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小学生編

賑やかな日々 24

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「滝沢さん、おはようございます! 今日は瑞樹がお世話になるみたいで、宜しくお願いします」
「まぁ葉山さんお久しぶりね。そうなのよ。今日は芽生の誕生日会と子供の日のお祝いと、瑞樹くんのお誕生日お祝いもするのよ」
「瑞樹まで? 嬉しいわ。あの子は賑やかなのに慣れていないので大人しくなってしまうかも……でも心の中では飛び跳ねているので分かってあげて下さいね」
「えぇ、彼は慎ましいものね。でも喜んでくれているの、いつも伝わっているわ」
「よかった」

 あの事故のせいで笑顔が長い間消えてしまった瑞樹。函館の家にいた時は、笑うことが罪のように感じている痛々しい少年だった。そんな寂しい顔をした瑞樹が、滝沢さんと芽生くんと暮らすようになってから、本当に明るく朗らかになった。それは分かっているのに、ついお節介なことを言ってしまったわ。

「ところで葉山さんの声、いつもより明るいわね。何か良いことでも?」
「あ……あの……実は最近とある男性と知り合って……その」
「え? 何それ、詳しく聞かせて下さいな」
「それが瑞樹絡みなんです。あの子が亡くなった両親と親しくしていた男性と最近再会して、我が家に連れて来てから、心を寄り添わせているの。こんなの変かしら……いい歳して」

 滝沢さんには、この辺りで熊田さんのことを話しておきたくなった。

「どんな人なの?」
「それが、森のくまさんみたいな人なのよ」
「森の……熊?」
「ふふ、お髭も髪もボサボサだけど包容力があって素敵な方なのよ」

 何年ぶりかしら? 私が男性の話をするなんて。
 トキメクなんて、もう二度とないと思っていたのに不思議ね。

「まあ素敵だわ! あなたは私より若いし旦那様が亡くなられて20年以上経つのでしょう。今からでも幸せになって欲しいわ」
「そう言っていただけると自信を持てるわ」
「私も会ってみたいわ。その男性に……」
「それがね、今日会えるんですよ」
「え?」

 熊田さんから東京にいる旨と、今日滝沢家の誕生日会にお邪魔する旨を聞いていたの。

「その会に、彼がお邪魔するようです。どうぞお手柔らかに」
「なんですって。それは楽しみだわ。うふふ」
「うふふ」

 私と滝沢さんは電話越しに、少女のように微笑んだ。

「実は明日、彼から大事な話があると言われていて」
「まぁ! じゃあ美容院に行かないと」
「え……でも今更よ」
「そんなことないわ。いくつになってもオシャレしてもいいのよ」
「そうかしら?」
「応援しているわ」

 電話を切って、みっちゃんに相談すると、彼女の行きつけの美容院を紹介してくれた。

「お義母さん、綺麗にしてもらって下さいね」
「こんなオシャレな美容院……気後れしちゃうわ」
「何言っているんですか、明日はデートですよ! デート!」

 いい歳のおばさんなのに、皆に応援してもらって擽ったいわ。
 
「髪も切ってボブにしましょうか。少し明るくするといいかも」
「え?」

 ずっとひっつめ髪だった……黒いゴムで結わくだけでオシャレなんて無縁だった。自分になんてとても構っていられなかった。そんな私が最近は店を広樹に任せて自由に出歩けるようになったし、花屋の売り上げが改装してから倍増して、経済的にも余裕が出来たの。

 このタイミングで熊田さんと出会うなんて、これもご縁なのかしら。

 可愛い瑞樹が運んで来てくれたのよ。私が育てた瑞樹が……

「どうします? 思い切りますか」
「はい、さっぱり軽やかにして下さい」


****

「あの、皆さんの写真を撮ってもいいですか」
「瑞樹くん、ぜひ頼むよ」
「じゃあ撮りますね」

 僕は母の一眼レフを鞄から取り出し首から提げた。宗吾さんからプレゼントしてもらったクローバー色のストラップを見ると自然に頬が緩む。そのままファインダーを覗くと視界には幸せそうな笑顔が溢れていた。

