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小学生編
心をこめて 10
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「滝沢芽生の家の者ですが」
「あぁ、芽生くんの……今、ちょうど眠ったようですが、熱がまだ上がりそうなので、今のうちに連れて帰ったがいいですよ」
「はい、分かりました」
保健室のベッドには、芽生くんが苦しそうに眉間に皺を寄せて眠っていた。
出掛ける時は、あんなに元気そうだったのに、数時間後にこんなに具合が悪くなってしまうなんて。
もしかしたら昨日から予兆があったのかな? もしかしたら朝から微熱があったのかも。
起きてきた時、おでこに手をあててあげれば、抱きしめてあげれば良かった。
僕は宗吾さんから留守を任されたのに不甲斐なくてごめん、気づけずにごめんね。
本当にこういう時、僕は何の役にも立たないな。
一瞬また怖くなって泣きそうになったが、必死に堪えた。
バカっ、僕が僕が泣いてどうする? 今一番不安なのは芽生くんだ。
とにかく早く自宅に連れて帰ってあげたい。自分のベッドでゆっくり眠りたいよね。
帰宅間際に、リーダーから指示されたことを思い出した。具体的に指示してもらえて良かった。僕だけだったら、きっとパニックになっていただろう。管野も帰り道に寄ってくれると言ってくれた。
僕は一人ではなく、頼れる人が周りに沢山いる。
よしっ! 頑張ろう!
芽生くんの額に手をあてると、あまりに熱くて驚いた。
可哀想に……これはかなり酷い熱だ。
芽生くんの耳元で、心をこめて囁いた。
「芽生くん、もう大丈夫だよ。お兄ちゃんが迎えにきたよ」
熱が高いせいで、ぐっすりとは眠れなかったのだろう。すぐにもぞもぞと身体を動かして、ぼんやりと目を開けた。熱で潤んだ瞳が切なかった。
「あ……お兄ちゃん……」
僕を見るなり、そこにじわりと涙を浮かべた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……ごめんね、ごめんなさい」
お布団を引き上げて、芽生くんが泣いてしまった。こんなに弱々しい芽生くんを見るのは久しぶりで、一気に不安になった。
「どうして謝るの? 熱を出すのは芽生くんのせいじゃないよ。さぁ、おうちでゆっくり休もう。歩けるかな?」
「ごめんなさい……ボク、いじわるだった……」
いじわる?
病気とは関係のない言葉に首を傾げた。高熱なのもあるが、どうも様子が変だ。ここは話を聞くのが先かもしれない。
「どうしたのかな? お熱以外に……何かあった?」
そっと隣に座って話し掛けると、休み時間の出来ごとを、ぽつり、ぽつりと話してくれた。
「6ねんせいのお兄ちゃんににらまれて……本当はとてもこわかったの」
「そうか、それは怖かったね、びっくりしたよね」
ギュッと肩を抱いてやる。最近ぐっと背が伸びたとはいえ、まだ、たった8歳の小さな身体だ。誰だって自分では到底敵わない相手から、キツい言葉を言われたり睨まれたりしたら、身が竦むだろう。体格差や体力差……きついよね。僕にもよく分かるよ。
「それでね……サッカーはあきらめて、てつぼうをしたの」
「そうだったんだね。すぐに気持ち切り替えられたのかな?」
「ううん……今日はボクね……すごくサッカーをしたかったから……いいなって。それで、おもいだしたの」
芽生くんがポタポタと涙を零したので、ハンドタオルでそっと拭いてあげた。
「全部話してしまうといいよ。お兄ちゃんは芽生くんを絶対に嫌いになんてならないから、安心して」
「あ……あのね……あそべなくてくやしかったら心がざわざわしてね……ボク、キャンプで……いっくんに、わるいことしちゃったの」
ここでキャンプ? いっくん?
キャンプでのことを、思い出してみた。
確か、いっくんと芽生くんは、サッカーボールで仲良く遊んでいたよね。
最初はふたりで、それから芽生くんがひとりで。
いっくんは眩しそうに、ちょこんと体育座りをして見つめていた。
時折拍手して「めーくん、しゅごい、しゅごい」って興奮していたよ。
その時のことかな?
