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小学生編
湘南ハーモニー 2
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「パパー! こっちこっち」
終業式の日は、ちょうど仕事を休めたので、芽生の小学校まで迎えに行った。
芽生は今日は放課後スクールに行かずに皆と帰れるのが嬉しいらしく、俺を見つけるとピョンピョン跳びはねてくれた。
周りの児童も迎えに来たお母さんの元に駆け寄って、ニコニコ顔だ。
そうか……まだこの位の年齢って母親が恋しいのだなと思うと、少しだけ胸の奥が痛んだ。だがそれはもうどうしようもないことなので、俺なりに瑞樹と共に、芽生を愛し育てていくつもりだ。
「芽生、成績票はちゃんともらったか」
「うん! あとでね。それよりアサガオはこっち、こっち」
芽生はいつも明るく無邪気に笑ってくれ、寂しさを見せない。俺はその優しさに胡座をかくことなく、初心を忘れずにいたい。
「あー、確かに元気ないな。だが我が家には強力な魔術師がいるから大丈夫だな」
「パパってば、あのね……お兄ちゃんはマジュツシじゃなくてヨウセイだよ」
「よ、妖精か!」
モクモク……おぉ! 頭の中で妖精のコスプレをした瑞樹が浮かんできたぞ。
薄い羽に薄い衣装……透けそうなくらい薄い生地がいい。
「パパ、お顔にしまりがありませんよ」
ビクッ!
お、おい、芽生のその口調やめろ~! 母さんが来たかと思うじゃないか。
「いますよ。後に」
振り返ると、顔を引きつらせた母の顔。
「ひぃー 出たぁ~」
「宗吾、いい加減にしなさい‼‼ 人をお化けみたいに」
「わぁ、おばあちゃんもきてくれたの?」
「ちょうどお散歩していたのよ。それで今日は終業式だったわよね~って思ったのよ」
「わーい! 今日はうれしいな。明るいうちにおうちに帰れるし、パパもおばーちゃんもきてくれてうれしいな!」
明るいうちにか。
「宗吾、今日は休みを取れて良かったわね」
「あぁ、やっぱり節目は大事にしてやりたくてな」
「宗吾、あなたやっぱり変わったわね。いい心がけよ」
この歳になっても母に褒められるのって、嬉しいもんだな。
俺は大きな朝顔の鉢植えを抱え、芽生のサブバッグも持ってやった。
「パパって、ちからもちだね。ほかのママは自転車につんでいるのに」
「おう! 任せとけって」
そうだ! 父親だから出来ること……男ならではの役立ちが、もっともっとあるはずさ。それを探していけばいい。
「パパはすごいなあ」
母さんと手を繋いで、俺を眩しそうに見上げる芽生の目がキラキラと輝いていた。
そのまま母が久しぶりにマンションに遊びに来てくれて、昼食も作ってくれた。
「わぁ、おばあちゃんのナポリタンだ」
「沢山お食べなさい」
「母さん、家はよかったのか」
「今日はね、憲吾が珍しく有休をとっているのよ。だから夫婦水入らずもいいでしょ」
「なるほどなぁ、彩芽ちゃんも大きくなっただろう」
「そうなのよ。二ヶ月検診に付き添うんですって。憲吾はもう子煩悩パパまっしぐらよ」
「そりゃ、すごい」
母が帰ってから、芽生は少ししなびた朝顔を心配そうに眺めて続けていた。だから瑞樹が仕事から帰ってくると、パタパタと走って飛びついた。
「お兄ちゃん! おかえりなさい」
「ん、芽生くん、ただいま」
「おー、瑞樹、今日は忙しかったみたいだな」
「あ、はい。今日は外だったので汗だくですよ」
「風呂、湧いているぞ」
「ありがとうございます。でもその前に芽生くんの朝顔を見ますね」
朝顔のことを芽生が言い出す前に、気付いてくれたのか。
やはり瑞樹はいいな。君のそういう優しい心配りが、俺たちを和ませる。
「お兄ちゃん、おぼえていてくれたんだね」
「もちろんだよ。約束したからね」
