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小学生編
心をこめて 2
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「葉山、どうした?」
「うん……ちょっとね」
午前中から屋外でぶっ通しで作業していたせいか、妙に手が強張ってしまった。不安に感じ、そっと手を開いたり閉じたりしていると、菅野に見られてしまった。
「……手、また調子が悪いのか」
「いや、そこまでじゃ」
「一度ちゃんと診て貰えよ」
「……うん、でも……お医者さんはどうも苦手で」
あれから一度病院に行ったが、傷痕の経緯を根掘り葉掘り聞かれて言葉に詰まってしまった。それ以来どうも億劫に。
「……あのさ、余計なお節介かもしれないが、知り合いのお医者さんなら緊張しないんじゃないか。ほら月影寺の丈さんとか……」
「あ、確かに」
「まぁ今日は宗吾さんと芽生坊にモミモミしてもらえば、すぐに良くなるだろうけどさ」
菅野が笑いながら手を捏ねる仕草をするので、首を傾げた。
「それってモミモミじゃないよね?」
「あぁ、これはコネコネだよ、あとコロコロもな」
「もしかして、お団子?」
「そうそう。正月に月影寺に行ったら団子を丸めるの延々と手伝うことになってさ」
「それはお疲れ様」
「風太が喜んでくれるのが嬉しくて、疲れなんて吹っ飛んでいったよ」
「くすっ、彼は元気?」
菅野との大阪出張にポケットサイズになり同行した不思議な男の子、小森風太くんを思い出すと、自然と頬が緩んだ。
「今は月影寺のマスコットになってる」
「いいね、彼には愛嬌があって」
「へへっ、可愛いんだぜ~」
「あっ、今、菅野のデレ顔を見ちゃった!」
「え?」
菅野が緩んだ頬を慌てた様子で、手で叩いた。
「くすっ、あははっ」
「それにしても、瑞樹ちゃん、よく笑うようになったなぁ」
「えっ、そうかな?」
「宗吾さんも芽生坊も嬉しいだろうな」
「……うん。僕が笑うと、二人も嬉しそうにしてくれるよ」
「このこの、惚気ちゃって~ 瑞樹ちゃんのデレ顔もバッチリ見たぞ」
僕たちは笑いながら、後片付けをした。
菅野、今はとても幸せそうだ。
菅野が幸せになってくれると、世界にまた一つ幸せが増えるんだよ。
笑顔も同じだ。
僕たちが笑い合うと、世界に笑顔が二つ増えるんだね。
幸せも笑顔も誰かと分かち合えるって、やっぱり素敵なことだ。
作業場を通りかかったリーダーも、僕らの様子を見て笑ってくれた。
「屋外の装飾、お疲れさん。見事な出来映えだ」
「ありがとうございます」
ポンと手渡されたのは、ホットコーヒーだった。
「うわ! これMoonbucksCoffeeのじゃないですか」
「二人のデレ顔を見せてもらったお礼だ」
「え?」
「えー!」
「ははっ、ごちそうさん」
リーダーが手をひらひらさせて去って行く。
残された僕たちは顔を見合わせて、照れまくった。
なんか、いいな。
この歳になってこんな風に、じゃれあうことが出来る友だちがいるって……やっぱり菅野は僕の大切な親友だ。唯一無二の存在だ。
その足で僕は芽生くんのお迎えに向かった。
木枯らしが吹く夜道は凍えるほど寒いが、芽生くんが僕を待っていてくれると思うと、そんなことは少しも気にならない。
****
お弁当を食べ終わると、たいくつになっちゃった。
今日の放課後スクールは人がすくないし、二年生のお友だちがいなかったから、6じまでどうしよう?
「芽生くん、ちょっとお手伝いを頼める?」
「うん!」
わぁ! おてつだいだって! ボクも先生のお手伝いをできるなんて、ちょっとお兄ちゃんになったみたいでうれしいよ。
「書き初めを廊下の壁に貼るお手伝いをしてくれる?」
「うん! いいよ」
『ゆめ』と書かれたはんしが、たくさんろうかにおいてあったよ。
「じゃあ、先生に1枚ずつ丁寧に渡してね」
「はぁい!」
ゆめ、ゆめ、ゆめ
沢山のゆめがカベにずらりと並んでいくよ。
「先生、あのね、同じ夢でも大きさがちがうと、ちがう文字にみえるね」
「ふふ、そうね。ゆめは抱くひとによって違うものだからね」
「……ゆめかぁ」
「芽生くんの夢は何かな?」
「え? ボク、まだ小さいから、ずっと先のことなんかわからないよ」
「あら? 夢ってもっと身近なものもあるわよ」
「んーっと、あ! わかった! 夜みるゆめのこと?」
「そうね、それもあるし、あとはちょっと先のことを願うのも夢のひとつかなって先生は思うわ」
「ふぅん」
ちょっと先のゆめ?
