1,081 / 1,730
小学生編
誓いの言葉 39
しおりを挟む
結婚式を目前に、緊張する潤の肩に手を置いて、兄として励ました。
潤、僕たちようやくここまで辿り着いたのだね。
僕は心から晴れがましい気持ちで、潤の兄として胸を張った。
すると、いっくんが僕と潤の間に入り込んで、ニコッと白い歯を見せた。
「ねぇねぇ、つぎはいっくんのばんだよ!」
「そうだね。いっくんもパパみたいにカッコよくなろうね」
「うん!」
そこに壁際に控えていた衣装スタッフの女性がやってきた。
「さぁ、ボクもお着替えしますよ」
「……え、あ……パパぁ~」
いっくんは突然後ずさりして、潤の陰に隠れてしまった。
「いっくん、どうした?」
「パパぁ……あのね……えっとね」
「うん? わ、くすぐったいよ」
「いっくん、バイバイする」
「一体どうしたんだ?」
いっくんがベージュの絨毯に蹲って、手足を丸めてしまった。
「どうした? 早くお着替えしないと駄目だろ? ほら着せてもらって」
「やぁ!」
「……えっと……ママを呼ぶか」
「んーん、それもやぁ」
潤はどうしていいのか分からないようで、おろおろし出す。
困ったな、急にどうしたのかな? あ……もしかして……
「いっくん。顔をあげてごらん」
「みーくんっ、たしゅけて」
「えっと……よかったら、僕がお着替えを手伝おうか」
「みーくんが」
「僕ね、芽生くんのお手伝いもしてきたから慣れているよ」
「……めーくんもしてもらったの?」
いっくんの衣装は、どれだろう?
いっくんを抱き起こして辺りを見渡すと、真っ白なキッズスーツが見えた。
「すみません……あとはこちらで出来ますので」
「まぁ恥ずかしがり屋さんなんですね。はい、了解しました。それでは私は新郎さんのヘアセットに取りかかりますね」
「宜しくお願いします。潤、カッコよくしてもらっておいで」
「あ、あぁ……兄さん……ここは任せていいか」
「僕でよければ」
「兄さんが頼もしいよ」
あぁ、潤が僕にこんなに心を開いてくれている。
それが伝わって、心がじんとした。
「さぁ、いっくん、お兄ちゃんがお着替えを手伝ってあげるね。さーてと、どこまで自分で脱げるかな?」
「いっくんね、ぬぐのはじょうずにできるよ」
「そうなの? すごいなぁ」
「えへへ。みててね」
いっくんが着ていたものを脱いで、肌着姿になった。
可愛いぽっこりお腹に、思わず笑みが漏れる。
僕と出会った頃の芽生くんを思い出してしまうな。
「みーくんって、やさしい」
「そうかな?」
「うん、ほんというと……さっきちょっと……こわかったの」
「……知らない人だもんね」
「う……ん。ごめんなしゃい」
小さな頭をペコッと下げる様子に、胸の奥が切なくなるよ。
この子は父親が亡くなった後、母親と二人でどんな暮らしをしてきたのだろう。
菫さんの明るさの影に潜む切なさに想いを馳せてしまった。
「……いっくんがニコニコだと、パパとママもうれしいだろうね」
「うん! わかった!」
「いい子だね。さぁ、ここに腕を通してごらん」
「こう?」
「そうそう、ボタンは手伝うね」
「ありがと!」
いっくんのスーツは、まるで潤のミニチュアのように純白だった。
子供用にこんな可愛いスーツがあるなんて!
「よし、蝶ネクタイはパパとお揃いの菫色だね。これでいいのかな?」
「あっ! みーくん、わすれもの!」
「え?」
「ちょっとまってね」
いっくんは満面の笑みを浮かべ、カーテンの影に置かれた天使の羽を抱えて戻ってきた。
「これつけるの! いっくんね、てんしになるの!」
純白のキッズスーツに天使の羽だなんて、これは可愛すぎる!
さっきから目尻が下がりっぱなしだ。こういうの伯父馬鹿って言うのかな?
