上 下
833 / 1,730
小学生編

湘南ハーモニー 8

しおりを挟む
「お兄ちゃん……お兄ちゃんってば、聞いてる?」
 
 撮影に気を取られていると芽生くんに話かけられ、ハッとした。

「ごめん、ごめん、何かな?」
「あのね、ゆうとくんとお城を作りたいんだ」
「楽しそうだね!」
「やったぁ」

 僕も手伝おうと立ち上がると、菅野に制された。

「葉山、ここは俺がしっかり見ているから、少し宗吾さんと遊んで来いよ」
「え?」
「さっきから、二人の熱視線ビームにやられてるんだよ~」
「えぇ!?」

 菅野にウインクされてギョッとした。

 わわわ、僕が歩きながら宗吾さんに見惚れていたの、バレバレだった?

 菅野だけは、僕と宗吾さんの関係を知っているから、つい心を許せてしまうんだ。だからなのかな? 宗吾さんを求める熱い心を上手く隠せない。

「菅野くんは気が利くな。じゃあ瑞樹と少し砂浜を散歩しても?」
「へへ、もちろんすよ。お任せあれ!」
「パパ、お兄ちゃん、ボク、いい子にしてるよ。いってらっしゃい」
「う、うん……じゃあ、少しだけ」
 
  宗吾さんと肩を並べて、砂を踏みしめた。

 僕はラッシュガードを着込んでいるが、宗吾さんは日焼けしたいらしく上半身裸なので、ついチラチラと彼の厚い胸板を見つめて、ドキドキしていた。

 僕……あの逞しい胸に押し潰されるように抱かれたことも、彼の胸元に耳をあて眠ったこともあるんだよな。

 もう、何度も何度も――

「おいおい、瑞樹、よせって、その視線はヤバイ!」
「あ……すみません」
「嬉しいよ。甘い視線だ」

 駄目だな。僕……いつになく開放的になっているようだ。

 そうこうしているうちに、先ほど見ていた撮影現場に近づいて来た。

「おぉ? モデルくんの髪色、瑞樹と同じだな」

 確かに帽子からはみ出た明るい栗毛は、僕の髪色とよく似ていた。

「顔が全然違いますよ」
「そうかな? 瑞樹もアイドルでイケるぞ。広告代理店勤務の俺のお墨付きだ」
「も、もう、よしてくださいよ。僕は……もういい歳ですよ」
「10は若く見える!」
「宗吾さん、もう……恥ずかしい」
 
 モデルの男の子はかなりの小顔で、そのシュッとした美しい顔に爽やかな笑顔を浮かべていた。ほっそりとした体型でスタイルも抜群なので、同じ男なのに、見蕩れてしまう。流石モデルさんだと関心した。

「あっ、やっぱり――」
 
 彼が帽子を脱いで顔をあげた時、ますます月影寺の洋くんと顔立ちが似ていたので驚いた。これはもう他人の空似のレベルではない。

 狐につままれたような心地になったので、目を擦って、もう一度じっと見つめた。

「あぁ、彼は……そうか、参ったな……雰囲気が全く違うので、今まで気付かなかったよ」
「え? 宗吾さん……知っているんですか。彼は誰ですか」
「モデルの涼《りょう》だよ。知らない? 今売れてる子だよ。ティーンズ雑誌で、絶大な人気があるんだ」
「……そうなんですね。あまりそういう雑誌は見ないので……でも彼……洋くんに顔立ちが似すぎていませんか」
「あぁ、それが驚きだ。明日聞いてみよう。何か関係があるのかもしれないよな」
「そうですね」
「さぁ、もう少し歩こう。ここに立ち止まっていると、誰か知り合いに会いそうで怖いよ」
「はい、分かりました」

 その時、ふと視線を感じたので顔をあげると、そのモデルの男の子が僕らをじっと見ていた。その視線が眩しそうだったのが、気になった。

「あの、彼……表面上は朗らかですが、少し疲れているみたいですね」
「……瑞樹は人を見る目があるから、そうなのかもな。モデルは過酷だよ。こんな炎天下にあんなに肌を晒して」
 
 彼は本当に美しい男性だった。
 洋くんもだけれども、顔も身体も綺麗過ぎる……

「そろそろ芽生くんの所に戻りましょう」
「えー? もう二人きりのデートは、終わり?」
「……なんだか落ち着かないんですよ。芽生くんを残しているのが」
「ありがとな。瑞樹の母性は絶大だな。よし、戻ろう!」

