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小学生編

誓いの言葉 48

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「あの……」
「潤くん、どうした?」
「今日は……オレたちのために宗吾さんまで来て下さってありがとうございます」
「なんだよ、改まって……当たり前じゃないか」

 着替えに行く芽生と瑞樹を見送って一息ついていると、真剣な面持ちで話し掛けられた。

「あの、オレのことは『潤』でいいですから」
「あぁそうだな。やっぱりそう呼ぶよ。その方がしっくりくるな。で、潤、何か話があるのか」
「あの……オレが言うのもなんですが、……兄さんは宗吾さんと知り合ってから本当に変わりました。明るくなったし甘い笑顔が更に可愛くなったし、キラキラ度も増して……いや、もともと可愛い兄なんですが、初めて会った時からずっと大好きな兄なんです。途中……好きのベクトルがねじ曲がってしまいましたが……でも兄さん……オレをスキーに連れて行ってくれて、今日もめちゃめちゃ笑顔でオレのこと見てくれて、心から祝福してくれて……」

 延々と瑞樹をべた褒めする潤に苦笑してしまった。

「おいおい、お前なぁ、惚気る相手が違うだろ」
「あっ、すみません」
「まぁ、お前たちが『極度のブラコン三兄弟』だってことは理解しているが」
「三兄弟? ってことは、瑞樹兄さんもなんですか」

 潤がハッと顔をあげる。
 
 うえっ、そんなに期待に満ちた目でこっちを見んなよ!

「あぁ、さっきも散々、俺に惚気てたぞ」
「それ! 是非聞かせて下さい‼」

 お前なぁ~ それ、前のめり過ぎ!

「イヤダネ」
「えぇ~ じゃあ兄さんに直接聞いてきます」
「え? ちょっと待て! 分かった、教えてやる」

 同じ台詞を瑞樹がもう一度言う位なら、俺が一字一句違わずに教えてやる!

「あーコホン、心して聞けよ」
「はい!」
「『僕の弟はカッコイイですよね。背も高いし小麦色に日焼けしていて爽やかだし……白いタキシードが似合っていますよね……もう兄として自然と頬が緩みますよ』だってさ~ 瑞樹は潤に激甘すぎないか」
「兄さんがそんなことを? う、嬉しいですよ」
 
 先程の会話を再現してやると、にへらぁ~と、潤がしまりのない顔になった。

「やれやれ、さぁもう菫さんの所に戻れ」
「あ、はい! 宗吾さん……あの……オレ……ずっとつっぱって尖っていました」
「あぁ……そうだったようだな」
「常に攻撃的で刺々しくて、短気ですぐにカーッとなる、沸点が低い男でした」
 
 目の前の潤が何を言いたいのか、痛い程分かる。
 
 彼は今、恥ずかしくて消え入りたい過去に、自分から飛び込んで触れようとしている。だが、そこまで自己分析出来て反省しているのだから……解放してやりたいな。

「おい、今日はハレの日だ。後ろを振り返るなよ」
「あ……すみません。あの……オレ……」
「で、いざ丸くなってみて、どうだ?」

 話の流れを変えてやろう。

「あ……はい、人に寄り添えるようになりました」
「尖って跳ね飛ばしてばかりだと、誰も寄って来なくなるから、ますます自己中になりがちだ」
「その通りです。あと丸くなったら世界が変わりました。それまでオレには棘が生えているかのようにピリピリしていたんです。でも棘を引っ込めて滑らかにしてみると……嫌な事があっても、いちいち棘のように刺さらず、するっと滑り落ちていくようになりました。落ち込むことがありますが、周りが支えてくれるようになりました。だから……必然的に楽しいこと嬉しいこと、愛しいものに目を配れるようになりました。感謝することも学びました」

 潤が熱く語る。本当に……潤は変わった。
 
 同一人物とは思えないな。

「その通りだな。で、結婚して更に丸くなりそうか」
「はい……守りたい人の存在って、すごいですね! 守るのってカッコイイです。守備って大事なんだなって」

 守るべき人が出来て攻撃から守備に代わった時点で、今までとちがうベクトルになるもんな。俺もそうだった。瑞樹と出会い、付き合いだして世界が一変したのさ。

「潤がどういう人生を送りたいのか。大切なものは何か、常に意識するといい。それがないと人を妬んだり、世を拗ねたりして、また足下がぐらつくからな」
  
 これが結婚して夫となり、父となる……潤への餞の言葉だ。

 同時に俺への戒でもある。

「そろそろ戻ってくるぞ」
「芽生坊、可愛いでしょうね」
「期待していいぞ」
「……宗吾さんって」
「ん?」
「自信満々なのに嫌味に聞こえないのは、なんでだろ?」
「ははっ」
「あ……きっと優しいからなんですね」
「そ、そうか」