「芽生くん……今日1日でいろんな気持ちを知ったんだね。それで少し疲れちゃったんだね」
「お、お兄ちゃん、ボクのこと、きらいになっちゃう?」
芽生くんが心配そうに、僕を見上げてくる。僕は大きく首を振って、芽生くんを見つめた。
「さっきも言った通り、絶対に嫌いになんてならないよ。その逆だよ。芽生くんは、いっくんの気持ちに寄り添えて、すごいなって思ってる。えらいよ。芽生くんはとても優しい目と心を持っているんだね。お兄ちゃんの自慢の子だよ」
「お、お兄ちゃん……よかった」
芽生くんが、僕にギュッと抱きついてきた。熱で辛いのに、そんなことをずっと考えていたんだね。
「芽生くん、大丈夫だよ。お兄ちゃんがいるから」
「お兄ちゃんがいてくれてよかった。お兄ちゃんになら、なんでも話せるんだ」
こんなに僕を頼ってくれるなんて……
「僕は本当に芽生くんが大好きなんだよ。だから安心して」
「よかったぁ……ボク、もう、おうちかえりたい……」
「うん、一緒に帰ろう!」
こんな風に全力で甘えてもらるのは、久しぶりだ。
僕も全力で、君を守るよ。
君はいつも僕の天使だから。
「あぁ、芽生くんの……今、ちょうど眠ったようですが、熱がまだ上がりそうなので、今のうちに連れて帰ったがいいですよ」
「はい、分かりました」
保健室のベッドには、芽生くんが苦しそうに眉間に皺を寄せて眠っていた。
出掛ける時は、あんなに元気そうだったのに、数時間後にこんなに具合が悪くなってしまうなんて。
もしかしたら昨日から予兆があったのかな? もしかしたら朝から微熱があったのかも。
起きてきた時、おでこに手をあててあげれば、抱きしめてあげれば良かった。
僕は宗吾さんから留守を任されたのに不甲斐なくてごめん、気づけずにごめんね。
本当にこういう時、僕は何の役にも立たないな。
一瞬また怖くなって泣きそうになったが、必死に堪えた。
バカっ、僕が僕が泣いてどうする? 今一番不安なのは芽生くんだ。
とにかく早く自宅に連れて帰ってあげたい。自分のベッドでゆっくり眠りたいよね。
帰宅間際に、リーダーから指示されたことを思い出した。具体的に指示してもらえて良かった。僕だけだったら、きっとパニックになっていただろう。管野も帰り道に寄ってくれると言ってくれた。
僕は一人ではなく、頼れる人が周りに沢山いる。
よしっ! 頑張ろう!
芽生くんの額に手をあてると、あまりに熱くて驚いた。
可哀想に……これはかなり酷い熱だ。
芽生くんの耳元で、心をこめて囁いた。
「芽生くん、もう大丈夫だよ。お兄ちゃんが迎えにきたよ」
熱が高いせいで、ぐっすりとは眠れなかったのだろう。すぐにもぞもぞと身体を動かして、ぼんやりと目を開けた。熱で潤んだ瞳が切なかった。
「あ……お兄ちゃん……」
僕を見るなり、そこにじわりと涙を浮かべた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……ごめんね、ごめんなさい」
お布団を引き上げて、芽生くんが泣いてしまった。こんなに弱々しい芽生くんを見るのは久しぶりで、一気に不安になった。
「どうして謝るの? 熱を出すのは芽生くんのせいじゃないよ。さぁ、おうちでゆっくり休もう。歩けるかな?」
「ごめんなさい……ボク、いじわるだった……」
いじわる?
病気とは関係のない言葉に首を傾げた。高熱なのもあるが、どうも様子が変だ。ここは話を聞くのが先かもしれない。
「どうしたのかな? お熱以外に……何かあった?」
そっと隣に座って話し掛けると、休み時間の出来ごとを、ぽつり、ぽつりと話してくれた。
「6ねんせいのお兄ちゃんににらまれて……本当はとてもこわかったの」
「そうか、それは怖かったね、びっくりしたよね」
ギュッと肩を抱いてやる。最近ぐっと背が伸びたとはいえ、まだ、たった8歳の小さな身体だ。誰だって自分では到底敵わない相手から、キツい言葉を言われたり睨まれたりしたら、身が竦むだろう。体格差や体力差……きついよね。僕にもよく分かるよ。
「それでね……サッカーはあきらめて、てつぼうをしたの」
「そうだったんだね。すぐに気持ち切り替えられたのかな?」
「ううん……今日はボクね……すごくサッカーをしたかったから……いいなって。それで、おもいだしたの」
芽生くんがポタポタと涙を零したので、ハンドタオルでそっと拭いてあげた。
「全部話してしまうといいよ。お兄ちゃんは芽生くんを絶対に嫌いになんてならないから、安心して」
「あ……あのね……あそべなくてくやしかったら心がざわざわしてね……ボク、キャンプで……いっくんに、わるいことしちゃったの」
ここでキャンプ? いっくん?
キャンプでのことを、思い出してみた。
確か、いっくんと芽生くんは、サッカーボールで仲良く遊んでいたよね。
最初はふたりで、それから芽生くんがひとりで。
いっくんは眩しそうに、ちょこんと体育座りをして見つめていた。
時折拍手して「めーくん、しゅごい、しゅごい」って興奮していたよ。
その時のことかな?
「芽生くん……今日1日でいろんな気持ちを知ったんだね。それで少し疲れちゃったんだね」
「お、お兄ちゃん、ボクのこと、きらいになっちゃう?」
芽生くんが心配そうに、僕を見上げてくる。僕は大きく首を振って、芽生くんを見つめた。
「さっきも言った通り、絶対に嫌いになんてならないよ。その逆だよ。芽生くんは、いっくんの気持ちに寄り添えて、すごいなって思ってる。えらいよ。芽生くんはとても優しい目と心を持っているんだね。お兄ちゃんの自慢の子だよ」
「お、お兄ちゃん……よかった」
芽生くんが、僕にギュッと抱きついてきた。熱で辛いのに、そんなことをずっと考えていたんだね。
「芽生くん、大丈夫だよ。お兄ちゃんがいるから」
「お兄ちゃんがいてくれてよかった。お兄ちゃんになら、なんでも話せるんだ」
こんなに僕を頼ってくれるなんて……
「僕は本当に芽生くんが大好きなんだよ。だから安心して」
「よかったぁ……ボク、もう、おうちかえりたい……」
「うん、一緒に帰ろう!」
こんな風に全力で甘えてもらるのは、久しぶりだ。
僕も全力で、君を守るよ。
君はいつも僕の天使だから。
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