「例えば、この後、こうだったらいいなって思うことはある?」
「うーん、くらくなると寒いから明るいうちにお家にかえりたいなぁ」
「……そうね……いいことを教えてあげるわね」
「なあに?」
「夢と幸せってセットなのよ」
「えぇ? それじゃ、よくばりさんだよ。おばあちゃんがあれもこれもはだめだって」
先生がポンポンと優しく頭をなでてくれたよ。
「やっぱり芽生くんはいつもよく考えているのね」
「そうかなぁ」
「芽生くんの今の話に置き換えると、早くお迎えに来て欲しいという夢と、遅くてもお迎えに来てくれる人がいるという幸せがあるのよね。それも夢と幸せのセットだわ」
「あ……うん! 今日はお兄ちゃんが来てくれるから、たのしみ」
「あのイケメンさんね」
「ふふ、先生ってば」
「あらっ」
ゆめとしあわせ?
なんかちょっと先生の話はむずかしいけれども、これだけはわかったよ。
「ゆめって、しあわせが見つけやすくなること?」
「そうよ、先生も早くお家に帰りたいって寒い道で思うけど、家には家族が待っていてくれて部屋を暖めてくれるのが幸せだなって。毎日小さな夢を持つと、小さ幸せが一緒に見つかるみたい!」
「うん!」
あれれ、ふしぎだな。
今日はくらくなっても、寂しくならないよ。
さっきの先生のお話のおかげだよ。
だってボクには迎えにきてくれる人がいるんだもん。
「芽生くん! お待たせ」
「お兄ちゃん!」
お兄ちゃん、急いで来てくれたんだ。
ハァハァいってる。
よーし、もう誰もいないから甘えちゃえ!
スーツのお兄ちゃんの足にピタッとくっついちゃった。
「遅くなってごめんね」
「ううん、おむかえにきてくれて、ありがとう!」
「わ! そんな風に言ってくれるの?」
「うん、ゆめとしあわせだもん」
「?」
お手伝いの後、ボクもかきぞめをさせてもらったよ。
「おにいちゃん、沢山書いたから、こっちは持って帰っていいって」
「あ、ここでも書き初めしたんだね。『ゆめ』か、素敵な言葉だ」
「ボクのゆめはね、こうやってお兄ちゃんとかえることなんだ」
お兄ちゃんの手をギュッとにぎったら、とってもつめたかった。
「おてて、モミモミしてあげるね」
「あ……うん! ふふ、あったかいし、気持ちいいよ」
「よかった!」
お兄ちゃんが、うれしそうに笑ってくれたよ。
ボクのゆめは、お兄ちゃんが毎日ニコニコしてくれること。
だって、それがボクのしあわせだもん。
「うん……ちょっとね」
午前中から屋外でぶっ通しで作業していたせいか、妙に手が強張ってしまった。不安に感じ、そっと手を開いたり閉じたりしていると、菅野に見られてしまった。
「……手、また調子が悪いのか」
「いや、そこまでじゃ」
「一度ちゃんと診て貰えよ」
「……うん、でも……お医者さんはどうも苦手で」
あれから一度病院に行ったが、傷痕の経緯を根掘り葉掘り聞かれて言葉に詰まってしまった。それ以来どうも億劫に。
「……あのさ、余計なお節介かもしれないが、知り合いのお医者さんなら緊張しないんじゃないか。ほら月影寺の丈さんとか……」
「あ、確かに」
「まぁ今日は宗吾さんと芽生坊にモミモミしてもらえば、すぐに良くなるだろうけどさ」
菅野が笑いながら手を捏ねる仕草をするので、首を傾げた。
「それってモミモミじゃないよね?」
「あぁ、これはコネコネだよ、あとコロコロもな」
「もしかして、お団子?」
「そうそう。正月に月影寺に行ったら団子を丸めるの延々と手伝うことになってさ」
「それはお疲れ様」
「風太が喜んでくれるのが嬉しくて、疲れなんて吹っ飛んでいったよ」
「くすっ、彼は元気?」
菅野との大阪出張にポケットサイズになり同行した不思議な男の子、小森風太くんを思い出すと、自然と頬が緩んだ。
「今は月影寺のマスコットになってる」
「いいね、彼には愛嬌があって」
「へへっ、可愛いんだぜ~」
「あっ、今、菅野のデレ顔を見ちゃった!」
「え?」
菅野が緩んだ頬を慌てた様子で、手で叩いた。
「くすっ、あははっ」
「それにしても、瑞樹ちゃん、よく笑うようになったなぁ」
「えっ、そうかな?」
「宗吾さんも芽生坊も嬉しいだろうな」
「……うん。僕が笑うと、二人も嬉しそうにしてくれるよ」
「このこの、惚気ちゃって~ 瑞樹ちゃんのデレ顔もバッチリ見たぞ」
僕たちは笑いながら、後片付けをした。
菅野、今はとても幸せそうだ。
菅野が幸せになってくれると、世界にまた一つ幸せが増えるんだよ。
笑顔も同じだ。
僕たちが笑い合うと、世界に笑顔が二つ増えるんだね。
幸せも笑顔も誰かと分かち合えるって、やっぱり素敵なことだ。
作業場を通りかかったリーダーも、僕らの様子を見て笑ってくれた。
「屋外の装飾、お疲れさん。見事な出来映えだ」
「ありがとうございます」
ポンと手渡されたのは、ホットコーヒーだった。
「うわ! これMoonbucksCoffeeのじゃないですか」
「二人のデレ顔を見せてもらったお礼だ」
「え?」
「えー!」
「ははっ、ごちそうさん」
リーダーが手をひらひらさせて去って行く。
残された僕たちは顔を見合わせて、照れまくった。
なんか、いいな。
この歳になってこんな風に、じゃれあうことが出来る友だちがいるって……やっぱり菅野は僕の大切な親友だ。唯一無二の存在だ。
その足で僕は芽生くんのお迎えに向かった。
木枯らしが吹く夜道は凍えるほど寒いが、芽生くんが僕を待っていてくれると思うと、そんなことは少しも気にならない。
****
お弁当を食べ終わると、たいくつになっちゃった。
今日の放課後スクールは人がすくないし、二年生のお友だちがいなかったから、6じまでどうしよう?