 宗吾さんに肩を組まれて、その場を去った。

****

「涼、ぼけっとしてないで。あかりちゃんに見惚れてないで、もっと集中して」
「あ、はい! すみません」

 真夏の海での撮影は想像より過酷だった。

 しかも上半身裸、水着姿での撮影が落ち着かない。僕は男だから、これは当たり前で、気にすることないのだが、この身は安志さんに愛されているものなので、大切にしたい。

「涼くんってばぁ、私の胸に見蕩れちゃった?」
「え? えっ……と」

 モデル仲間のあかりちゃんは、かなり露出度の高い水着姿なのに、膨よかな胸元を見つめても、僕の心はちっとも靡かない。とは言えないので、曖昧に笑うしかなかった。

 僕が気になったのは、人集りの向こうに立っていた、背の高い男性と可憐な雰囲気の男性の雰囲気が甘くて素敵だったからだ。

 彼ら……いい雰囲気だったな。

 男性の友人同士なのかな? 

 僕も、安志さんとあんな風に気軽に海に遊びに来たいな。

 自分で選んだ道……モデルの仕事が最近辛いなんて、誰にも言えない。

 もう一度先ほどの二人連れを見ると、仲良く肩を組んで歩いていた。

 絵になる二人だな。

 うん、やっぱりいいな。

 あぁ……僕も、安志さんに会いたい。

 そんな気持ちに押し潰されそうになっていると、マネージャーがやってきた。

「涼、お疲れさん。天気も良くて撮影も順調だったので、明日はオフになったぞ、良かったな」
「はい!」
「今日は急な場所変更で悪かったな。千葉の海で撮影予定だったのに、あっちは波が高くて」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあマンションに送るから、車に乗って」
「あ……僕……」

 ここなら洋兄さんが住んでいる月影寺が近い。突然押しかけても、いいだろうか。まだ帰りたくない。兄さんに会いたい……そんな欲が出てしまった。

「ん?」
「あの身元引き受けの兄の家が近いんです。今日はそこに寄っても?」
「あぁ彼ね。いいよ。涼も少しのんびりと休養しないとな。そこまで送るよ」
「いえ、ここから、すぐなので大丈夫です」
「本当に大丈夫?まぁ、ゆっくりしておいで。但しこれで見つからないように変装してな」
「あ、はい」

 ざっと着替えを済ますと、サングラスとキャップを渡されて解放してもらえた。

 やった! 久しぶりのオフだ!

 大学が夏休みに入った途端、怒濤の撮影、撮影で、この10日間ぶっ通しだった。安志さんとも全然会えていないんだ。

 久しぶりに手にした自由時間……最高だよ!

 ロケハンからそっと離れて、キョロキョロした。

 何をしよう! 

 自由になった途端、急に元気になり、ワクワクしてきた。

 そうだ! あの二人を探してみよう!

 どうして、彼らにこんなに興味を持つのか。

 もしも彼らが僕の想像通りの関係だったら、見せて欲しいからなのか……

 一般的な同性カップルが、どんな風に休日を過ごしているのか、興味があるんだ。

 僕にも、安志さんとの過ごす夢を描かせて――

 僕の未来はまだ不透明で……見えないから。
 







補足





****

『重なる月』について

こちらのサイトでも一時的になるかもしれませんが、連載復活させました。


いよいよ『重なる月』のメンバーとのクロスオー・バースタートです。
夏休み話なので、明るく楽しい話にしたいです♡

今日突然登場した涼について補足です。
『重なる月』未読の方向けに、ざっと説明しますね。
多少ネタバレあります。嫌な方は飛ばしてください。








・月乃 涼(つきの りょう)

174cm 18歳 3歳から高校生までアメリカ・ニューヨークで過ごした洋の大切な従兄弟。只今、横浜市にあるK大学2年生。洋に瓜二つの顔で、優しくてしなやかで可愛い。スポーツ万能で俊足。高校時代は陸上部に所属していた。大学はバスケ部所属。友人に山岡という青年がいる。水族館でスカウトされ、現在はティーンズ雑誌の人気モデル。恵比寿の有名なモデル事務所に所属。時計のモデルでブレイク! 動物に例えると「白馬」

涼 誕生日 7月16日。
花言葉 ジンジャー 
血液型 O型

・鷹野 安志(たかの あんじ)

184cm 29歳 洋の幼馴染の和風男子。純朴で温かく竹のような真っすぐな人。大手警備会社勤務。要人のボディガードの仕事を任されたりもする頼もしい青年。動物に例えると「柴犬」涼からは、実家で飼っているラブラドールレトリバーのアンジュっぽいと思われている。涼の恋人。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...