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小学生編

にこにこ、にっこり 3

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 あさおきたら、ママがおけしょうをしていたよ。   
 だから、なにかあるのかなって、ワクワクしたんだ。

「ママ、きょう、どっかいくの?」
「いっくん、おはよう。今日は駅までお迎えにいくのよ」
「えっと、だれを?」
「パパのお兄ちゃんとぼうや」
「うわぁ! いっくんおともだちになる!」
「お友達になれるといいわね」

 いそいで、おきがえしたよ。
 パパがもうすぐここにくるって。

 いっくんね、パパがだいすき。
 だいすきすぎて、パパにずーっとくっついていたくなるんだよ。

「菫さん、いっくんおはよう」
「おはよう。潤くん」
「ぱ、ぱー おはよう!」

 いっくんのパパはね、おおきなきみたいにおおきいの。
 すごーく、「かっこいいんだよ。

「パパ、あのね、おともだちのおなまえ、おしえて」
「ん? あぁ瑞樹と芽生だよ」
「みじゅきと……めえ?」
「ははっ、メイだよ」
「ふぅん」

 いっくんにはちょっとむずかしいから、みじゅきくんはみーくんで、めえくんはめーくんってよんでもいいかな?

 そうだ! たいへん! はじめましてのときは、おみやげがいるんだよね。

 このまえ、パパがじじとばばに、わたしていたもん。

「ほら、いっくん、行くわよ」
「うん!」

 どうしよう! なにがいいかな?

 いっくんのすきなのあげたいなぁ。

 あ、はっぱさんがよんでる。

 このかわいいはっぱさんはめーくんで、きれいなのはみーくんにしよう!

 あとはパパのひこうきにのって、びゅーんびゅーん!



****

「芽生くん、そろそろ着くよ」
「あれ? あれれ……ボクねちゃった?」
「くすっ、少しだけね」
「わーん、キシさんがだいなしだ」
「そんなことないよ。芽生くんがずっと手を握ってくれていたら、お兄ちゃん怖くなかったんだ」

 ボクの目線までお兄ちゃんがしゃがんで、ニコッと笑ってくれた。

 お兄ちゃんの目って、いつ見てもきれいだなぁ。

 お兄ちゃんはきっと昔、とってもこわい目にあったんだ。

 だからそれをときどきおもいだしちゃうの。

 ほらこわいユメをみたのを、おもいだしちゃうみたいに。

 ボクはまだ小さいからお兄ちゃんをパパみたいに大きくまもってあげられないけど、手をつないだり、はげましてあげることはできるんだよ。

「お兄ちゃん、いたいのいたいのとんでいけー」
「芽生くん……ありがとう」

 お兄ちゃんがギュッとボクをだっこしてくれる。

 もうあまえてもだいじょうぶ?

「お兄ちゃん、大すき」
「心配かけちゃったね。もう大丈夫だよ。潤も迎えに来てくれるから」
「いっくんに、はやくあいたいな」

 ジュンくんもパパになるんだって。

 いっくんは、ボクよりも小さなお友だち。

 おとうとみたいで、かわいいだろうな。

****

「ジュンくーん」

 新幹線・軽井沢駅の改札に、潤たちが迎えに来てくれていた。

 また潤に会えてうれしいよ。

「兄さん!」
「潤、迎えに来てくれてありがとう」

 潤の隣には、可憐な女性が立っていた。
 この人が菫さんなのか。改めて対面すると、じわりと感動してしまった。
 
「は、はじめまして。潤の兄の瑞樹です」
「菫です。宜しくお願いします」
「あれ? 息子さんは?」

 当然一緒に来ると思っていたのに、姿が見えない。

「ジュンくん、いっくんは?」
「ここだよ」
「え?」
「いっくん、どうした? さっきまで張り切っていたのに」
「……はじゅかちいでしゅ」

 わ! 可愛い声。
 潤の足にキュッとくっついている男の子と目が合った。
 しかしすぐに目を逸らされてしまう。
 あれれ? まだ恥ずかしいのかな。
 何だかこの子……昔の僕みたいんだ。
 僕も人見知りが激しかったんだよ。

「芽生くん、ご挨拶しようか」
「うん! いっくん、はじめまして。ボク、メイだよ」
「……ぱ、ぱぁ……だっこ」

 いっくんは泣きそうな顔で、潤を見上げる。

「いっくん。どうした? さっきまで張り切っていたのに」
「んっとね、んっとね」

 モジモジする様子も、あどけないね。

「そうだ、いっくん。二人にお土産を渡そうか」
「あ……うん!」
「あのね……これね、みーくんにあげる」

 みーくん! まさかここでその呼び方をされると思わなかったので、急に照れ臭くなってしまった。

 小さな手には、綺麗な色の葉っぱがのっていた。

「ありがとう。僕はパパのお兄ちゃんの瑞樹だよ。みーくんって呼んでくれてありがとう」

 しゃがんで話すと、いっくんは嬉しそうに笑ってくれた。

 菫さんに似た可憐な子供で、すごく可愛い。
 潤がメロメロになるの分かる!

