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小学生編
ひと月、離れて(with ポケットこもりん)24
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宗吾さんと芽生坊が駆けつけてくれて、良かった。
本当に、間に合って良かった。
まさか葉山があそこまで追い詰められていたなんて……
俺……気づかずに……すまなかった。
葉山があっという間に闇に落ちていく様子を、最初から最後まで目の当たりにして、ショックだった。
葉山の過去を思えば、幼い頃に家族を失った交通事故がトラウマなのは分かっていたくせに、俺は先程の出来事を楽観視していたんだ。
甘かったな……
どんなに俺が手を伸ばしても、救えなかった。
葉山の消え行く意識は、この手には掴めなかった。
それが悔しくて悲しくて、申し訳なくて、まだ手の震えが止まらない。
俺に出来たことは意識を取り戻した葉山に努めて明るく振る舞い、無事をアピールすることだけだった。
自室で拳を作ってぼんやりと見つめていると、風太がそっと手を重ねてくれた
「菅野くん、もしかして……何か悔やんでいますか」
「……風太には、お見通しだな」
「葉山くんのことですね」
「あぁ……俺は無力だった。葉山の役に立ちたかったのに、力になれないのが、もどかしいよ」
風太が俺のギュッと握った指を1本1本、優しく解いてくれる。
「菅野くん……そもそも人は皆、無力なのかもしれませんよ。でも僕は何も出来ないからと、知らんぷりをして通り過ぎるのではなく、立ち止まって……相手に心を寄り沿わすことが出来る人でありたいです。人は皆『微力』を持っていると思っています。微力も集まれば大きなパワーになりますよ!」
風太の言葉がストンと落ちてくる。
「『無力』と言い切るのではなく『微力』か。そう思うと救われるな」
「はい、それに……菅野くんが今日、交通事故に巻き込まれずに無事な姿を見せられたのは……事故にトラウマを抱える瑞樹くんの救いになるでしょう。全ての出来事には意味があるのです」
「あ……ありがとう。風太の言葉には救われるよ」
「こんな僕でも、微力ながら菅野くんの気持ちを上向きに出来ましたか。小森風太は、菅野くんの心のお守りになっていますか」
風太が小首を傾げて、問いかけてくる。
その可愛らしい表情に、愛おしさが増した。
「風太はいつだって俺のお守りだ! でも……やっぱりこの方がいいな。元の大きさに戻ってくれてありがとう」
風太をふんわりと抱きしめると、目の端に光るものがあった。
「どうした? 泣いているのか」
「嬉しいんですよ……最初は小さくなって一緒に旅が出来るなんて嬉しくてワクワクしていたのですが……だんだん寂しくなって、不安になって……二度と戻れないかと怖かったんです」
あどけない顔がぐしゃっと歪んで、ポロポロと涙が溢れ出てきた。
「だから……戻れてよかったぁ……ううっ……ぐすつ」
「あぁ……泣くな。風太」
強く抱きしめてやる。
元の大きさといっても、俺より二回りは小さい少年のような身体。
「怖かったな」
「はい……小さいと出来ないことが多かったんです。心もお腹もすぐに一杯になってしまって、菅野くんとちゃんと向き合えなくて」
「可愛いことを……なぁ、キスしてもいいか」
「はい! ずっと、ちゃんとしたかったです!」
優しく風太の顎を掴んで、唇を押し当てた。
実に1ヶ月ぶりのキスだった。
「甘いな」
「はい……かんのくーん」
俺はそのまま風太をベッドに押し倒して、キスの雨を降らした。
額、頬、唇。
ずっとずっと、こうしたかった。
小さな風太も可愛かったが、こんなこともあんなことも出来ないので困っていたのさ。
「あの……僕……元に戻れたら、したかったことがあるんです」
「何?」
「ここに……触れてもいいですか」
風太がにっこり笑って、あんこを探すような目つきで俺のズボンに手をかけたので、変な悲鳴を上げそうになった。
「や、やめ……だめ、だめだぁー!」
「え? どうしてですか」
「と、隣に芽生坊が」
「あ! そ、そうでしたね。ごめんなさい」
二人で真っ赤か。
「ははっ」
「えへへ」
額をコツンと合わせて、今度は照れ笑い。
「続きは東京に戻ったら、是非して欲しい」
「はい!」
そのままシングルベッドに、一緒に横になった。大きくなった風太とでは手狭だったが、腰をぐいと抱き寄せて密着させるには、丁度良い幅だった。
「か……かんのくーん。あ、あのぅ……」
「どうした?」
「あ、あのですね……」
修行を積んだ風太は少しだけ大人の階段を上ったのか、今日はまだ「あんこ」と言わないなと思っていたが、そろそろ限界だろうな。
「あんこか?」
「あ……はい! あのあのあの、朝ご飯は……あんこがいいですぅ」
「……ははっ、だよな。大丈夫! 朝にはあんこのご褒美だ。今日はよく頑張ったもんな。二度も窮地を救ってくれてありがとう。風太はカッコイイ!」
「わぁ……もっと……褒めてください」
「あぁ、風太はいい子でカッコイイ、そして可愛い」
「もっと……」
「風太、愛してる」
「……」
耳元で甘く囁いているうちに、眠ってしまったようだ。
寝るの早っ!
