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小学生編
ハートフルクリスマスⅡ・9
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サンタ姿のまま、宗吾さんが焼いたパンケーキにハチミツを垂らしていると、電話がかかってきた。
「俺が出るよ」
「もしもし……お? 珍しいな。えっ、そうなのか」
宗吾さんは、一体誰と話しているかな?
「何だって、急遽サンタが必要と? しかも子供のサンタ?」
芽生くんと顔を見合わせてしまった。
「お兄ちゃん、もしかして、もしかして?」
「うん、もしかして……」
宗吾さんが電話を切るなり、すっ飛んできた。
「瑞樹ぃ~ 大変だ」
「どうしました? 何かあったんですか」
「滝沢三太族《たきざわさんたぞく》に、出動要請が入った」
「え? どこへ行くんですか」
「病院だ」
「えぇ!」
「今の電話、一体誰からだったんですか」
話が見えなくて身を乗り出してしまった。
「丈からだ」
「えぇ? 月影寺の丈さんですか。一体どういう理由で?」
「実はな」
宗吾さんの説明によると、丈さんが手伝っている鎌倉のホスピスで、サンタや妖精に扮したボランティアの子供が、入院されている人達にクリスマスプレゼントを配る予定だそうだ。
だが今日になって肝心のサンタと妖精が風邪を引いて来られなくなって、困っているとのことだ。
「パパ! それ、ボクが行くよ! こまっている人を助けるのがサンタさんのやくめだもん」
「確かにそうだね」
「瑞樹、妖精はどうする? ホスピスではサンタと一緒に妖精も来るとお知らせしてしまったそうで、皆、とても楽しみにされていると」
「妖精……あっ! それなら……」
「そうか、いっくんか」
「でも、この時間だと保育園に行ってしまったかも」
そこにまた電話がかかってきた。
今度は僕が出た。
「もちもちぃ……」
いっくんからだ! タイムリー過ぎないか!
「いっくん?」
「ううん、ちがいましゅ。えるふしゃんでしゅよ」
わぁ……すごい! すっかり妖精になりきっている!
「え、えるふしゃん、どうしたの?」
「あのぅ、さんたしゃんいましゅか」
「えっと、大きいサンタさん? それとも小さなサンタさん?」
「えるふしゃんはちっちゃいから、ちっちゃいさんたさんがいい」
「分かった、芽生くんサンタにかわるね」
芽生くんがボク? っとキョトンとしている。
「芽生、サンタらしく受け答えするんだぞ。いっくんは今、いっくんではない。妖精エルフなんだ」
「わかった!」
宗吾さんって、本当にこういう時のノリが最高だ。
広告代理店で鍛え上げた話術で、子供に魔法をかける。
ポジティブな気持ちが、皆に連鎖していく。
「エルフさんですか。あの、いそぎのお仕事がはいったんだ。サンタのお手伝いをしてくれるかな?」
「さんたしゃん、しましゅ! しましゅ! なにをしましゅか」
「えっと、それは……」
宗吾さんが電話を替われとジェスチャーをしている。
「エルフさんのパパはいるかな?」
「わかりまちた。ぱぱぁ……パパァ」
「どうした? いっくん」
「いっくん、さんたしゃんのおてつだいしましゅ!」
「ええ?」
という理由で、僕たちは急遽、東京駅まで車で迎えに行くことになった。
菫さんは妊娠中なので大事を取って留守番で、潤がエルフの洋服を着たいっくんを抱えて走ってきた。
今日はクリスマス当日だ。
駅にはサンタの仮装をした子供もいたので全然浮いていない。いっくんはエルフの衣装がよく似合っていて、本物の妖精のように見えた。
「潤、こっちこっち!」
「兄さん、間に合うか」
「うん、このまま車で鎌倉まで一気に行けばね。あ、これ新幹線代」
「悪いよ」
「ボクからじゃないよ。病院から経費で出るらしいから」
「そうか、じゃあお言葉に甘えて」
いっくんと芽生くんは、後部座席で手を繋いで喜び合っている。
「エルフしゃーん」
「さんたしゃーん」
小さな妖精だよ。君たちは……
そんな光景に、心がポカポカになる。
****
『ファミリーホスピス・鎌倉』
