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小学生編
湘南ハーモニー 16
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真夏の太陽が照り返す海面は、燦々と輝いていた。
「安志さん、気持ちいい! 最高だよ!」
久しぶりに見る涼の底抜けに明るい笑顔に、俺まで嬉しくなるよ。
普通の大学生にようやく戻れた涼は、人一倍はしゃいでいた。
「ねぇ、もっと泳ごうよ」
「おう!」
俺も堅苦しいスーツを脱ぎ捨て、滝沢さんから借りた水着でジャブジャブ泳ぐ。タイトな水着はジャストフィットで、瑞樹くんの恋人の体格がいいことが伝わってくるぜ。
「気持ちいいね!」
「あぁ、そうだな!」
涼はイルカのようにスイスイ泳いでいる。
この俺が追いつけない程、早い。
すると並行するように、スーッと洋が現れた。
洋も水泳だけは得意なのだよな。
二人共、綺麗なフォームで息が合っているので、やはり双子みたいだ。
洋は最近、とても明るくなった。
春先に母方の祖母との交流が始まったそうで、どうやらそのお陰らしい。
洋は丈さんの家族に守られているので、既に居心地のよい場所を手に入れていたが、母親を生んだ人と出逢えた喜びは、また別物なのだろう。
おばあさんにはたっぷり可愛がられているらしく、洋が嬉しそうに「おばあ様がね」
と話してくれるのが、俺も嬉しかった。
祖父母がいない洋が、幼い頃から寂しい思いをしていたのを、幼馴染みの俺は知っている。
洋、良かったな。そして涼も良かったな。
涼の心配の種だった洋は、もう大丈夫だ。
****
「瑞樹、疲れていないか」
「宗吾さん……実はもうヘトヘトです。北国育ちの僕には、関東の夏の暑さはハードルが高くて」
「お兄ちゃん、ボクもつかれた~」
「ゆうとも~」
瑞樹は優しい雰囲気なので子供にモテモテだ。そして子供は疲れると、途端に甘えっ子になる。
「お兄ちゃん~、だっこして」
芽生が甘えれば、ゆうとくんも甘える。
「ぼくもだっこー」
「おいおい、ゆうとは俺の所に来い」
管野くんが慌てて声をかけるが、ゆうとくんもどうやら瑞樹がお気に入りのようだ。
「ゆうとも、おにいちゃんがいいんだもん!」
二人に同時に手を伸ばされて、瑞樹もたじたじだ。
だが、やはり嬉しそうに朗らかに笑う。
君は本当に小さな子供が好きなんだな。
瑞樹がしゃがむと、一斉に芽生とゆうとくんが抱きついた。
「わわっ、二人一緒は無理だよ」
「じゃあゆうとくんが先でいいから、ボクも抱っこしてね」
「もちろんだよ」
瑞樹も疲れているだろうに、二人を順番にシェードの中に運んでくれた。
「瑞樹、君も休め」
「でも……心配です。僕まで眠ったら」
「大丈夫だ。俺が子供たちを見ている」
「あ……はい、じゃあお言葉に甘えて、いいですか」
瑞樹を中心に……寄り添うように、芽生とゆうとくんがくっついて、あっと言う間に眠りに落ちてしまった。
その姿に、瑞樹はもうひとりで寂しく立っている樹木ではない。瑞々しい若葉を持つ樹になったと思った。
ならば、俺は風になる。
瑞樹に涼風を届けたい。
茂っていく葉の間をすり抜ける爽やかな風になりたい。
瑞樹の寝顔を見ていると、何があっても守ってやりたい存在だという思いが強くなる。
やがて日が暮れてきたので、瑞樹たちを起こした。
「どうだ?」
「はい、すっきりしました。宗吾さんは、ずっとそこに?」
「あぁ、君を見ていたよ」
瑞樹は照れ臭そうに、それでいて嬉しそうに笑った。
そこに菅野くんがひょっこり顔を覗かせた。
「宗吾さん、そろそろお開きにしましょう」
「了解!」
「洋くん、また明日ね」
「瑞樹くん、楽しみに待っているよ」
「あの……今日は混ぜて下さってありがとうございます。僕たちは明日の午前中には帰らないといけないので、今日は会えて良かったです。洋兄さんのこと、これからもよろしくお願いします」
涼くんもすっかり元気をチャージしたようだ。
彼らは今宵は月影寺に泊まるそうで、洋くんと丈さんに連れられて帰って行った。
「菅野、今日はありがとうな」
「葉山は、ちょっといいか」
「ん?」
菅野くんと小声で話した瑞樹は、頬を染めて俺の元に戻ってきた。
「あの、宗吾さん……菅野がこれを」
瑞樹が江ノ電のフリー切符を差し出した。
「ん? なんで?」
「あの……菅野が、デートして来いって言ってくれて」
照れまくる瑞樹の肩を掴んで、ヤッターっと、叫びたくなった。
「芽生くんはゆうとくんと一緒にお土産物屋さんを見るそうなんです」
「そうか、任せてもいいのか」
「パパ~ いいよぉ~ ボク、ゆうとくんともっともっと遊びたい」
「めいくん、だいすき、あそぼう」
そんなわけで、俺と瑞樹だけ駅に向かった。
間もなく夕暮れ。
これはあそこに行くしかないな。
「宗吾さん、どこに行きましょうか」
「俺に任せてくれ」
「はい、もちろんです」
こんな風にデートらしいデートを二人きりでするのは、いつぶりだろう?
