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小学生編
HAPPY SUMMER CAMP!㊵
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コーヒーのお代わりを淹れていると、翠が横にやってきて作務衣の袖をクイッと引っ張った。視線を巡らせると、一番奥の席に丈と洋が座っていた。
「流、ご覧よ、あの二人が珍しく……声を出して笑っているんだ」
丈と洋は人一番親密な距離で見つめ合っていた。そして何が可笑しいのか、丈は目尻に深い皺を作って口元に手の甲をあて肩を揺らし、洋くんは可愛く腹を抱えていた。
「あぁ、本当だな」
「流、笑顔っていいね……喜怒哀楽……人生は山あり谷ありだが、やっぱり最後は笑顔がいいね」
翠がアーモンドのような美しい瞳を、スッと細める。
翠のその笑顔が好きだ。
全てを見守る澄んだ瞳、清流のような透明感がいい。
「朝食を終えたら……そろそろ片付けて帰らないとね」
「そうだな……翠、どうだった?」
「楽しかったよ、こんな風に大勢でワイワイするのは不慣れだったが、のびのびと過ごせたよ」
「翠は随分、解放感一杯だったよな。ここも……ぷりんぷりんだったしな」
「ちょっ!」
さり気なく翠の臀部に手を這わせると、ぴしゃりと払われた。
「ケチだな」
「流……!」
「ははっ、続きは各々の家でだな。あそこに俺より気の毒なヤツがいるようだし」
また小森のあんこ攻撃でも受けたのか、菅野くんが真っ赤になって苦しそうになっていた。
****
「菅野? どうした? 具合でも悪いのか」
「瑞樹ちゃん!」
菅野が赤くなったり青くなったりしているので、芽生くんを宗吾さんに預けて近づくと突然グイッと手を引かれた。
「ど、どこに行くの?」
「連れション」
「え?」
……久しぶりに聞く単語だ。
「お腹でも壊したの? あ、もしかしてあんこの食べ過ぎじゃ……」
「違う~! だけれどあんこの呪いを受けた」
「くすっ、菅野ってば」
トイレの前で、真剣な顔で問われた。
「瑞樹ちゃん、遊園地でこもりんに色気を授けてくれたんじゃないのか」
「え? あぁ……そんなこともあったよね。その後、どう? 進んだ?」
僕たち、まるで高校生みたいな会話だ。こんなくだけた内容は、菅野としか出来ないよ。
「全然ってか……キャンプに来て逆に退いた気がする」
「えぇ! それは困ったね。うーんもう僕じゃ役不足なのかも。いっそ同じような初々しいカップルの知り合いはいないの? そういう人たちの方が小森くんも恋愛を理解しやすいんじゃないのかな?」
「初々しいカップル……?」
「うん……出来れば付き合い出したばかりの男同士が望ましいけど……そんなに身近に何組もはいないよね? 今日のメンバーはみんな出来上がっているし……あっコホン……ぼ、僕たちのことは置いておいて」
そこまで話すと、菅野が目を輝かせた。
「いる……実はいるんだ! この前……江ノ島のデート中に偶然出くわした高校の同級生同士が付き合っていたんだ」
「わぁ……それってすごいことだよ」
「そういえば、向こうもまだキスだけで、初々しかったよ」
「それだよ! 初心に戻るのが大事だよ。小森くんに初恋の味を覚えさせるんだ。あんこの味じゃなくて」
菅野の肩を両手で揺らすと、菅野がギョッとした。
「うはっ、今、俺を揺らすな。刺激が……ちょっと個室を見張っていてくれよ」
「う……うん」
個室で……菅野が溜まりに溜まった欲望を吐き出しているのかと思うと、猛烈に照れ臭い。
そういう……僕も欲求不満かも。
なんて言ったら……宗吾さんが喜ぶだけだから、黙っておこう。
キャンプは間もなくお開きだ。
それぞれが、それぞれの家……それぞれの愛の巣に戻っていくのだ。
朝食後は速やかにテントを片付け、協力して荷造りをし、現地解散することになった。
楽しかった夏のキャンプも、ついに終わりだ。
そこで誰もが予期していた通り、まずいっくんが泣いた。
「やだ、やだ、やだ! いっくん……もっと、ここいる」
「いっくん、もうみんな帰る時間よ」
「やー、やーだ! まだあそぶぅ」
うんうん、きっと誰もが通る道だよね。
僕にだってあったよ。
あのね、まだ夏樹が生まれる前、僕はとても甘えっ子で駄々っ子だったんだよ。お母さんが大好きで一緒にお出かけをすると、いつも帰りたくなくて、しくしく泣いてしまったんだよ。
そんな姿と被った。
「めーくんとも、もっとあそびたいもん」
いっくんは……きっと今まで聞き分けよく我慢の連続だったのだろう。甘えてもいいことを知ったばかりだ。無理もない。
