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小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!㉝

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「宗吾、準備が出来たぞ。先に入れ」
「あ……あぁ……五右衛門風呂なんて冗談かと思ったのに」

 学生時代キャンプや山登りにハマった時期もあったが、五右衛門風呂は初体験だ。こんなのドラマの世界だけかと思ったぜ。

 五右衛門風呂とは……かまどを築いて鉄の釜(今日はドラム缶)を載せた風呂のことで、人が入る時は木の蓋を踏み沈めて底にするんだったよな。

「俺は大概の物は作れるんだ」
「……翠さんのためにか」
「あぁ……実は、兄さんの胸元には火傷傷があったんだ。だから気兼ねなく野外で風呂に入ってもらいたくて……以前も作ったことがあるんだ。兄さんはあぁ見えて強がりだから、顔をあげて凜としていたが、全ての鎧を置いて、素のままになって欲しくてな……」

 どうやらこの兄弟には、俺には計り知れない歴史があるようだ。生まれた時から傍にいる者同士が、禁断の愛に踏み入るには勇気がいっただろう。

 薪をくべる流の額に、一筋の汗が流れる。

「ふぅ暑いな。俺も次に入るから、早く裸になれよ」
「あぁ」

 流の前で、何を隠す必要がある。

 俺は潔く裸になると、流も暑かったらしく作務衣の上衣をバサッと脱ぎ捨てた。

 圧倒的な筋肉美、ジムなどで人工的に作りあげた身体とは別次元の漲る雄々しさに息を呑んだ。

「これは敵わないな」
「ん? 誰にだ?」
「流には敵わないよ。どう足掻いても流のような身体にはなれない」

 少し不貞腐れたように言うと、流が笑って俺の背中をバンバンと叩いた。
 
「…… 宗吾は身体でキャーって言われるタイプじゃないだろ。行動力でキャーって言われるタイプだせ。瑞樹くんも、そんな宗吾に惚れまくっているようだぞ」
「流……お前いい奴だな」
「今頃知ったのか」

 場が一気に和んでいく。

 お世辞やおべっかではなく……自然に相手を立てることを知るヤツとの付き合いは、いいな。一方通行でない心の交流は、恋人だけの特権ではない。

 友も親も、人と人は……心を通わせて生きていくものだ。

 ひとりよがりだった時代には、築けなかった関係だ。

 瑞樹と知り合ってから、彼の控えめな優しさを見守るうちに、知らず知らずのうちに俺にも芽生えてきた。

「宗吾、湯加減、どうだ?」
「底の方が熱い!」
「はは、我慢しろ。男が我慢すればするほど男が上がるんだぜ」
「そんな教訓あったのか」
「俺が作った!」
「そうか……いい湯だな」

 辛く険しい道を歩んで来たから、そんなにも卓越しているのか。

 だからあんなに優しい眼差しで翠さんを見つめているのか。

「宗吾も俺も結構眼力が強い方だ思うが、恋人には甘いよな」
「そうだな。幸せなんだ。ただそこにいてくれるだけで」
「分かる。それが幸せな存在というものなんだな」
「あぁ……流も風呂に入れよ」

 俺と入れ替わりに、流が風呂に浸かる。

「星が綺麗だな」
「あぁ……掴めそうなほどに」
「兄弟星というのがあるのを知っているか」
「あぁ……夫婦星とも言われるのだろう」
 「兄弟であっても……恋人で、夫夫でいてもいいと言ってもらえるようで好きなんだ」
「分かる……」

 俺たちは『純愛』を貫いている。
 そこには、ただ愛しい人がいるだけだ。

「分かってくれるのか」
「あぁ、とても」
「俺と翠の関係は……禁忌なので……滅多に人には言えないんだ」
「俺にはこれからも話してくれ」
 
 流の愛を、禁忌だとか禁断だとか、忌み嫌うはずがない。

 俺と瑞樹の愛と寸分も変わらない崇高な愛だ。
  
 惚気自慢になるかと思ったが、共感し合ってばかりだ。

「宗吾には何でも話せるな」

 風呂からザブンと上がった流の裸体に、思わず「おぉ! すごいな」を声を漏らしそうになった。

「おい、だが……パンツくらいつけないとまずいんじゃ」
「この時間だ、お隣のログハウスの電気も消えている。大丈夫だろ」
「だが……公衆衛生上ヤバイって」

 流石に大の男が二人真っ裸では通報レベルだぜ。

「そうだ。いい物を持ってきたんだ」

 流が悪戯げに微笑みながら、旅行鞄からガサゴソと取り出したのは……

「なんだ? それ」
「知らないのか」
「知らない……そんな長い布、一体何に使うんだ?」

 まさか……まさか! 翠さんが縛りあげるつもりか!