俺の鼓動も早くなる。
瑞樹も明らかに意識している。彼の甘い雰囲気がグッと増しているから分かるのさ。
コトコトと江ノ電に揺られていると、俺の中のトキメキが転がり出しそうだ。
腰越……鎌倉高校前、そして七里ヶ浜。
「ここだ、ここで降りるぞ!」
さり気なく瑞樹の手首を掴んで下車した。
夕方の七里ヶ浜の海岸は、雄大でロマンチック……とにかく絶景だ。
いつかここに生涯の恋人を連れて来たいと願ったこともあったな。
まさか今日、瑞樹と肩を並べて訪れることが出来るなんて。
「わぁ! 凄い……凄いです。宗吾さんっ」
海岸線の左手には、江ノ島の灯火。
真正面には富士山のシルエットが浮かび上がる茜色の空に、瑞樹が目を見開く。
「綺麗です」
「瑞樹……君とこんな風に夕日を見つめる時間は、久しぶりだな」
「そうですね。波の音と夕日なんて……僕、初めてです」
「そうか、初めてか」
海岸には、人はまばらだ。
俺たちは砂浜は手を繋いで、サンセットを眺めた。
ここは静かだ。
ここには君と俺しかいない。
俺たちは指と指を絡ませ、ぎゅっと繋いで、溢れる想いを分け合った。
「瑞樹、たまにはこんな時間もいいな」
「はい……菅野には感謝しないと」
「そうだな。瑞樹、何度でも言うよ。俺は君を愛しているよ」
「宗吾さん……僕もです。僕も大好きです。僕……今日も経験したことないことばかりでした。あんなに変わるのが怖かったのに……宗吾さんといると……僕は大きくジャンプ出来ます」
やがて日が暮れて、辺りが闇に包まれる。
そのタイミングで、瑞樹と唇をそっと重ねた。
「あっ……」
君と過ごす時間が、愛おしいよ。
瑞樹の方から俺にギュッと抱きついてくれた。
「そうくん、好き……です」
「安志さん、気持ちいい! 最高だよ!」
久しぶりに見る涼の底抜けに明るい笑顔に、俺まで嬉しくなるよ。
普通の大学生にようやく戻れた涼は、人一倍はしゃいでいた。
「ねぇ、もっと泳ごうよ」
「おう!」
俺も堅苦しいスーツを脱ぎ捨て、滝沢さんから借りた水着でジャブジャブ泳ぐ。タイトな水着はジャストフィットで、瑞樹くんの恋人の体格がいいことが伝わってくるぜ。
「気持ちいいね!」
「あぁ、そうだな!」
涼はイルカのようにスイスイ泳いでいる。
この俺が追いつけない程、早い。
すると並行するように、スーッと洋が現れた。
洋も水泳だけは得意なのだよな。
二人共、綺麗なフォームで息が合っているので、やはり双子みたいだ。
洋は最近、とても明るくなった。
春先に母方の祖母との交流が始まったそうで、どうやらそのお陰らしい。
洋は丈さんの家族に守られているので、既に居心地のよい場所を手に入れていたが、母親を生んだ人と出逢えた喜びは、また別物なのだろう。
おばあさんにはたっぷり可愛がられているらしく、洋が嬉しそうに「おばあ様がね」
と話してくれるのが、俺も嬉しかった。
祖父母がいない洋が、幼い頃から寂しい思いをしていたのを、幼馴染みの俺は知っている。
洋、良かったな。そして涼も良かったな。
涼の心配の種だった洋は、もう大丈夫だ。
****
「瑞樹、疲れていないか」
「宗吾さん……実はもうヘトヘトです。北国育ちの僕には、関東の夏の暑さはハードルが高くて」
「お兄ちゃん、ボクもつかれた~」
「ゆうとも~」
瑞樹は優しい雰囲気なので子供にモテモテだ。そして子供は疲れると、途端に甘えっ子になる。
「お兄ちゃん~、だっこして」
芽生が甘えれば、ゆうとくんも甘える。
「ぼくもだっこー」
「おいおい、ゆうとは俺の所に来い」
管野くんが慌てて声をかけるが、ゆうとくんもどうやら瑞樹がお気に入りのようだ。
「ゆうとも、おにいちゃんがいいんだもん!」
二人に同時に手を伸ばされて、瑞樹もたじたじだ。
だが、やはり嬉しそうに朗らかに笑う。
君は本当に小さな子供が好きなんだな。
瑞樹がしゃがむと、一斉に芽生とゆうとくんが抱きついた。
「わわっ、二人一緒は無理だよ」
「じゃあゆうとくんが先でいいから、ボクも抱っこしてね」
「もちろんだよ」
瑞樹も疲れているだろうに、二人を順番にシェードの中に運んでくれた。
「瑞樹、君も休め」
