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小学生編

光の庭にて 2

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「いただきます!」
「いただきましゅ」

 朝食会場で、菫さんは昨日の疲れが残っているのか、少し眠たそうに目を擦り、いっくんは早く眠った分、早起きしてイキイキしていた。

 菫さんと目が合うと、少し恥ずかしそうに目を伏せてしまったが、すぐに顔を上げて微笑んでくれた。

 昨夜……初めて、菫さんを抱いた。

 華奢な体を壊れないように優しく包むと、菫さんもオレの背中に手を回して、抱きしめてくれた。

 これが……兄さんが教えてくれた歩み寄る恋なんだと実感した。

 細い身体で一人で出産し、いっくんをここまで立派に育ててきたと思うと、胸に迫るものがある。

 オレは菫さんもいっくんも、絶対に壊さない。

 そう胸に誓いながら、お互いの想いを重ねた。何度も何度もキスをしながら、柔らかい身体を丁寧に辿り、優しく開いて、つながった。

「パパとママも、あちちでしゅか」

 いっくんがフォークにウインナーをさして、小首を傾げている。

「い……いっくんってば……何を言って……もうっ」

 菫さんは照れてしまったが、オレは嬉しかった。
 
「はは、いっくん、そのアチチって、芽生坊から習ったのか」
「うん! あのねあのね、 きのう、みーくんとそーくんがね、くらいところで、あちちしてたのみたんだよ!」
「ぶほっ‼」

 なっ何を! どっどこで見たのか!

「ちょっと、潤くんってば、大丈夫?」
「あ、あぁ……いっくんは何を見たんだ?」
「えっとでしゅね、おてて! みーくんとそーくんがね、おつくえのしたで、おててとおててをぎゅっとしてたの」
「あぁ……なんだ、机の下か……手か……」

 ははは……オレ、一体何を想像して?
 
 大好きな兄さんが恋人に溺愛されているのはよく知っているが、オレの大好きな兄さんでもあるわけであって、あー もう支離滅裂だ!

「くすっ、潤くんってお兄さんが大好きよね。特に瑞樹くんのことが」
「あ……ごめん、オレ」

 ヤバい! ブラコン丸出しか。

「ううん、違くて。なんか嬉しいの。いっくんと瑞樹くんって……ちょっと似ている所があるので、潤くんが瑞樹くんを大切にするのを見ていると、いっくんのこともそうやってずっと大切にしてもらえるんだなって、しみじみと思えるの。先のことも……安心できるの」

 菫さんの言葉が、心にすーっと水のように染み込んでくる。

 心から信頼されていることが、嬉しくて溜まらない。

「大切にするよ。いっくんのことは……絶対に」
「潤くん」

 すると……いっくんが小さな手を伸ばして、オレと菫さんの手をそっと重ねてくれた。

「パパたちも、あちちして……ねっ?」
「まぁ、いっくんってば」
「パパとママは、いま、あちちでしゅか」
「あぁ、アチチだ。いっくんもな」
「わぁ!」

 オレたちはテーブルの上で、手を重ねた。

 こんな風に、温もりから広がる優しい恋をしている。

「あ……あそこ、瑞樹くんも幸せそうね」

 菫さんの声に促されて兄さんたちのテーブルを探すと、花明かりのようにほわんと見えた。

「芽生くん、美味しい?」
「うん! お兄ちゃんもおいしい?」
「うん、とっても」

 離れていても、そんな何気ない優しい会話が聞こえるようだった。

 ****

 朝食会場で自分の顎に手をあてて、ふと思い立った。
 
「……髭を剃ってみようかな」
「え? ヒロくん、一体どういう風の吹き回し?」
「若返る!」
「へ?」

 みっちゃんがポカンとしてしまった。
 
「ははっ、いや……俺さ、ずっと母さんを支え、弟達を守るためにも貫禄つけたくて……髭を生やしていたんだ」
「うん、それは察していたわ」
「父さんも出来たし、ここらで心機一転しようかなって。優美も髭がジョリジョリはいやそうだしな。それにみっちゃん、昨日もくすぐったいって」
「ヒロくんってば、もうっ、でも楽しみにしているね」
「あ、言っておくが期待し過ぎるなよ。瑞樹みたいに、スベスベにはならないからな」

 はっ、瑞樹……! そうだ、瑞樹もこの朝食会場にいるのか。

 キョロキョロ見渡すと、可憐な笑顔を振りまく瑞樹が見えたので、ほっとした。

「くすっ、三兄弟の愛は今日も深そうね」

 ****

 座席に座って周囲を見渡した。

 広樹、瑞樹、潤。

 俺の息子達の姿を探した。

 皆、それぞれの家庭を持ち、そこで自分たちの花を咲かせているので、俺が出来ることは少ないかもしれないが、精一杯君たちをサポートしたいよ。

「くまさん……本当にありがとう。広樹にとっても……瑞樹や潤にとっても、くまさんの存在は大きいわ。今まで私は息子たちに、いろんな負担をかけてしまって窮屈だったと思うの……特に広樹には頼ってばかりだったわ」
「そんなことないよ。さっちゃんは頑張った。広樹くんだって進んで父親代わりをしてくれたんだ。さっちゃんがそんな風に思うのは良くないぞ。彼の努力が無駄になるだろう」
「あ……ありがとう」

 もう一度見渡すと、最初にみーくんが気付いて可憐に手を振ってくれた。

 宗吾くんと芽生坊もニコニコしてくれた。

 広樹くんとその家族も、俺と目が合うと、丁寧に会釈してくれた。

 お? さっきからしきりに顎に手をやっているのは、髭を剃る決心がついたのか。昨日更衣室でアドバイスしたのは、俺だからな。

 潤くんと菫さんといっくんは、テーブルの上で手を重ねて、微笑みあっていた。

 いい光景だな。

 いっくんが最初に気付いて、小さな手をパタパタと振ってくれた。

 もう天使の衣装は着ていないのに、まるで背中に羽が見えるようだった。

「俺とさっちゃん、昨夜……夫婦になったんだなぁ」

 しみじみと息を吐きながら呟くと、さっちゃんは少女のように頬を染めていた。

 本当に、それぞれの幸せが重なる朝だ。



 大樹さん、空から見ていますか。

 こんな風に……小さな幸せを摘んでいきます。

 葉山勇大として、生きていきます。

 








あとがき(不要な方は飛ばしてくださいね)



****
今日は、それぞれの視点で総まとめ的に振り返ってみました。
これで結婚式の後日談も、ほぼ終わりです。

明日からぐぐっと季節を進めていきますね。
7月中は、梅雨のお話(少しズレてしまって申し訳ないです)
8月は、重なる月とコラボした夏休みspecialでいきます。

現在の『幸せな存在』は、日々の小さな幸せに寄り添うお話になっています。
大きなストーリーの展開は少なく、それぞれの登場人物の視点と感情を掘り下げていくことが多いです。まどろっこしい展開かもしれませんが、毎日読んで反応下さる読者さまのお陰で続けられています。いつもありがとうございます。

 



 
 
 
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