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小学生編
賑やかな日々 2 (瑞樹誕生日special)
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今日は僕の誕生日。
昨夜は宗吾さんに前祝いにビールを沢山飲まされたので、朝までぐっすり眠ってしまった。
僕の両隣には、芽生くんと宗吾さんが寝息を立てている。以前は芽生くんを真ん中にして眠っていたのに、最近は僕を中心に二人がくっついてくる。
毎日二人から、惜しみない愛を注いでもらっている。
「ん……瑞樹、起きたのか」
「はい、宗吾さん、おはようございます」
「瑞樹、誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
「あと、お、は、よ、う!」
毎朝欠かさない朝の挨拶《キス》を済ませて起きようとすると、宗吾さんに手を引っ張られた。
「おっと、今日はまだ駄目だ。ちょっと寝室で待っていてくれ」
「ですが、洗濯や朝食の準備をしないと」
「今日は君の誕生日スペシャルだ。おーい芽生起きろ! 朝だ」
わわ、そんな大きな声で呼んだら、芽生くんがびっくりするのに。
「パパ、おはよう」
しかし芽生くんは、とてもご機嫌に起きてくれた。
「そうだ! お兄ちゃん、はっぴぃばーすでー!」
寝起きの芽生くんが僕にピタッとくっついて、お祝いをしてくれる。宗吾さんに似た髪質だからか、二人の寝ぐせが同じ位置について可愛いな。
「おにいちゃん、ちょっとだけまっていてね」
「何かな?」
「えっと、まだナイショー!」
「?」
また可愛い秘密の時間のようだ。
僕の心、朝からポカポカと上昇していくよ。
宗吾さんと芽生くんが、「ちょっとまって」と寝室から出て行った後、自分の心臓をそっと手で押さえてみた。
ドクドク、ドクドク。
規則正しい心音に、耳を澄ました。
これは生きているからこそ感じられる音なんだ。
朝起きた瞬間から、こんなにお祝いをしてもらえるなんて幸せだな。
以前は……誕生日は、もうこの世にいない家族を思い出す寂しい日だった。
――僕だけ生き残って、ごめんなさい。――
そんな後ろ向きになことばかり考えて、暗く沈んでいた。
……
「みずき、10歳の誕生日おめでとう!」
「瑞樹、また背が伸びたな、おめでとう
「おにいちゃん、おめでとぅ」
大きな苺のケーキは、いつも母の手作りだった。
ロウソクはちょうど10本、苺も10個。
プレートには『みーくん、おめでとう』と母の可愛らしい文字。
大きく息を吸い込みふぅーと長く吐くとキャンドルは消え、部屋は真っ暗になった。
でも、すぐにお母さんに抱きしめられ、お父さんには頭をなでられた。小さな夏樹は手をつないでくれた。
そんな瞬間が、毎年待ち遠しかった。
来年も同じ日が来ると信じていた。
だから、あの日から夢を見るようになった。
ロウソクを消したら、誰もいなくなってしまう悪夢を。
……
それが僕が暗闇が怖くなった理由のひとつだ。
しかし、もう怖くない。
こんなにも愛されて、求められているから。
「瑞樹、準備が出来たからおいで」
「お兄ちゃん、もういいよ」
「え? いきなりアイマスク?」
「おたのしみだからな」
両手を引かれ椅子に座り目隠しを取ると、目の前には
「わぁ!」
「今から瑞樹の誕生日会を始めるぞ」
「お兄ちゃん、今日は1日中おたんじょうびかいだよ。まずはボクがやいたホットケーキだよ!」
少し焦げたホットケーキが3枚重ねられ、キャンドルが刺さっていた。
そして白いお皿にはチョコペンで、『みーくん、おめでとう』と書かれていた。
「すごい! 芽生くんが焼いたの?」
「えへへ。パパはおひるごはんをごちそうするから、ボクは朝ごはんをプレゼントだよ」
「嬉しいよ」
「パパ、歌をうたおうよ」
「いいな。朝からノリノリだぜ」
ハッピバースデーの歌と共に、ふうーっと灯りを消した。
すると、明るい笑顔とあたたかい拍手が広がった。
「ありがとうございます。とても美味しいし嬉しいです」
「まだまだこれからだ。さぁ次はお洒落をして銀座に繰り出そう」
「はい! あの……カメラを持って行ってもいいですか。今日は写真を沢山撮りたいです」
「もちろんだ」
自分の誕生日に写真を撮るのは、久しぶりだ。
