上 下
1,066 / 1,730
小学生編

誓いの言葉 24 

しおりを挟む
「瑞樹、身体の力を抜いて」
「あ……はい」
「目を閉じて」
「…はい」
 
 いつの間にか僕はパジャマを脱がされ、下着姿になっていた。

 宗吾さんが僕の右手を取り、そっと口づける。

「ここ……もう痛くはないのか」
「大丈夫です。昨日、今日と……家でも会社でも、右手を殆ど使わせてもらえなかったので、治りが早かったようです」
「会社でも君は、守られているからな」
「…はい」

 男としては不甲斐ないことかもしれないが、右手の後遺症に怯える僕にとっては、周囲の気遣いが有り難かった。

 何かを引き金に、また右手が動かなくなったらどうしよう……

 そんな潜在的な不安が、まだ僕の中に残っていることを今回の出来事で実感してしまった。

 もうあれ以上……苦痛なことは起きない。
 あの人は……もう二度と僕には近づかない。

 そう思うようにしているのに、駄目だな。

「大丈夫だ。もう大丈夫なんだよ」
「宗吾さん」
 
 宗吾さんの手で温められたラベンダーオイルをすうっと胸に塗られると、それだけで身体がピクッと跳ねてしまう。

「感じているな」
「…はい」

 大きな温かい手のひらが、僕の胸や脇腹を優しく撫でていく。

 ボディタッチのような軽い触れ合いに、僕の心も凪いでいく。

「宗吾さん……」

 だから僕からも……宗吾さんの広い背中に手を回し、逞しい身体に自ら擦り寄っていく。

「今日は積極的だな」
「気持ち良くて」

 唇を吸い上げられ、オイルで濡れた手で胸元や首筋、下腹部を丁寧に辿られた。

 優しく、優しく、体中を撫でられて、ふわふわとした心地になっていく。

「も、もう……駄目です」
「そうなのか」
「…あ」

 もどかしくなって自ら腰を浮かせると、宗吾さんの手が内股の際どい部分にまで入ってくる。指で意図的に探られて、頬が紅潮してしまう。

「ホクロの位置は、ここだよ」
「あ……そこ……」
「全部脱がせてもいいか」

 コクンと頷くと、やはり優しい手つきで下着を抜き取られた。

「随分、気持ちよさそうだな」
「宗吾さんが優しく触るので、とろけそうなんです」
「可愛いことばかり口にして」

 マッサージとはもう名ばかりで、宗吾さんの手が僕の硬くなりつつあるものを握ってくると、下半身に熱が迸るような感覚に陥った。

「出したい?」
「い……じわるです」

 次に宗吾さんの手によって脚を大きく開脚させられた。

 仰向けで脚を広げるのは……女性のように相手を受け入れる姿勢なので、羞恥心を煽られる。

「ん……やっ」

 マッサージは全身に渡っていた。

「オイルを使うと滑りがいいな」
「んっ」
「もう目がとろんとしてるな、可愛い」

 チュッと額にキスをされる。

「気持ち……よくて」
「おっと、そのまま寝ちゃうなよ」
「……んっ」

 淡い乳輪にパクッと吸い付かれ、乳頭を指で捏ねられ、声が我慢できなくなってしまう。

「瑞樹……」
「あっ……あっ……宗吾さん……来て下さい」
「入ってもいいのか。君の負担にならないか」

 コクコクと頷くが許してもらえず、わざとポイントをずらして焦らされる。

「も……っ、はやく……ほしいです……宗吾さんの」

 甘やかされている自覚はある。
 愛おしまれている自覚もある。

 同じ位、僕も宗吾さんを甘やかしたいし愛したい。

「僕の中に……来て下さい」

 自分から慎ましく閉じた入り口に、宗吾さんの高まりをあてがってしまった。

 こんなに積極的になれるなんて……理由は一つ。

 ただ……好きだから、愛しているから。

 その気持ちを隠したくない。

 求める気持ちも求められる気持ちも同じだと伝えたくて、宗吾さんの高まりをゆるりと握り込んで、もう一度囁いた。

「これ……欲しいんです」
「瑞樹、どこでそんな煽り方を覚えたんだ?」
「くすっ、一度、言ってみたかったんですよ。僕も同じだけ求めているって伝えたくて」
「参ったな、後悔するなよ」
「……はい。これはマッサージですから」
「まだそんなことを」

