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小学生編
新春 Blanket of snow 12
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「大切なのは人柄だ。優しくて大きくて広い心を持て」
芽生に何気なく告げた言葉に、私自身がハッとした。
これは父さんの言葉だ。
父さんから、もらった言葉だ。
T大にストレートで受かり、司法試験にも学生時代に合格するという快挙に天狗になっていた頃、ガツンとやられた言葉だ。
その時は素直に受けいれられず、押し黙ってしまった。
お前は杓子定規な人だと暗に言われたようで、居心地が悪かった。杓子定規とは1つの見方でしか物事を見れず融通が利かないことを意味する四字熟語で、自分でも薄々気付いてたからこそ、見透かされようで決まりが悪かったのだ。
当時の私は5歳差で生まれて来た弟が、ちっとも自分の言うことを聞かず、真逆なことばかりするのに苛立ち、常にイライラしていた。
個性を認めあい尊重しあいたいと願うのに、私が真面目に考えれば考えるほど、宗吾は不真面目に答え、軽く考える。
心がどんどん離れて高校時代にはもう決壊していた。
だがある日、宗吾が神妙な顔で私の部屋に相談にやってきた。
……
「兄さん、俺……少し人と違うようだ」
「どうした?」
「……うん、どうやら女も愛せるが、男も同じように愛せるみたいで……いや、むしろ男の方が好きかもしれないんだ」
「え?」
一瞬言葉を失ってしまった。まさか、こんなに深刻な相談を受けるとは思っていなかったから。
「まぁ、つまり……俺は同性愛者のようだ」
「そ、そうなのか」
「この先どうやって生きていったらいいのかな?」
自分の性癖に悩む宗吾の気持ちを、ずしりと重く受け止めた。まさか弟が……青天の霹靂だった。私が持っている知識は机上の空論だ。宗吾の立場に寄り添ってやらないといけないのに、返す言葉は浮かばない。
兄としてこのままでは情けない。血を分けた弟の深刻な悩みを緩和してやりたくて、答えが見つかってもいないのに、いい顔をしようとしてしまった。
「宗吾、よく話してくれた。兄さんがなんとかしてやるから安心しろ」
「えっ、なんで、兄さんが? そんなつもりで話したんじゃないよ。これは俺の問題だし、なんとかなるさ。それに心に蓋はしたくないんだ。親にはきっと理解してもらえないから、大学に入ったら家を出るよ。思うがままに生きてみたいしな!」
「はぁ? おい、なんだその言い方は」
「だって、俺の人生なんだ」
「じゃあ、どうして私に話した?」
「それは……」
あまり自由奔放な様子に、呆れ果ててしまった。
「勝手にすればいい! お前はいつも……いつまでも、そうやって自分だけで自分勝手に生きていけばいい! 人の道から外れて!」
「なっ……」
……
あぁ……思い返せば悔やまれる。
私は最低な言葉で弟を追い詰めてしまったのだ。
あの日を境に宗吾は私に近寄らなくなった。家にもほとんど帰って来ず、ある日唐突に玲子さんと結婚すると言ってきた。あんなに深刻そうだったのに、あれはなんだったのかと拍子抜けし、ますます弟のことが理解出来なくなった。
そうやってずっと拒絶しあっているうちに父さんが病気になり、あっけなく他界してしまった。葬式で顔を合わせても、涙一つ見せない宗吾が薄情な男に見えて心底軽蔑してしまった。
だが……真実は違ったのだ。
「おじさん、雪兎に目をつけて」
「あぁ」
芽生のつくった白いうさぎに、赤い南天の実をつけてやった。
まっしろなうさぎは目を赤くして泣いているようにも見えて、ハッとした。
雪見障子は、まだ上がったままだ。
芽生の目線に降りると、部屋の奥の父さんの座椅子に、宗吾が座っているのが見えた。
目頭を押さえて、肩を震わせていた。
そして宗吾の広い背中を、瑞樹くんが何度も何度も優しく撫でてくれていた。
そうか、あの時もあの時も、決めつけるのではなく、寄り添えば良かったのか。
今の瑞樹くんのように優しく背中を撫でてやれば良かった。
宗吾は泣かなかったのではなく、泣けなかったのだ。
仲違いしたまま相手がいなくなってしまったら、呆然としてしまうのが普通なのに……私がどこまでも心が狭かった。心の狭い人間だった。
父さんの言う通りですよ。
「大切なのは人柄だ。優しくて大きくて広い心を持て」
