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小学生編
賑やかな日々 23
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「兄さん、個室を予約したのですね」
「あぁ、この方が芽生もゆっくり過ごせるだろう」
「ありがとうございます。彩芽ちゃんのベビーチェアも兄さんが手配を?」
「あぁ、抜かりないだろう」
つい口が滑り以前のように嫌味な発言をしたかと、ひやりとした。
「流石です。気が利きますね。俺は芽生が小さい頃、何も分かっていなかったんですよ。どんなに育児が大変かを理解してやれなくて……悪いことをしました。あ、あと瑞樹も個室の方が落ち着くと思うので、感謝しています」
宗吾は素直に受け止めてくれたようで、逆に礼を言われて驚いた。
変わったのは、私だけでないのか。
宗吾も大きく変わった。
お互いに歩み寄っているから、上手く行くのだ。
「芽生、8歳の誕生日おめでとう! こどもの日もおめでとう。それから瑞樹くん、お誕生日おめでとう。さぁ君のお祝いも一緒にさせてくれ」
「え……僕もですか」
「当たり前だ。君も立派な滝沢ファミリーの一員だろう?」
「そうよ、瑞樹くん恥ずかしがらないで」
「あ……はい」
瑞樹くんは自分が振られると思っていなかったようで、真っ赤になっていた。
私は、そんな彼の初々しい反応が嬉しかった。
宗吾が君をどんなに愛しているか。君が私達家族と母をどんなに大切に想ってくれているかを知っているから、私も出来る限りのことをしてあげたい。
この先何があっても、どんな相談にも乗るから安心してくれ。君には宗吾と芽生と末永く一緒に幸せに暮らして欲しい。それが私の希望だ。
「瑞樹くん、君も滝沢ファミリーの立派な一員だ。胸を張ってくれ」
「憲吾さん……」
すると突然、熊田さんが円卓に突っ伏して嗚咽をあげた。
「うううっ……うう」
「ど、どうしたんですか。くまさん」
「あぁ……すまない。みーくんが幸せそうなのが嬉しくてな。宗吾くんの家族にしっかり愛されているんだな。本当によかった。優しく受け入れてもらえて良かった……その様子をこの目で見られてよかった……俺、本当に生きていて良かったよ」
瑞樹くんが、そっと熊田さんの手を握って微笑んだ。
「くまさん……はい……僕、宗吾さんの家族が大好きです。僕のもう一つの家族です」
「そうか、そうか……天国の大樹さんも澄子さんも、この光景を見て、きっと安心しているよ」
瑞樹くんも涙ぐんでいた。
私の視界も、ぼやけた。
どんな状況でも心の冷静さは保つべきだという考えは……捨てた。
心は、震えるものだ。
人と人との縁は見えないが、確かにある。
その縁をどうやって絆として繋いでいくか。
それは私達次第なのだと、しみじみと思った。
「さぁ、食事にしよう」
「いただきます」
チャーシューなどの前菜から始まり、コーンスープ、青菜の炒め……
料理が次々にスムーズに出てきた。
見渡せば、皆、美味しそうに料理を頬張っていた。
「お兄ちゃん、ボクもまわしてみたい」
「芽生くん、いいかい? ゆっくり回すんだよ。円から物が飛び出ていないかよく見てね。グラスとぶつかったら大変だからね」
「うん! わかった」
芽生がワクワクした顔で、円卓をそっと回してくれた。
すると……茶器が私の前でぴたりと止まった。
「ん? 私か」
「うん! あのね、けんごおじさんのお茶がすくなかったから」
「あ……ありがとう」
小さいのに些細なことに気がついてくれる。
芽生の優しさには、じんとした。
「憲吾さん、彩芽はベビーチェアに座らせるから、ゆっくり食べて」
「だが……美智がそれでは」
「私はだいぶ食べたわ。代わりばんこでいきましょう」
「分かった」
私達の会話を、母が微笑みながら聞いている。
「いいわね、憲吾。あなたは幸せものよ」
「母さん……父さんは昔の人だったら苦労したでしょうね」
「そうよ。全部私に押しつけて、今の人たちはいいわね」
おっと……耳が痛いな。
「私はあまり手伝いをしませんでした。宗吾の面倒もろくに見なかったですし」
