上 下
1,131 / 1,730
小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!㉕

しおりを挟む
「りゅ、流……そろそろ時間じゃ?」
「あと5分ある」
「んっ……ダメだって」

 僕は座席を思いっき倒され、押し倒されていた。
 
 流が僕の胸の尖りを、唇を巧みに使って吸い上げている。

「あっ……あ……」

 大きくシャツを捲りあげられて直接吸いつかれて……あられもない姿に羞恥心を煽られ、じんじんと感じていた。

「か……感じちゃう……から……これ以上は……もう……うっ……」

 過敏な箇所を弄られ、僕は涙目になって流の背中をドンドンと叩いた。

「翠、ごめんな……泣かすつもりじゃ」
「……ふぅ……あ……流、いいんだ。謝らなくていい……僕だってこの30分が楽しみだったんだ」

 流に対して、嘘偽りはもう不要だ。
 弟を欲する自分を認めているから。

「お、そろそろ時間だな」

 座席を戻され、シャツを整えられ……

 大急ぎで時間を巻き戻していく。

 こういう時の流って、手際良すぎないか。

「おっと、換気、換気……翠の色気がぷんぷん漂っているからな」
「も、もう―― それを言うなら……」
「ん? どうした?」

 流の上腕二頭筋を見つめ、ほぅっと息を吐いた。

「逞しい腕だね……いつも思うけど」
「翠を抱き上げることが出来るように、いつも鍛えているのさ」
「も、もう……流はしゃべるな」

 一度外の空気を吸おうと外に出ると、ちょうど三人が仲良く戻って来る所だった。

「しかし、あんな浴衣あったかな」
「……芽生くんの?」
「『くまのポー』なんて、ゆめの国のアイドルキャラクターだろ。俺のガラじゃねーよな」
「くすっ……流は覚えていないんだね」
「何を?」
「内緒」

 可愛かったな、あの浴衣を着た流。

 幼い頃から大柄だった流があの浴衣を着たのは幼稚園の年長だったから、覚えていないのも無理ないか。

……

「おにいちゃんみたいになりたい! なー かあさん、おれもかわいくなりたい」
「えー? 流、あんた、そのキャラでそんなこと言う?」
「おねがい‼」

 何でも僕の真似をしたがった流は、僕と外見があまりに違うのを気にする時期があったんだよ。

 そんな流を見かねて母さんが用意したのは『くまのポー』柄の浴衣だった。

「流、ほら、どう? 可愛いでしょ。これを着たら少しは可愛く見えるかもしれないわよ」
「……なんかちがう。これはかわいいじゃなくておいしそうな浴衣だ!」
「まぁ、この子ってば」

 ……

「兄さん、教えてくれよ、なっ、頼む」
「……流は甘いもの大好きだったから、浴衣を見て涎を垂らしていたよ」
「え? ゆめの国の『くまのポー』が何でそうなる?」
「芽生くんが来たら、浴衣の柄をよく見てご覧よ」
「何だ?」

 二人で車にもたれて話していると、宗吾さんが芽生くんに何か耳打ちした。

 芽生くんの可愛い声が届く。

「もういいか~い?」
「え?」

 流が腹を抱えて笑っている。

 まるで僕たちが何をしていたか筒抜けのようで恥ずかしい。

「もういいぜ~!」

 流が頭の上で丸を描いてジェスチャーをすると、芽生くんが満面の笑みで駆け寄って来た。

 楽しい家族の時間を過ごせたようだね。

「すいさーん、りゅーくん、みて! 『くまのポー』だよ! お兄ちゃんが取ってくれたんだよ」
「おお、可愛いなぁ。そうだ芽生坊、ちょっとその浴衣を見せろ」
「え? きゃー えっちぃ」
「ははっ、宗吾の真似か」
「うん!」

 流との時間は、ここまでだ。

 また大勢いでワイワイする賑やかな時間に戻ろう。

「あぁ、そうか、蜂蜜のポットの柄だったのか」
「え? ハチミツ? 俺の大好物だ! 芽生~ 刺激的な浴衣だな」
 
 宗吾さんが目を輝かせて身を乗り出す。

 やれやれ、この二人は甘党なんだなと、瑞樹くんと肩を竦めて笑った。

「翠さん、ありがとうございます。素敵な時間を過ごせました」
「良かったよ。 笑顔が耐えなかった?」
「実は……芽生くんと宗吾さんが少し喧嘩したり険悪になったんですが……なんとか家族で解決出来ました。それが嬉しくて……」

 瑞樹くんの晴れ晴れとした爽やかな笑顔に、ハッとする。

 流との狂おしい日々……

 思い返せば……本当に色々な事が起きて、色々な想いが交差した。
 
 だから流と結ばれてから、長くいがみあった日々を勿体なかったと後悔したが、違うのだ。

 そんな日々があったからこそ、今、実の弟である流に全てを委ねられる。

 家族を経ての恋人になった流への想いは果てしない。

「瑞樹くん、同じ時間を重ねて、いろいろな心を交差させるて、絆って深まっていくんだね」
「あ……翠さん、僕も全く同じことを考えていました」
「僕と流も喧嘩をしたし、険悪な時期もあった。でも……そういう日々を乗り越えて今があるんだ」
「翠さんと流さん……二人の絆の深さは僕の憧れです」

 瑞樹くんが目を細めて、僕を見つめてくれる。

 彼の清潔で可憐な雰囲気が、とても心地良い。

「あの葉山の海で、瑞樹くんたちと出逢えたことに感謝しているよ」
「はい、僕も月影寺の皆さんと出会えて嬉しいです。僕にとって……あなたたちはもう親戚のような存在です」

 僕たちは再び車に乗り込んだ。

 車中で『くまのポー』のぬいぐるみを抱っこした芽生くんが、不思議そうな顔をした。

「お兄ちゃん、車の中……なんだか、すっごくあついね」
「え? そ、そうかな?」

 この言葉に、一番喜んだのは流。

「ははっ、どうだ? 熱々だろ~」
「アツアツってアチチのことだね。ボクしってるよ! ねー お兄ちゃん!」
「め、芽生くんっ」

 くすっ……小さな子どものいる日常って新鮮で楽しいね。

 サマーキャンプも終盤だ。

 大人も子供も、沢山の思い出を作っている。

 





あとがき(不要な方は飛ばして下さいね)

****

今日は最初から最後まで翠視点でした。『幸せな存在』のみの読者さまには申し訳ありません。第三者から見た滝沢ファミリーを楽しんでいただけたら、嬉しいです。

もう8月も下旬! サマーキャンプもそろそろ締めていきますね。







 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...