 さっき偉そうに潤に言ったことは、全部、自分のことだ。俺も瑞樹に出逢うまで、自己中心的で尖っていたのさ。彼の優しさが棘を削いでくれて清めてくれたのだ。

 この俺が優しいと言われるようになるなんて――

 やっぱり瑞樹はすごいな。

 ****

 通されたおへやには、カッコイイお洋服が並んでいたよ。
 
「うわぁぁ! すごい、すごい!」

 どんなのかなって、ドキドキしていたんだよ。

「気に入ったかい?」
「はい!」
「いい返事だね。さぁどれを着てもいいよ」

 えぇ? 迷うなぁ。

 赤いバラのお花がくっついているのもいいし、ジュンくんみたいな白いスーツにお兄ちゃんみたいな水色のシャツもいいな。わーん、パパみたいにこん色のスーツもかっこいいよぅ!

「どれも素晴らしい衣装ですね。上質で手が込んでいますね」
「だろう? 君は花のセンスもいいが、服装のセンスもいいね。実は先月英国に仕入れに行った時に、たまたま貴族の館でチャリティーセールをやっていてね。これは伯爵家のご子息さまが幼少期に誂えた品だそうだ。本物のアンティークなんだよ」
「じゃあ、これを英国のお坊ちゃまが着られたのですね」
「……グレイ伯爵家といったかな。アッシュブロンドに碧眼の少年の肖像画も見せてもらったよ」

 うわぁ~ イギリス!

 ボクは夢でしか行ったことないのに、すごいな。

 お兄ちゃんも、うっとりしてる。

 よーし! ボク、がんばってへんしんするよ!

 でも……どれがいいか、まよっっちゃう。

「芽生くん? どうしたの?」
「えっとね……」

 どうしよう……全部着たいって言ったら、よくばりさんかなぁ。

「どの衣装も素敵だし、どれも似合いそうだね。うーん、お兄ちゃん、どれも見たいなぁ」

 優しく言ってもらえて、勇気がわいたよ。

 お兄ちゃんの言葉って、いつも魔法なんだよ!

 ボクの背中をトンって押してくれるんだもん。

「あの、おじさん、これ……ぜんぶ着たいです。ダメですか」
「ははっ、もちろんだよ。おじさんもそう思っていた」
「芽生くん、良かったね」

 お兄ちゃんもうれしそう!

「じゃあ、最初はどれにする?」
「えっと……じゃあ、パパのスーツにする!」
「あぁ、いいね。英国紳士のトラッドの真髄だよ」

 とらのしん……ずい???

「芽生くん、ネクタイとチーフが若葉みたいな色でいいね。お兄ちゃん、こういうの好きだなぁ」
「ボクも、ボクもそうおもったよ」

 えへへ、お兄ちゃんとボクってとっても気があうんだよ!
 
 わぁ……ボクもパパみたいになったかな?

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、どうかな?」
 
 お兄ちゃん、目を細めてニコニコしてる。

「芽生くんって、やっぱりパパに似ているね。あぁ、すごくかっこいいよ!」
「やったぁー!」



 それから、まっしろなスーツも着たよ。

「おにいちゃん、これもかっこいい?」
「もちろんだよ! 黄色いネクタイが芽生くんらしくて、お兄ちゃん、ドキドキしちゃうよ」

 ちょっと曲がったネクタイを、お兄ちゃんがそっとなおしてくれたよ。

 最後は……

「お兄ちゃん、このバラのついたお洋服を着たら、ボクがエスコートしてあげるよ。みんなに見てもらおうよ」
「芽生くん、エスコートなんて難しい言葉を知っているの?」
「うん、パパがさっき言ってたもん。お兄ちゃんをエスコートしたくて、ムズムズするって」
「そ、そうなんだ」
「ジュンくんとおよめさんみたいに腕をくんで一緒に歩くことだよね? ボクも、してもいい?」
「くすっ、もちろんだよ」

 お兄ちゃんが嬉しそうに笑ってくれる。それだけで、とってもしあわせだよ!

「芽生くんと一緒にいると、こんな風に……いろんな世界を見せてもらえるんだね。芽生くん、大好きだよ」

 優しいお兄ちゃんが、ボクもだいすき!











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