどくないのか」
「うーん、体はもうしんどくないけど、心がしんどいんだ」
「そっか、この広い部屋にひとりで?」
「うん、もう10日もいるんだよ」
「……10日もか」

 こんな風に幼稚園のときも、ボクの話を聞いてもらったよね。

……

「メイどうした?」
「ママが……きえちゃった」
「そうか……」
「ママいないのさみしい」
「だよな」
「もうかえってこないのかな?」
「……わからない」
「うん、わからないよね。メイもわからないことばかりだよ。ぐすっ」
「ぐすっ」
「コータくんもないてるの」
「うん……」

……
 
 コータくんって、いつもボクの気持ちのそばに、そっといてくれた。

 一緒にかなしんでくれたんだね。

 今日も泣きそうだ。

 でも……ボク……コータくんの笑顔がみたいな。

「コータくん、いっしょにわらおうよ!」
「うん、そうだな! メイが笑うところみたいよ」
「ボクもだよ!」









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