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小学生編

ハートフル・クリスマス 5

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「芽生、荷物が重たいだろう? 持ってやるよ」
「ううん、だいじょうぶだよ」

 芽生が大事そうに抱えるのは、瑞樹への特製弁当だ。

 今日のご馳走を、母がお重に全部詰めてくれていた。

 参加できなかった君のこと、皆、それぞれに想っていたよ。

 それを君に早く伝えてやりたい。

 まだ幸せに臆病な君のこと、皆が暖かく包んでいる。

 もう寒くないよな?

 自宅に戻ると、20時過ぎだった。

「パパ、お外はさむかったね。お兄ちゃん……大丈夫かな?」
「そうだな。昨日よりは早く帰れるようだよ」
「ほんと?」

 芽生がパァーっと顔を輝かせる。

「だから先に風呂に入っておこう」
「うん! わかった」

 普段は瑞樹と入ることが圧倒的に多いが、昨日今日と俺が担当している。

「お、芽生のお腹、ずいぶん引っ込んだな」
「えへへ、前はタヌキさんみたいだったよね」

 こうやって少しずつ幼児体型から少年に変化していくのだろう。

 今日彩芽ちゃんと接する芽生を見て、芽生はスクスクと健全に成長しているのを感じた。きっと俺と瑞樹に似て、優しさと逞しさを持った少年になるのだろう。

 成長は少しの寂しさがあるくらいが丁度いい。

 見守ることの大切さを、俺は芽生から学んでいくのだろう。

 だが、俺の横にはいつも瑞樹がいる。

 俺は一人じゃない。

 それが嬉しいよ。


 

 風呂から上がると、芽生は折り紙で輪飾りを作り出した。

「まだ眠くないのか」
「今日はお兄ちゃんが帰ってくるまでおきてるよ。だって朝、あえてないから」
「そうだな? 瑞樹、もう店を出たって」
「ほんとう?」
「あぁ、あと30分ちょっとかな」
「やったー、お兄ちゃんに会いたいよ。パパ、このわっかカベにつけて」
「了解!」

 瑞樹を迎えるために、一緒に部屋の飾り付けした。

 今日は12月25日、クリスマス当日だ。
 
 我が家のクリスマスは、まだまだ続き、明日もクリスマスだからな。

 いや、もう毎日がクリスマスのようにワクワクしているよ!

 君にトキメク自分が好きなんだ。

「パパー、そろそろかな」
「あぁ、きっと」

 俺たちは玄関で、瑞樹の足音が近づいてくるのを耳を澄まして待った。

 やがてカチャッと鍵の音がする。

 ドアが開けば……君がいる。

「瑞樹、お帰り!」
「お兄ちゃん、おかえりなさい」

 俺たちは息を切らせて立ち尽くす瑞樹を、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。

「わ!……あ、あの、ただいま」
「お疲れさん」
「お兄ちゃん~」

 ほらな、もういつもの光景だ。

 玄関先で揉みくちゃになっていると、瑞樹が泣き笑いをした。

「宗吾さんも芽生くんも……うっ」
「お、おい? なんで泣く?」
「すみません。『ただいま』と『お帰り』って、やっぱりセットがいいなって……嬉しくて溜りませんでした」

 瑞樹は本当に小さな喜びを大切にしてくれる。
 そして俺と同じことを考えていたのが嬉しくなる。

「もうここが……僕の家なんですね」
「何を今更?」
「お兄ちゃん、来て来て」

 芽生が瑞樹の手を引いて、食卓の特製弁当を見せる。

「これ! おばあちゃんからだよ」
「え……これって」
「今日のごちそう、ぜーんぶ!」
「わ……嬉しいよ」

 瑞樹が面映ゆい表情で俺を見つめるので、安心させるように頷いてやった。

「皆、瑞樹に会いたがっていたぞ」
「本当に? そんな風に言ってくださったのですか」
「あぁ正月は休めるのか」
「はい! クリスマスに出たので、お正月は代わりにゆっくり出来そうです」
「なら良かったよ。母さんも兄さんも美智さんも、正月には揃って顔を見たいって言っていたからな」
「嬉しいです」

 淡いピンクに染まる頬。
 君の……今の心の色だな。

「さぁ、まずは食べてくれ」

 まずは彼の胃を満たして、それから心を満たし、最後は身体も満たしても?

