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小学生編
光の庭にて 6
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再びくまさんと百貨店にやってきた。
黄色いレインコートが、まだ売っていたので安堵した。
「さっちゃん、芽生坊によく似合いそうだな」
「えぇ、黄色の生地に白い水玉模様が可愛いわね」
「あ、こっちにお揃いの柄の長靴もあるぞ。これも買おうか」
「えぇ、そうしたいわ。瑞樹には……長靴を買ってあげられなかったの。子供の成長は早くて、サイズがどんどん変わっていくので……手が回らなくて」
今まで誰にも話せなかった後悔も、勇大さんにはポロリと話せてしまうのは、何故かしら。相談できる相手がいるって、幸せなことね。
「そうだったのか。大変だったんだな」
「……広樹の長靴は5歳下の瑞樹には劣化して履けなくて。あの子、雨の日はびしょ濡れの運動靴で寒そうに下校してきたわ。抱きしめて温めてあげたかったのに、広樹も学校に通っていてお店を一人で切り盛りしていたので出来なかったの。温かい飲み物も飲ませたあげたかったのに……バスタオルで濡れた髪を拭いてあげたかったのに。あの子が失った優しい温もりを与えてあげたくて引き取ったのに何一つ出来無かったの……」
レインコートの前で、子供みたいにほろほろと泣いてしまったわ。
私、どうしちゃったのかしら?
「さっちゃん! ど、どうしたんだ?」
あぁ駄目だわ。くまさんもオロオロしている。
「くまさんといると、弱くなってしまう……ごめんなさい」
「馬鹿だなぁ、俺といると素直になれると言ってくれよ」
「あ……」
「俺、ずっと一人だったから、誰かに頼ってもらえるのが嬉しいんだ。それが奥さんからだなんて最高さ! さぁ過去を振りかえるのはその位にしておこう。出来なかったことはこれからだ」
くまさんが優しく肩に手を置いて、話し掛けてくれる。
それだけで……もう幸せだと思った。
「そうか、子供の成長はあっという間だよなぁ。確かに、みーくんとなっくんの足……どんどん大きくなったなぁ。お、こっちの水色も可愛いな~」
「あ、本当ね、黄色とどっちがいいかしら? どっちも似合いそうだから、迷うわ」
「迷うなぁ、よし! サイズ違いで二つ買うか」
「そうね、サイズは結婚式の時に聞いたけど、今、20cmみたい」
「じゃあ青い方は21cmにしよう。大人買いだな」
「くすっ」
さっきまでの悲しい気持ちが嘘みたいに晴れ渡ったわ。
そうね、出来なかったことがあるのなら、今、後悔がないようにしていけばいいのよね。
「これが届いたら、きっとピョンピョン跳ねて喜ぶだろうな」
「東京の梅雨は長いと聞いたわ。梅雨時の楽しみになるといいわね」
****
「潤くん、お帰り」
「ただいま、菫さん!」
「パパぁぁぁぁー」
いっくんが廊下から一目散に走って足に纏わり付いてくれたので、腰をかがめて小さな頭をなでなでしてあげる。
「ははっ、いっくん、いい子にしていたか」
「うん! パパ、パパ、おかえりなしゃい。こっちきて」
いっくんが頬を赤くして、手を引っ張ってくれる。
「わわ、待てよ。手洗いうがいしないとな」
「あ、そっか。いっくんタオルもってくるね」
「ちょっと~ いっくん、ママのやること全部取らないで~」
「ははっ、俺、至れり尽くせりだよ」
「潤くんは南国の王子様ですから」
「す、菫さん、それはよせ~ つなぎ姿で、はずかしいって」
「はーい、王子さま」
