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小学生編

ハートフル クリスマス 8

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「よいしょ、よいしょっと」

  芽生くんが、僕の指一本一本に丁寧にハンドクリームに擦り込んでくれる。
  
 朝の日差しに包まれて、くすぐったくも、幸せな時間だ。

「ふふ、随分丁寧に塗ってくれるんだね 」 
「あのね、おばあちゃんがおしえてくれたんだ。こうやってお指をくるくるってすると、きもちいいんだって」
「うん、手の疲れが取れるよ」
「えへへ、よかったぁ。お兄ちゃん、おしごとってタイヘンなんだね。手をいっぱいつかうんでしょう? もういたくない?」
「もう痛くないよ、ありがとう」
        
 芽生くんは本当に優しい子だ。

 まだこんなに小さいのに、僕を労ってくれる。

 そこに髪の毛をボサボサに逆立てた宗吾さんがやって来た。

「ふぁ~ ねむいなぁ」
「あ、おはようございます」
  
 宗吾さんの顔を見た途端、昨夜のことを思い出し、頬が火照る。

 僕からあんなに積極的に求めてしまうなんて。同時に宗吾さんも僕を熱く……どこまでも求めてくれた。

 お互いの熱がなかなか冷めなかったのは、クリスマスだったから?

 本当にスペシャルな一夜になった。

 僕は花の香りに弱い。気持ちを持って行かれたのかもしれない。

 薔薇とすずらんがミックスされた花の香りは情熱的で官能的で、身体が昂ぶった。                              

「お兄ちゃん、どうですか~」
「うん、とてもいいよ」
「おお? 芽生も瑞樹にマッサージのサービスをしてんのか」
「ん……メイもって、パパもしたの?」
「へへ、昨日たっぷりなぁ」

 そ、宗吾さん! 鼻の下に注意ですよ!  芽生くんは目敏いんですからっ。

「あー! パパ、またお鼻のしたが、びよーんってなってる」
「はははっ、そうかそうか」
「もう!」

 駄目だ、完全に惚気ている。
 宗吾さんは少しも悪びれない。

「パパもごきげんだね」
「あぁ、いいことがあったからな」

 芽生くんは最近、そんな宗吾さんを見慣れてしまっているようで、この親子はやはり似たもの同士だと苦笑してしまった。

「はい! おしまい」
「芽生くん、ありがとう。本当に気持ち良かった」
「えへ。お兄ちゃん、今日はいっしょにいられるんだよね」
「うん! もちろんだよ。ずっと一緒だよ」

 ずっと一緒。
 その言葉を、またこんなに力強く言えるなんて。

「ことしは雪がふらなかったねぇ」
「そうだね、暖かいクリスマスだね」

 去年はクリスマスの朝、突然雪が降ってきた。

 まるで天国の夏樹が降らせてくれているような優しい雪だった。

 手を伸ばせば、僕に触れすっと溶けていく雪に、夏樹を思慕した。

 そしてその後のスキー旅行で、夏樹は天国で幸せに暮らしていると思えるようになったんだ。

「よーしっ、この天気なら午前中は公園に行けるぞ」
「やったぁ~」
「瑞樹、外遊びに行かないか。昨日実家からサッカーボールや野球セットをもらってきたから」
「いいですよ。もちろんです! 宗吾さんのなんですよね?」
「あぁ、俺のポジションはキャッチャーで、サッカーはゴールキーパーだったんだ」
「わぁ……カッコイイです。なんだか分かります、それ」

 安心、安定感のある宗吾さんだから、チームの要となって活躍したのだろうな。僕の知らない宗吾さんを想像するのは楽しいね。
 
  朝食を済ましてから、僕らは近所の公園に行った。

 最近なかなか外遊びに付き合えていなかったので、僕も嬉しい。

 仕事の疲れはもう取れていた。

 宗吾さんに抱かれる度に丈夫になっているのでは?

 ほら結構体力を使うのだよ。あれって……

 宗吾さんは精力的に僕を何度も何度も一晩に求めるから、それに応えているうちに体力がついたとか。

 この一年は、ずっと一緒にいられた。離れることもなく大きな事件もなく……だから抱き合う回数も本当に多かった。

 あぁ……駄目だ。こんなこと……でも頭の中で考え出したら止まらない。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
「え? ううん、なんでもないよ」

 芽生くんにじーっと見られ、やましい気分で一杯になった。

「瑞樹も俺と同類ってことだ」
「え? じゃあヘンタイさんなの」
「はは、その言葉は他の人には内緒だぞ」
「うん!」

 会話が本当にもう……とほほだ。

「あ、あの……次はサッカーをしましょう」
「おう!」
「おー!」

 三人で原っぱを駆け回った。

「瑞樹は足が速くてすばしっこいな」
「小さい頃、家の裏の原っぱで駆け回っていたので」
「あぁ夏樹くんとか」
「はい! あの子と一緒に駆け抜けました」

 ほら……僕はもうなんの躊躇いもなく、亡き弟のことを話せるようにもなった。

「よーし、ボールを追いかけよう」
「はい!」

 息を切らせて走り抜けて想うこと。

 僕は僕の人生を、思いっきり生きている。

 味わっている!

 爽快に駆け抜けている。

「瑞樹、待ってくれ」
「おにいちゃん~」

 振り返ると……僕の大切な人が息を切らせて走り寄り、芽生くんが両手を広げて飛びついてきた。

「おいで! 芽生くん!」
「うん!」
「よーし、パパも芝生にダイブだ!」
「わぁ!」

 大好きな台詞。

 大好き温もり。

 三人で芝生に倒れ込んで、笑った。

 あの日空を見上げて泣いた僕に今見えるのは、二人のキラキラな笑顔だ。

「今日が俺たち家族のクリスマスだ。一日遊び倒そう! メリークリスマス! 瑞樹」
「はい! 僕たちだけのクリスマスって特別でいいですね」
「お兄ちゃん、だーいすき!」







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