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小学生編
実りの秋 2
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「じゃあ早速、青山に連絡してみるよ。向こうも都内に勤めているから近々実現させよう」
「管野、あの、ありがとう……僕を誘ってくれて」
振り返れば中学から高校にかけて、僕はどこまでも後ろ向きだった。
10歳で函館の家に引き取られ、年齢を重ねるにつれ自分が置かれている状況に苦しみを抱くようになった。どれだけの負担と迷惑をかけて置いてもらっているのかと勝手に嘆き、息を潜め、目立たずに、ただ時が過ぎていくのを待った。
本当に、ひとりよがりだった。
あの頃の僕に宗吾さんが逢ったら、きっとこんな風に言うだろう。
……
瑞樹は馬鹿だなぁ、そんなに他人行儀になるな!
どうしてそんなに頑ななんだ?
時をやり過ごすのではなく、ちゃんと息を吸って周りを見渡して見ろ! 世界は生きている!
……
函館のお母さんも広樹兄さんも潤も、僕を家族の一員として迎えてくれたのに、いつまでも僕がそんな調子だから、結局何も得られず、上手くいかなくなった。
人との間に高い壁を作ったのは、僕自身だ。
高校時代は、心から笑うことはなかった。何となく皆に会わせて、何となく同調して、それが染みついて。
だから卒業後の進路も明かさずに故郷を捨てた僕には、中高の友人と呼べる人はいないんだよ。
管野には、この複雑な気持ちを、きちんと伝えておきたい。
「瑞樹ちゃん、どうした? 何を考え込んでいる?」
「僕には……高校時代、自分のせいで友人と呼べる友人がいなかったから、誘ってもらえて嬉しくて」
「よせやい! むしろ付き合ってくれてありがとう! 俺一人で会うより、瑞樹ちゃんと一緒の方が断然楽しいよ」
僕といるのが楽しい?
それって、嬉しい言葉だよ。
管野はいつも嬉しい言葉をハッキリ口に出して伝えてくれるので、励まされる。
出逢った頃から何も変わらない、優しくおおらかな人柄。
僕は何度も何度も、管野に救われた。
「じゃあ遠慮なく、僕も参加するよ」
「それがいい! それに白石と瑞樹ちゃんってさ、気が合いそうだぞ」
「えっ……そうなの? 白石 想くんだったよね」
貧血で倒れた彼は、端正で上品な雰囲気の男性だった。着ているスーツも腕時計も鞄も何もかも上質で、一目で育ちが良い人だと分かった。お母さんへの花束といい、きっと両親の愛情を一身に受けた人なのだろう。
眩しいような、親しい感じがする。
僕が、まだよく知らない人に、柔らかな感情を抱くのは珍しい。
「僕で大丈夫かな?」
「あぁ瑞樹ちゃんは、俺のお墨付きだ。天使と天使、最高の組み合わせだ」
「くすっ、ありがとう。あ、もう始業時間だ。行こう!」
部署に入ると、突然拍手が鳴り響いた。
ええっ何事!?
管野と顔を見合わせると、リーダーに呼ばれた。
「管野、葉山、お帰り! 二人とも一ヶ月よく頑張ったな!」
リーダーの力強い声に、感激した。
「ありがとうございます。今日からまたここで働きます。宜しくお願いします」
「あぁ、みんな二人の帰りを待っていたぞ」
同僚や先輩、後輩の笑顔や労いの声に囲まれて、やっぱりここが僕のホームだと実感する!
「それから昨日、会長から直々に電話があったぞ」
「えっ、そうなんですか」
「あぁ、べた褒めだった。『二人の働きぶりは完璧だった。特に仲間を大切にする心が良かった。我が社の社員の誇りだ』と仰っていたぞ」
「あ……ありがたいお言葉です」
「『本店に引き抜きたいが、土壌との相性を考えて我慢する。その代わりに、次の社内コンクールには、二人とも是非応募するように』とのお達しだ」
会長の信頼をそこまで得られたのが照れ臭くも嬉しくて、管野とハイタッチをした。
お互い一ヶ月がむしゃらに働き抜いたから、少しやつれて日焼けしていた。
それがまたよかった。
同じ場所にいた証しだからね。
管野とチームを組めて良かった。
これからもずっと一緒に仕事をしよう!
切磋琢磨していこう!
帰り支度をしていると、宗吾さんから電話があった。
「瑞樹、お疲れさん。そろそろ上がれそうか」
「はい、今から出ますので、芽生くんのお迎えは僕が行きますね」
「ありがとう。芽生、喜ぶよ。それで悪いが、そのまま実家に寄ってもらえるか。俺も後から合流するから」
「分かりました」
何だろう?
宗吾さんの実家に行くのも、一ヶ月ぶりだ。
僕が不在の間、一週間、宗吾さんと芽生くんがお世話なった。あの時は僕も飛んで帰りたくなった。皆の団欒に混ざりたくて、心が乱れてしまった。
見方を変えれば、最近の僕は感情をあまり溜め込まずに、外に出せるようになったという事なのかな?