「でも……心配です。僕まで眠ったら」
「大丈夫だ。俺が子供たちを見ている」
「あ……はい、じゃあお言葉に甘えて、いいですか」
瑞樹を中心に……寄り添うように、芽生とゆうとくんがくっついて、あっと言う間に眠りに落ちてしまった。
その姿に、瑞樹はもうひとりで寂しく立っている樹木ではない。瑞々しい若葉を持つ樹になったと思った。
ならば、俺は風になる。
瑞樹に涼風を届けたい。
茂っていく葉の間をすり抜ける爽やかな風になりたい。
瑞樹の寝顔を見ていると、何があっても守ってやりたい存在だという思いが強くなる。
やがて日が暮れてきたので、瑞樹たちを起こした。
「どうだ?」
「はい、すっきりしました。宗吾さんは、ずっとそこに?」
「あぁ、君を見ていたよ」
瑞樹は照れ臭そうに、それでいて嬉しそうに笑った。
そこに菅野くんがひょっこり顔を覗かせた。
「宗吾さん、そろそろお開きにしましょう」
「了解!」
「洋くん、また明日ね」
「瑞樹くん、楽しみに待っているよ」
「あの……今日は混ぜて下さってありがとうございます。僕たちは明日の午前中には帰らないといけないので、今日は会えて良かったです。洋兄さんのこと、これからもよろしくお願いします」
涼くんもすっかり元気をチャージしたようだ。
彼らは今宵は月影寺に泊まるそうで、洋くんと丈さんに連れられて帰って行った。
「菅野、今日はありがとうな」
「葉山は、ちょっといいか」
「ん?」
菅野くんと小声で話した瑞樹は、頬を染めて俺の元に戻ってきた。
「あの、宗吾さん……菅野がこれを」
瑞樹が江ノ電のフリー切符を差し出した。
「ん? なんで?」
「あの……菅野が、デートして来いって言ってくれて」
照れまくる瑞樹の肩を掴んで、ヤッターっと、叫びたくなった。
「芽生くんはゆうとくんと一緒にお土産物屋さんを見るそうなんです」
「そうか、任せてもいいのか」
「パパ~ いいよぉ~ ボク、ゆうとくんともっともっと遊びたい」
「めいくん、だいすき、あそぼう」
そんなわけで、俺と瑞樹だけ駅に向かった。
間もなく夕暮れ。
これはあそこに行くしかないな。
「宗吾さん、どこに行きましょうか」
「俺に任せてくれ」
「はい、もちろんです」
こんな風にデートらしいデートを二人きりでするのは、いつぶりだろう?
俺の鼓動も早くなる。
瑞樹も明らかに意識している。彼の甘い雰囲気がグッと増しているから分かるのさ。
コトコトと江ノ電に揺られていると、俺の中のトキメキが転がり出しそうだ。
腰越……鎌倉高校前、そして七里ヶ浜。
「ここだ、ここで降りるぞ!」
さり気なく瑞樹の手首を掴んで下車した。
夕方の七里ヶ浜の海岸は、雄大でロマンチック……とにかく絶景だ。
いつかここに生涯の恋人を連れて来たいと願ったこともあったな。
まさか今日、瑞樹と肩を並べて訪れることが出来るなんて。
「わぁ! 凄い……凄いです。宗吾さんっ」
海岸線の左手には、江ノ島の灯火。
真正面には富士山のシルエットが浮かび上がる茜色の空に、瑞樹が目を見開く。
「綺麗です」
「瑞樹……君とこんな風に夕日を見つめる時間は、久しぶりだな」
「そうですね。波の音と夕日なんて……僕、初めてです」
「そうか、初めてか」
海岸には、人はまばらだ。
俺たちは砂浜は手を繋いで、サンセットを眺めた。
ここは静かだ。
ここには君と俺しかいない。
俺たちは指と指を絡ませ、ぎゅっと繋いで、溢れる想いを分け合った。
「瑞樹、たまにはこんな時間もいいな」
「はい……菅野には感謝しないと」
「そうだな。瑞樹、何度でも言うよ。俺は君を愛しているよ」
「宗吾さん……僕もです。僕も大好きです。僕……今日も経験したことないことばかりでした。あんなに変わるのが怖かったのに……宗吾さんといると……僕は大きくジャンプ出来ます」
やがて日が暮れて、辺りが闇に包まれる。
そのタイミングで、瑞樹と唇をそっと重ねた。
「あっ……」
君と過ごす時間が、愛おしいよ。
瑞樹の方から俺にギュッと抱きついてくれた。
「そうくん、好き……です」
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