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小学生編
花びら雪舞う、北の故郷 5
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「宗吾、これ」
「あぁ、広樹、悪かったな」
「とんでもない。可愛い瑞樹のためだ。なぁ、本当に大丈夫なんだな」
宗吾から頼まれて作ったのは、小さな白薔薇のブーケだった。
「あぁ、大丈夫だ」
先日、宗吾から改めて電話をもらった。
……
「おう? どうした。久しぶりだな。もうすぐこっちに来るんだよな」
「……そうなんだ。その前に、少し聞きたいことと、頼みたいことがあって」
「……瑞樹のことか」
「そうだ」
宗吾が珍しく深刻そうな声を出したので、良くない話だと思った。
「全部、話せよ」
「……アイツの件なんだ」
「アイツってまさか……高橋建設の」
宗吾の話は、よくよく聞いてみれば、そう悪い話ではなかったが、最初は納得出来なかった。
俺達の大切な瑞樹をあんな目に遭わせた奴が、のうのうと幸せに暮らしているなんて許せないと思った。
あの軽井沢で……警察に引き渡し罰してもらったが、本当は俺が殴り倒してやりたい程だった。宗吾も同じ気持ちだったに違いない。
瑞樹が受けた仕打ちは一生トラウマになるほどの悲惨なものだった。それを知っているから。
もしアイツが出所して、万が一……また瑞樹によからぬ想いを抱き、前をうろつくようなことがあったら、今度こそ殴り殺してやると思うほど、憎き奴だった。
「……宗吾はそれで納得しているのか。俺達……生温くないか」
「俺も最初はそう思った。だが恨みはな、恨みでは静まらないんだよな。新たな恨みを呼んでしまう。ほら『人を呪わば穴二つ』という言葉があるだろう。アイツが函館から姿を消してくれる。瑞樹への執着をなくし、アイツなりの幸せを手に入れることで断ち切ってくれた。ならば……もういいんじゃないか」
宗吾に言われて、ハッとした。そうだ、瑞樹に害を及ばさなくなったのなら、もうそれで俺達の怒りも手放そう。そうしないと俺達の幸せは守れない。
「じゃあもうつまり……アイツはもう二度と函館には戻って来ないんだな?」
「あぁ、1月で会社の譲渡も済んで、看板が町中から消えたはずだ」
「そういえば最近見なくなったが、そういう理由だったのか」
「もう瑞樹は看板に怯えなくていいんだ。それで……広樹に教えて欲しいことがもう一つあって」
「なんだ?」
「……高校時代、アイツからのストーカー行為は、どんな風に始まったんだ?」
あれは高校2年生の頃だ。ある日、店番をしていると、瑞樹が真っ青な顔で帰宅した。
……
「どうした?」
「あ……に、兄さん」
「何でそんなド派手な花束を持って?」
「こ、これは……僕はいらないって言ったのに……」
瑞樹の顔色は蒼白で、そのまま気持ち悪いとトイレに駆け込んでしまった。
その晩から、そわそわと落ち着かない様子になった。思えばあの日が、アイツに見つかった日だったのだ。
……
「そうか。それは、どんな花束だった?」
「毒々しい程の深紅の……ド派手な花束だった」
「よしっ、広樹、今度帰省したら、瑞樹に似合う小さなブーケを作ってくれ、赤じゃなくて白がいい」
「わ、分かった」
その時点で、宗吾が必死に瑞樹の暗い過去を上書きしてくれようと尽力しているのが伝わってきた。
頼もしいな。
瑞樹はいい男と出会った。
瑞樹のことを引き上げてくれる強い男だ。
宗吾に任せておけば大丈夫。
だから……俺はもうアシストするだけだ。
****
俺は、指示された時間に間に合うよう、高橋建設の本社ビルがあった場所へバンを走らせた。
俺の目でも高橋建設の看板が消え、小林組という誰もが知っているメジャーな企業の明るい看板になっているのを確認し、安堵した。
瑞樹、良かったな。
本当に良かったな。
後部座席に乗り込んだ瑞樹の頬は、うっすら紅潮しており、手にはギュッと白薔薇を握りしめていた。
どうやら宗吾の荒治療は、功を奏したようだ。いつも助手席に乗せると俯いてばかりだった瑞樹が、車窓から空を見上げている。
「兄さん、冬晴れだね……空気が澄んでいていいね。僕はやっぱり北の国が好きだよ」
そんな可愛いことを泣き腫らした目で言ってくれるのだから、愛おしさが募る。
父親になっても、結婚しても、やっぱり弟が大好きな気持ちは健在だ。
「瑞樹、良かったな。本当に良かった」
「兄さん……兄さん……お兄ちゃん……ありがとう」
****
「パパたち、おそいね」
「今、広樹が迎えに行っているから、きっともうすぐよ」
「……おばあちゃん、ココアつくれる?」
「作れるけど、芽生くんが飲みたいの?」
「ううん、お兄ちゃんが寒かったと思って」
そうこたえると、お兄ちゃんのお母さんがボクをギュッとだっこしてくれたよ。
「芽生くんは優しい子ね。瑞樹もあなたと過ごすと心温まる日々でしょうね」
「そ、そうかな? えへへ」
いれてもらったココア、お兄ちゃんがすぐに飲めるように、ボクがふーふーしてあげたよ。
「あ、帰って来たわ」
「ボクがお出むかえするよ」
お花やさんの入り口で待っているとお兄ちゃんが戻ってきた。
パパたちに囲まれて、ニコニコしていたよ。
よかった! よく分からないけど、何だかシンパイしちゃった。
あ……目があかいね。また泣いちゃったのかな?
でも今はもう笑っている。
じゃあボクも、ニコニコえがおになろう!
