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小学生編
心をこめて 6
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今日は1月11日。
ついに、いっくんの誕生日当日だ。
実は前々から有休を取っていた。いっくんが朝起きた時から眠る時まで、丸一日傍にいてやりたくて。
いっくんにとって、パパと過ごす初めての誕生日は特別だ。オレにとっても息子の誕生日を祝うのは初めてなので、興奮してくる。
「いっくん、まだ起きない?」
「しーっ、昨日は興奮して、なかなか寝付けなかったから」
「ずっとワクワクしていたもんな」
「うん! あんなにワクワクしたいっくん、初めてみたわ」
オレとすみれはいっくんを見つめながら微笑んだ。
心って、どんどん丸くなるんだな。あんなに尖ってゴツゴツしていた心が、今では、まん丸だ。しかも磨けば磨くほど光っていくことを知った。
「潤くん、あのね……私がこの子を産んだ時……その後のことを考えると不安でしかなかったのに、すごく嬉しかったの」
「あぁ、いっくんをこの世に産んでくれてありがとう」
「潤くんはどうして、そんなにいっくんを愛してくれるの?」
「理由なんてないよ。オレの子だから、無条件に可愛いんだ」
本当に理由なんて思い当たらない。いっくんを初めて抱き上げた瞬間から、オレはこの子の父になった。すべてが最初から決まっていたかのように芽生えた気持ちだ。
この子のパパになりたい。
パパになろう。
いっくんはオレの子だ。
小さな芽は、あっという間に成長した。もしかして……天国の彼が特別な水を撒いてくれたのか。あっという間に、天国に届くほど、真っ直ぐに伸びていった。
「潤くんのそういう所が大好きよ。揺らがない人……」
「散々揺らぎまくったから、もう揺らぎたくないだけさ」
「順風満帆じゃないわ。人生は」
「あぁ、知ってる。だからこれからは二人で舵をとっていこう」
「うん!」
そこにピンポーンとインターホンが鳴った。
「あら、朝から宅配便?」
「誰からだろう?」
その音に驚いて、いっくんがムクリと起きる。
「びっくりちた~ いっくん、おねぼうさんしちゃった?」
「大丈夫だよ。いっくん、おはよう」
「今、ピンポーンした? でちゃ、ダメ……ダメだよぅ」
すみれと二人の時は勧誘も多かったのか。インターホンの音が苦手なことに、今更ながら気付いた。
「いっくん、パパが出るから大丈夫だよ」
「そっか、いっくんにはパパいるもんね」
ニコッと笑ういっくんは、今日も天使だ。
宅配便は、大沼で暮らす母さん達からだった。
「ん? 冷凍便だ」
「何かしら?」
開けて見ると、まず手紙が出て来た。全部平仮名で大きな文字で書かれている。
「えっとぉ……いっくんよんでみる。いっくん……4さいの……」
……
いっくん、4さいのおたんじょうびおめでとう!
こちらはゆきがたくさんで、おたんじょうびおいわいにかけつけられないので、ごちそうをたくさんおくります。いっくんのすきな、くりーむしちゅーやぐらたんもありますよ。
おおぬまのおじいちゃん、おばあちゃんより
……
途中からは、すみれが読んであげた。
二人にクリームシチューの作り方は聞いたが、まさか手作りのクリームシチューやグラタンを冷凍して、送ってくれるなんて驚いた。
「わぁ~ ごちそう、いっくんのすきなものばかり」
「良かったわね。ママもうれしいな」
「すみれにとっても、今日はママになった記念日だから、ゆっくりして欲しい」
「ありがとう。潤くんのご両親は本当にあったかいわ」
箱の底に、母さんからオレへのメッセージがあった。
……
潤、あなたがパパになってくれて嬉しいわ。
身体にはくれぐれも気をつけてね。
……
母さんの優しい気持ちが流れ込んでくる。
これは親になって初めて分かる気持ちだ。
健康面を心配してくれる「親心」、市販の冷凍食品でなく手作り品を送るなんて手間もかかっただろうに……料理に込められた「愛情」にも感謝だ。
「潤くん、私……嬉しい」
そこで少しだけ気になった。
「あのさ、オレの両親……出しゃばりすぎてないか」
「とんでもないわ。食事を誰かに作ってもらえるなんて夢のようよ。私ずっと誰にもかわってもらえなかったから」
「そうか、それなら良かったよ」
「本心よ。私も潤くんのご両親に甘えていいのよね?」
「あぁ、うちの母、やっとなんだ。やっとこういうことが出来るようになったんだ。だから張り切ってくれて……」
「甘えることが親孝行な時もあるわ」
そこにまたインターホンが鳴る。
「パパ、パパ、でてぇ」
「あぁ、いっくんはそこで待ってろ」
いっくんがまたオレの背中に隠れてしまう。
「きっといいものだぞ」
「いいもの?」
今度は函館の広樹兄さんからだった。宛先は「はやまいつきくん」となっている。
「ほら、いっくんへのプレゼントだぞ」
「いっくんに? ほんとうに、いっくんに?」
ふたりでワクワクして開けると、そこには……
「わぁぁ~」
「これは最高だな」
「ママぁ、みてぇ」
様々な葉っぱで作った、スワッグだった。
「いっくん、よかったわね」
「うん、はっぱしゃん、これならさむいふゆでも、おうちでいつもいっしょ」
「いっくん、ここにすみれのお花も入っているわよ」
「ママのおはな、かわいい、ママともいっしょ。このおおきなはっぱはパパ、こっちはそーくん、これはヒロくん、こっちは……みーくんとめーくん、それからそれからね……」
いっくんが葉っぱ1枚1枚に名前を付けていく。
その様子にすみれが涙ぐんだ。
「いっくんから沢山の人の名前が出てくるわ……いっくん、よかったね」
ずっと二人きりで、人と触れ合う機会も少なかったのだろう。
すみれが、こんなことにも喜んでくれるなんて。
オレ、兄弟が多くて良かったよ!
