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小学生編
誓いの言葉 41
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「勇大さん」
「お父さん」
「お……父さん」
「おとうさん」
僕たちの声が、一つに集まる。
皆の手が優しく、くまさんの背中に触れる。
くまさんの肩はブルブルと震え、涙が滝のように落ちていた。その泣き声の大きさと涙の量に、くまさんが抱えていた孤独の大きさと深さを知る。
僕も孤独だったが、函館のお母さん、兄さん、潤が傍にいてくれた。
僕が新しい家族と過ごした17年間もの月日、くまさんはたった独りで……お父さんの思い出がぎっしり詰まったあのログハウスで震えていたのだ。
僕はしゃがんで……むせび泣く……くまさんの広い背中に、頬をそっとあてて囁いた。
「くまさんはもうひとりではないです。この大家族の一員になったんですよ」
「ううっ……みーくん、こんなに泣いて、すまない。こんな日が来るなんて思いもしなかったんだ。この俺が伴侶に恵まれ、三人の立派な息子の父になれるなんて! こんな奇跡があるなんて」
「くまさん……くまさんはもう、森のくまさんでなく、僕のお父さんです。うっ……ぐすっ……」
「みーくん!」
皆も察していたと思うが、次に声を上げて泣き出したのは、僕だった。
「ううっ……うっ……嬉しくて、嬉しくて……溜まりません。こんなに嬉しいことがあるなんて」
「ありがとう。みーくんが幸せを運んで来てくれたんだ。俺に家族をありがとう!」
僕がくまさんに幸せを運んだの?
両親と弟を交通事故で一度に失った僕が、くまさんに幸せを運べるなんて信じられない。僕だけ生き残って、全部僕が元凶だったのでは、僕が不幸を招いたのではと……自分を蔑んだこともあったの人間なのに。
僕がくまさんに家族を運んだの?
この数年、宗吾さんが僕に家族を与えてくれて、幸せを享受する日々だった。そんな僕が……与えてもらうだけでなく、幸せを発信出来たの?
くまさんは泣きはらした目で、僕の頭を幼子のように撫でてくれた。泣いてしまった僕を励まそうと、必死な様子だった。
「よしよし、みーくんは蜜蜂みたいだな」
その言葉にキョトンとしてしまう。
「え? ハチですか」
「あぁ、綺麗な花から花へと飛んで、俺に幸せの蜜を届けてくれる蜜蜂さ。熊はハチミツが大好物だからなぁ」
くまさんってば!
少ししんみりしていた場が一気に和み、更にそこに芽生くんの無邪気な声が響く。
「あ! ボクがハチさんのかっこをするのが好きなのは、おにいちゃんがハチさんだからなんだね」
「えぇ! 瑞樹が蜂だなんて俺は困るぞ~ チクチク刺されたら痛そうだ」
続いて宗吾さんの明るい声も届く。
皆も目尻に浮かんでいた涙を拭いて、明るい笑顔になっていく。
涙の雨の後は、幸せな虹が架かる!