潤の腕の中で、手足をばたつかせて暴れていた。
「いっくん、落っこちちゃうぞ。ちょっと落ち着けって」
「樹、聞き分けよくないわよ、もう連れて来ないわよ!」
芽生くんが背伸びして、いっくんの手を握ってあげた。
「いっくん、また集まろうね。また来ようね」
「めーくん、また……?」
「ねっ、お兄ちゃん、また来るでしょ?」
「また……」
それは、ずっとが苦手だった言葉だ。
『瑞樹、また一緒にピクニックしようね』
お母さんが叶えられなかったあの日の言葉は、僕が叶える。
叶えていけばいい。
「……もう……ないの?」
「そんなことない! また絶対にしよう! いっくんも誘って、みんなで賑やかに集まろう。また!」
そこからは誰もが『また集まろう』を合い言葉に、四方八方に車で散っていった。
最後に残ったのは元締めの僕たち家族だ。キャンプの事務所で精算をして、いよいよ僕らも帰路に就く。
「芽生くん、僕らも帰ろうか」
さっきからじっと俯いていた芽生くんの握りこぶしが、カタカタと震える。
「お……お兄ちゃん、ボクも……ほんとは……」
「うん、うん……お兄ちゃんもだよ。楽しかったもんね」
「みんな楽しくて、やさしくて……いっくんとも、またあいたいし……ぐすっ、うぇーん、ボクもかえりたくないよぅ!」
芽生くんもひとしきり泣いた。
泣いて泣いて、すっきりしたようだ。
僕はしゃがんで芽生くんの背中をずっと撫でてあげた。
お母さん、あなたが……幼い僕にしてくれたように。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
「また、来ようね」
「うん、うん……約束してぇ」
「するよ。約束するよ。まだまだ一緒に思い出を作らせて」
僕らのサマーキャンプの物語は、今回はここまで。
でもきっとまた、続きを語る日が来ると思う。
その時はどうか、また耳を傾けて欲しい。
HAPPY SUMMER CAMP!!
楽しかったよ。
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
****
HAPPY SUMMER CAMPも今日でゴールです。
もう9月下旬になっていましたね。
40日間もキャンプの話を読んで下さって、ありがとうございました!
「流、ご覧よ、あの二人が珍しく……声を出して笑っているんだ」
丈と洋は人一番親密な距離で見つめ合っていた。そして何が可笑しいのか、丈は目尻に深い皺を作って口元に手の甲をあて肩を揺らし、洋くんは可愛く腹を抱えていた。
「あぁ、本当だな」
「流、笑顔っていいね……喜怒哀楽……人生は山あり谷ありだが、やっぱり最後は笑顔がいいね」
翠がアーモンドのような美しい瞳を、スッと細める。
翠のその笑顔が好きだ。
全てを見守る澄んだ瞳、清流のような透明感がいい。
「朝食を終えたら……そろそろ片付けて帰らないとね」
「そうだな……翠、どうだった?」
「楽しかったよ、こんな風に大勢でワイワイするのは不慣れだったが、のびのびと過ごせたよ」
「翠は随分、解放感一杯だったよな。ここも……ぷりんぷりんだったしな」
「ちょっ!」
さり気なく翠の臀部に手を這わせると、ぴしゃりと払われた。
「ケチだな」
「流……!」
「ははっ、続きは各々の家でだな。あそこに俺より気の毒なヤツがいるようだし」
また小森のあんこ攻撃でも受けたのか、菅野くんが真っ赤になって苦しそうになっていた。
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「菅野? どうした? 具合でも悪いのか」
「瑞樹ちゃん!」
菅野が赤くなったり青くなったりしているので、芽生くんを宗吾さんに預けて近づくと突然グイッと手を引かれた。
「ど、どこに行くの?」
「連れション」
「え?」
……久しぶりに聞く単語だ。
「お腹でも壊したの? あ、もしかしてあんこの食べ過ぎじゃ……」
「違う~! だけれどあんこの呪いを受けた」
「くすっ、菅野ってば」
トイレの前で、真剣な顔で問われた。
「瑞樹ちゃん、遊園地でこもりんに色気を授けてくれたんじゃないのか」
「え? あぁ……そんなこともあったよね。その後、どう? 進んだ?」
僕たち、まるで高校生みたいな会話だ。こんなくだけた内容は、菅野としか出来ないよ。
「全然ってか……キャンプに来て逆に退いた気がする」
「えぇ! それは困ったね。うーんもう僕じゃ役不足なのかも。いっそ同じような初々しいカップルの知り合いはいないの? そういう人たちの方が小森くんも恋愛を理解しやすいんじゃないのかな?」
