上 下
952 / 1,730
小学生編

花びら雪舞う、北の故郷 24

しおりを挟む
「しゃむい……ほんとに、ここであっているの? おそらにちかいところって、ここでいいのかなぁ?」

 ぼく、ちゃんとコートきているよ。
 
 マフラーも、てぶくろもしているもん。

 これならさむくないよ。

 でもね、なんだかとってもさむいんだ。

 パパが……なかなかきてくれないから。

「パパー、パパー、ぼく……ここだよぅ」

 なんだか、さみしくなってきたよ。

 なみだが、ぽろぽろ……ポロポロ……

 ほっぺが、つめたいね。

「パパぁ……パパぁ……」

 はやく、ぼくをみつけてよ。

「ぼくのパパ……」
 

 ****

 兄さんからの電話の後、菫さんと一緒に保育園前の公園にある小高い丘を駆け上がった。

「潤くん、本当にここなの?」
「兄さんが教えてくれたんだ! 俺もそう思うんだ。予感がする!」
「いっくんー どこだー?」

 オレたちは丘の一番高い場所で、見つけた。

 空に向かって伸ばされた、小さな……小さな手を。

「いっくん!!」
「あ……パパぁ……パパぁだぁ」

 いっくんは芝生に座って、カタカタと寒そうに震えていた。
 
 オレを見上げる両目から、大粒の涙を流していた。

 そして俺を見つけると、小さな手を思いっきり上に伸ばした。

「パパぁ……よかったぁ。おそらから、きてくれて」
「いっくん!」
 
 オレはサッと抱き上げ、思いっきり抱きしめてやった。

 いっくんの温もりを感じ、重みを感じ、ようやく安堵した。

「パパぁ……パパッ、あいたかったよぅ」
「オレもだ」
「心配かけて……ママ、すごく心配したのよ。ひとりで保育園を飛び出すなんて、もうしちゃ駄目よ。いっくんに何かあったらママ……うっ、ううっ……」

 安堵した菫さんが、その場で泣き崩れてしまった。

「菫さん!」

 俺はいっくんを抱いたまま、菫さんも抱きしめた。

「ママ……ごめんなしゃい」
「いっくん、いっくん……」

 俺は二人を抱きしめながら、決心した。

 今だ――

 今こそプロポーズする時だ!!

「菫さん、俺と結婚して下さい」
「えっ」
「空を見て!」
 
 見上げれば軽井沢の空は、満天の星で埋め尽くされていた。

  明るい星が多い冬の星空で、ひときわ目立つのは「オリオン座」だ。その「オリオン座」を出発点とし「冬の大三角」や「冬のダイヤモンド」を辿れば、他の星座や星も次々に見つかる。

「俺といっくんと菫さんは、夜空の星のように結ばれているように見えない?」
「じゅ……潤くん、いいの? 本当に……私でいいの?」
「菫さんだからだ。いっくんの父さんにもなりたい。そして……亡くなったご主人にも報告したい」
「あ……」

 菫さんの瞳に、スーッと流れ星が飛び込んでいくように見えた。

「空を駆け抜いた人に……誓います! オレをいっくんのパパにさせて下さい。菫さんと一緒に生きていかせて下さい」
「じゅ……潤くん……ありがとう……うっ……ありがとう」
「菫さん、いい返事をもらえるか」
「いっくんは、まるだよ~」

 泣きじゃくっていた、いっくんがニコニコ笑っていた。
 それに釣られて、菫さんの顔にも、笑顔の花が咲く。
 
「くすっ、いっくんってば……潤くん……ありがとう。はい……私も潤くんと生きていきたい!」

 真冬の寒さは、オレと菫さんといっくんの温もりで塗り替えられていく。

「ママ、パパとちゅーして」
「え?」
「けっこんって、ちゅーするんでしょ?」
「もう、いっくんってば!」

 オレと菫さんは、目を合わせてコクンと頷いた。

 それからいっくんのほっぺたにお互いキスをした。

「結婚には、いっくんもいっしょだよ。一緒に暮らそう!オレがパパになっていいか」
「わ、わぁ……パパもママも、だーいすき!」

 
 









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...