まさにその通りだ。
「さーてと、広樹、そろそろ親族紹介をした方が」
「そうだな、進めよう。じゃあ……」
宗吾さんがリードしてくれると、広樹兄さんも呼応してくれる。
この二人の息はぴったり合っている。
それが嬉しくて、僕の心もどんどん凪いでいく。
「お……父さんに、仕切ってもらってもいいですか」
「えっ、広樹くんでなく……俺が?」
「今日から一家の大黒柱ですよ。それに……俺があなたの息子になったのを実感させて下さい」
「あ……あぁ、そうか……確かに俺も父になったことを実感したいな」
「じゃあ決まりですね」
広樹兄さんとくまさんが軽くハイタッチする。
広樹兄さんの砕けた笑顔が、窓から降り注ぐ光を浴びて輝いていた。
その光景に、胸の中がまた熱くなった。
兄さん……長い間、僕と潤のお父さんの代わりをしてくれてありがとうございます。本当にお疲れ様でした。少し肩の荷を下ろして、これからは優美ちゃんのお父さんとして専念して下さいね。
「皆さん、今日はありがとうございます。まさか潤くんの結婚式前に……俺たちの結婚式を息子たちからしてもらえるなんて、夢にも思っていなかったので、感激のあまり号泣してしまいました。戸籍上の手続きはまだですが、今日から咲子さんの夫として、熊田を改め、葉山勇大として生きていこうと思います。咲子さん、それでいいか……今日から先行して名乗ってもいいか」
くまさんがお母さんを熱い視線で見つめる。
「え……勇大さん、本当にいいの? 私は……すごく嬉しいけれども」
「もちろんだ。ぜひ君が長年守ってきた『葉山』の姓を名乗らせてくれ」
「あ……ありがとう」
「皆さん、どうぞよろしくお願いします」
えっ、そうなのか。くまさんが、まさか『葉山』の姓を名乗ってくれるなんて驚いたが、とても嬉しい。
広樹兄さんから聞いた話だが、お母さんは、お父さんと死別した時に復氏届を提出し、お母さんを筆頭者とする新しい戸籍を作り、更に家庭裁判所に「子の氏の変更許可の申立」をして、子供まで『葉山』の姓に揃えたそうだ。
そんな話からも、お母さんの……残された子供を自分の力で育てていこうという決心と覚悟がうかがい知れる。
それにね、僕も『葉山』という姓がとても好きなので、お母さんが変わらずにいてくれることが嬉しいよ。
「あー コホン。これから葉山家の親族を紹介させていただきます。私は新郎の父の葉山勇大です。この度は二人のためにお集まりいただき、ありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。引き続き葉山家の紹介をさせていただきます。隣におりますのが、新郎の母の咲子です」
お母さんが目元を潤ませて立ち上がって、深々と会釈をした。
「どうぞ宜しくお願いします」
「続いて新郎の長兄、広樹と……隣がその妻の満花《みつか》、そして娘の優美です」
広樹兄さんたちが揃って立ち上がる。
あぁ……兄さん、とても晴れやかな顔をしているね。
優美ちゃんを抱っこした兄さんとみっちゃんも、深々とお辞儀をする。
次、次は……いよいよ僕たちの番だ。
菫さんの両親には事前に状況を話してもらい理解していただいているようだが、このような正式な場で紹介されるのは初めてなので緊張する。
手がカタカタと震えてしまう。
すると……宗吾さんが耳元で落ち着いた声で囁いてくれる。
「瑞樹、ワクワクするな。ついに俺も君の家族の一員として紹介してもらえるんだな、嬉しいよ」
「宗吾さん……ありがとうございます」
「ボクも、ドキドキするよ……お、お兄ちゃん……ボク……大丈夫かなぁ」
芽生くんにとって、初めての結婚式参列。
小さいなりに察することもあるのだろう。
僕はその小さな手をギュッと握ってあげた。
「芽生くん、大丈夫だよ。三人で仲良く挨拶しようね」
「うん」
「そして新郎の次兄の瑞樹と、そのパートナーの滝沢宗吾、そして息子の芽生です」
その瞬間、周囲の暖かい眼差しを優しく浴びた。
菫さんのご両親が、目を細めて僕らを見つめてくれている。
ここにいて、いい。ここが僕の立ち位置なんだ。
そんな安心感に包まれた。
結婚式っていいね。
当事者だけでなく、参列する全ての人の気持ちも、晴れやかにしてくれる。
小さな幸せって、いろんな場所にある。主役だけでなく、その周りにも沢山存在するんだね。
縁あって……潤の兄になれて良かった。
この家族の一員になれて……良かった。
「お兄ちゃん、せーの!」
芽生くんのかけ声に合わせて、三人で手をしっかり繋いでお辞儀をした。そして声をぴったり揃えた。
「どうぞ宜しくお願いします」
さぁ間もなく、開式だ。
僕らはイングリッシュガーデンに設置された結婚式場へと移動する。
いよいよ潤……僕の弟の晴れ舞台だ!