ホスピスは終末期患者の痛みや症状の緩和に焦点を当てて、人生の終わりを穏やかに過ごすのを目的とする場所だ。こんな場所に来るのは初めてで緊張した。
駐車場に車を停めると、すぐに白衣姿の丈さんが颯爽と現れた。
丈さんは由比ヶ浜に診療所を開業されたばかりで、休診日には、このホスピスのサポートをしていると洋くんから聞いてはいたが、まさかこのような形で僕たちが訪れることになるとは。
「宗吾、瑞樹くん、ありがとう! 恩に着るよ」
ホスピス内の通された部屋には、カラフルなクリスマスの包装紙に包まれたプレゼントが山積みになっていた。
「難しいことではないんだ。だが……次の世への夢と希望を届けたいから……どうしても子供サンタと妖精にお願いしたかったんだ」
丈さんが腰をかがめて、芽生くんといっくんに伝えると、二人とも目を輝かせていた。
「がんばりましゅ!」
「うん、がんばるよ!」
「丈、俺たちもサポートするよ」
「だが……」
「大丈夫だ、瑞樹も俺も今日はサンタになりきるから」
宗吾さんが鞄からサンタの衣装を取り出せば、僕もサンタのマントを取りだした。
「用意周到だな、じゃあ小森くんは不要だったか」
「え? 小森くんも来るんですか」
「あぁ、もうすぐ洋が連れてきてくれる」
「会いたいです。ってことは小森くんもサンタさんなんですね」
「あぁ、彼、何故かサンタの衣装を持っていたからな」
僕たちはワクワクと顔を見合わせた。
まさか大河さんが作ってくれた衣装が、ここで勢揃いするとは!
「丈、連れてきたよ」
部屋に飛び込んで来たのは、洋くんだった。
急いで来たのか息を切らし、艶めかしい色気を振り撒いて。
「洋、またそんな薄着で……」
「ゴメン、急いでいたから」
「こんにちはぁ~」
続いて、小森くんが真っ赤なサンタの衣装に大きな赤いバッグを持って、にこやかに登場した。
「おいおい随分と大きな袋だな。一体何を入れるつもりだ?」
「丈さん、これはプレゼントを運ぶ時に役立つだろうって、流さん愛用のエコバッグを貸してくれたんです。で、翠さんが今日のお駄賃に、このバッグいっぱいのおまんじゅうを買ってくれるんですよ」
鼻息が荒い小森くんは、誰よりも張り切っているようにも見えた。
「ボクたちもがんばるよ」
「えるふしゃんも、よいしょよいしょする!」
あとがき
****
『重なる月』とのクロスオーバーです。
「俺が出るよ」
「もしもし……お? 珍しいな。えっ、そうなのか」
宗吾さんは、一体誰と話しているかな?
「何だって、急遽サンタが必要と? しかも子供のサンタ?」
芽生くんと顔を見合わせてしまった。
「お兄ちゃん、もしかして、もしかして?」
「うん、もしかして……」
宗吾さんが電話を切るなり、すっ飛んできた。
「瑞樹ぃ~ 大変だ」
「どうしました? 何かあったんですか」
「滝沢三太族《たきざわさんたぞく》に、出動要請が入った」
「え? どこへ行くんですか」
「病院だ」
「えぇ!」
「今の電話、一体誰からだったんですか」
話が見えなくて身を乗り出してしまった。
「丈からだ」
「えぇ? 月影寺の丈さんですか。一体どういう理由で?」
「実はな」
宗吾さんの説明によると、丈さんが手伝っている鎌倉のホスピスで、サンタや妖精に扮したボランティアの子供が、入院されている人達にクリスマスプレゼントを配る予定だそうだ。
だが今日になって肝心のサンタと妖精が風邪を引いて来られなくなって、困っているとのことだ。
「パパ! それ、ボクが行くよ! こまっている人を助けるのがサンタさんのやくめだもん」
「確かにそうだね」
「瑞樹、妖精はどうする? ホスピスではサンタと一緒に妖精も来るとお知らせしてしまったそうで、皆、とても楽しみにされていると」
「妖精……あっ! それなら……」
「そうか、いっくんか」
「でも、この時間だと保育園に行ってしまったかも」
そこにまた電話がかかってきた。
今度は僕が出た。
「もちもちぃ……」
いっくんからだ! タイムリー過ぎないか!
「いっくん?」
「ううん、ちがいましゅ。えるふしゃんでしゅよ」
わぁ……すごい! すっかり妖精になりきっている!
