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小学生編

花びら雪舞う、北の故郷 29

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 ほいくえんのもんで、パパとママと、バイバイしたよ。

「いってきまーす!」
「いってらっしゃい、いっくん」
「楽しんでおいで、いっくん」
「うん!」

 うれしいな、うれしいな。
 パパとママがそろっているって、こんなに、しあわせなんだね。
 いっくんのパパ、やっとみつかったよ。

 おすなばであそんでいたら、あっくんがやってきた。

 また、なにかいわれるのかな?

 きのうみたいなケンカは、もういやだな。

 ドキドキ……

「……いつき、あのさ、きのうは、ごめんな」
「え……」
「パパ、ほんとうに、いたんだな」
「うん! そうなの!」
「……な」

 んん? よくきこえないよ?

「なぁに?」
「おまえのパパ、カッコいいな‼」
「わ! ありがとう!」

 うれしい!
 はじめてほめてくれた!
 えっとえっと……

「あっくんのパパもかっこいい」
「おう! そうかなぁ?」
「うんどうかいで、あしがはやかったよね」
「うん! オレのとうちゃん、むかしリレーのせんしゅだったんだ」
「わぁぁ、しゅごい!」

 それから、ぼくとあっくんは、いっしょにすなばであそんだよ。

 パパ、ママ、あのね、あのね……

 いっくん、ちゃんと、おともだちとあそべたよ。

 ****

「菫さんは、このまま仕事に行くのか」
「そうなの。今日は有給を取ればよかった」
「それは今度に取っておいてくれよ。オレ、昨日話したこと本気だから」
「潤くん、あの、本当に実家に挨拶に行ってくれるの?」
「もちろんだよ。次の休みに一緒に行こう」

 潤くんの気持ちが、しみじみと嬉しかった。

 潤くん……本気で私といっくんの家族になってくれるのね。

「ありがとう。亡くなった彼と私の実家は同じ松本市内なの」
「そうか、松本なら遠くないな」
「……反対はしないと思う……前々から再婚を勧められていたから」
「本当に?」

 潤くんにじっと見つめられて、本音を吐いた。

「本当はね、再婚する気なんて更更なかったの。ずっとシングルでいっくんと頑張ろうって……そういう気持ちで実家を出て……なのに、びっくりよ。運命の出逢いって、なにもかも流して、新しい流れに乗りたくなるものね」
「オレもだ! オレも贖罪を背負って独りで生きていこうと思っていたのに……菫さんといっくんは別だった。いっくんを抱っこした時に、初めて進むべき道が見えたんだ」

 それは、どこまでもまっすぐな道だった。

 オレが生きて来た意味。

 オレがしてきたことの意味。

 全部、意味があったと感じさせてくれる、尊い出逢いだった。

「潤くんの贖罪……私も背負う。一緒に生きていくことで、きっと上手くいくわ」
「菫さん、本当にありがとう」
「両親には話しておくので、一緒に松本に来てね」
「もちろんだ。そうしたら婚姻届を出さないか」

 菫さんが驚いた素振りを見せた。

「それは、まだダメよ」
「えっ、そうなのか」

 やはり急過ぎるか。
 少しだけガッカリしてしまった。
 
「潤くんに、事前にお願いがあって」
「何?」
「私といっくんを函館に連れて行って」

 今度は、パーッと目の前が薔薇色になる。

「もちろんだ! 来てくれるのか」
「もちろんよ。私も潤くんをひとりで育て上げたお母さんに会ってみたいし、逞しいお兄さんと、優しいお兄さん家族にも会いたいもの」

 あ……そうだ、ひとつ話しておかないと。

「ありがとう! 連れて行くよ。喜ぶよ。あのさ……優しい兄家族は東京在住なんだ」
「そうだったのね」
「……兄のパートナーは男性で、パートナーの子供と一緒に暮らしているんだ」

 やはりちゃんと話しておきたいと思った。
 菫さんには包み隠さすに。

「えっ、そうだったのね。あの、お子さんいくつなの?」
「いま7歳で今度小学校2年生だ」
「じゃあ、いっくんのお兄ちゃんみたいね」
「あ……ありがとう」

 菫さんはなんの偏見も持たずに、兄さんたちを受け入れてくれるようだ。

「何で?」
「え?」
「いや……正直、もっと驚くかと思った」
「お正月にダウンコートを配送した相手が、東京のお兄さんだったのね。お母さんも潤くんも、とても幸せそうな顔を浮かべていたから、この受け取り主さんは、二人にとって、とても大切な人なんだと感じていたの」

 気付いてくれていたのか。
 
 菫さんにどうして惚れたのか、オレは確信した。

 菫さんの真っ直ぐで澄んだ瞳が大好きだ!

 あぜ道で、そっと菫さんの手を繋いだ。

「兄さんは……10歳の時にさ、交通事故で両親と弟を一度に亡くして……俺ん家に引き取られたんだ。オレはまだ5歳で急に割りこんで来た兄に嫉妬して、意地悪や嫌がらせしてしまった。それを悔やんでいるんだ。だからとても大切な人だし、この先もずっと……」

 菫さんは静かに、オレの苦しい告白を聞いてくれた。

「そんな潤くんだから、好きなの。いっくんのこともこの先しっかり愛してくれるのが、分かるの! 見えるの!」

 繋いでいる手に力が入ってしまう。

「菫さんを幸せにしたい」
「私も潤くんと幸せをつくりたいわ」


 ****

「フフフ、寝たか」

 口の周りにチョコレートをつけた宗吾が潰れるのに、そう時間は掛からなかった。

 ロフトから布団を持ってきてやり、オレは床に寝袋を敷いて転がった。

「宗吾~電気消すぞ! おい、風邪だけは引くなよ」
「ふぇい~」
「ははっ、酔っ払いやがって (俺が急ピッチで飲ませせいだが)。ふぅ~やっぱりここが落ち着くんだよな」

 どうやら……瑞樹の安眠と安全を守るのが、俺にとって染みついた癖になっているようだ。

 床に直に寝るのには、慣れている。

 瑞樹の家に遊びに行った時も、寝袋を抱えていったよな。

 あの日が、宗吾に初めて会った日だったな。

 俺の家に来た当初、瑞樹が眠れない夜を過ごしていたのを知っているから……

 瑞樹の穏やかな寝顔を守りたくなる。

 明日のために、今日は二人ともよく休めよ。

 明朝には帰るから、後は家族で楽しんでくれ。

 俺は、俺の家族の元に……

 みっちゃんと優美が待っている、我が家に戻ろう。


 
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