それぞれが今は幸せな家族を持っているから、どんどん人が増えて、気付けば……葉山家も大家族になった。
****
「お兄ちゃん、そろそろ、とどくかな」
「うん、午前便にしたから、きっとね」
今日はいっくんの誕生日なので、芽生くんは朝からワクワクしている。
プレゼントっていいね。もらう人と贈る人の心を、こんなにも明るくしてくれる。
「さぁ、そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうよ」
「あ、そうだった。がんばってくるね」
「うん、いってらっしゃい!」
子供は風の子だね。寒さを物ともせずに飛び出す芽生くんを、玄関先で見送った。すると芽生くんは少し歩いた所で、振り返ってくれた。
「あのね、お兄ちゃんも、がんばってね」
「うん、ありがとう」
こんなに小さいのに、僕のことまで。
本当に芽生くんは心の優しい子だ。
君はやはり僕の天使だよ。
朝から清々しい気持ちになったよ。
「よし、今日も頑張ろう!」
ついに、いっくんの誕生日当日だ。
実は前々から有休を取っていた。いっくんが朝起きた時から眠る時まで、丸一日傍にいてやりたくて。
いっくんにとって、パパと過ごす初めての誕生日は特別だ。オレにとっても息子の誕生日を祝うのは初めてなので、興奮してくる。
「いっくん、まだ起きない?」
「しーっ、昨日は興奮して、なかなか寝付けなかったから」
「ずっとワクワクしていたもんな」
「うん! あんなにワクワクしたいっくん、初めてみたわ」
オレとすみれはいっくんを見つめながら微笑んだ。
心って、どんどん丸くなるんだな。あんなに尖ってゴツゴツしていた心が、今では、まん丸だ。しかも磨けば磨くほど光っていくことを知った。
「潤くん、あのね……私がこの子を産んだ時……その後のことを考えると不安でしかなかったのに、すごく嬉しかったの」
「あぁ、いっくんをこの世に産んでくれてありがとう」
「潤くんはどうして、そんなにいっくんを愛してくれるの?」
「理由なんてないよ。オレの子だから、無条件に可愛いんだ」
本当に理由なんて思い当たらない。いっくんを初めて抱き上げた瞬間から、オレはこの子の父になった。すべてが最初から決まっていたかのように芽生えた気持ちだ。
この子のパパになりたい。
パパになろう。
いっくんはオレの子だ。
小さな芽は、あっという間に成長した。もしかして……天国の彼が特別な水を撒いてくれたのか。あっという間に、天国に届くほど、真っ直ぐに伸びていった。
「潤くんのそういう所が大好きよ。揺らがない人……」
「散々揺らぎまくったから、もう揺らぎたくないだけさ」
「順風満帆じゃないわ。人生は」
「あぁ、知ってる。だからこれからは二人で舵をとっていこう」
「うん!」
そこにピンポーンとインターホンが鳴った。
「あら、朝から宅配便?」
「誰からだろう?」
その音に驚いて、いっくんがムクリと起きる。
「びっくりちた~ いっくん、おねぼうさんしちゃった?」
「大丈夫だよ。いっくん、おはよう」
「今、ピンポーンした? でちゃ、ダメ……ダメだよぅ」
すみれと二人の時は勧誘も多かったのか。インターホンの音が苦手なことに、今更ながら気付いた。
「いっくん、パパが出るから大丈夫だよ」
「そっか、いっくんにはパパいるもんね」
ニコッと笑ういっくんは、今日も天使だ。
宅配便は、大沼で暮らす母さん達からだった。
「ん? 冷凍便だ」
「何かしら?」
開けて見ると、まず手紙が出て来た。全部平仮名で大きな文字で書かれている。
「えっとぉ……いっくんよんでみる。いっくん……4さいの……」
……
いっくん、4さいのおたんじょうびおめでとう!