10歳までの誕生日は、いつもお父さんがカメラを構えて誕生日会の間中、うろうろしていた。ロウソクを消す瞬間の写真は毎年同じ表情で口を尖らせていた。お父さんってばアルバムに並べて、「今年もいい顔だ」って、自慢気に見ていたよね。
お父さんの記憶は、くまさんのお陰でどんどん蘇って来ている。
「お兄ちゃん、何をきたらいい?」
「そうだね、紺のパンツにベストを着ようか」
「うん!」
「瑞樹はこれな」
「あ、はい」
宗吾さんが僕の衣装を選んでくれるのが、こそばゆい。
「君は優しい顔立ちだから、クリームイエローのブルゾンが似合う」
「宗吾さんとお揃いみたいですね」
「狙った。せっかくの休日家族デートだ。芽生もこれを中に着ろ。クリームイエローのシャツで、三人でペアルックだぞ」
「うん!」
僕たちは銀座という土地柄、いつもより少しお洒落をして、家を出た。
「おでかけ、おでかけ、うれしいな~」
「芽生くん、ご機嫌だね」
「ボク、かぞくで同じことするのスキ!」
「僕もだよ」
「たのしいことって、みんながいると、もっともっとふえるんだね」
「うん、そうだね」
生け込みの仕事で銀座には毎週来るが、一人で花材を抱えて歩く時とは全く別の高揚感だ。
僕は銀座の大通りで、夢中になってシャッターを切っていた。
芽生くんの笑顔、宗吾さんの明るい顔。
どちらも、僕の宝物だ。
今日は僕が生まれた日。
だから今日という日を、写真に収めたい。
来年アルバムを見返したら、芽生くんの成長が分かって面白いだろうな。
心の中で何度も明るい未来への幸せを感じていた。
「よーし、昼食を食べてからだと芽生のお腹がぽっこりタヌキになるから、そろそろスーツを作りにいこう」
「えー! タヌキ? ぼくはクマさんがいいよ」
「くすっ」
「そうだ、お兄ちゃん、くまさんは元気かなぁ」
「昨日ちょうど電話をしたんだ。明日が誕生日ですって言ったら、お祝いしてくれたよ」
「みんな、お兄ちゃんが大好きだから、お兄ちゃんがうまれた日はトクベツうれしいんだね」
うれしいよ。
そんな風に言ってくれて、ありがとう。
僕もね、朝からずっと思っているよ。
何度も何度もリフレインする言葉がある。
――生きていてよかった――
今日は僕だけの記念日。
同時に、僕のお母さんが、お母さんになった日だ。
心から自分の存在を認め、天国の母に感謝できる日になったんだ。
昨夜は宗吾さんに前祝いにビールを沢山飲まされたので、朝までぐっすり眠ってしまった。
僕の両隣には、芽生くんと宗吾さんが寝息を立てている。以前は芽生くんを真ん中にして眠っていたのに、最近は僕を中心に二人がくっついてくる。
毎日二人から、惜しみない愛を注いでもらっている。
「ん……瑞樹、起きたのか」
「はい、宗吾さん、おはようございます」
「瑞樹、誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
「あと、お、は、よ、う!」
毎朝欠かさない朝の挨拶《キス》を済ませて起きようとすると、宗吾さんに手を引っ張られた。
「おっと、今日はまだ駄目だ。ちょっと寝室で待っていてくれ」
「ですが、洗濯や朝食の準備をしないと」
「今日は君の誕生日スペシャルだ。おーい芽生起きろ! 朝だ」
わわ、そんな大きな声で呼んだら、芽生くんがびっくりするのに。
「パパ、おはよう」
しかし芽生くんは、とてもご機嫌に起きてくれた。
「そうだ! お兄ちゃん、はっぴぃばーすでー!」
寝起きの芽生くんが僕にピタッとくっついて、お祝いをしてくれる。宗吾さんに似た髪質だからか、二人の寝ぐせが同じ位置について可愛いな。
「おにいちゃん、ちょっとだけまっていてね」
「何かな?」
「えっと、まだナイショー!」
「?」
また可愛い秘密の時間のようだ。
僕の心、朝からポカポカと上昇していくよ。
宗吾さんと芽生くんが、「ちょっとまって」と寝室から出て行った後、自分の心臓をそっと手で押さえてみた。
ドクドク、ドクドク。
規則正しい心音に、耳を澄ました。
これは生きているからこそ感じられる音なんだ。
朝起きた瞬間から、こんなにお祝いをしてもらえるなんて幸せだな。
以前は……誕生日は、もうこの世にいない家族を思い出す寂しい日だった。
――僕だけ生き残って、ごめんなさい。――
そんな後ろ向きになことばかり考えて、暗く沈んでいた。
……
「みずき、10歳の誕生日おめでとう!」
「瑞樹、また背が伸びたな、おめでとう
「おにいちゃん、おめでとぅ」