「憲吾は、今してくれているわ。それに小さい頃、宗吾の暴走を止めるのは、いつも憲吾だったのよ」
「宗吾はきかん坊で喧嘩っ早くて、母さんも苦労しましたね」
「ふふふ」
そこにヒョコッと芽生が遊びに来てくれ、私のお膝にちょこんと座って、大きな目を輝かせた。
「おじさんもビールを飲むんだね」
「あぁ、芽生も大人になったら一緒に飲むか」
「うん。ボク、カッコイイ大人になるね」
「芽生の将来が楽しみだよ」
艶々と輝く黒髪に、宗吾の小さな頃を思い出す。
5歳も年下だったので、上手に遊んでやれなくてすまなかったな。
「ねぇねぇ、おじさん、パパが小さな時のお話きかせて」
「ははっ、元気で……元気で……元気すぎてだな……」
「うんうん」
「まぁ……可愛い弟だったよ」
「わぁ! おじさん、ボクもかわいいおとうとがほしいな」
「……そうか、そうだな。芽生、いとこでもいいか」
「いとこ?」
「彩芽や……北海道のゆみちゃんのことだよ」
「うん! いいよ。こんどは男の子がいいな」
無邪気に笑う芽生にほんの少しだけ、切なくなった。どんなに宗吾と瑞樹くんが愛しあっても、子供はやってこないのだ。だからこそ宗吾と瑞樹くんには、この先もずっとずっと深い絆で結ばれていて欲しい。
「憲吾、あなたたち……もしかして二人目を考えているの?」
「母さん……えぇ、私もいい年ですから、早めに授かれたらいいなとは」
「素敵ね。芽生にとっても、憲吾のところに赤ちゃんが増えれば、賑やかになるわ」
「そう思います」
「うちの場合、親世代が……宗吾と憲吾が兄弟仲良しだから、子供同士もいとこの枠を跳び越えるわね」
「そうでありたいです」
円卓の向こう側で、宗吾が笑っている。
瑞樹くんがはにかむように笑っている。
二人を包むような眼差しで、熊田さんが笑っている。
いがみあえば、幸せは偏って、零れ落ちていく。
零れないように協力しあえば、幸せは積もっていく。
やはり縁を大切にする人でありたいな。私は――
「おじさん、あーちゃんとちょっと遊んでもいい?」
「あぁ、個室だから大丈夫だよ」
「ありがとう!」
ピョンと芽生が飛び降りると、優しい温もりがまだ残っていた。
この温もりを大切にする人でありたい。
「あぁ、この方が芽生もゆっくり過ごせるだろう」
「ありがとうございます。彩芽ちゃんのベビーチェアも兄さんが手配を?」
「あぁ、抜かりないだろう」
つい口が滑り以前のように嫌味な発言をしたかと、ひやりとした。
「流石です。気が利きますね。俺は芽生が小さい頃、何も分かっていなかったんですよ。どんなに育児が大変かを理解してやれなくて……悪いことをしました。あ、あと瑞樹も個室の方が落ち着くと思うので、感謝しています」
宗吾は素直に受け止めてくれたようで、逆に礼を言われて驚いた。
変わったのは、私だけでないのか。
宗吾も大きく変わった。
お互いに歩み寄っているから、上手く行くのだ。
「芽生、8歳の誕生日おめでとう! こどもの日もおめでとう。それから瑞樹くん、お誕生日おめでとう。さぁ君のお祝いも一緒にさせてくれ」
「え……僕もですか」
「当たり前だ。君も立派な滝沢ファミリーの一員だろう?」
「そうよ、瑞樹くん恥ずかしがらないで」
「あ……はい」
瑞樹くんは自分が振られると思っていなかったようで、真っ赤になっていた。
私は、そんな彼の初々しい反応が嬉しかった。
宗吾が君をどんなに愛しているか。君が私達家族と母をどんなに大切に想ってくれているかを知っているから、私も出来る限りのことをしてあげたい。
この先何があっても、どんな相談にも乗るから安心してくれ。君には宗吾と芽生と末永く一緒に幸せに暮らして欲しい。それが私の希望だ。
「瑞樹くん、君も滝沢ファミリーの立派な一員だ。胸を張ってくれ」
「憲吾さん……」
すると突然、熊田さんが円卓に突っ伏して嗚咽をあげた。
「うううっ……うう」
「ど、どうしたんですか。くまさん」
「あぁ……すまない。みーくんが幸せそうなのが嬉しくてな。宗吾くんの家族にしっかり愛されているんだな。本当によかった。優しく受け入れてもらえて良かった……その様子をこの目で見られてよかった……俺、本当に生きていて良かったよ」
