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小学生編
実りの秋 39
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「これより、どんぐり保育園の秋の大運動会を始めます!」
「わー パパ、はじまるって」
「よーし、いっくんとパパの力を合わせるぞ」
「うん! 」
いっくんがニコニコ笑顔で、潤と手をパチンと合わせた。
見渡せば、どの子も親御さんを眩しそうに見つめて満面の笑みを浮かべている。普段、親御さんと離れている時間が長いこともあり、本当に嬉しそうだ。
まだ始まる前なのに、子供たちの笑顔の花で園庭が満開になっているよ。
「みーくん、保育園の運動会って、親子の触れ合いの時間なんだな。親子で一緒に体を動かすことにより絆を深められるし、子供がこんなに成長したのかと実感出来る大切な機会なんだな」
「そうですね。保育園の運動会は初めてなのでワクワクします」
「そうか、芽生くんは幼稚園だったのか。観に行ったのか」
「はい……最初の時は出張中の宗吾さんの代わりに、次の年は宗吾さんと一緒に行きました」
「そうか、みーくん、がんばったな。偉かったな」
お父さんの言葉は深くて強くて頼もしくて、大好きだ。
年中の時は事情を知らない玲子さんと遭遇してしまい辛い思いもしたが、翌年はそれを払拭するような満ち足りた時間だった。
人生、良いことも悪いこともいろいろだ。
「みーくん……光を埋め尽くすのは闇で、その闇から解放してくれるのは光だ。人はその狭間で生きているんだよな」
「はい、僕もそう思います」
「俺たちはもう怖がらないで、生きていこうな」
「同感です」
先のことが怖くて引っ込み思案になっていた頃は、毎日が怖かった。明日にはまた誰かが忽然と消えてしまうのではと、恐怖に苛まれていた。
だけど僕はもう恐れない。
生き生きとした光を見つけたから、どんな時でもそれを目指そう。
「あ、最初は0歳児のハイハイレースですよ」
「おぅ!」
0歳児がマット1枚分の短い距離をハイハイで進んで、ゴールを目指す競技だった。
パパやママが、マットの向こう側で必死に我が子を呼んでいる。
「おいで! こっちよ」
「がんばれ、がんばれ!」
親御さんの方が必死になって微笑ましい。
赤ちゃんは気ままに後ろに下がったり泣いたり、大忙しだ。
真っ直ぐパパやママの所に行く赤ちゃんの方が少なかったりして!
「賑やかだな。あの子なんて全然違うところにハイハイして行くぞ」
「ですね。あの……僕もあんなでした?」
ふと興味が湧いて、幼い頃の話をして欲しくて聞いてしまった。
「みーくんはママっ子だったから、ママに向かってハイハイもまっしぐらだったよ」
「ええっ、そんなに?」
「感受性が強かったのかな? とにかくママが見えないと大泣きだったよ」
「そうなんですね。あの……パパっ子ではなかったんですか」
「うーん、それがなぁ……1歳までは人見知りが激しくて、大樹さんだと泣く時もあった。多々あった……」
「わぁ、それはなんだか申し訳ないな」
自分が赤ちゃんの時の話を聞くことは、今生ではないだろうと思っていたのに、こんな風に教えてもらえるのは感激だ。
「大樹さんがよく俺の所に来て嘆いていたよ『熊田ー どうしたら瑞樹を抱っこできるかな?』って」
「そんなに悩ませてしまったんですね」
「まぁ、そんなものさ。だが1歳を過ぎて歩くようになるとニコニコとパパにも抱っこをせがむようになったよ。その……俺にもな」
お父さんが目を細めて、懐かしがってくれる。
「お父さんたちは背が高いから、視界が開けて楽しかったのでしょうね」
「そうだな。二人のお父さんは力持ちだったから、さっき潤くんがやっていたように、みーくんとなっくんを腕にぶら下げて、遊んだなぁ」
「最強ですね!」
次は1歳児のにゃんにゃんレースだ。
1歳児が猫耳のついた帽子としっぽのついたズボンを穿いて登場した。猫になりきってハイハイして進むレースらしい。ネズミの耳をつけた先生が誘導するので、まるでネズミを追いかける猫のように見えて微笑ましい。
