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小学生編

青い車に乗って・地上編 6

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「あなたたち、良かったら家でココアを飲まない?」
「ありがとうございます」
「ボク、ココアだーいすき!」
「よし、一旦戻ろうぜ!」
 
 駿くんのお母さんに誘われたので、ログハウスにお邪魔した。

「あ……やっぱり」
「瑞樹、中の造りも似ているな」
「えぇ、とても似ています」
 
 外観もそうだが、中に入るとますます不思議な気持ちになった。

 間取りもそっくりだなんて……

 大沼のログハウスは、お父さんとくまのお父さんが協力して建てたと聞いていたが、どうしてこんなに似ているのか分からない。

 どこまでも懐かしく、落ち着く空間だった。

「これ、このログハウスを仲介してくれた不動産屋さんの名刺よ。『なでしこ台』の駅前にあるのよ」
「ありがとうございます。また改めて訪ねてみようと思います」
「もしかして、この辺りの土地を探しているの?」
「……えっと」

 僕が答えに窮していると、宗吾さんがざっくりと答えてくれた。

「まぁ平たく言えば気になっています。環境がいいですし」
「そうなのよ。駅近だし、都心に電車1本で出られるのに自然豊かで、住み心地は最高よ。あと高速のインターも近いしね。この辺りはちょうど世代交代の影響で、良い土地が売りに出ているから今が狙い目よ」
「じゃあ、このログハウスの近くにも?」
「えぇ、小川の向こうも更地よ」
「なるほど!」

 宗吾さんが俄然、乗り気になる。

 彼のこういう所が好きだ。僕は慎重になり過ぎて俊敏に行動出来ないので、本当に有り難いな。

「さぁ熱々のココアよ。気をつけて飲んでね」
「わぁ、ありがとうございます!」

 芽生くんがハキハキとお礼を言う。

 よしっ、もうすっかり元気になったね。

 先ほど垣間見た寂しそうな表情には、正直ドキッとした。今まで僕は芽生くんの立場になって深く考えなかったのが申し訳ない。

 芽生くんは、今のマンションに生まれてからずっと住んでいる。だから僕の知らないお母さんとの思い出が詰まっているはずなのに、それを取り上げてしまっていいのか。そう考えると僕と宗吾さんの家を建てること自体、躊躇してしまう。

 じりじりと後ろ向きな気持ちになっていると、今度は芽生くんがボクを引っ張ってくれた。

「あのね、ママはね、もうボクがいなくてもだいじょうぶだけど……ボクはお兄ちゃんがいないとダメなんだよ」
「えっ」
「おにいちゃんとずっといっしょにいられるおうち、ほしいなぁ」
「でも、あのマンションから引っ越したら、ママとの思い出が消えてしまうんだよ?」
「うーん、むずかしいよぅ」

 まずい。まだ幼い芽生くんを追い詰め困惑させてしまった。

「芽生くん、ごめん! 今日のお兄ちゃんはダメだね。芽生くんに悲しい思いをさせたくないのに……こんな頼りないお兄ちゃんでごめん」

 芽生くんは目を見開いて、首を横に振った。

「ううん、ちがうよ。お兄ちゃんがいっぱいボクのことかんがえてくれるの、うれしい。ママは元気だし、ボクは毎日たのしいよ。これじゃダメなの?」
「ううん、ううん……充分だよ。本当にありがとう」

 芽生くんの優しさとおおらかさは、絶対に宗吾さん譲りだ!  

 本当にいい子だ。

「お兄ちゃん、ココアちょっとあついよぅ」
「あっ、冷ましてあげるね」
「うん!」

 ふぅーっと息をかけると、白い靄がどこかに消えていった。

 僕の頭の中のモヤモヤも一緒に消滅した。

「瑞樹、難しく考えるな。物事って案外単純に出来ているものさ。捏ねくり回すから分からなくなるんだ。絡まってしまうんだ」
「本当にそうですね。僕はつい窮屈になってしまって」
「なぁに、気にするな。その時のために俺たちがいるんだ」
「うんうん、ボク、大きくなったら、おにいちゃんを守るキシさんになるんだよ」
「お! 久しぶりにその台詞、聞いたぞ」
「えへへ、パパのことも見張るキシさんだよ」
「クスッ、それは頼もしい騎士さんだね」

 芽生くんを真ん中に挟んで熱々のココアを飲むと、身体がポカポカと温まり心も和んできた。

「おいしいね~」
「うん、温まるね」
「ぽかぽか~」

 芽生くんも頬を染めて幸せそうだ。

 もう……あれこれ杞憂するのは、やめよう。
 
 今の気持ちを大切にしたい。

 この瞬間を大切にしたいから。




 暫くすると、想くんと駿くんも戻ってきた。

 想くんは僕と目が合うと、優しく微笑んでくれた。

 彼の笑顔はとても柔らかく、憧れを抱く瞳はいじらしかった。それから綺麗に色づいた銀杏の葉をポケットから大切そうに取りだして、ひとつ、ふたつと彼のお母さんに渡した。

 それは自然のお土産で、僕も綺麗な葉っぱを下校時に拾って、お母さんに贈ったことがあったよ。

……

「お母さん、ただいま!」
「瑞樹、お帰りなさい。学校、楽しかった?」
「うん! あのね、これプレゼント。赤くてキレイだったから」
「まぁ私の好きな赤だわ。あら? この葉っぱ、ハート型に見えない?」
「あ、本当だね」
「息子からのラブレターみたいでドキドキしちゃう。みーくん、ありがとう。ギュッしてもいい?」
「うん!」

 お母さんからの特別なハグ、嬉しかったな。

……

 お母さんが生きていたら、僕はきっと今日の君のように葉っぱを届けただろう。

 想くんは、僕が見たかった世界を見せてくれる人だ。

 羨ましさや寂しさよりも、嬉しさで満ちていく。

 これが今の気持ちだ。
 
 青い車はまるで青い鳥のように、僕を幸せな世界に連れて来てくれた。

 
 



 
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