「芽生くん、ちょっとお手伝いを頼める?」
「うん!」
わぁ! おてつだいだって! ボクも先生のお手伝いをできるなんて、ちょっとお兄ちゃんになったみたいでうれしいよ。
「書き初めを廊下の壁に貼るお手伝いをしてくれる?」
「うん! いいよ」
『ゆめ』と書かれたはんしが、たくさんろうかにおいてあったよ。
「じゃあ、先生に1枚ずつ丁寧に渡してね」
「はぁい!」
ゆめ、ゆめ、ゆめ
沢山のゆめがカベにずらりと並んでいくよ。
「先生、あのね、同じ夢でも大きさがちがうと、ちがう文字にみえるね」
「ふふ、そうね。ゆめは抱くひとによって違うものだからね」
「……ゆめかぁ」
「芽生くんの夢は何かな?」
「え? ボク、まだ小さいから、ずっと先のことなんかわからないよ」
「あら? 夢ってもっと身近なものもあるわよ」
「んーっと、あ! わかった! 夜みるゆめのこと?」
「そうね、それもあるし、あとはちょっと先のことを願うのも夢のひとつかなって先生は思うわ」
「ふぅん」
ちょっと先のゆめ?
「例えば、この後、こうだったらいいなって思うことはある?」
「うーん、くらくなると寒いから明るいうちにお家にかえりたいなぁ」
「……そうね……いいことを教えてあげるわね」
「なあに?」
「夢と幸せってセットなのよ」
「えぇ? それじゃ、よくばりさんだよ。おばあちゃんがあれもこれもはだめだって」
先生がポンポンと優しく頭をなでてくれたよ。
「やっぱり芽生くんはいつもよく考えているのね」
「そうかなぁ」
「芽生くんの今の話に置き換えると、早くお迎えに来て欲しいという夢と、遅くてもお迎えに来てくれる人がいるという幸せがあるのよね。それも夢と幸せのセットだわ」
「あ……うん! 今日はお兄ちゃんが来てくれるから、たのしみ」
「あのイケメンさんね」
「ふふ、先生ってば」
「あらっ」
ゆめとしあわせ?
なんかちょっと先生の話はむずかしいけれども、これだけはわかったよ。
「ゆめって、しあわせが見つけやすくなること?」
「そうよ、先生も早くお家に帰りたいって寒い道で思うけど、家には家族が待っていてくれて部屋を暖めてくれるのが幸せだなって。毎日小さな夢を持つと、小さ幸せが一緒に見つかるみたい!」
「うん!」
あれれ、ふしぎだな。
今日はくらくなっても、寂しくならないよ。
さっきの先生のお話のおかげだよ。
だってボクには迎えにきてくれる人がいるんだもん。
「芽生くん! お待たせ」
「お兄ちゃん!」
お兄ちゃん、急いで来てくれたんだ。
ハァハァいってる。
よーし、もう誰もいないから甘えちゃえ!
スーツのお兄ちゃんの足にピタッとくっついちゃった。
「遅くなってごめんね」
「ううん、おむかえにきてくれて、ありがとう!」
「わ! そんな風に言ってくれるの?」
「うん、ゆめとしあわせだもん」
「?」
お手伝いの後、ボクもかきぞめをさせてもらったよ。
「おにいちゃん、沢山書いたから、こっちは持って帰っていいって」
「あ、ここでも書き初めしたんだね。『ゆめ』か、素敵な言葉だ」
「ボクのゆめはね、こうやってお兄ちゃんとかえることなんだ」
お兄ちゃんの手をギュッとにぎったら、とってもつめたかった。
「おてて、モミモミしてあげるね」
「あ……うん! ふふ、あったかいし、気持ちいいよ」
「よかった!」
お兄ちゃんが、うれしそうに笑ってくれたよ。
ボクのゆめは、お兄ちゃんが毎日ニコニコしてくれること。
だって、それがボクのしあわせだもん。
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