「へんしーん!」
いっくんが背中に羽をつけると、また一段と可愛さを増した。
茶色の髪に白い肌。お人形みたいにクリクリした可愛い目の坊やは、まさに天使そのものだ。
「可愛いよ。まさに地上の天使だね」
「ん? 『ちじょう』って?」
「ここにいる。今を生きているってこと」
「うーん?」
「ごめん、ごめん。難しい言い方をしたね。えっと君は潤と菫さんの天使なんだよ」
「パパとママのこどもだよ~」
「そうだね。そろそろ、パパに会いに行こうか」
「いく!」
いっくんの手を引いて潤の所に行くと、もう支度は終わったようで、鏡の前に立っていた。
潤……本当に南国の王子様みたいにカッコいいな。髪を整えてますます!
その鏡に、天使が映る。
「いっくん!」
「パパぁ~」
いっくんと潤が抱き合えば、白い世界が広がった。
「兄さん、ありがとう」
「うん、じゃあ……僕は先に控え室に行っているね、後でね」
僕は無性に宗吾さんと芽生くんに会いたくなっていた。
これって幸せの連鎖かな。
「兄さん、サプライズは兄さんの仰せのままにするよ」
「ふっ……うん、もうすぐだね」
廊下を出ると、向こうから芽生くんがタタッと走って来た。
「芽生! こらぁ、廊下は走るなよ」
「あ……うん。じゃあ急ぎ足でね!」
芽生くん!
「お兄ちゃん~ もう終わった? もう一緒にいられる?」
「うん、一緒に親族控え室に移動しよう」
芽生くんが僕に甘えてくれるのが好きだ。
大好きだ。
「ボクも、もっとお手伝いしたいな」
「ありがとう、じゃあ何かまたお願いしようかな?」
すぐ横には、宗吾さんがいてくれる。
「瑞樹、俺も手伝いたい! 暇だ!」
「くすっ、そうですね。少し考えてみます」
せっかく集まったのだから、もっと皆が参加できるサプライズ企画にしたいな。
カシャ――
イングリッシュガーデンを横切っていると、木陰からシャッター音がした。
木陰を覗き込むと、美しく咲き誇る白薔薇の前にお母さんが立っていた。
あ……その薔薇は潤の育てたのでは?
「くまさんがお母さんの写真を撮っているようですね」
「熱々だな」
「とても和やかな光景です」
もう間もなく、このふたりは結ばれる。
僕らに祝福されて、新しい人生に送り出す。
この僕も、その一員になれた。
それが今は、とても嬉しいことだった。
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
****
『幸せな存在』連載開始してから、丸三年を迎えました。
三周年を無事に迎えられて感無量です。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
結婚式に向けて、毎日丁寧に大切に書いています。
これからもどうぞよろしくお願いします。
潤、僕たちようやくここまで辿り着いたのだね。
僕は心から晴れがましい気持ちで、潤の兄として胸を張った。
すると、いっくんが僕と潤の間に入り込んで、ニコッと白い歯を見せた。
「ねぇねぇ、つぎはいっくんのばんだよ!」
「そうだね。いっくんもパパみたいにカッコよくなろうね」
「うん!」
そこに壁際に控えていた衣装スタッフの女性がやってきた。
「さぁ、ボクもお着替えしますよ」
「……え、あ……パパぁ~」
いっくんは突然後ずさりして、潤の陰に隠れてしまった。
「いっくん、どうした?」
「パパぁ……あのね……えっとね」
「うん? わ、くすぐったいよ」
「いっくん、バイバイする」
「一体どうしたんだ?」
いっくんがベージュの絨毯に蹲って、手足を丸めてしまった。
「どうした? 早くお着替えしないと駄目だろ? ほら着せてもらって」
「やぁ!」
「……えっと……ママを呼ぶか」
「んーん、それもやぁ」
潤はどうしていいのか分からないようで、おろおろし出す。
困ったな、急にどうしたのかな? あ……もしかして……
「いっくん。顔をあげてごらん」
「みーくんっ、たしゅけて」
「えっと……よかったら、僕がお着替えを手伝おうか」
「みーくんが」
「僕ね、芽生くんのお手伝いもしてきたから慣れているよ」
「……めーくんもしてもらったの?」
いっくんの衣装は、どれだろう?