その言葉を思い出させてくれたのが、瑞樹くんだ。
彼の純真さと謙虚さを前にすると、心がふっと軽く素直になれる。
野に咲く花のように風に心地良く揺れている気分になる。
大輪の花よりも優しい花が好きだ。
母が育てた庭の草花のように、風に揺れる花になりたい。
心をしっかり動かせる人になりたい。
「おじさん、おばあちゃんのお庭みんな雪にうもれちゃったね。だいじょうぶかな?」
芽生が心配そうに訴えてくる。
「これが自然の姿だ。なぁに心配しなくても春には花がいっぱい咲く。だから今は雪景色を楽しむといい」
「そうなの? よかったー 雪もお花も、みーんなすきだよ」
「あぁ、私もだ」
父が亡くなる前に、私に一枚の色紙を渡してくれた。
それは道元禅師の『春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて すずしかりけり』を、父の筆で書き写したものだった。
季節折々の本来の姿を美しいと感じられるのは、見るものの心が澄み渡っているからなのだという内容だった。
人や物に向き合う時は、素直な気持ちで、損得抜きに触れ合うことが大切だ。そうすることで本当に大切なものが見えてくる。
全部、我が家の三男、瑞樹くんから教えてもらった。
人は人から学ぶ。
学ぶのは学問だけではない。
愛も信頼も……自分一人では生み出せない。
相手がいてこそ。
****
「パパぁ、これね、いっくんから……おとしだまぁ」
「え? いっくんがくれるのか」
「えへへ」
いっくんは恥ずかしそうに菫さんの背中に隠れてしまった。ちらちらと顔をのぞかしてニコニコしている。
うぉ、可愛すぎだ!
その笑顔が、オレにはお年玉だ!
「なんだろうな」
白い封筒の中には、折りたたんだ画用紙が入っていた。
青いクレヨンで描かれたそれは……
「ひこうきの絵かな?」
「うん、これにのるとね、パパがあいたいひとのところにビューンといけるんだよ」
「そうか」
「ほっかいどいうのじーじやばーばにもあえるよ。みーくんにもひろくんにも」
「いっくん、いっぱい名前を覚えてくれたんだな」
「パパのかじょくは、いっくんのかじょくでしょ?」
小首を傾げるいっくんを抱きしめてやった。
「じゃあ、まずいっくんに会いに来たぞ!」
「えへへ、パパ、だーい、しゅき!」
芽生に何気なく告げた言葉に、私自身がハッとした。
これは父さんの言葉だ。
父さんから、もらった言葉だ。
T大にストレートで受かり、司法試験にも学生時代に合格するという快挙に天狗になっていた頃、ガツンとやられた言葉だ。
その時は素直に受けいれられず、押し黙ってしまった。
お前は杓子定規な人だと暗に言われたようで、居心地が悪かった。杓子定規とは1つの見方でしか物事を見れず融通が利かないことを意味する四字熟語で、自分でも薄々気付いてたからこそ、見透かされようで決まりが悪かったのだ。
当時の私は5歳差で生まれて来た弟が、ちっとも自分の言うことを聞かず、真逆なことばかりするのに苛立ち、常にイライラしていた。
個性を認めあい尊重しあいたいと願うのに、私が真面目に考えれば考えるほど、宗吾は不真面目に答え、軽く考える。
心がどんどん離れて高校時代にはもう決壊していた。
だがある日、宗吾が神妙な顔で私の部屋に相談にやってきた。
……
「兄さん、俺……少し人と違うようだ」
「どうした?」
「……うん、どうやら女も愛せるが、男も同じように愛せるみたいで……いや、むしろ男の方が好きかもしれないんだ」
「え?」
一瞬言葉を失ってしまった。まさか、こんなに深刻な相談を受けるとは思っていなかったから。
「まぁ、つまり……俺は同性愛者のようだ」
「そ、そうなのか」
「この先どうやって生きていったらいいのかな?」
自分の性癖に悩む宗吾の気持ちを、ずしりと重く受け止めた。まさか弟が……青天の霹靂だった。私が持っている知識は机上の空論だ。宗吾の立場に寄り添ってやらないといけないのに、返す言葉は浮かばない。
兄としてこのままでは情けない。血を分けた弟の深刻な悩みを緩和してやりたくて、答えが見つかってもいないのに、いい顔をしようとしてしまった。
「宗吾、よく話してくれた。兄さんがなんとかしてやるから安心しろ」
「えっ、なんで、兄さんが? そんなつもりで話したんじゃないよ。これは俺の問題だし、なんとかなるさ。それに心に蓋はしたくないんだ。親にはきっと理解してもらえないから、大学に入ったら家を出るよ。思うがままに生きてみたいしな!」