「くすくすっ、パパはおうじしゃま」
あぁ何気ない会話が幸せだ。仕事の疲れが吹っ飛ぶよ。
「そうそう、潤くん、大沼のお父さんから宅配便が届いていたわよ」
「本当だ? なんだろ」
「アルバムって書いてあるのよ、もしかして……」
「あ! 結婚式のだ」
「わくわくでしゅね」
箱を開封すると、中から分厚い白いアルバムが出て来た。
「わぁ~ 素敵素敵! 流石プロの写真家ね」
「あぁ、俺たちキラキラだな」
「いっくんも、いっくんも見せて」
「あぁ、いっくんもおいで」
いっくんを膝に座らせて、ゆっくりと1枚1枚眺めた。
「俺の家族も、菫さんのご両親もみんな笑顔だな」
「基本だけど、笑顔って最高ね」
「あぁ」
「いっくんは、てんしみたい♡」
「はは、いっくんは最高に可愛いぞ」
「あー パパとママといっくんだぁ」
いっくんが目を閉じて、写真に頬ずりしている。
「いっくんのかぞくだぁ」
「やだ、いっくんてば」
「パパぁ……パパぁ……あいたかったよぅ」
「いっくん」
ヤバイ……俺までまた泣いちゃいそうだ。
この小さな子供が、どんなにパパを求めていたのか。
改めて、いっくんの父親になれてよかった。
アルバムを最後まで捲ると、薄いアルバムが出てきた。可愛いくまの柄のミニアルバムだ。
「これは何かしら?『いっくんへ くまのおじいちゃんより』って書いてあるわ」
「いっくんの? わぁぁー なんだろ?」
お父さんが、いっくんが持ちやすいように作ってくれたのか。
中には、家族写真とオレと菫さんの一人ずつの写真が入っていた。
「パパだぁ~ ママだぁ~ これ、いっくんのたからもの!」
写真を抱きしめて、にっこり笑ういっくんは、天使そのものだった。
「よかったわね、いっくんだけのアルバムよ」
「おじいちゃんにもしもしする! ありがというんだ。パパぁ~おでんわしてぇ」
「あぁ」
いっくんの素直な言葉……オレも見習おう。
「もしもし葉山ですが」
大沼に電話をすると、男性の声で『葉山』と名乗ってくれた。
あぁ……そうか、父親がいるって、こんな感じなのか。
オレは父を知らないから、こんな風に電話をかけたことがない。感動するよ……感激するよ。
「あ、あの……潤です」
既に鼻声になっていたかもしれない。
「あぁ潤か」
親しい呼び捨てに、もう家族の一員なんだなと思う。
「と……父さん……アルバムありがとうございます」
「おぉ届いたか。俺からの結婚祝いだよ」
「最高です。いっくん用のも用意してくれて嬉しかったです」
「喜んでもらえたかな? いっくん専用だから気兼ねなく見られるだろう」
「何から何まで……」
「潤はさ……もう俺の息子だよ。俺はいきなり三兄弟の父となって、嬉しい悲鳴だよ。今までしてあげる人がいなくて寂しかったんだ。これからも、いろいろ押しつけるが気軽に受け取ってくれよ」
なんて力強い言葉なんだ。
なんて嬉しい言葉なんだ。
父親がいるってこういうことなのか。
オレにとって「父さん」と呼べる初めての人の存在が、ただただ嬉しかった。
「おじいちゃん、ありがとう。いっくんね、パパがおしごとしているときも、これでさみしくないもん!」
いっくんの声に、また泣きそうになった。
****
「ところで、宗吾さん、さっきPCで何を調べていたのですか」
「あぁ……芽生に時計を買ってやろうかと思ってな」
「もしかして……アナログのですか」
「そうそう。さっき瑞樹の教え方を見て、一理あると」
「役立って嬉しいです」
「だから今度の週末には時計を買いに行くぞ」
「はい、芽生くんも喜びますよ」
週末には三人で出掛けよう!