まだ慣れない感情をつれて帰路に着いた。
****
「芽生くん、今日は朝からずっとご機嫌なのね。いつもなら疲れちゃう時間なのに」
「先生、あのね、お兄ちゃんがオオサカから帰ってきたんだよ」
「まぁ! あの綺麗なお兄さんが? よかったわね」
「そう! だからうれしくって!」
ほうかごスクールの先生って、だいすき! ボクのお兄ちゃんのことを、いつもほめてくれるから。
「それにしても大好きなお兄ちゃんが一ヶ月もいなかったら、さみしかったでしょう」
「うん……でも、もうダイジョウブだよ」(昨日おふろで赤ちゃんみたいに抱っこしてもらったのは、ヒミツだよ)
「あ、ほら、いらしたわよ、きゃー」
きゃー?って、せんせ?
「芽生くん! お迎えに来たよ」
スーツ姿のお兄ちゃんは少しひやけしたせいか、カッコいいよ!
きれいでカッコいいお兄ちゃんって、すごいかも。
せんせいが「キャー」っていうのも、わかるなぁ。
「芽生くん、今日はおばあちゃんの所に行くんだよ」
「わぁ! おばあちゃんもね、お兄ちゃんに会いたがっていたよ」
「本当に?」
「うん! マスコット作ってもらう時、お兄ちゃんの写真を見て『元気にやっているかしら』って、さみしそうだったもん。だから、よろこぶよ」
「嬉しいな。お兄ちゃんもお母さんに、とても会いたかったよ」
会いたいなって思うのって、ステキだね。
会いたいなって思ってもらうのも、いいなぁ。
「お兄ちゃん『会いたい』と『会いたい』とが、ごっつんこすると、なにができるでしょーか」
「うーん、なんだろう?」
「えへへ、かんたんだよ」
ニコッ! と笑うと、お兄ちゃんもにっこりしてくれたよ。
「あっ、笑顔かな?」
「あたりー! だって、どっちも、うれしいもんね。だからお兄ちゃん、笑って、いっぱい笑ってね」
「うん! うん! そうするよ」
お兄ちゃんの笑顔が見たくて、おねだりしちゃった。
今日からお兄ちゃんは、ずーっとお家にいるんだ。
ボクの会いたいとお兄ちゃんの会いたいも、ちゃんとごっつんこできてよかった!
今日からまたよろしくね。
ボクのだいすきなお兄ちゃん。
あとがき
****
運動会の話と並行して「今も初恋、この先も初恋」https://estar.jp/novels/25931194 の駿と想と近々ランチをする予定です。想と瑞樹を触れ合わせてあげたくなりました。未読でも分かるように書いていきますので、お付き合いのほど宜しくお願いします。
「管野、あの、ありがとう……僕を誘ってくれて」
振り返れば中学から高校にかけて、僕はどこまでも後ろ向きだった。
10歳で函館の家に引き取られ、年齢を重ねるにつれ自分が置かれている状況に苦しみを抱くようになった。どれだけの負担と迷惑をかけて置いてもらっているのかと勝手に嘆き、息を潜め、目立たずに、ただ時が過ぎていくのを待った。
本当に、ひとりよがりだった。
あの頃の僕に宗吾さんが逢ったら、きっとこんな風に言うだろう。
……
瑞樹は馬鹿だなぁ、そんなに他人行儀になるな!
どうしてそんなに頑ななんだ?
時をやり過ごすのではなく、ちゃんと息を吸って周りを見渡して見ろ! 世界は生きている!
……
函館のお母さんも広樹兄さんも潤も、僕を家族の一員として迎えてくれたのに、いつまでも僕がそんな調子だから、結局何も得られず、上手くいかなくなった。
人との間に高い壁を作ったのは、僕自身だ。
高校時代は、心から笑うことはなかった。何となく皆に会わせて、何となく同調して、それが染みついて。
だから卒業後の進路も明かさずに故郷を捨てた僕には、中高の友人と呼べる人はいないんだよ。
管野には、この複雑な気持ちを、きちんと伝えておきたい。
「瑞樹ちゃん、どうした? 何を考え込んでいる?」
「僕には……高校時代、自分のせいで友人と呼べる友人がいなかったから、誘ってもらえて嬉しくて」
「よせやい! むしろ付き合ってくれてありがとう! 俺一人で会うより、瑞樹ちゃんと一緒の方が断然楽しいよ」
僕といるのが楽しい?
それって、嬉しい言葉だよ。
管野はいつも嬉しい言葉をハッキリ口に出して伝えてくれるので、励まされる。
出逢った頃から何も変わらない、優しくおおらかな人柄。
僕は何度も何度も、管野に救われた。
「じゃあ遠慮なく、僕も参加するよ」
「それがいい! それに白石と瑞樹ちゃんってさ、気が合いそうだぞ」
「えっ……そうなの? 白石 想くんだったよね」
貧血で倒れた彼は、端正で上品な雰囲気の男性だった。着ているスーツも腕時計も鞄も何もかも上質で、一目で育ちが良い人だと分かった。お母さんへの花束といい、きっと両親の愛情を一身に受けた人なのだろう。
眩しいような、親しい感じがする。
僕が、まだよく知らない人に、柔らかな感情を抱くのは珍しい。
「僕で大丈夫かな?」
「あぁ瑞樹ちゃんは、俺のお墨付きだ。天使と天使、最高の組み合わせだ」
「くすっ、ありがとう。あ、もう始業時間だ。行こう!」
部署に入ると、突然拍手が鳴り響いた。
ええっ何事!?