「あぁ、これは可愛いですね! 芽生くんにやってもらいたいです」
「ははっ、宗吾くんも喜びそうだな、みーくん逃げ切れよ」
「え?」
ひとつひとつの競技をお父さんと楽しく会話しながら、見守った。
「あ、次はいっくんですよ」
「なんの種目か」
「『2.3歳児の親子電車でいこう』としおりには書いてあります」
「なんだ、それは?」
どうやら頑丈な段ボールで出来た箱に子供が入り、親御さんが引っ張る競技のようだ。
潤がいっくんと沢山公園で練習したと言っていたのは、これだ。去年の運動会でもあったが、菫さんが腰痛で参加出来なかったと聞いていた。
「お父さん、早く写真を撮らないと」
「おぅ、みーくん、もっと近くにいこう」
「はい!」
****
「いっくん、いいか、箱に入ったらじっとしているんだぞ」
「うん!」
「練習した通り、ちゃんと横に掴まるんだぞ」
「うん!」
「パパのスピードは速いからな」
「うん! いっくん、これやってみたかったの」
「おし! 任せておけ」
顔をあげると、熊田さんと兄さんが笑顔で手を振っていた。
熊田さんが、俺といっくんを撮影してくれている。
「潤、頑張れ!」
「おぅ!」
兄さんってば、それじゃ俺の運動会みたいだよ。
あぁそうか、そんな風に俺はいつも兄さんに応援してもらっていたんだな。
ありがとう、いつも、来てくれて。
いつもリレーの時は、声を出して応援してくれたんだな。大人しくて、普段は小さな声しか出さなかった兄さんの声援が、すごく嬉しかった。なのに照れ臭くて、面と向かって礼を言えなかった。
「兄さん、ありがとう! がんばるよ!」
今からでも間に合うか、今からでも言いたいよ。
「うん! いっくんもがんばれー」
「みーくーん、いってきまーす!」
さぁ順番が来たぞ。
いっくんを箱に収めて出発だ!
この子の父親として、勢いよく出発しよう!
「わー パパ、はじまるって」
「よーし、いっくんとパパの力を合わせるぞ」
「うん! 」
いっくんがニコニコ笑顔で、潤と手をパチンと合わせた。
見渡せば、どの子も親御さんを眩しそうに見つめて満面の笑みを浮かべている。普段、親御さんと離れている時間が長いこともあり、本当に嬉しそうだ。
まだ始まる前なのに、子供たちの笑顔の花で園庭が満開になっているよ。
「みーくん、保育園の運動会って、親子の触れ合いの時間なんだな。親子で一緒に体を動かすことにより絆を深められるし、子供がこんなに成長したのかと実感出来る大切な機会なんだな」
「そうですね。保育園の運動会は初めてなのでワクワクします」
「そうか、芽生くんは幼稚園だったのか。観に行ったのか」
「はい……最初の時は出張中の宗吾さんの代わりに、次の年は宗吾さんと一緒に行きました」
「そうか、みーくん、がんばったな。偉かったな」
お父さんの言葉は深くて強くて頼もしくて、大好きだ。
年中の時は事情を知らない玲子さんと遭遇してしまい辛い思いもしたが、翌年はそれを払拭するような満ち足りた時間だった。
人生、良いことも悪いこともいろいろだ。
「みーくん……光を埋め尽くすのは闇で、その闇から解放してくれるのは光だ。人はその狭間で生きているんだよな」
「はい、僕もそう思います」
「俺たちはもう怖がらないで、生きていこうな」
「同感です」
先のことが怖くて引っ込み思案になっていた頃は、毎日が怖かった。明日にはまた誰かが忽然と消えてしまうのではと、恐怖に苛まれていた。
だけど僕はもう恐れない。
生き生きとした光を見つけたから、どんな時でもそれを目指そう。
「あ、最初は0歳児のハイハイレースですよ」
「おぅ!」
0歳児がマット1枚分の短い距離をハイハイで進んで、ゴールを目指す競技だった。
パパやママが、マットの向こう側で必死に我が子を呼んでいる。
「おいで! こっちよ」
「がんばれ、がんばれ!」
親御さんの方が必死になって微笑ましい。
赤ちゃんは気ままに後ろに下がったり泣いたり、大忙しだ。
真っ直ぐパパやママの所に行く赤ちゃんの方が少なかったりして!