「え、えるふしゃん、どうしたの?」
「あのぅ、さんたしゃんいましゅか」
「えっと、大きいサンタさん? それとも小さなサンタさん?」
「えるふしゃんはちっちゃいから、ちっちゃいさんたさんがいい」
「分かった、芽生くんサンタにかわるね」
芽生くんがボク? っとキョトンとしている。
「芽生、サンタらしく受け答えするんだぞ。いっくんは今、いっくんではない。妖精エルフなんだ」
「わかった!」
宗吾さんって、本当にこういう時のノリが最高だ。
広告代理店で鍛え上げた話術で、子供に魔法をかける。
ポジティブな気持ちが、皆に連鎖していく。
「エルフさんですか。あの、いそぎのお仕事がはいったんだ。サンタのお手伝いをしてくれるかな?」
「さんたしゃん、しましゅ! しましゅ! なにをしましゅか」
「えっと、それは……」
宗吾さんが電話を替われとジェスチャーをしている。
「エルフさんのパパはいるかな?」
「わかりまちた。ぱぱぁ……パパァ」
「どうした? いっくん」
「いっくん、さんたしゃんのおてつだいしましゅ!」
「ええ?」
という理由で、僕たちは急遽、東京駅まで車で迎えに行くことになった。
菫さんは妊娠中なので大事を取って留守番で、潤がエルフの洋服を着たいっくんを抱えて走ってきた。
今日はクリスマス当日だ。
駅にはサンタの仮装をした子供もいたので全然浮いていない。いっくんはエルフの衣装がよく似合っていて、本物の妖精のように見えた。
「潤、こっちこっち!」
「兄さん、間に合うか」
「うん、このまま車で鎌倉まで一気に行けばね。あ、これ新幹線代」
「悪いよ」
「ボクからじゃないよ。病院から経費で出るらしいから」
「そうか、じゃあお言葉に甘えて」
いっくんと芽生くんは、後部座席で手を繋いで喜び合っている。
「エルフしゃーん」
「さんたしゃーん」
小さな妖精だよ。君たちは……
そんな光景に、心がポカポカになる。
****
『ファミリーホスピス・鎌倉』
ホスピスは終末期患者の痛みや症状の緩和に焦点を当てて、人生の終わりを穏やかに過ごすのを目的とする場所だ。こんな場所に来るのは初めてで緊張した。
駐車場に車を停めると、すぐに白衣姿の丈さんが颯爽と現れた。
丈さんは由比ヶ浜に診療所を開業されたばかりで、休診日には、このホスピスのサポートをしていると洋くんから聞いてはいたが、まさかこのような形で僕たちが訪れることになるとは。
「宗吾、瑞樹くん、ありがとう! 恩に着るよ」
ホスピス内の通された部屋には、カラフルなクリスマスの包装紙に包まれたプレゼントが山積みになっていた。
「難しいことではないんだ。だが……次の世への夢と希望を届けたいから……どうしても子供サンタと妖精にお願いしたかったんだ」
丈さんが腰をかがめて、芽生くんといっくんに伝えると、二人とも目を輝かせていた。
「がんばりましゅ!」
「うん、がんばるよ!」
「丈、俺たちもサポートするよ」
「だが……」
「大丈夫だ、瑞樹も俺も今日はサンタになりきるから」
宗吾さんが鞄からサンタの衣装を取り出せば、僕もサンタのマントを取りだした。
「用意周到だな、じゃあ小森くんは不要だったか」
「え? 小森くんも来るんですか」
「あぁ、もうすぐ洋が連れてきてくれる」
「会いたいです。ってことは小森くんもサンタさんなんですね」
「あぁ、彼、何故かサンタの衣装を持っていたからな」
僕たちはワクワクと顔を見合わせた。
まさか大河さんが作ってくれた衣装が、ここで勢揃いするとは!
「丈、連れてきたよ」
部屋に飛び込んで来たのは、洋くんだった。
急いで来たのか息を切らし、艶めかしい色気を振り撒いて。
「洋、またそんな薄着で……」
「ゴメン、急いでいたから」
「こんにちはぁ~」
続いて、小森くんが真っ赤なサンタの衣装に大きな赤いバッグを持って、にこやかに登場した。
「おいおい随分と大きな袋だな。一体何を入れるつもりだ?」
「丈さん、これはプレゼントを運ぶ時に役立つだろうって、流さん愛用のエコバッグを貸してくれたんです。で、翠さんが今日のお駄賃に、このバッグいっぱいのおまんじゅうを買ってくれるんですよ」
鼻息が荒い小森くんは、誰よりも張り切っているようにも見えた。
「ボクたちもがんばるよ」
「えるふしゃんも、よいしょよいしょする!」
あとがき
****
『重なる月』とのクロスオーバーです。
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