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」
「あぁ、広樹、悪かったな」
「とんでもない。可愛い瑞樹のためだ。なぁ、本当に大丈夫なんだな」
宗吾から頼まれて作ったのは、小さな白薔薇のブーケだった。
「あぁ、大丈夫だ」
先日、宗吾から改めて電話をもらった。
……
「おう? どうした。久しぶりだな。もうすぐこっちに来るんだよな」
「……そうなんだ。その前に、少し聞きたいことと、頼みたいことがあって」
「……瑞樹のことか」
「そうだ」
宗吾が珍しく深刻そうな声を出したので、良くない話だと思った。
「全部、話せよ」
「……アイツの件なんだ」
「アイツってまさか……高橋建設の」
宗吾の話は、よくよく聞いてみれば、そう悪い話ではなかったが、最初は納得出来なかった。
俺達の大切な瑞樹をあんな目に遭わせた奴が、のうのうと幸せに暮らしているなんて許せないと思った。
あの軽井沢で……警察に引き渡し罰してもらったが、本当は俺が殴り倒してやりたい程だった。宗吾も同じ気持ちだったに違いない。
瑞樹が受けた仕打ちは一生トラウマになるほどの悲惨なものだった。それを知っているから。
もしアイツが出所して、万が一……また瑞樹によからぬ想いを抱き、前をうろつくようなことがあったら、今度こそ殴り殺してやると思うほど、憎き奴だった。
「……宗吾はそれで納得しているのか。俺達……生温くないか」
「俺も最初はそう思った。だが恨みはな、恨みでは静まらないんだよな。新たな恨みを呼んでしまう。ほら『人を呪わば穴二つ』という言葉があるだろう。アイツが函館から姿を消してくれる。瑞樹への執着をなくし、アイツなりの幸せを手に入れることで断ち切ってくれた。ならば……もういいんじゃないか」
宗吾に言われて、ハッとした。そうだ、瑞樹に害を及ばさなくなったのなら、もうそれで俺達の怒りも手放そう。そうしないと俺達の幸せは守れない。
「じゃあもうつまり……アイツはもう二度と函館には戻って来ないんだな?」
「あぁ、1月で会社の譲渡も済んで、看板が町中から消えたはずだ」
「そういえば最近見なくなったが、そういう理由だったのか」
「もう瑞樹は看板に怯えなくていいんだ。それで……広樹に教えて欲しいことがもう一つあって」
「なんだ?」
「……高校時代、アイツからのストーカー行為は、どんな風に始まったんだ?」
あれは高校2年生の頃だ。ある日、店番をしていると、瑞樹が真っ青な顔で帰宅した。
……
「どうした?」
「あ……に、兄さん」
「何でそんなド派手な花束を持って?」
「こ、これは……僕はいらないって言ったのに……」
瑞樹の顔色は蒼白で、そのまま気持ち悪いとトイレに駆け込んでしまった。
その晩から、そわそわと落ち着かない様子になった。思えばあの日が、アイツに見つかった日だったのだ。
……
「そうか。それは、どんな花束だった?」
「毒々しい程の深紅の……ド派手な花束だった」
「よしっ、広樹、今度帰省したら、瑞樹に似合う小さなブーケを作ってくれ、赤じゃなくて白がいい」
「わ、分かった」
その時点で、宗吾が必死に瑞樹の暗い過去を上書きしてくれようと尽力しているのが伝わってきた。
頼もしいな。
瑞樹はいい男と出会った。
瑞樹のことを引き上げてくれる強い男だ。
宗吾に任せておけば大丈夫。
だから……俺はもうアシストするだけだ。
****
俺は、指示された時間に間に合うよう、高橋建設の本社ビルがあった場所へバンを走らせた。
俺の目でも高橋建設の看板が消え、小林組という誰もが知っているメジャーな企業の明るい看板になっているのを確認し、安堵した。
瑞樹、良かったな。
本当に良かったな。
後部座席に乗り込んだ瑞樹の頬は、うっすら紅潮しており、手にはギュッと白薔薇を握りしめていた。
どうやら宗吾の荒治療は、功を奏したようだ。いつも助手席に乗せると俯いてばかりだった瑞樹が、車窓から空を見上げている。
「兄さん、冬晴れだね……空気が澄んでいていいね。僕はやっぱり北の国が好きだよ」
そんな可愛いことを泣き腫らした目で言ってくれるのだから、愛おしさが募る。
父親になっても、結婚しても、やっぱり弟が大好きな気持ちは健在だ。
「瑞樹、良かったな。本当に良かった」
「兄さん……兄さん……お兄ちゃん……ありがとう」
****
「パパたち、おそいね」
「今、広樹が迎えに行っているから、きっともうすぐよ」
「……おばあちゃん、ココアつくれる?」
「作れるけど、芽生くんが飲みたいの?」
「ううん、お兄ちゃんが寒かったと思って」
そうこたえると、お兄ちゃんのお母さんがボクをギュッとだっこしてくれたよ。
「芽生くんは優しい子ね。瑞樹もあなたと過ごすと心温まる日々でしょうね」
「そ、そうかな? えへへ」
いれてもらったココア、お兄ちゃんがすぐに飲めるように、ボクがふーふーしてあげたよ。
「あ、帰って来たわ」
「ボクがお出むかえするよ」
お花やさんの入り口で待っているとお兄ちゃんが戻ってきた。
パパたちに囲まれて、ニコニコしていたよ。
よかった! よく分からないけど、何だかシンパイしちゃった。
あ……目があかいね。また泣いちゃったのかな?
でも今はもう笑っている。
じゃあボクも、ニコニコえがおになろう!
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」
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