こちらはゆきがたくさんで、おたんじょうびおいわいにかけつけられないので、ごちそうをたくさんおくります。いっくんのすきな、くりーむしちゅーやぐらたんもありますよ。
おおぬまのおじいちゃん、おばあちゃんより
……
途中からは、すみれが読んであげた。
二人にクリームシチューの作り方は聞いたが、まさか手作りのクリームシチューやグラタンを冷凍して、送ってくれるなんて驚いた。
「わぁ~ ごちそう、いっくんのすきなものばかり」
「良かったわね。ママもうれしいな」
「すみれにとっても、今日はママになった記念日だから、ゆっくりして欲しい」
「ありがとう。潤くんのご両親は本当にあったかいわ」
箱の底に、母さんからオレへのメッセージがあった。
……
潤、あなたがパパになってくれて嬉しいわ。
身体にはくれぐれも気をつけてね。
……
母さんの優しい気持ちが流れ込んでくる。
これは親になって初めて分かる気持ちだ。
健康面を心配してくれる「親心」、市販の冷凍食品でなく手作り品を送るなんて手間もかかっただろうに……料理に込められた「愛情」にも感謝だ。
「潤くん、私……嬉しい」
そこで少しだけ気になった。
「あのさ、オレの両親……出しゃばりすぎてないか」
「とんでもないわ。食事を誰かに作ってもらえるなんて夢のようよ。私ずっと誰にもかわってもらえなかったから」
「そうか、それなら良かったよ」
「本心よ。私も潤くんのご両親に甘えていいのよね?」
「あぁ、うちの母、やっとなんだ。やっとこういうことが出来るようになったんだ。だから張り切ってくれて……」
「甘えることが親孝行な時もあるわ」
そこにまたインターホンが鳴る。
「パパ、パパ、でてぇ」
「あぁ、いっくんはそこで待ってろ」
いっくんがまたオレの背中に隠れてしまう。
「きっといいものだぞ」
「いいもの?」
今度は函館の広樹兄さんからだった。宛先は「はやまいつきくん」となっている。
「ほら、いっくんへのプレゼントだぞ」
「いっくんに? ほんとうに、いっくんに?」
ふたりでワクワクして開けると、そこには……
「わぁぁ~」
「これは最高だな」
「ママぁ、みてぇ」
様々な葉っぱで作った、スワッグだった。
「いっくん、よかったわね」
「うん、はっぱしゃん、これならさむいふゆでも、おうちでいつもいっしょ」
「いっくん、ここにすみれのお花も入っているわよ」
「ママのおはな、かわいい、ママともいっしょ。このおおきなはっぱはパパ、こっちはそーくん、これはヒロくん、こっちは……みーくんとめーくん、それからそれからね……」
いっくんが葉っぱ1枚1枚に名前を付けていく。
その様子にすみれが涙ぐんだ。
「いっくんから沢山の人の名前が出てくるわ……いっくん、よかったね」
ずっと二人きりで、人と触れ合う機会も少なかったのだろう。
すみれが、こんなことにも喜んでくれるなんて。
オレ、兄弟が多くて良かったよ!
それぞれが今は幸せな家族を持っているから、どんどん人が増えて、気付けば……葉山家も大家族になった。
****
「お兄ちゃん、そろそろ、とどくかな」
「うん、午前便にしたから、きっとね」
今日はいっくんの誕生日なので、芽生くんは朝からワクワクしている。
プレゼントっていいね。もらう人と贈る人の心を、こんなにも明るくしてくれる。
「さぁ、そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうよ」
「あ、そうだった。がんばってくるね」
「うん、いってらっしゃい!」
子供は風の子だね。寒さを物ともせずに飛び出す芽生くんを、玄関先で見送った。すると芽生くんは少し歩いた所で、振り返ってくれた。
「あのね、お兄ちゃんも、がんばってね」
「うん、ありがとう」
こんなに小さいのに、僕のことまで。
本当に芽生くんは心の優しい子だ。
君はやはり僕の天使だよ。
朝から清々しい気持ちになったよ。
「よし、今日も頑張ろう!」
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