いっくんを抱き起こして辺りを見渡すと、真っ白なキッズスーツが見えた。
「すみません……あとはこちらで出来ますので」
「まぁ恥ずかしがり屋さんなんですね。はい、了解しました。それでは私は新郎さんのヘアセットに取りかかりますね」
「宜しくお願いします。潤、カッコよくしてもらっておいで」
「あ、あぁ……兄さん……ここは任せていいか」
「僕でよければ」
「兄さんが頼もしいよ」
あぁ、潤が僕にこんなに心を開いてくれている。
それが伝わって、心がじんとした。
「さぁ、いっくん、お兄ちゃんがお着替えを手伝ってあげるね。さーてと、どこまで自分で脱げるかな?」
「いっくんね、ぬぐのはじょうずにできるよ」
「そうなの? すごいなぁ」
「えへへ。みててね」
いっくんが着ていたものを脱いで、肌着姿になった。
可愛いぽっこりお腹に、思わず笑みが漏れる。
僕と出会った頃の芽生くんを思い出してしまうな。
「みーくんって、やさしい」
「そうかな?」
「うん、ほんというと……さっきちょっと……こわかったの」
「……知らない人だもんね」
「う……ん。ごめんなしゃい」
小さな頭をペコッと下げる様子に、胸の奥が切なくなるよ。
この子は父親が亡くなった後、母親と二人でどんな暮らしをしてきたのだろう。
菫さんの明るさの影に潜む切なさに想いを馳せてしまった。
「……いっくんがニコニコだと、パパとママもうれしいだろうね」
「うん! わかった!」
「いい子だね。さぁ、ここに腕を通してごらん」
「こう?」
「そうそう、ボタンは手伝うね」
「ありがと!」
いっくんのスーツは、まるで潤のミニチュアのように純白だった。
子供用にこんな可愛いスーツがあるなんて!
「よし、蝶ネクタイはパパとお揃いの菫色だね。これでいいのかな?」
「あっ! みーくん、わすれもの!」
「え?」
「ちょっとまってね」
いっくんは満面の笑みを浮かべ、カーテンの影に置かれた天使の羽を抱えて戻ってきた。
「これつけるの! いっくんね、てんしになるの!」
純白のキッズスーツに天使の羽だなんて、これは可愛すぎる!
さっきから目尻が下がりっぱなしだ。こういうの伯父馬鹿って言うのかな?
「へんしーん!」
いっくんが背中に羽をつけると、また一段と可愛さを増した。
茶色の髪に白い肌。お人形みたいにクリクリした可愛い目の坊やは、まさに天使そのものだ。
「可愛いよ。まさに地上の天使だね」
「ん? 『ちじょう』って?」
「ここにいる。今を生きているってこと」
「うーん?」
「ごめん、ごめん。難しい言い方をしたね。えっと君は潤と菫さんの天使なんだよ」
「パパとママのこどもだよ~」
「そうだね。そろそろ、パパに会いに行こうか」
「いく!」
いっくんの手を引いて潤の所に行くと、もう支度は終わったようで、鏡の前に立っていた。
潤……本当に南国の王子様みたいにカッコいいな。髪を整えてますます!
その鏡に、天使が映る。
「いっくん!」
「パパぁ~」
いっくんと潤が抱き合えば、白い世界が広がった。
「兄さん、ありがとう」
「うん、じゃあ……僕は先に控え室に行っているね、後でね」
僕は無性に宗吾さんと芽生くんに会いたくなっていた。
これって幸せの連鎖かな。
「兄さん、サプライズは兄さんの仰せのままにするよ」
「ふっ……うん、もうすぐだね」
廊下を出ると、向こうから芽生くんがタタッと走って来た。
「芽生! こらぁ、廊下は走るなよ」
「あ……うん。じゃあ急ぎ足でね!」
芽生くん!