瑞樹くんが、そっと熊田さんの手を握って微笑んだ。
「くまさん……はい……僕、宗吾さんの家族が大好きです。僕のもう一つの家族です」
「そうか、そうか……天国の大樹さんも澄子さんも、この光景を見て、きっと安心しているよ」
瑞樹くんも涙ぐんでいた。
私の視界も、ぼやけた。
どんな状況でも心の冷静さは保つべきだという考えは……捨てた。
心は、震えるものだ。
人と人との縁は見えないが、確かにある。
その縁をどうやって絆として繋いでいくか。
それは私達次第なのだと、しみじみと思った。
「さぁ、食事にしよう」
「いただきます」
チャーシューなどの前菜から始まり、コーンスープ、青菜の炒め……
料理が次々にスムーズに出てきた。
見渡せば、皆、美味しそうに料理を頬張っていた。
「お兄ちゃん、ボクもまわしてみたい」
「芽生くん、いいかい? ゆっくり回すんだよ。円から物が飛び出ていないかよく見てね。グラスとぶつかったら大変だからね」
「うん! わかった」
芽生がワクワクした顔で、円卓をそっと回してくれた。
すると……茶器が私の前でぴたりと止まった。
「ん? 私か」
「うん! あのね、けんごおじさんのお茶がすくなかったから」
「あ……ありがとう」
小さいのに些細なことに気がついてくれる。
芽生の優しさには、じんとした。
「憲吾さん、彩芽はベビーチェアに座らせるから、ゆっくり食べて」
「だが……美智がそれでは」
「私はだいぶ食べたわ。代わりばんこでいきましょう」
「分かった」
私達の会話を、母が微笑みながら聞いている。
「いいわね、憲吾。あなたは幸せものよ」
「母さん……父さんは昔の人だったら苦労したでしょうね」
「そうよ。全部私に押しつけて、今の人たちはいいわね」
おっと……耳が痛いな。
「私はあまり手伝いをしませんでした。宗吾の面倒もろくに見なかったですし」
「憲吾は、今してくれているわ。それに小さい頃、宗吾の暴走を止めるのは、いつも憲吾だったのよ」
「宗吾はきかん坊で喧嘩っ早くて、母さんも苦労しましたね」
「ふふふ」
そこにヒョコッと芽生が遊びに来てくれ、私のお膝にちょこんと座って、大きな目を輝かせた。
「おじさんもビールを飲むんだね」
「あぁ、芽生も大人になったら一緒に飲むか」
「うん。ボク、カッコイイ大人になるね」
「芽生の将来が楽しみだよ」
艶々と輝く黒髪に、宗吾の小さな頃を思い出す。
5歳も年下だったので、上手に遊んでやれなくてすまなかったな。
「ねぇねぇ、おじさん、パパが小さな時のお話きかせて」
「ははっ、元気で……元気で……元気すぎてだな……」
「うんうん」
「まぁ……可愛い弟だったよ」
「わぁ! おじさん、ボクもかわいいおとうとがほしいな」
「……そうか、そうだな。芽生、いとこでもいいか」
「いとこ?」
「彩芽や……北海道のゆみちゃんのことだよ」
「うん! いいよ。こんどは男の子がいいな」
無邪気に笑う芽生にほんの少しだけ、切なくなった。どんなに宗吾と瑞樹くんが愛しあっても、子供はやってこないのだ。だからこそ宗吾と瑞樹くんには、この先もずっとずっと深い絆で結ばれていて欲しい。
「憲吾、あなたたち……もしかして二人目を考えているの?」
「母さん……えぇ、私もいい年ですから、早めに授かれたらいいなとは」
「素敵ね。芽生にとっても、憲吾のところに赤ちゃんが増えれば、賑やかになるわ」
「そう思います」
「うちの場合、親世代が……宗吾と憲吾が兄弟仲良しだから、子供同士もいとこの枠を跳び越えるわね」
「そうでありたいです」
円卓の向こう側で、宗吾が笑っている。
瑞樹くんがはにかむように笑っている。
二人を包むような眼差しで、熊田さんが笑っている。
いがみあえば、幸せは偏って、零れ落ちていく。
零れないように協力しあえば、幸せは積もっていく。
やはり縁を大切にする人でありたいな。私は――
「おじさん、あーちゃんとちょっと遊んでもいい?」
「あぁ、個室だから大丈夫だよ」
「ありがとう!」
ピョンと芽生が飛び降りると、優しい温もりがまだ残っていた。
この温もりを大切にする人でありたい。
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