上 下
1,125 / 1,730
小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!⑲

しおりを挟む
「お茶を買って来ました」
「管野くん、ありがとう! おっ、瑞樹も一緒だったのか。こっちに来いよ」

  宗吾さんが笑いながら手招きしてくれたので歩み寄ると、大きなお鍋がグツグツ煮立っていた。

「何を作っているんですか」
「カレーだよ。やっぱりキャンプにはカレーがないとな! BBQとピザ、そしてカレーが今日のメニューだ。ちゃんとキッズカレーもあるぞ」
「すごいご馳走ですね。あの、僕も手伝います」
「いや、ここは流と俺で充分だ」

 黒いエプロン姿の宗吾さんが張り切っているのが伝わってくる。こんな時は、素直に任せた方がいい。

「じゃあ、お任せします。出来上がりを楽しみにしていますね」

   僕はこんな風に、素直に甘えられるようになった。

 宗吾さんが時には甘えることも大切だと、僕に気付かせてくれたから。

「楽しみにしていてくれ。宗吾&流のスペシャルカレーだぞ。そうそう、ちなみにスパイス担当は丈さんだ」
「随分本格的なカレーですね。ルーを使わずスパイスで作るなんて」
「ほら、丈さんの真剣な眼差しを見てくれよ」
「わっ! 凄い」
 
 何故か白衣を着た丈さんが、神妙な手つきでスパイスを計測、調合していた。

「でも、あの姿は……」
「丈さんって、案外むっつりだよな」
「むっつり?」
「おっと、それはこっちの話。しかし、まさかキャンプに白衣まで持参するなんて、何か狙っているのか」
「いや……あの様子だと至って真面目にだと思いますよ」

 丈さんのすぐ横には、洋くんがご機嫌な様子でくっついていた。

「やっぱり医師の丈はカッコいいよな!」

 洋くんって、とっても可愛い面があるよね。浮き世離れした美しさを放つ洋くんと、少し風変わりな丈さんとのバランスは絶妙だ。あの二人が睦み合うのはさぞかし絵になるんだろうなぁ……って僕……何を考えて!

「瑞樹も、むっつりになったよな」
「えぇ?」
「今、鼻の下伸ばしてニヤニヤしてたぞ」
「ぼ、僕は宗吾さんじゃ、ありませーん!」
「クンクン……」

 くんくん?

「な、なんですか」

 今度は宗吾さんに突然匂いを嗅がれて、身構えてしまった。

「はぁ~ 風呂上がりのいい匂いだなぁ」
「コテージでお風呂に浸からせてもらえたので、さっぱりしました」
「ふぅん、それで全身着替えたのか」
「はい、菫さんに全部洗濯してもらいました」

 はっ! 口が滑った!

「え? まさか……君のパンツまで?」
「あぁぁぁ……えっと……はい。ほら、菫さんは潤のお嫁さんだから……えっと……えっと……僕にとっては妹みたいなものですから」
「うううう、やっぱり今日も『俺の瑞樹印』にすればよかった」
「えぇ! 『俺の』なんて書き足したんですか」
「気付いてなかったのか」
「も、もう!」

 むっつりなのは、お互いさまだ。カレーを煮込みながら、こんな話をするなんて。!
 
「あ、あの……僕は芽生くんといっくんを見てきますね」
「火の周りは危ないから頼む」
「はい」
「瑞樹、助かるよ! サンキュ!」

 宗吾さんはずるいな。

 最後はとびっきりの決め台詞なんて、ときめいてしまうじゃないか。
 
 でも、こんな風に任せてもらえるのは嬉しい。

「お兄ちゃん、おなかすいたよ」
「もうちょっと待ってね」
「いっくんのぽんぽん、ぺこぺこ」
「今ね、宗吾さんたちがカレーを作ってくれているんだ」
「カレー! だーいすき」
「子供用のもあるって」
「はやくたべたいよぅ」
「くすっ、もうちょっと我慢しようね。そうだ、少しお散歩でもしてみる?」
「うん!」

 子供達の気を紛らすために、テントサイドを散歩した。

「あ、おとなりさんも何かつくっているよ」
「え?」

 ログハウスに滞在中の女性たちが、夕食の準備を庭で始めたところだった。

「わぁ~ あんなにたくさん人がいたんだ。ママがいっぱいだから、きっと、大ごちそうだろうね」

 芽生くんが無邪気に想像する様子が可愛くって、つい足を止めてしまった。

 盗み見なんて失礼だが、世の中のお母さんがキャンプ場で何を作るのか知りたくなった。

「お兄ちゃん、何を作っているのかなぁ」
「ちょっと待ってね」

 僕は二人の子供の手を引いて、じりじりと女性達の炊事場に歩み寄る。見つからないように、そーっとね。

「静かにしているんだよ」
「わかった」
「いっくんも、いいこにしているよ」

 耳を済ますと「潜水艦カレーって、スパイスが利いていておいしいわよね~」「私も好き」と、楽しそうな声がした。

『潜水艦カレー』? ナニソレ……初めて耳にしたよ。

 随分と強そうな名前だな。

 きっと特別な調理方法で作られるカレーなのだろう。
 
 流石、お母様方だ。

「芽生くん、いっくん。どうやらお隣もカレーを作っているみたいだよ」
「じゃあ、あのグツグツしているおなべの中はカレーなんだね」
「そうみたい」
「くんくんくん、どっちがいい匂いかな~ お兄ちゃんどう思う?」

 僕達は茂みの中から、犬みたいにクンクンと鼻を鳴らせた。

「あれ? 変だね? 何も匂わないね」
「ボクたち、お鼻がわるくなったのかなぁ?」
「いっくんも、なーんも、しないよ」

 3人で首を傾げてしまった。

「そっかぁ、お兄ちゃん、パパのカレーって、すごいんだね。とってもいい匂いがするもんね」
「そうだねぇ、不思議なこともあるんだね。まぁでも楽しそうだからいいか」

 無臭のカレーなんて、あるのかな? 

 そうか! 『潜水艦カレー』と言うからには、気配を消すカレーなのかも!

 魔法のカレーみたいで、楽しいね。

 楽しい気分で戻ると、テントサイトが見事にライトアップされていた。

 宗吾さんと流さんが張ってくれたテントが連なり、ガーランドが吊り下げられ、小さな電球が華やかに点滅していた。

「わぁ……綺麗だ!」
 
 昔、お母さんが読んでくれた絵本に出てきた夢の国に迷い込んだようで、一瞬驚いてしまった。

 そこに力強い声がする。

 僕の宗吾さんが、呼んでくれる。

「おーい、瑞樹、芽生、いっくん。もう座れ。パーティーが始まるぞ!」

 ここは夢の国ではなく、現実の世界だ。

 大切な人が、仲良く楽しく集う場所だ。

 「はい! 今、行きます!」

 だから僕は躊躇わずに、足を踏み出せる。

 幸せな場所に飛び込むことは、もう怖くない。

 さっきからそれを……何度も何度も体感している。








あとがき


****

長々とクロスオーバーを続けてしまっていますが、楽しんでいただけているでしょうか。しっとりしたお話がお好みの方には申し訳ない展開ですが、夏休みらしく振り切って書いております。
ところで、無臭のカレーの正体は、なんだかお気づきになりましたか😁


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...