「お兄ちゃん~ もう終わった? もう一緒にいられる?」
「うん、一緒に親族控え室に移動しよう」
芽生くんが僕に甘えてくれるのが好きだ。
大好きだ。
「ボクも、もっとお手伝いしたいな」
「ありがとう、じゃあ何かまたお願いしようかな?」
すぐ横には、宗吾さんがいてくれる。
「瑞樹、俺も手伝いたい! 暇だ!」
「くすっ、そうですね。少し考えてみます」
せっかく集まったのだから、もっと皆が参加できるサプライズ企画にしたいな。
カシャ――
イングリッシュガーデンを横切っていると、木陰からシャッター音がした。
木陰を覗き込むと、美しく咲き誇る白薔薇の前にお母さんが立っていた。
あ……その薔薇は潤の育てたのでは?
「くまさんがお母さんの写真を撮っているようですね」
「熱々だな」
「とても和やかな光景です」
もう間もなく、このふたりは結ばれる。
僕らに祝福されて、新しい人生に送り出す。
この僕も、その一員になれた。
それが今は、とても嬉しいことだった。
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
****
『幸せな存在』連載開始してから、丸三年を迎えました。
三周年を無事に迎えられて感無量です。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
結婚式に向けて、毎日丁寧に大切に書いています。
これからもどうぞよろしくお願いします。
11
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
愛を知ってしまった君は
梅雨の人
恋愛
愛妻家で有名な夫ノアが、夫婦の寝室で妻の親友カミラと交わっているのを目の当たりにした妻ルビー。
実家に戻ったルビーはノアに離縁を迫る。
離縁をどうにか回避したいノアは、ある誓約書にサインすることに。
妻を誰よりも愛している夫ノアと愛を教えてほしいという妻ルビー。
二人の行きつく先はーーーー。
あなたとの離縁を目指します
たろ
恋愛
いろんな夫婦の離縁にまつわる話を書きました。
ちょっと切ない夫婦の恋のお話。
離縁する夫婦……しない夫婦……のお話。
明るい離縁の話に暗い離縁のお話。
短編なのでよかったら読んでみてください。
月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】
山葵トロ
BL
「俺とお前は、この先、ずっと一緒には居られない 」
Ω《オメガ》の真祝《まほぎ》の心の総てを掴んでいる男は、幼馴染みのβ《ベータ》の二海人《ふみと》。
けれど、ずっとずっと二海人だけで、涙が出る程好きで好きで堪らない真祝の想いに、二海人は決して応えてはくれない。
何度求めても跳ね返される想いに心は磨り減りそうになりながら、しかし応えてはくれないと分かっていても好きなことは止められない。
そんな時、真祝の前に現れたα《アルファ》の央翔《おうしょう》。 「真祝さん、俺の番《つがい》になってよ 」ーーーーー。
やっと会えた『運命の番 』だと、素直に気持ちをぶつけてくる央翔に、真祝は……。
◆R-18表現には、※を付けてあります。
【完結】今更告白されても困ります!
夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。
いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。
しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。
婚約を白紙に戻したいと申し出る。
少女は「わかりました」と受け入れた。
しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。
そんな中で彼女は願う。
ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・
その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。
しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。
「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
20年かけた恋が実ったって言うけど結局は略奪でしょ?
ヘロディア
恋愛
偶然にも夫が、知らない女性に告白されるのを目撃してしまった主人公。
彼女はショックを受けたが、更に夫がその女性を抱きしめ、その関係性を理解してしまう。
その女性は、20年かけた恋が実った、とまるで物語のヒロインのように言い、訳がわからなくなる主人公。
数日が経ち、夫から今夜は帰れないから先に寝て、とメールが届いて、主人公の不安は確信に変わる。夫を追った先でみたものとは…
5度目の求婚は心の赴くままに
しゃーりん
恋愛
侯爵令息パトリックは過去4回、公爵令嬢ミルフィーナに求婚して断られた。しかも『また来年、求婚してね』と言われ続けて。
そして5度目。18歳になる彼女は求婚を受けるだろう。彼女の中ではそういう筋書きで今まで断ってきたのだから。
しかし、パトリックは年々疑問に感じていた。どうして断られるのに求婚させられるのか、と。
彼女のことを知ろうと毎月誘っても、半分以上は彼女の妹とお茶を飲んで過ごしていた。
悩んだパトリックは5度目の求婚当日、彼女の顔を見て決意をする、というお話です。
貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。
あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。
貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。
…あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる