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小学生編

花明かりに導かれて 16

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「ずいぶん信頼されてんな、俺」

 まだ彼らと出会って間もないのに、みーくんの記憶の全てを宗吾くんが信じてくれるお陰で、日中の留守番を任された。
 
 だから、俺は宗吾くんの許可をもらい、寝室のペインティングの続きに勤しんだ。
 
 今日中に仕上げるぞ!

 今日からは、どうか安心して満天の星空の下で眠ってくれ。

 みーくんの喜ぶ顔が見たくて。
 坊やの無邪気な笑顔が見たくて。
 宗吾くんの晴れやかな顔が見たくて。

 こんな風に誰かの笑顔を望むことなんて、実に17年ぶりだ。

 大樹さんと澄子さん夏樹くんを一度に失ってから、もう誰かのために何かをすることなどないと勝手に決めつけていた。

 どうして一人生き残ってくれた、みーくんの存在を忘れてしまったのか。

 俺は本当に意気地なしだ。

 みーくんも事故のショックで、過去を封印してしまっていた。

 だから 俺たちは、互いに互いを忘れて生きてきた。

 あの偶然の出会いがなければ、永遠にすれ違ったままだった。

「縁あって」

 口に出すと、嬉しくなる言葉だ。


 

 
  最初に帰宅したのは宗吾くんと芽生くんだった。

「ただいま~」
「お帰り」
「熊田さん、すみません、夕食任せちゃって」
「ありきたりのものしか作れんが」
「今日は何です?」
「みーくんの好きな石狩鍋だ」
「いいですね」

 続いて、みーくんが、息を切らせて帰宅した。

「よかった」
「どうした?」
「家にくまさんがいてくれるの……夢のようで……顔を見るまで信じられなくて」

 相変わらず可愛いことを。

 みーくんは幼い頃から、優しく可憐な子だった。

 今も変わらない彼の姿に、目尻がまた下がる。

「くまさん」
「どうした?」
「あ、あの……とっても広い背中ですね」
「大樹さんと後ろ姿が似ていると、よく間違えられたよ。みーくんも小さい時、よく足下にくっついて、顔をあげて『ちがう』ってびっくりしていたよ」
「えぇ? そんなことを?」

 今でも思い出す。足にまとわりついてきた天使のような坊やは、今の芽生くんよりもっと小さかったな。

「でも、俺を見て、すぐににっこり笑ってくれたよ。『くまたん、もりのくまたん』って」
「くまさんが大好きだったんですよ。今もですが」

 はにかむような笑顔も健在だ。




 夕食後、いよいよ天体ショーの始まりだ。

 みーくんの驚く顔や坊やの感動する顔を見たいと思ったが、ここから先は家族水入らずの時間だ。俺は遠慮しよう。

 ログハウスで独りの時は、どんなに耳を澄ましても聞こえなかった家族団欒の声が聞こえる。

 俺は壁にもたれ、満ち足りた心地になっていた。

 不思議だな。今宵は昔に戻ったみたいだ。

 大樹さんの家には、よく寝泊まりさせてもらった。

 あの時と同じ温もりを感じている。

 そこにパタパタと小さな足音が飛び込んで来た。

「くまさん。くまさんもいっしょにねようよ!」

 パジャマ姿の芽生くんの登場だ。
 
「え? 俺はいいよ。家族で過ごせ」
「えっとぉ……くまさんも『かぞく』だよ?」

 投げかけられた無邪気な言葉に、胸を打たれた。

 こんな俺を家族と?

 戸惑って、呆然と立ち尽くしてしまった。
   
「そうですよ。熊田さんも来て下さい。客用布団を敷きますから」
「くまさん、せっかくですし、同じ部屋で眠りましょう」
 
 宗吾くんとみーくんも、揃って俺を呼びに来てくれた。

「くまさん、ねっ、いこうよ~」

 坊やの小さな手に引っ張られて、俺は寝室に連れて行かれた。

 ありがとう……ありがとう!

「よし、じゃあ寝よう」
「宗吾さん、なんだか今日は張り切っていますね。ただ眠るだけなのに」
「瑞樹、今日は仰向けで眠ってくれよ」
「……えっ? あ……はい」
 
  みーくんの声が、少しだけ不安気に揺れる。

 大丈夫、大丈夫さ。

 やがて灯りが消える。

 寝室に闇がやってくる。

 その瞬間……

「あっ!」
「わぁ!」

 天井に浮かびあがったのは、満天の星。

 更に俺が描き足したので、壁も一面、星空だ。

 この部屋が、惑星になる。







 
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