 お母さん。
 憲吾さんと美智さんと彩芽ちゃん。
 芽生くんと宗吾さん。
 そして……くまさん。

  一人一人をファインダー越しに、じっと確認した。

 皆……いる。
 あなたたちは僕の家族なんだと叫びたくなる。

「撮りますよ!」

 白い歯が輝き、目尻には深い皺。

 みんな……最高にいい笑顔だ。

 カシャッ――

 小気味よい音に、僕の心も晴れ模様!

「瑞樹くんも入ってくれ。店の人を呼んでくるよ」
「あ……はい」

 憲吾さんが、すかさず人を呼んでくれた。

「瑞樹はここに来いよ」

 宗吾さんが芽生くんとの間を空けてくれたので、僕も躊躇わずに輪の中に入った。

 「はい!」

 今日という日も、僕の思い出アルバムの頁に刻まれるだろう。




 宴もたけなわの頃、蒸籠に入ったデザートが出て来た。蓋を開けると、ふっくらツヤツヤした見た目が愛らしいお饅頭だった。うっすらピンクのアクセントも可愛らしい。

「本日はお祝いの席とお聞きしましたので、当店からのサービスです」
「わぁ~ 小さなおしりがいっぱい!」
「え?」

 芽生くんの発言には、皆びっくりしていた。それは可愛いサイズの桃饅頭だった。

「はははっ、芽生、これは桃饅頭と言うんだぞ」
「ももまんじゅう?  でもパパって、こういうの大好きだよね?」
「ん? 芽生は流石パパの子だ。するどいな」
 
  宗吾さんがニヤニヤと僕を見つめてウインクしたので、苦笑してしまう。

 えっと、それって……宗吾さんが好きなのが。僕のお尻ってこと?

 はっ! 僕、何を考えて……あぁもういいムードだったのに。

「みーくん、やっぱり俺はちょっと心配だぞ。宗吾くんはアレでいいのか」
「くすっ。くまさん、宗吾さんは通常運転のようです」
「みーくんがいいならいいか。それにみーくんもニヤニヤして怪しいし」
「ぼ……僕は怪しくないです!」
「はは、可愛いな」
 
 イケオジになったくまさんに言われると恥ずかしい。それに芽生くんと宗吾さんの会話に耳を傾けると、ますます照れ臭くなった。

「パパがすきなものって、わかりやすいよね」
「そうなのか」
「うん、かわいいのがすきだもんね」
「そうだな」
「ボクもおなじだよ! お兄ちゃんってかわいいよね」
「そうそう。よく分かってるな」




 帰り際、くまさんが僕の頭にポンと手をあてた。

「みーくん、今日はありがとうな。これで安心して函館に帰れるよ。君がどんなに滝沢くんとその家族に大切にされて愛されているのか、この目で見られて安心出来たよ」
「本当に来てくれて、泊まってくれてありがとうございました」
「さてと、そろそろ俺も進むか」
「え……」
「ははっ、こっちの話」
「?」

 くまさんも上機嫌だ。

 次はいつ会えるかな? この前は名残惜しかったが、今回は次に会えるのが楽しみだ。

 こんな風に思えるのは、くまさんとの絆が深まったお陰なのかもしれない。 しっかり結ばれているから、少し位離れていても寂しくない。

 本物の家族にまた近づけた証なのかも。

「くまさん、気をつけて」
「あぁ、みーくんもな」
「また会おう!」
「はい!」

 こんなに明るい別れ、寂しくない別れがあるなんて、知らなかった。

 くまさんの背中が中華街の雑踏に消えるまで、僕は手を振っていた。

 くまさんにも沢山の幸せが訪れますように。

 きっときっと、もうそこまで来ている……そんな予感!

 
  
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