「瑞樹、おいで、今日はいい子にしてる。何もしないから」
「くすっ、はい……僕もくっついて眠りたいです」
「君は……最近、とても素直になったよな」
「あ、あの……僕……変ですか」
「いいんだよ。俺は頼られたり甘えてもらえるのが大好きなんだ」
ギュッと肩を抱き寄せたられる。
宗吾さんの心臓の鼓動に包まれて、優しい夢を見る。
今日も幸せな1日だったと感謝し、明日も幸せな1日でありますようと願いながら目を閉じていく。
これが僕の幸せな1日だ。
黄色いレインコートが、まだ売っていたので安堵した。
「さっちゃん、芽生坊によく似合いそうだな」
「えぇ、黄色の生地に白い水玉模様が可愛いわね」
「あ、こっちにお揃いの柄の長靴もあるぞ。これも買おうか」
「えぇ、そうしたいわ。瑞樹には……長靴を買ってあげられなかったの。子供の成長は早くて、サイズがどんどん変わっていくので……手が回らなくて」
今まで誰にも話せなかった後悔も、勇大さんにはポロリと話せてしまうのは、何故かしら。相談できる相手がいるって、幸せなことね。
「そうだったのか。大変だったんだな」
「……広樹の長靴は5歳下の瑞樹には劣化して履けなくて。あの子、雨の日はびしょ濡れの運動靴で寒そうに下校してきたわ。抱きしめて温めてあげたかったのに、広樹も学校に通っていてお店を一人で切り盛りしていたので出来なかったの。温かい飲み物も飲ませたあげたかったのに……バスタオルで濡れた髪を拭いてあげたかったのに。あの子が失った優しい温もりを与えてあげたくて引き取ったのに何一つ出来無かったの……」
レインコートの前で、子供みたいにほろほろと泣いてしまったわ。
私、どうしちゃったのかしら?
「さっちゃん! ど、どうしたんだ?」
あぁ駄目だわ。くまさんもオロオロしている。
「くまさんといると、弱くなってしまう……ごめんなさい」
「馬鹿だなぁ、俺といると素直になれると言ってくれよ」
「あ……」
「俺、ずっと一人だったから、誰かに頼ってもらえるのが嬉しいんだ。それが奥さんからだなんて最高さ! さぁ過去を振りかえるのはその位にしておこう。出来なかったことはこれからだ」
くまさんが優しく肩に手を置いて、話し掛けてくれる。
それだけで……もう幸せだと思った。
「そうか、子供の成長はあっという間だよなぁ。確かに、みーくんとなっくんの足……どんどん大きくなったなぁ。お、こっちの水色も可愛いな~」
「あ、本当ね、黄色とどっちがいいかしら? どっちも似合いそうだから、迷うわ」
「迷うなぁ、よし! サイズ違いで二つ買うか」
「そうね、サイズは結婚式の時に聞いたけど、今、20cmみたい」
「じゃあ青い方は21cmにしよう。大人買いだな」
「くすっ」
さっきまでの悲しい気持ちが嘘みたいに晴れ渡ったわ。
そうね、出来なかったことがあるのなら、今、後悔がないようにしていけばいいのよね。
「これが届いたら、きっとピョンピョン跳ねて喜ぶだろうな」
「東京の梅雨は長いと聞いたわ。梅雨時の楽しみになるといいわね」
****
「潤くん、お帰り」
「ただいま、菫さん!」
「パパぁぁぁぁー」
いっくんが廊下から一目散に走って足に纏わり付いてくれたので、腰をかがめて小さな頭をなでなでしてあげる。
「ははっ、いっくん、いい子にしていたか」
「うん! パパ、パパ、おかえりなしゃい。こっちきて」
いっくんが頬を赤くして、手を引っ張ってくれる。
「わわ、待てよ。手洗いうがいしないとな」
「あ、そっか。いっくんタオルもってくるね」
「ちょっと~ いっくん、ママのやること全部取らないで~」
「ははっ、俺、至れり尽くせりだよ」
「潤くんは南国の王子様ですから」
「す、菫さん、それはよせ~ つなぎ姿で、はずかしいって」
「はーい、王子さま」
「くすくすっ、パパはおうじしゃま」
あぁ何気ない会話が幸せだ。仕事の疲れが吹っ飛ぶよ。
「そうそう、潤くん、大沼のお父さんから宅配便が届いていたわよ」
「本当だ? なんだろ」