「お父さん」
「お……父さん」
「おとうさん」
僕たちの声が、一つに集まる。
皆の手が優しく、くまさんの背中に触れる。
くまさんの肩はブルブルと震え、涙が滝のように落ちていた。その泣き声の大きさと涙の量に、くまさんが抱えていた孤独の大きさと深さを知る。
僕も孤独だったが、函館のお母さん、兄さん、潤が傍にいてくれた。
僕が新しい家族と過ごした17年間もの月日、くまさんはたった独りで……お父さんの思い出がぎっしり詰まったあのログハウスで震えていたのだ。
僕はしゃがんで……むせび泣く……くまさんの広い背中に、頬をそっとあてて囁いた。
「くまさんはもうひとりではないです。この大家族の一員になったんですよ」
「ううっ……みーくん、こんなに泣いて、すまない。こんな日が来るなんて思いもしなかったんだ。この俺が伴侶に恵まれ、三人の立派な息子の父になれるなんて! こんな奇跡があるなんて」
「くまさん……くまさんはもう、森のくまさんでなく、僕のお父さんです。うっ……ぐすっ……」
「みーくん!」
皆も察していたと思うが、次に声を上げて泣き出したのは、僕だった。
「ううっ……うっ……嬉しくて、嬉しくて……溜まりません。こんなに嬉しいことがあるなんて」
「ありがとう。みーくんが幸せを運んで来てくれたんだ。俺に家族をありがとう!」
僕がくまさんに幸せを運んだの?
両親と弟を交通事故で一度に失った僕が、くまさんに幸せを運べるなんて信じられない。僕だけ生き残って、全部僕が元凶だったのでは、僕が不幸を招いたのではと……自分を蔑んだこともあったの人間なのに。
僕がくまさんに家族を運んだの?
この数年、宗吾さんが僕に家族を与えてくれて、幸せを享受する日々だった。そんな僕が……与えてもらうだけでなく、幸せを発信出来たの?
くまさんは泣きはらした目で、僕の頭を幼子のように撫でてくれた。泣いてしまった僕を励まそうと、必死な様子だった。
「よしよし、みーくんは蜜蜂みたいだな」
その言葉にキョトンとしてしまう。
「え? ハチですか」
「あぁ、綺麗な花から花へと飛んで、俺に幸せの蜜を届けてくれる蜜蜂さ。熊はハチミツが大好物だからなぁ」
くまさんってば!
少ししんみりしていた場が一気に和み、更にそこに芽生くんの無邪気な声が響く。
「あ! ボクがハチさんのかっこをするのが好きなのは、おにいちゃんがハチさんだからなんだね」
「えぇ! 瑞樹が蜂だなんて俺は困るぞ~ チクチク刺されたら痛そうだ」
続いて宗吾さんの明るい声も届く。
皆も目尻に浮かんでいた涙を拭いて、明るい笑顔になっていく。
涙の雨の後は、幸せな虹が架かる!