「こっちは、めーくんにあげる」
「わぁ、かわいいはっぱだ。お兄ちゃん、これなんの葉っぱ?」
「芽生くんの図鑑で調べてみるといいよ」
「うん! そうする!」
「兄さん、こんな場所じゃなんだから、プリンセスホテルに行こう」

 いっくんはまだ恥ずかしいようで、潤にべったりだ。

「いっくん、まだ恥ずかしいのか」
「はじゅかちい……でしゅ」

 うわぁぁ、舌足らずな話し方だ。
 出会った頃の芽生くんを思い出すよ。

「お兄ちゃん……ボクもあんなだった? 前はもっとかわいかった?」
「芽生くんは、今もとっても可愛いよ」
「よかったぁ」
 
 芽生くんが手を伸ばしてくるので、キュッと優しくつないであげた。

 手って不思議だよね。

 繋いでもらうと安心できるし、繋いであげると安心させてあげられる。

 心の中は目に見えないけれど、手をキュッとつなぐと心もキュッと喜んでくれるんだ。

「お兄ちゃん、いっくんがくれた葉っぱきれいだね」
「そうだね。宝物を分けてもらえてよかったね」
「うん!」

 潤がいっくんを抱っこして歩く様子に、思わず目を細めてしまった。

 まだまだ子供だと思っていたのに……

 あの潤が、もう……すっかりパパの顔になっている。

 想像はしたけれど、じんわりと感動するよ。

「兄さん、腹減っただろ? 洋食でいい?」
「うん」

 皆でプリンセスホテルのカフェレストランに入った。そこでもう一度挨拶をし合った。

「改めて、弟が大変お世話になっています」
「あなたが、潤くんの自慢のお兄さんなんですね。噂通りの綺麗な方」
「え? そんな」

 女性から綺麗と評されるのは、猛烈に照れ臭い。

「菫さんもとてもお綺麗な方で……っと、すみません。なんかこういう場って慣れて無くて」
「ははっ、兄さん、変な汗かいていないか」
「じゅ、潤!」
「ふふっ、どっちがお兄さんだか分からないわね。可愛いなぁ」
「菫さん、オレはカッコイイだろ?」
「えっとぉ」

 するとずっと俯いていたいっくんが大きな声を出した。

「パパはとってもかっこいい! いっくんのパパだもん!」

 すごい力説だ!

「いっくん、ありがとう!」
「ふふ、いっくんに潤くんを取られそうな勢いでしょ? 私達のこと、息子が巡り合わせてくれたんです」
「あ……僕もです。芽生くんのお陰で出会った人がいます」
「まぁ、やっぱりお子さんが恋のキューピットなんですね」
「はい」

 照れ臭くなって、たぶん頬は真っ赤だ。

「ママもパパのことだいすきなんだよ」
「まぁ、いっくんってば」
「そろそろ、一緒に遊んでみるか」
「うん! めーくん……あーそーぼ!」
「いいよ! あそぼう!」

 ふぅ、ようやく打ち解けてきたようだ。
 いっくんがトコトコ歩いて、芽生くんの傍に近づいた。

「いっくん、おいで、はっぱの名前しらべてあげるよ」
「わぁ、うん!」

 二人が仲良く図鑑を開いている様子に、僕は潤と菫さんと微笑みあった。

「よかった」
「子供たち、仲良くなれそうですね」
「瑞樹くんともね」
「あ、はい……あの……僕の事情は……潤から聞いていると思いますが」
「えぇ、素敵な彼氏をお持ちなんですよね。結婚式にはぜひ一緒に来てください」
「あ、あの……本当にいいんですか」
「もちろん。潤くんの大好きなお兄さんたちですもの」
「あ……ありがとうございます」

 嬉しかった!
 純粋に嬉しかった。
  
 僕と宗吾さんの関係は万人に認めてもらえるものではないが、大切な弟夫婦には理解してもらいたかった。

「兄さんは何も心配しなくていい。もう苦しめることは絶対にしない」
「潤……嬉しいけど……僕のために無理だけはしないで欲しい」
「オレが無理しているように見える?」

 潤が朗らかに笑う。
 優しい父親の顔をしていると思った。

「パパ、はっぱさんのおなまえ、めーくんがおしえてくれたよ」
「いっくん、よかったな!」

 いっくんの信頼しきった笑顔を浴びて、その笑顔は一層輝きを増していた。

 太陽みたいな笑顔だね、潤――

 僕がずっと見たかった明るい笑顔だね。

 ありがとう。

 家族には、いつも微笑んでいて欲しい。

 だから、とても嬉しいよ。


 
 
 
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