「賑やかだな。あの子なんて全然違うところにハイハイして行くぞ」
「ですね。あの……僕もあんなでした?」
ふと興味が湧いて、幼い頃の話をして欲しくて聞いてしまった。
「みーくんはママっ子だったから、ママに向かってハイハイもまっしぐらだったよ」
「ええっ、そんなに?」
「感受性が強かったのかな? とにかくママが見えないと大泣きだったよ」
「そうなんですね。あの……パパっ子ではなかったんですか」
「うーん、それがなぁ……1歳までは人見知りが激しくて、大樹さんだと泣く時もあった。多々あった……」
「わぁ、それはなんだか申し訳ないな」
自分が赤ちゃんの時の話を聞くことは、今生ではないだろうと思っていたのに、こんな風に教えてもらえるのは感激だ。
「大樹さんがよく俺の所に来て嘆いていたよ『熊田ー どうしたら瑞樹を抱っこできるかな?』って」
「そんなに悩ませてしまったんですね」
「まぁ、そんなものさ。だが1歳を過ぎて歩くようになるとニコニコとパパにも抱っこをせがむようになったよ。その……俺にもな」
お父さんが目を細めて、懐かしがってくれる。
「お父さんたちは背が高いから、視界が開けて楽しかったのでしょうね」
「そうだな。二人のお父さんは力持ちだったから、さっき潤くんがやっていたように、みーくんとなっくんを腕にぶら下げて、遊んだなぁ」
「最強ですね!」
次は1歳児のにゃんにゃんレースだ。
1歳児が猫耳のついた帽子としっぽのついたズボンを穿いて登場した。猫になりきってハイハイして進むレースらしい。ネズミの耳をつけた先生が誘導するので、まるでネズミを追いかける猫のように見えて微笑ましい。
「あぁ、これは可愛いですね! 芽生くんにやってもらいたいです」
「ははっ、宗吾くんも喜びそうだな、みーくん逃げ切れよ」
「え?」
ひとつひとつの競技をお父さんと楽しく会話しながら、見守った。
「あ、次はいっくんですよ」
「なんの種目か」
「『2.3歳児の親子電車でいこう』としおりには書いてあります」
「なんだ、それは?」
どうやら頑丈な段ボールで出来た箱に子供が入り、親御さんが引っ張る競技のようだ。
潤がいっくんと沢山公園で練習したと言っていたのは、これだ。去年の運動会でもあったが、菫さんが腰痛で参加出来なかったと聞いていた。
「お父さん、早く写真を撮らないと」
「おぅ、みーくん、もっと近くにいこう」
「はい!」
****
「いっくん、いいか、箱に入ったらじっとしているんだぞ」
「うん!」
「練習した通り、ちゃんと横に掴まるんだぞ」
「うん!」
「パパのスピードは速いからな」
「うん! いっくん、これやってみたかったの」
「おし! 任せておけ」
顔をあげると、熊田さんと兄さんが笑顔で手を振っていた。
熊田さんが、俺といっくんを撮影してくれている。
「潤、頑張れ!」
「おぅ!」
兄さんってば、それじゃ俺の運動会みたいだよ。
あぁそうか、そんな風に俺はいつも兄さんに応援してもらっていたんだな。
ありがとう、いつも、来てくれて。
いつもリレーの時は、声を出して応援してくれたんだな。大人しくて、普段は小さな声しか出さなかった兄さんの声援が、すごく嬉しかった。なのに照れ臭くて、面と向かって礼を言えなかった。
「兄さん、ありがとう! がんばるよ!」
今からでも間に合うか、今からでも言いたいよ。
「うん! いっくんもがんばれー」
「みーくーん、いってきまーす!」
さぁ順番が来たぞ。
いっくんを箱に収めて出発だ!
この子の父親として、勢いよく出発しよう!
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