 その後は、疲れ果てて眠りに落ちるまで、僕たちは求め合った。

「瑞樹……寝ちゃうのか」
「も、もう……眠いです」
「後処理はしておくから、安心して眠れ」

 宗吾さんの腕の中に包み込んでもらえると、僕は心から安堵出来る。だから……そのまま、そっと肩を寄せて目を閉じた。

「少しだけ怖かったんです……だから、ありがとうございます」
「あぁ……」

 ほんの少し思い出した恐怖は、宗吾さんが優しく摘み取ってくれる。
 
 だから僕はまた明日から前に進んで行ける。

 明るい方向へ――

 自分の足で。

「いい結婚式にしたいです」
「あぁ、そうなるさ。何しろ俺の瑞樹の初企画なんだから」
「……宗吾さん、僕……初めてのことばかりで不安です」
「俺が全力でサポートするよ!」

 優しく絡み合う腕と脚。

 一つになって歩み寄って

 一つになって分け合って。



****

 夜、9時。

 テーラー桐生の黒い電話が鳴った。

「やぁ、誰かと思ったら菫ちゃんか」
「桐生先輩、ご無沙汰しています」
「ご無沙汰でもないさ。菫ちゃんの紹介でお客さんが来たばかりだから」
「あ! 本当に行ってくれたのね」
「彼、誰? えらく可愛い顔していたけど」

 茶化すように言うと、菫ちゃんは勿体ぶった様子だった。

「おい、気になるだろ? 早く教えてくれよ」
「可憐な瑞樹くんは、私の義理のお兄さんになる人です」
「え? ってことは……菫ちゃん……君、再婚するのか」

 妊娠中に旦那が病死という悲劇に見舞われたことは、風の便りで聞いていた。それでも頑張って可愛い坊やを産み、シングルマザーとして頑張っていることも知っていた。

 「はい、もう式は三日後なんですよ」
「それはおめでとう。何かお祝いを贈りたいな」
「あ……じゃあリクエストしてもいいですか」
「何でも」

……

 そんな電話を受けたのが、昨日の夜だった。

 それから徹夜で準備をしてやった。

 菫ちゃんのリクエストは、結婚相手の母親が同じタイミングで再婚するので、義母へ贈るショート丈のベールだった。

 菫ちゃんらしい控えめな優しいリクエストだな。

 ショートベールは軽やかで動きやすくアクセサリー感覚で付けられるので、年齢を問わず似合うだろう。

「しかし、手作りキットとはな」

 三歳の坊やと一緒に、一日で手作りできるキットが欲しいという希望を叶えるために、寝ずに頑張ったのさ。

 ベールの下処理は出来ているので、そこに小さな白い薔薇の飾りを散らしていくだけだ。これなら短時間で出来るだろう。

 薔薇は小さな子でも作りやすいように、下処理を工夫した。

「兄さん、おはよ。昨日はどうして来なかったの?」

 少し怒った口調でテーラーにやってきた弟が目を丸くしている。

「これは一体、なんの騒ぎ? 特急仕上げでも入ったの?」
「まぁな。今から軽井沢まで届けてくるよ」
「兄さんは寝不足でヘロヘロじゃないか。絶対に駄目だ!」
「だが結婚式に間に合わせないと」
「おれが行くよ。兄さんは休んで」
「蓮……」
「おれは昨日はぐっすり眠ったから平気さ」

 弟の蓮は細い腰で店の前に停めてあるバイクに跨がり、一気に加速した。

「蓮、気をつけて」

 バイクのテールランプを、思わせぶりに5回。

 古くさい歌のように愛を囁く愛しい弟の背中を……俺は目を細めていつまでも見守った。

 あれは……俺の蓮だ。

 世間が何と言おうと、俺は連を愛し抜く。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...