「アルバムって書いてあるのよ、もしかして……」
「あ! 結婚式のだ」
「わくわくでしゅね」
箱を開封すると、中から分厚い白いアルバムが出て来た。
「わぁ~ 素敵素敵! 流石プロの写真家ね」
「あぁ、俺たちキラキラだな」
「いっくんも、いっくんも見せて」
「あぁ、いっくんもおいで」
いっくんを膝に座らせて、ゆっくりと1枚1枚眺めた。
「俺の家族も、菫さんのご両親もみんな笑顔だな」
「基本だけど、笑顔って最高ね」
「あぁ」
「いっくんは、てんしみたい♡」
「はは、いっくんは最高に可愛いぞ」
「あー パパとママといっくんだぁ」
いっくんが目を閉じて、写真に頬ずりしている。
「いっくんのかぞくだぁ」
「やだ、いっくんてば」
「パパぁ……パパぁ……あいたかったよぅ」
「いっくん」
ヤバイ……俺までまた泣いちゃいそうだ。
この小さな子供が、どんなにパパを求めていたのか。
改めて、いっくんの父親になれてよかった。
アルバムを最後まで捲ると、薄いアルバムが出てきた。可愛いくまの柄のミニアルバムだ。
「これは何かしら?『いっくんへ くまのおじいちゃんより』って書いてあるわ」
「いっくんの? わぁぁー なんだろ?」
お父さんが、いっくんが持ちやすいように作ってくれたのか。
中には、家族写真とオレと菫さんの一人ずつの写真が入っていた。
「パパだぁ~ ママだぁ~ これ、いっくんのたからもの!」
写真を抱きしめて、にっこり笑ういっくんは、天使そのものだった。
「よかったわね、いっくんだけのアルバムよ」
「おじいちゃんにもしもしする! ありがというんだ。パパぁ~おでんわしてぇ」
「あぁ」
いっくんの素直な言葉……オレも見習おう。
「もしもし葉山ですが」
大沼に電話をすると、男性の声で『葉山』と名乗ってくれた。
あぁ……そうか、父親がいるって、こんな感じなのか。
オレは父を知らないから、こんな風に電話をかけたことがない。感動するよ……感激するよ。
「あ、あの……潤です」
既に鼻声になっていたかもしれない。
「あぁ潤か」
親しい呼び捨てに、もう家族の一員なんだなと思う。
「と……父さん……アルバムありがとうございます」
「おぉ届いたか。俺からの結婚祝いだよ」
「最高です。いっくん用のも用意してくれて嬉しかったです」
「喜んでもらえたかな? いっくん専用だから気兼ねなく見られるだろう」
「何から何まで……」
「潤はさ……もう俺の息子だよ。俺はいきなり三兄弟の父となって、嬉しい悲鳴だよ。今までしてあげる人がいなくて寂しかったんだ。これからも、いろいろ押しつけるが気軽に受け取ってくれよ」
なんて力強い言葉なんだ。
なんて嬉しい言葉なんだ。
父親がいるってこういうことなのか。
オレにとって「父さん」と呼べる初めての人の存在が、ただただ嬉しかった。
「おじいちゃん、ありがとう。いっくんね、パパがおしごとしているときも、これでさみしくないもん!」
いっくんの声に、また泣きそうになった。
****
「ところで、宗吾さん、さっきPCで何を調べていたのですか」
「あぁ……芽生に時計を買ってやろうかと思ってな」
「もしかして……アナログのですか」
「そうそう。さっき瑞樹の教え方を見て、一理あると」
「役立って嬉しいです」
「だから今度の週末には時計を買いに行くぞ」
「はい、芽生くんも喜びますよ」
週末には三人で出掛けよう!
「瑞樹、おいで、今日はいい子にしてる。何もしないから」
「くすっ、はい……僕もくっついて眠りたいです」
「君は……最近、とても素直になったよな」
「あ、あの……僕……変ですか」
「いいんだよ。俺は頼られたり甘えてもらえるのが大好きなんだ」
ギュッと肩を抱き寄せたられる。
宗吾さんの心臓の鼓動に包まれて、優しい夢を見る。
今日も幸せな1日だったと感謝し、明日も幸せな1日でありますようと願いながら目を閉じていく。
これが僕の幸せな1日だ。
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