瑞樹は背広を脱いでネクタイを緩めながら、ベランダに向かった。
「あぁ、なるほどね」
「どうだ? 俺にはさっぱりだ」
「下の葉がうっすら黄味を帯びていますね。それに株全体に元気がないので、これは対処しないと枯れてしまうこともありますよ」
「ヨウセイさんお願いします!」
芽生が必死に手を合わせる。
「ん? 妖精って?」
「うん! お兄ちゃんってお花を元気にする天才だもん。だからヨウセイさんみたいだなって」
「くすっ、ありがとう」
白いワイシャツを腕まくりして微笑む瑞樹はやはり可憐で、今年のハロウィンの衣装はやはり妖精コスプレを手配せねばと心の中で誓った。
「宗吾さん、まさか……」
すると……瑞樹がじどっと冷たい視線になったので慌てて誤魔化した。
「俺は何も考えてないぞ、誓って」
「……信じますね。どうやら土の状態が良くないみたいで、ちょっと手をいれてもいいですか。割り箸を持って来て下さい」
「了解!」
瑞樹が、割り箸をそのまま芽生に持たす。
「芽生くん、ちょっと根が張りすぎて、土の表面がカタくなっているみたい。こうなると全体に水がしみ込まなくるんだよ。だから割りばしで土の表面を軽くかいて土を起こしてあげてみて。土に空気に当てると水の通りが良くなるんだよ」
「うん! わかった、やってみる!」
芽生が根を傷つけないように丁寧に割り箸を動かす様子を、瑞樹が静かに見守っている。
君の控えめな所が、プラスになっているな。芽生も任されて嬉しいだろう。
「芽生くん、これは暫くは玄関の方に置こう。こういう状態の時はね、風通しがいい明るめの日陰がいいんだ」
「そうなの? お日様にいっぱいあてなくていいの?」
「弱っている所に、いきなり強い日差しの下に置くと……株が暑さで駄目になるんだよ」
「そうなんだね」
ここまでの話を聞いて、人も同じだと思った。
弱っている人にとって、時に太陽の明るい日差しは眩しすぎる時がある。
また心が強張っている時は、どんな優しい言葉も染み込まない。
土台を整えることの大切さを知る。
瑞樹、君が一番それを知っているのだろうな。
自らの体験を通して――
そう考えると切なくもなったが、今の瑞樹は違う。
ワンステップ、進んでいる。
「宗吾さん……僕、海に行きたいんです」
夏の日差しを浴びたいと言い出したのは君の方だった。
君が自ら光を求めている。
それが嬉しくて、明日から始まる夏休みがますます楽しみになった。
芽生の夏休みに便乗して、俺たちも夏を楽しもう!
君と過ごす夏がまたやってきた。
江ノ島と北鎌倉を跨ぐ俺たちの小旅行のコース名は、『湘南ハーモニー』
沢山の人と触れ合い、世界をまた少し広げよう!
終業式の日は、ちょうど仕事を休めたので、芽生の小学校まで迎えに行った。
芽生は今日は放課後スクールに行かずに皆と帰れるのが嬉しいらしく、俺を見つけるとピョンピョン跳びはねてくれた。
周りの児童も迎えに来たお母さんの元に駆け寄って、ニコニコ顔だ。
そうか……まだこの位の年齢って母親が恋しいのだなと思うと、少しだけ胸の奥が痛んだ。だがそれはもうどうしようもないことなので、俺なりに瑞樹と共に、芽生を愛し育てていくつもりだ。
「芽生、成績票はちゃんともらったか」
「うん! あとでね。それよりアサガオはこっち、こっち」
芽生はいつも明るく無邪気に笑ってくれ、寂しさを見せない。俺はその優しさに胡座をかくことなく、初心を忘れずにいたい。
「あー、確かに元気ないな。だが我が家には強力な魔術師がいるから大丈夫だな」
「パパってば、あのね……お兄ちゃんはマジュツシじゃなくてヨウセイだよ」
「よ、妖精か!」
モクモク……おぉ! 頭の中で妖精のコスプレをした瑞樹が浮かんできたぞ。
薄い羽に薄い衣装……透けそうなくらい薄い生地がいい。
「パパ、お顔にしまりがありませんよ」
ビクッ!