「……もう寝ちゃったのか。でも無理もないか。今日は力を使って疲れたよな……ありがとう」
風太に救われ、励まされ、癒やされた。
希望に満ちた夜だった。
「ずっと一緒にいような、俺たちも」
****
夜中にふと目覚めると、僕は二人の体温と寝息に包まれていた。
あの日、もう二度と僕の涙を拭いてくれる人はいないと絶望したが、それは違った。
今の僕には……
泣けば駆けつけてくれ、震えれば温めてくれる人がいる。
あの日諦めた温もりは、消えてなかった。
宗吾さんと芽生くんが傍にいる限り、大丈夫なんだ。
そう思うと、ようやくほっと出来た。
「ふぅ……良かった」
「……瑞樹、どうした? 眠れないのか」
「えっ」
声をかけられたので慌てて身体の向きを変えると、宗吾さんと目が合った。
「あ……あの……宗吾さん……もしかして、ずっと……起きて」
「あぁ1ヶ月ぶりに会えたから興奮して眠れない。君をずっと見ていたくなった」
「宗吾さん……さっきは……すみ……」
酷い醜態を見せてしまったのを謝ろうと思ったら、チュッと唇を重ねられた。
「ストップ! 瑞樹、俺はこっちの方が嬉しいぞ」
本当に、間に合って良かった。
まさか葉山があそこまで追い詰められていたなんて……
俺……気づかずに……すまなかった。
葉山があっという間に闇に落ちていく様子を、最初から最後まで目の当たりにして、ショックだった。
葉山の過去を思えば、幼い頃に家族を失った交通事故がトラウマなのは分かっていたくせに、俺は先程の出来事を楽観視していたんだ。
甘かったな……
どんなに俺が手を伸ばしても、救えなかった。
葉山の消え行く意識は、この手には掴めなかった。
それが悔しくて悲しくて、申し訳なくて、まだ手の震えが止まらない。
俺に出来たことは意識を取り戻した葉山に努めて明るく振る舞い、無事をアピールすることだけだった。
自室で拳を作ってぼんやりと見つめていると、風太がそっと手を重ねてくれた
「菅野くん、もしかして……何か悔やんでいますか」
「……風太には、お見通しだな」
「葉山くんのことですね」
「あぁ……俺は無力だった。葉山の役に立ちたかったのに、力になれないのが、もどかしいよ」
風太が俺のギュッと握った指を1本1本、優しく解いてくれる。
「菅野くん……そもそも人は皆、無力なのかもしれませんよ。でも僕は何も出来ないからと、知らんぷりをして通り過ぎるのではなく、立ち止まって……相手に心を寄り沿わすことが出来る人でありたいです。人は皆『微力』を持っていると思っています。微力も集まれば大きなパワーになりますよ!」
風太の言葉がストンと落ちてくる。
「『無力』と言い切るのではなく『微力』か。そう思うと救われるな」
「はい、それに……菅野くんが今日、交通事故に巻き込まれずに無事な姿を見せられたのは……事故にトラウマを抱える瑞樹くんの救いになるでしょう。全ての出来事には意味があるのです」
「あ……ありがとう。風太の言葉には救われるよ」
「こんな僕でも、微力ながら菅野くんの気持ちを上向きに出来ましたか。小森風太は、菅野くんの心のお守りになっていますか」
風太が小首を傾げて、問いかけてくる。
その可愛らしい表情に、愛おしさが増した。
「風太はいつだって俺のお守りだ! でも……やっぱりこの方がいいな。元の大きさに戻ってくれてありがとう」
風太をふんわりと抱きしめると、目の端に光るものがあった。
「どうした? 泣いているのか」
「嬉しいんですよ……最初は小さくなって一緒に旅が出来るなんて嬉しくてワクワクしていたのですが……だんだん寂しくなって、不安になって……二度と戻れないかと怖かったんです」