 楚々としながらも艶めいた翠さんが、白い布で縛りあげられている場面を妄想すると(妄想するな!)……体中が火照ってきた。

 流たちって、そんな趣味があったのか。もしも……もしもだぞ……これを俺が手に入れたら、瑞樹に使うことになったら……

 そんな妄想してはダメだぁー!

 居ても立っても居られなくなり……一気に走り出しそうになると、ポンっと流が俺にそれを手渡した。

「ほれ、宗吾も使えよ」
「えぇぇぇー!」

 飛び上がるほどの大声をあげそうになると、流に押さえつけられた。

 寝床に用意したハンモックがミシッとしなる。

 俺と流の体重では、折れるぞ!

「○×△~!」
「馬鹿、黙れ。みんな起きちまうだろう!」

 俺たち真っ裸だから、ひぃ~ 肌が密着している。

 俺の上の流が乗り上げている構図に、また悲鳴をあげそうになった。

 その時茂みが動く……ヤバイ! 人が来た!

 茂みから顔をひょっこり顔を出したのは……




 小坊主こもりんだった!

 寝惚けているのか、目を擦りながら……ムニャムニャと口を開く。


「ありゃ? あれれ……流さん……と宗吾さんは……一体何をしているんですか」
「おぉ、小森、宗吾を静めてくれよ」
「鎮めるのですね……でも、僕……漏れちゃうです」
「あぁ……小便か、行け行け!」
「はぁい……えっと……こういう時は……ごゆっくりぃ……南無」

 気が抜ける……一気に抜ける。

 小森は天然大爆発中だ。

「あいつ、面白いよな」
「流……さっきの何だよ?」
「何って、ふんどしだ」
「褌!」
「一体何を妄想してたんだ。鼻の下をびよーんと伸ばして」

 やべっ、瑞樹を白い紐で縛って胸の尖りを強調させ、足を開かせたまま縛り付け……なんて妄想していたなんて、死んでも言えねー!

「はは、まぁ仕方が無い。宗吾も俺も、立派な煩悩族だろ。しかし飲みが足りないようだな。まぁ飲め飲め」

 シュルル……と目の前で器用に流が褌をつけていく。

 肉体美を誇る流だから、褌が似合う!

 張り合いたい気持ちがメラメラと……芽生えてくる。
 
「俺もつける!」

 冷静になれば脱いだ服を着ればいいだけなのだが、ここはキャンプ場だ。

 羽目を外して遊びたい気分だ。

「宗吾のそういう所、好きだぜ」
「だろ?」
「つけてやるが、俺に欲情すんなよ」
「俺のセンサーは瑞樹だけだ、妄想だけで勃つ!」
「あーあ、……宗吾は昔の俺みたいだな」
「昔にすんな!」

 流に手捌きは見事で、あっという間に俺も褌姿になっていた。

「滅茶苦茶スースーするな」
「これをさ、翠がすると最高なんだよ。尻の割れ目が強調されて」
「ば、馬鹿! 変な妄想すんな」
「お前もしてみろよ」
「くぅ~ 前袋が満タンだ」
「あほ……」

 そこに茂みが動く。

「今度は誰だ?」
「はぁ~すっきりしました」
「また小森か」
「あのあの、今からもしかしてお二人で滝行ですか~ 僕も翠さんにお願いしていたんですよ。そうしたら明日の朝、連れて行ってくれるそうです」
「なんだと? そんな話、聞いてないぞ。詳しく教えろ」
「へへ」

 へへっ……って、おいおい随分余裕だな。

「この先の情報は、焼き団子1本につき10秒になります」
「くぅ~ よし、こっちに来い」

 残り火で、流が団子を焼いてやると小森くんはいとも簡単に口を割った。

 明日の朝、5時にこのキャンプ場の裏山の滝で滝行をすると。

「翠のヤツ、まったく……」
「朝になったら、もちろん副住職もお誘いするつもりだったみたいですよ」
「そ、そうか……よし、もう寝ろ」
「お団子もう1本は……」
「夜中に食べると太るぞ」
「はぁい」

 流はハンモックにドサッと身体を沈めた。

「おい、そのまま眠るつもりか。蚊に刺されないか」
「特大蚊取り線香つきの寝床だ。宗吾も男なら、そのまま眠れ」
「悪くないな」

 俺も褌姿のまま、目を瞑った。

 夜風が気持ちいい。

 星空がペンライトのように瞬いている。

 だが、この褌姿……瑞樹の天国の家族に、笑われそうだな。

 これが俺のナイト・キャンプ。

 ロマンチックの欠片もない夜だが、これはこれで……いい思い出だ!









 
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