お、おい、芽生のその口調やめろ~! 母さんが来たかと思うじゃないか。
「いますよ。後に」
振り返ると、顔を引きつらせた母の顔。
「ひぃー 出たぁ~」
「宗吾、いい加減にしなさい‼‼ 人をお化けみたいに」
「わぁ、おばあちゃんもきてくれたの?」
「ちょうどお散歩していたのよ。それで今日は終業式だったわよね~って思ったのよ」
「わーい! 今日はうれしいな。明るいうちにおうちに帰れるし、パパもおばーちゃんもきてくれてうれしいな!」
明るいうちにか。
「宗吾、今日は休みを取れて良かったわね」
「あぁ、やっぱり節目は大事にしてやりたくてな」
「宗吾、あなたやっぱり変わったわね。いい心がけよ」
この歳になっても母に褒められるのって、嬉しいもんだな。
俺は大きな朝顔の鉢植えを抱え、芽生のサブバッグも持ってやった。
「パパって、ちからもちだね。ほかのママは自転車につんでいるのに」
「おう! 任せとけって」
そうだ! 父親だから出来ること……男ならではの役立ちが、もっともっとあるはずさ。それを探していけばいい。
「パパはすごいなあ」
母さんと手を繋いで、俺を眩しそうに見上げる芽生の目がキラキラと輝いていた。
そのまま母が久しぶりにマンションに遊びに来てくれて、昼食も作ってくれた。
「わぁ、おばあちゃんのナポリタンだ」
「沢山お食べなさい」
「母さん、家はよかったのか」
「今日はね、憲吾が珍しく有休をとっているのよ。だから夫婦水入らずもいいでしょ」
「なるほどなぁ、彩芽ちゃんも大きくなっただろう」
「そうなのよ。二ヶ月検診に付き添うんですって。憲吾はもう子煩悩パパまっしぐらよ」
「そりゃ、すごい」
母が帰ってから、芽生は少ししなびた朝顔を心配そうに眺めて続けていた。だから瑞樹が仕事から帰ってくると、パタパタと走って飛びついた。
「お兄ちゃん! おかえりなさい」
「ん、芽生くん、ただいま」
「おー、瑞樹、今日は忙しかったみたいだな」
「あ、はい。今日は外だったので汗だくですよ」
「風呂、湧いているぞ」
「ありがとうございます。でもその前に芽生くんの朝顔を見ますね」
朝顔のことを芽生が言い出す前に、気付いてくれたのか。
やはり瑞樹はいいな。君のそういう優しい心配りが、俺たちを和ませる。
「お兄ちゃん、おぼえていてくれたんだね」
「もちろんだよ。約束したからね」
瑞樹は背広を脱いでネクタイを緩めながら、ベランダに向かった。
「あぁ、なるほどね」
「どうだ? 俺にはさっぱりだ」
「下の葉がうっすら黄味を帯びていますね。それに株全体に元気がないので、これは対処しないと枯れてしまうこともありますよ」
「ヨウセイさんお願いします!」
芽生が必死に手を合わせる。
「ん? 妖精って?」
「うん! お兄ちゃんってお花を元気にする天才だもん。だからヨウセイさんみたいだなって」
「くすっ、ありがとう」
白いワイシャツを腕まくりして微笑む瑞樹はやはり可憐で、今年のハロウィンの衣装はやはり妖精コスプレを手配せねばと心の中で誓った。
「宗吾さん、まさか……」
すると……瑞樹がじどっと冷たい視線になったので慌てて誤魔化した。
「俺は何も考えてないぞ、誓って」
「……信じますね。どうやら土の状態が良くないみたいで、ちょっと手をいれてもいいですか。割り箸を持って来て下さい」
「了解!」
瑞樹が、割り箸をそのまま芽生に持たす。
「芽生くん、ちょっと根が張りすぎて、土の表面がカタくなっているみたい。こうなると全体に水がしみ込まなくるんだよ。だから割りばしで土の表面を軽くかいて土を起こしてあげてみて。土に空気に当てると水の通りが良くなるんだよ」
「うん! わかった、やってみる!」
芽生が根を傷つけないように丁寧に割り箸を動かす様子を、瑞樹が静かに見守っている。
君の控えめな所が、プラスになっているな。芽生も任されて嬉しいだろう。
「芽生くん、これは暫くは玄関の方に置こう。こういう状態の時はね、風通しがいい明るめの日陰がいいんだ」
「そうなの? お日様にいっぱいあてなくていいの?」
「弱っている所に、いきなり強い日差しの下に置くと……株が暑さで駄目になるんだよ」
「そうなんだね」
ここまでの話を聞いて、人も同じだと思った。
弱っている人にとって、時に太陽の明るい日差しは眩しすぎる時がある。
また心が強張っている時は、どんな優しい言葉も染み込まない。
土台を整えることの大切さを知る。
瑞樹、君が一番それを知っているのだろうな。
自らの体験を通して――
そう考えると切なくもなったが、今の瑞樹は違う。
ワンステップ、進んでいる。
「宗吾さん……僕、海に行きたいんです」
夏の日差しを浴びたいと言い出したのは君の方だった。
君が自ら光を求めている。
それが嬉しくて、明日から始まる夏休みがますます楽しみになった。
芽生の夏休みに便乗して、俺たちも夏を楽しもう!
君と過ごす夏がまたやってきた。
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