大きな苺のケーキは、いつも母の手作りだった。
ロウソクはちょうど10本、苺も10個。
プレートには『みーくん、おめでとう』と母の可愛らしい文字。
大きく息を吸い込みふぅーと長く吐くとキャンドルは消え、部屋は真っ暗になった。
でも、すぐにお母さんに抱きしめられ、お父さんには頭をなでられた。小さな夏樹は手をつないでくれた。
そんな瞬間が、毎年待ち遠しかった。
来年も同じ日が来ると信じていた。
だから、あの日から夢を見るようになった。
ロウソクを消したら、誰もいなくなってしまう悪夢を。
……
それが僕が暗闇が怖くなった理由のひとつだ。
しかし、もう怖くない。
こんなにも愛されて、求められているから。
「瑞樹、準備が出来たからおいで」
「お兄ちゃん、もういいよ」
「え? いきなりアイマスク?」
「おたのしみだからな」
両手を引かれ椅子に座り目隠しを取ると、目の前には
「わぁ!」
「今から瑞樹の誕生日会を始めるぞ」
「お兄ちゃん、今日は1日中おたんじょうびかいだよ。まずはボクがやいたホットケーキだよ!」
少し焦げたホットケーキが3枚重ねられ、キャンドルが刺さっていた。
そして白いお皿にはチョコペンで、『みーくん、おめでとう』と書かれていた。
「すごい! 芽生くんが焼いたの?」
「えへへ。パパはおひるごはんをごちそうするから、ボクは朝ごはんをプレゼントだよ」
「嬉しいよ」
「パパ、歌をうたおうよ」
「いいな。朝からノリノリだぜ」
ハッピバースデーの歌と共に、ふうーっと灯りを消した。
すると、明るい笑顔とあたたかい拍手が広がった。
「ありがとうございます。とても美味しいし嬉しいです」
「まだまだこれからだ。さぁ次はお洒落をして銀座に繰り出そう」
「はい! あの……カメラを持って行ってもいいですか。今日は写真を沢山撮りたいです」
「もちろんだ」
自分の誕生日に写真を撮るのは、久しぶりだ。
10歳までの誕生日は、いつもお父さんがカメラを構えて誕生日会の間中、うろうろしていた。ロウソクを消す瞬間の写真は毎年同じ表情で口を尖らせていた。お父さんってばアルバムに並べて、「今年もいい顔だ」って、自慢気に見ていたよね。
お父さんの記憶は、くまさんのお陰でどんどん蘇って来ている。
「お兄ちゃん、何をきたらいい?」
「そうだね、紺のパンツにベストを着ようか」
「うん!」
「瑞樹はこれな」
「あ、はい」
宗吾さんが僕の衣装を選んでくれるのが、こそばゆい。
「君は優しい顔立ちだから、クリームイエローのブルゾンが似合う」
「宗吾さんとお揃いみたいですね」
「狙った。せっかくの休日家族デートだ。芽生もこれを中に着ろ。クリームイエローのシャツで、三人でペアルックだぞ」
「うん!」
僕たちは銀座という土地柄、いつもより少しお洒落をして、家を出た。
「おでかけ、おでかけ、うれしいな~」
「芽生くん、ご機嫌だね」
「ボク、かぞくで同じことするのスキ!」
「僕もだよ」
「たのしいことって、みんながいると、もっともっとふえるんだね」
「うん、そうだね」
生け込みの仕事で銀座には毎週来るが、一人で花材を抱えて歩く時とは全く別の高揚感だ。
僕は銀座の大通りで、夢中になってシャッターを切っていた。
芽生くんの笑顔、宗吾さんの明るい顔。
どちらも、僕の宝物だ。
今日は僕が生まれた日。
だから今日という日を、写真に収めたい。
来年アルバムを見返したら、芽生くんの成長が分かって面白いだろうな。
心の中で何度も明るい未来への幸せを感じていた。
「よーし、昼食を食べてからだと芽生のお腹がぽっこりタヌキになるから、そろそろスーツを作りにいこう」
「えー! タヌキ? ぼくはクマさんがいいよ」
「くすっ」
「そうだ、お兄ちゃん、くまさんは元気かなぁ」
「昨日ちょうど電話をしたんだ。明日が誕生日ですって言ったら、お祝いしてくれたよ」
「みんな、お兄ちゃんが大好きだから、お兄ちゃんがうまれた日はトクベツうれしいんだね」
うれしいよ。
そんな風に言ってくれて、ありがとう。
僕もね、朝からずっと思っているよ。
何度も何度もリフレインする言葉がある。
――生きていてよかった――
今日は僕だけの記念日。
同時に、僕のお母さんが、お母さんになった日だ。
心から自分の存在を認め、天国の母に感謝できる日になったんだ。
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