まさにその通りだ。
「さーてと、広樹、そろそろ親族紹介をした方が」
「そうだな、進めよう。じゃあ……」
宗吾さんがリードしてくれると、広樹兄さんも呼応してくれる。
この二人の息はぴったり合っている。
それが嬉しくて、僕の心もどんどん凪いでいく。
「お……父さんに、仕切ってもらってもいいですか」
「えっ、広樹くんでなく……俺が?」
「今日から一家の大黒柱ですよ。それに……俺があなたの息子になったのを実感させて下さい」
「あ……あぁ、そうか……確かに俺も父になったことを実感したいな」
「じゃあ決まりですね」
広樹兄さんとくまさんが軽くハイタッチする。
広樹兄さんの砕けた笑顔が、窓から降り注ぐ光を浴びて輝いていた。
その光景に、胸の中がまた熱くなった。
兄さん……長い間、僕と潤のお父さんの代わりをしてくれてありがとうございます。本当にお疲れ様でした。少し肩の荷を下ろして、これからは優美ちゃんのお父さんとして専念して下さいね。
「皆さん、今日はありがとうございます。まさか潤くんの結婚式前に……俺たちの結婚式を息子たちからしてもらえるなんて、夢にも思っていなかったので、感激のあまり号泣してしまいました。戸籍上の手続きはまだですが、今日から咲子さんの夫として、熊田を改め、葉山勇大として生きていこうと思います。咲子さん、それでいいか……今日から先行して名乗ってもいいか」
くまさんがお母さんを熱い視線で見つめる。
「え……勇大さん、本当にいいの? 私は……すごく嬉しいけれども」
「もちろんだ。ぜひ君が長年守ってきた『葉山』の姓を名乗らせてくれ」
「あ……ありがとう」
「皆さん、どうぞよろしくお願いします」
えっ、そうなのか。くまさんが、まさか『葉山』の姓を名乗ってくれるなんて驚いたが、とても嬉しい。
広樹兄さんから聞いた話だが、お母さんは、お父さんと死別した時に復氏届を提出し、お母さんを筆頭者とする新しい戸籍を作り、更に家庭裁判所に「子の氏の変更許可の申立」をして、子供まで『葉山』の姓に揃えたそうだ。
そんな話からも、お母さんの……残された子供を自分の力で育てていこうという決心と覚悟がうかがい知れる。
それにね、僕も『葉山』という姓がとても好きなので、お母さんが変わらずにいてくれることが嬉しいよ。
「あー コホン。これから葉山家の親族を紹介させていただきます。私は新郎の父の葉山勇大です。この度は二人のためにお集まりいただき、ありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。引き続き葉山家の紹介をさせていただきます。隣におりますのが、新郎の母の咲子です」
お母さんが目元を潤ませて立ち上がって、深々と会釈をした。
「どうぞ宜しくお願いします」
「続いて新郎の長兄、広樹と……隣がその妻の満花《みつか》、そして娘の優美です」
広樹兄さんたちが揃って立ち上がる。
あぁ……兄さん、とても晴れやかな顔をしているね。
優美ちゃんを抱っこした兄さんとみっちゃんも、深々とお辞儀をする。
次、次は……いよいよ僕たちの番だ。
菫さんの両親には事前に状況を話してもらい理解していただいているようだが、このような正式な場で紹介されるのは初めてなので緊張する。
手がカタカタと震えてしまう。
すると……宗吾さんが耳元で落ち着いた声で囁いてくれる。
「瑞樹、ワクワクするな。ついに俺も君の家族の一員として紹介してもらえるんだな、嬉しいよ」
「宗吾さん……ありがとうございます」
「ボクも、ドキドキするよ……お、お兄ちゃん……ボク……大丈夫かなぁ」
芽生くんにとって、初めての結婚式参列。
小さいなりに察することもあるのだろう。
僕はその小さな手をギュッと握ってあげた。
「芽生くん、大丈夫だよ。三人で仲良く挨拶しようね」
「うん」
「そして新郎の次兄の瑞樹と、そのパートナーの滝沢宗吾、そして息子の芽生です」
その瞬間、周囲の暖かい眼差しを優しく浴びた。
菫さんのご両親が、目を細めて僕らを見つめてくれている。
ここにいて、いい。ここが僕の立ち位置なんだ。
そんな安心感に包まれた。
結婚式っていいね。
当事者だけでなく、参列する全ての人の気持ちも、晴れやかにしてくれる。
小さな幸せって、いろんな場所にある。主役だけでなく、その周りにも沢山存在するんだね。
縁あって……潤の兄になれて良かった。
この家族の一員になれて……良かった。
「お兄ちゃん、せーの!」
芽生くんのかけ声に合わせて、三人で手をしっかり繋いでお辞儀をした。そして声をぴったり揃えた。
「どうぞ宜しくお願いします」
さぁ間もなく、開式だ。
僕らはイングリッシュガーデンに設置された結婚式場へと移動する。
いよいよ潤……僕の弟の晴れ舞台だ!
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