「はぁ? おい、なんだその言い方は」
「だって、俺の人生なんだ」
「じゃあ、どうして私に話した?」
「それは……」
あまり自由奔放な様子に、呆れ果ててしまった。
「勝手にすればいい! お前はいつも……いつまでも、そうやって自分だけで自分勝手に生きていけばいい! 人の道から外れて!」
「なっ……」
……
あぁ……思い返せば悔やまれる。
私は最低な言葉で弟を追い詰めてしまったのだ。
あの日を境に宗吾は私に近寄らなくなった。家にもほとんど帰って来ず、ある日唐突に玲子さんと結婚すると言ってきた。あんなに深刻そうだったのに、あれはなんだったのかと拍子抜けし、ますます弟のことが理解出来なくなった。
そうやってずっと拒絶しあっているうちに父さんが病気になり、あっけなく他界してしまった。葬式で顔を合わせても、涙一つ見せない宗吾が薄情な男に見えて心底軽蔑してしまった。
だが……真実は違ったのだ。
「おじさん、雪兎に目をつけて」
「あぁ」
芽生のつくった白いうさぎに、赤い南天の実をつけてやった。
まっしろなうさぎは目を赤くして泣いているようにも見えて、ハッとした。
雪見障子は、まだ上がったままだ。
芽生の目線に降りると、部屋の奥の父さんの座椅子に、宗吾が座っているのが見えた。
目頭を押さえて、肩を震わせていた。
そして宗吾の広い背中を、瑞樹くんが何度も何度も優しく撫でてくれていた。
そうか、あの時もあの時も、決めつけるのではなく、寄り添えば良かったのか。
今の瑞樹くんのように優しく背中を撫でてやれば良かった。
宗吾は泣かなかったのではなく、泣けなかったのだ。
仲違いしたまま相手がいなくなってしまったら、呆然としてしまうのが普通なのに……私がどこまでも心が狭かった。心の狭い人間だった。
父さんの言う通りですよ。
「大切なのは人柄だ。優しくて大きくて広い心を持て」
その言葉を思い出させてくれたのが、瑞樹くんだ。
彼の純真さと謙虚さを前にすると、心がふっと軽く素直になれる。
野に咲く花のように風に心地良く揺れている気分になる。
大輪の花よりも優しい花が好きだ。
母が育てた庭の草花のように、風に揺れる花になりたい。
心をしっかり動かせる人になりたい。
「おじさん、おばあちゃんのお庭みんな雪にうもれちゃったね。だいじょうぶかな?」
芽生が心配そうに訴えてくる。
「これが自然の姿だ。なぁに心配しなくても春には花がいっぱい咲く。だから今は雪景色を楽しむといい」
「そうなの? よかったー 雪もお花も、みーんなすきだよ」
「あぁ、私もだ」
父が亡くなる前に、私に一枚の色紙を渡してくれた。
それは道元禅師の『春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて すずしかりけり』を、父の筆で書き写したものだった。
季節折々の本来の姿を美しいと感じられるのは、見るものの心が澄み渡っているからなのだという内容だった。
人や物に向き合う時は、素直な気持ちで、損得抜きに触れ合うことが大切だ。そうすることで本当に大切なものが見えてくる。
全部、我が家の三男、瑞樹くんから教えてもらった。
人は人から学ぶ。
学ぶのは学問だけではない。
愛も信頼も……自分一人では生み出せない。
相手がいてこそ。
****
「パパぁ、これね、いっくんから……おとしだまぁ」
「え? いっくんがくれるのか」
「えへへ」
いっくんは恥ずかしそうに菫さんの背中に隠れてしまった。ちらちらと顔をのぞかしてニコニコしている。
うぉ、可愛すぎだ!
その笑顔が、オレにはお年玉だ!
「なんだろうな」
白い封筒の中には、折りたたんだ画用紙が入っていた。
青いクレヨンで描かれたそれは……
「ひこうきの絵かな?」
「うん、これにのるとね、パパがあいたいひとのところにビューンといけるんだよ」
「そうか」
「ほっかいどいうのじーじやばーばにもあえるよ。みーくんにもひろくんにも」
「いっくん、いっぱい名前を覚えてくれたんだな」
「パパのかじょくは、いっくんのかじょくでしょ?」
小首を傾げるいっくんを抱きしめてやった。
「じゃあ、まずいっくんに会いに来たぞ!」
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