「瑞樹、明日は休みだよな?」
「はい、やっとお休みです」
「そうか、じゃあ……」
「……はい」

 夜を求める。
 それに応じる。

 もう阿吽の呼吸になっているな。

 イブの夜に身体を繋げたが、疲れた身体に過度の負担はかけたくなくて、一度で我慢したんだ。

「そういえば、パパ、おじちゃんからのプレゼントあけないの?」
「おぅ! このモコモコはまた部屋着か」
「ふふ、今度はなんでしょうかね?」

 雪だるまみたいに太ったラッピング。中から出てきたのは、予想通り去年と同じブランドの部屋着だった。

「俺はまたクマか、それともオオカミか」

 中身はシロクマの部屋着だった。
 
「あ……宗吾さん、僕と芽生くんも同じですよ」
「なんだ、みんなお揃いのシロクマか」
「みたいですね。あぁ一緒って嬉しいです」

 瑞樹には白が似合う。
 雪のような白が似合う。

「モコモコでかわいい」
「ほんとマシュマロみたいですね」
「瑞樹、美味そうだな」

 瑞樹が頬を染める。

「ぼ、僕は美味しくないですよ」
「はは、甘いの間違いか」
「な、舐めないでくださいよ」
「舐めていいのか」
「も、もう――!」

 いつもの甘ったるい会話の掛け合いが楽しくて、瑞樹の反応がいちいち可愛すぎて、揶揄いたくなるものさ!

「おにいちゃん、これ……ボクからのプレゼントだよ」
「何かな?」
「えへへ」

 芽生が瑞樹に贈ったのは、あの夏休みの朝顔の絵だった。

 厚紙で額縁を作って、立派なプレゼントになっていた。

「あのね、なつやすみはアサガオを育ててくれてありがとう。アサガオの白いお花はお兄ちゃんみたいにきれいだから、ボク、からさないようにがんばったよ」
「嬉しいよ」

 瑞樹が芽生の絵を胸に抱いて、花のように微笑む。
 その笑顔、いつもいつまでも見ていたい。

「瑞樹、母さんと美智さんからもあるぞ」
「わ、皆さんから? いいんですか」
「当たり前だ。もう君は俺んちの一員だろ」
「は、はい」

 二人からはハンドクリームとボディクリームのセットだった。
 気が利くな。瑞樹の身体のケアを?

「お兄ちゃん、このクリーム、いいかおり~」
「本当だ。すずらんとハーブの香りでユニセックスって書いてあります」

 美智さんセレクトだろう。イギリス発、ユニセックスのスキンケアブランド『RーGLAY』の新作だった。しかも俺の好きな香りだ。

「瑞樹にぴったりだな」
「嬉しいです。この季節は手指がカサカサになってしまうので」

 瑞樹の細い指先を見ると、この二日にわたる実店舗勤務のせいで、すっかり荒れていた。

「君はとにかく風呂に入ってこい。その後は俺たちがこのクリームを塗ってやるよ」 
「うん、うん!」
「えっと、それはちょっと困ります」
「どうして?」
「なんでだ?」
「そ、それは……もうとにかくお風呂に入って来ます!」
 
 瑞樹が涙目になりながら風呂に入っている間、芽生はソファに座って、ハンドクリームの匂いをクンクン嗅いでいた。

 少し眠たそうな幸せそうな笑顔は、もうすぐ夢の国へ遊びにいきそうだ。

 案の定、ブランケットに包まれたまま芽生は目を閉じて眠ってしまった。

 時計の針を見ればもう22時。いつもならとっくに眠っている時間だ。

 
  俺は芽生をベッドに寝かせて、すっぽり布団をかけてやった。

 枕元にはサンタさんからもらった野球ゲームが置いてあった。

 床には実家から持ち帰ったサッカーボールと野球セットも転がっている。

 明日は、3人で一緒に遊ぼうな。
 
「おやすみ、芽生。いい夢を見ろ」
 
 パパ達に大人の時間をプレゼントしてくれて、ありがとうな。



 聖夜の星空は、雪の結晶のように瞬いて……輝いて。


 
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