「初々しいカップル……?」
「うん……出来れば付き合い出したばかりの男同士が望ましいけど……そんなに身近に何組もはいないよね? 今日のメンバーはみんな出来上がっているし……あっコホン……ぼ、僕たちのことは置いておいて」
そこまで話すと、菅野が目を輝かせた。
「いる……実はいるんだ! この前……江ノ島のデート中に偶然出くわした高校の同級生同士が付き合っていたんだ」
「わぁ……それってすごいことだよ」
「そういえば、向こうもまだキスだけで、初々しかったよ」
「それだよ! 初心に戻るのが大事だよ。小森くんに初恋の味を覚えさせるんだ。あんこの味じゃなくて」
菅野の肩を両手で揺らすと、菅野がギョッとした。
「うはっ、今、俺を揺らすな。刺激が……ちょっと個室を見張っていてくれよ」
「う……うん」
個室で……菅野が溜まりに溜まった欲望を吐き出しているのかと思うと、猛烈に照れ臭い。
そういう……僕も欲求不満かも。
なんて言ったら……宗吾さんが喜ぶだけだから、黙っておこう。
キャンプは間もなくお開きだ。
それぞれが、それぞれの家……それぞれの愛の巣に戻っていくのだ。
朝食後は速やかにテントを片付け、協力して荷造りをし、現地解散することになった。
楽しかった夏のキャンプも、ついに終わりだ。
そこで誰もが予期していた通り、まずいっくんが泣いた。
「やだ、やだ、やだ! いっくん……もっと、ここいる」
「いっくん、もうみんな帰る時間よ」
「やー、やーだ! まだあそぶぅ」
うんうん、きっと誰もが通る道だよね。
僕にだってあったよ。
あのね、まだ夏樹が生まれる前、僕はとても甘えっ子で駄々っ子だったんだよ。お母さんが大好きで一緒にお出かけをすると、いつも帰りたくなくて、しくしく泣いてしまったんだよ。
そんな姿と被った。
「めーくんとも、もっとあそびたいもん」
いっくんは……きっと今まで聞き分けよく我慢の連続だったのだろう。甘えてもいいことを知ったばかりだ。無理もない。
潤の腕の中で、手足をばたつかせて暴れていた。
「いっくん、落っこちちゃうぞ。ちょっと落ち着けって」
「樹、聞き分けよくないわよ、もう連れて来ないわよ!」
芽生くんが背伸びして、いっくんの手を握ってあげた。
「いっくん、また集まろうね。また来ようね」
「めーくん、また……?」
「ねっ、お兄ちゃん、また来るでしょ?」
「また……」
それは、ずっとが苦手だった言葉だ。
『瑞樹、また一緒にピクニックしようね』
お母さんが叶えられなかったあの日の言葉は、僕が叶える。
叶えていけばいい。
「……もう……ないの?」
「そんなことない! また絶対にしよう! いっくんも誘って、みんなで賑やかに集まろう。また!」
そこからは誰もが『また集まろう』を合い言葉に、四方八方に車で散っていった。
最後に残ったのは元締めの僕たち家族だ。キャンプの事務所で精算をして、いよいよ僕らも帰路に就く。
「芽生くん、僕らも帰ろうか」
さっきからじっと俯いていた芽生くんの握りこぶしが、カタカタと震える。
「お……お兄ちゃん、ボクも……ほんとは……」
「うん、うん……お兄ちゃんもだよ。楽しかったもんね」
「みんな楽しくて、やさしくて……いっくんとも、またあいたいし……ぐすっ、うぇーん、ボクもかえりたくないよぅ!」
芽生くんもひとしきり泣いた。
泣いて泣いて、すっきりしたようだ。
僕はしゃがんで芽生くんの背中をずっと撫でてあげた。
お母さん、あなたが……幼い僕にしてくれたように。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
「また、来ようね」
「うん、うん……約束してぇ」
「するよ。約束するよ。まだまだ一緒に思い出を作らせて」
僕らのサマーキャンプの物語は、今回はここまで。
でもきっとまた、続きを語る日が来ると思う。
その時はどうか、また耳を傾けて欲しい。
HAPPY SUMMER CAMP!!
楽しかったよ。
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
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HAPPY SUMMER CAMPも今日でゴールです。
もう9月下旬になっていましたね。
40日間もキャンプの話を読んで下さって、ありがとうございました!
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