あどけない顔がぐしゃっと歪んで、ポロポロと涙が溢れ出てきた。
「だから……戻れてよかったぁ……ううっ……ぐすつ」
「あぁ……泣くな。風太」
強く抱きしめてやる。
元の大きさといっても、俺より二回りは小さい少年のような身体。
「怖かったな」
「はい……小さいと出来ないことが多かったんです。心もお腹もすぐに一杯になってしまって、菅野くんとちゃんと向き合えなくて」
「可愛いことを……なぁ、キスしてもいいか」
「はい! ずっと、ちゃんとしたかったです!」
優しく風太の顎を掴んで、唇を押し当てた。
実に1ヶ月ぶりのキスだった。
「甘いな」
「はい……かんのくーん」
俺はそのまま風太をベッドに押し倒して、キスの雨を降らした。
額、頬、唇。
ずっとずっと、こうしたかった。
小さな風太も可愛かったが、こんなこともあんなことも出来ないので困っていたのさ。
「あの……僕……元に戻れたら、したかったことがあるんです」
「何?」
「ここに……触れてもいいですか」
風太がにっこり笑って、あんこを探すような目つきで俺のズボンに手をかけたので、変な悲鳴を上げそうになった。
「や、やめ……だめ、だめだぁー!」
「え? どうしてですか」
「と、隣に芽生坊が」
「あ! そ、そうでしたね。ごめんなさい」
二人で真っ赤か。
「ははっ」
「えへへ」
額をコツンと合わせて、今度は照れ笑い。
「続きは東京に戻ったら、是非して欲しい」
「はい!」
そのままシングルベッドに、一緒に横になった。大きくなった風太とでは手狭だったが、腰をぐいと抱き寄せて密着させるには、丁度良い幅だった。
「か……かんのくーん。あ、あのぅ……」
「どうした?」
「あ、あのですね……」
修行を積んだ風太は少しだけ大人の階段を上ったのか、今日はまだ「あんこ」と言わないなと思っていたが、そろそろ限界だろうな。
「あんこか?」
「あ……はい! あのあのあの、朝ご飯は……あんこがいいですぅ」
「……ははっ、だよな。大丈夫! 朝にはあんこのご褒美だ。今日はよく頑張ったもんな。二度も窮地を救ってくれてありがとう。風太はカッコイイ!」
「わぁ……もっと……褒めてください」
「あぁ、風太はいい子でカッコイイ、そして可愛い」
「もっと……」
「風太、愛してる」
「……」
耳元で甘く囁いているうちに、眠ってしまったようだ。
寝るの早っ!
「……もう寝ちゃったのか。でも無理もないか。今日は力を使って疲れたよな……ありがとう」
風太に救われ、励まされ、癒やされた。
希望に満ちた夜だった。
「ずっと一緒にいような、俺たちも」
****
夜中にふと目覚めると、僕は二人の体温と寝息に包まれていた。
あの日、もう二度と僕の涙を拭いてくれる人はいないと絶望したが、それは違った。
今の僕には……
泣けば駆けつけてくれ、震えれば温めてくれる人がいる。
あの日諦めた温もりは、消えてなかった。
宗吾さんと芽生くんが傍にいる限り、大丈夫なんだ。
そう思うと、ようやくほっと出来た。
「ふぅ……良かった」
「……瑞樹、どうした? 眠れないのか」
「えっ」
声をかけられたので慌てて身体の向きを変えると、宗吾さんと目が合った。
「あ……あの……宗吾さん……もしかして、ずっと……起きて」
「あぁ1ヶ月ぶりに会えたから興奮して眠れない。君をずっと見ていたくなった」
「宗吾さん……さっきは……すみ……」
酷い醜態を見せてしまったのを謝ろうと思ったら、チュッと唇を重ねられた。
「ストップ! 瑞樹、俺はこっちの方が嬉しいぞ」
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