管野と顔を見合わせると、リーダーに呼ばれた。
「管野、葉山、お帰り! 二人とも一ヶ月よく頑張ったな!」
リーダーの力強い声に、感激した。
「ありがとうございます。今日からまたここで働きます。宜しくお願いします」
「あぁ、みんな二人の帰りを待っていたぞ」
同僚や先輩、後輩の笑顔や労いの声に囲まれて、やっぱりここが僕のホームだと実感する!
「それから昨日、会長から直々に電話があったぞ」
「えっ、そうなんですか」
「あぁ、べた褒めだった。『二人の働きぶりは完璧だった。特に仲間を大切にする心が良かった。我が社の社員の誇りだ』と仰っていたぞ」
「あ……ありがたいお言葉です」
「『本店に引き抜きたいが、土壌との相性を考えて我慢する。その代わりに、次の社内コンクールには、二人とも是非応募するように』とのお達しだ」
会長の信頼をそこまで得られたのが照れ臭くも嬉しくて、管野とハイタッチをした。
お互い一ヶ月がむしゃらに働き抜いたから、少しやつれて日焼けしていた。
それがまたよかった。
同じ場所にいた証しだからね。
管野とチームを組めて良かった。
これからもずっと一緒に仕事をしよう!
切磋琢磨していこう!
帰り支度をしていると、宗吾さんから電話があった。
「瑞樹、お疲れさん。そろそろ上がれそうか」
「はい、今から出ますので、芽生くんのお迎えは僕が行きますね」
「ありがとう。芽生、喜ぶよ。それで悪いが、そのまま実家に寄ってもらえるか。俺も後から合流するから」
「分かりました」
何だろう?
宗吾さんの実家に行くのも、一ヶ月ぶりだ。
僕が不在の間、一週間、宗吾さんと芽生くんがお世話なった。あの時は僕も飛んで帰りたくなった。皆の団欒に混ざりたくて、心が乱れてしまった。
見方を変えれば、最近の僕は感情をあまり溜め込まずに、外に出せるようになったという事なのかな?
まだ慣れない感情をつれて帰路に着いた。
****
「芽生くん、今日は朝からずっとご機嫌なのね。いつもなら疲れちゃう時間なのに」
「先生、あのね、お兄ちゃんがオオサカから帰ってきたんだよ」
「まぁ! あの綺麗なお兄さんが? よかったわね」
「そう! だからうれしくって!」
ほうかごスクールの先生って、だいすき! ボクのお兄ちゃんのことを、いつもほめてくれるから。
「それにしても大好きなお兄ちゃんが一ヶ月もいなかったら、さみしかったでしょう」
「うん……でも、もうダイジョウブだよ」(昨日おふろで赤ちゃんみたいに抱っこしてもらったのは、ヒミツだよ)
「あ、ほら、いらしたわよ、きゃー」
きゃー?って、せんせ?
「芽生くん! お迎えに来たよ」
スーツ姿のお兄ちゃんは少しひやけしたせいか、カッコいいよ!
きれいでカッコいいお兄ちゃんって、すごいかも。
せんせいが「キャー」っていうのも、わかるなぁ。
「芽生くん、今日はおばあちゃんの所に行くんだよ」
「わぁ! おばあちゃんもね、お兄ちゃんに会いたがっていたよ」
「本当に?」
「うん! マスコット作ってもらう時、お兄ちゃんの写真を見て『元気にやっているかしら』って、さみしそうだったもん。だから、よろこぶよ」
「嬉しいな。お兄ちゃんもお母さんに、とても会いたかったよ」
会いたいなって思うのって、ステキだね。
会いたいなって思ってもらうのも、いいなぁ。
「お兄ちゃん『会いたい』と『会いたい』とが、ごっつんこすると、なにができるでしょーか」
「うーん、なんだろう?」
「えへへ、かんたんだよ」
ニコッ! と笑うと、お兄ちゃんもにっこりしてくれたよ。
「あっ、笑顔かな?」
「あたりー! だって、どっちも、うれしいもんね。だからお兄ちゃん、笑って、いっぱい笑ってね」
「うん! うん! そうするよ」
お兄ちゃんの笑顔が見たくて、おねだりしちゃった。
今日からお兄ちゃんは、ずーっとお家にいるんだ。
ボクの会いたいとお兄ちゃんの会いたいも、ちゃんとごっつんこできてよかった!
今日からまたよろしくね。
ボクのだいすきなお兄ちゃん。
あとがき
****
運動会の話と並行して「今も初恋、この先も初恋」https://estar.jp/novels/25931194 の駿と想と近々ランチをする予定です。想と瑞樹を触れ合わせてあげたくなりました。未読でも分かるように書いていきますので、お付き合いのほど宜しくお願いします。
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