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小学生編
北国のぬくもり 14
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「いらっしゃいませ~!」
「へぇ、ずいぶん大きな声を出せるんだな」
「はずかしいけど、がんばっているんだ!」
「そうか」
瑞樹が愛情を注いで丁寧に育てている芽生坊は、2月に軽井沢で会った時より、更にしっかりしていた。
やはり小学生になったから、心構えが違うのか。
オレもかつて、瑞樹に沢山の愛情を注いでもらったことを思い出した。
瑞樹だってまだ10歳だったのに、オレに優しく接してくれた。それが、くすぐったくも嬉しかったのを覚えている。
当時のオレはまだ幼稚園児だった。
一方、広樹兄さんはもう中学生だったから、一緒に遊んでくれなかったし、母さんは仕事が忙しくて……愛情に飢えていた。
オレも……芽生坊みたいに素直に瑞樹に甘えて、素直に愛情を受け止めれば良かったなぁ。
「すみません……花束を作ってもらえますか」
そこに喪服を着た人がやってきた。お母さんの方は泣きはらした目をしている。
店の雰囲気がガラリと変わった。
「芽生坊、ちょっと奥で休憩しておいで」
「あ……うん」
深刻そうな雰囲気だったので、芽生坊を一旦下げさせた。
「花束ですか」
「えぇ……娘が好きだったから」
好きだったか……亡くなってしまったのかな。
「あの子の好きだったオレンジ色チューリップでブーケを作って下さい。仏様のお花ばかりでは寂しいの。まだ5歳だったのに……なんで……ううっ、小さいから寂しくないように、うっ……」
「おい、しっかりしろ」
よろける奥さんの身体を、旦那さんがしっかりと支えていた。
幼い娘を亡くし、これからお葬式なのだろうか。耐えられずに娘の好きだった花を求めに来た母親の心情を思えば、気が引き締まる。
花は人を癒やす。
瑞樹から学んだことを実践してみよう。
花の中に娘さんの笑顔が見えるように、蕾ではなく満開のチューリップばかりでブーケを作った。
「あ……ありがとう。娘の笑顔みたいに可愛いわ」
「いえ、お役に立てば」
オレは無力だった。
瑞樹が両親と弟を交通事故で一気に失ったと知ったとき、自分が何の役にも立たないと分かりがっかりした。まして瑞樹の死んだ弟と同い年で、何かにつけて瑞樹が比べているなんて決めつけてさ、ひねくれて最低最悪だった。
「ありがとう。心が少し落ち着いたわ」
「いえ……精一杯の気持ちだけは込めました」
「うれしいわ。また利用させてね」
「は、はい!」
泣きそうだ。
喪服のご夫婦を見送るために下げた頭を、すぐには上げられなかった。
すると肩をポンポンと優しく叩いてくれる人がいた。
「じゅーん、いいお花だったよ」
「瑞樹……っと、兄さん、いつの間に……見たのか」
「あ、店の前で喪服のご夫婦が色鮮やかなオレンジのリューリップの花束を持っていて……」
「そっか」
「……亡くなったのはお子さんだったのか」
「そうみたいだ。幼い娘さんだったと」
「……そうか」
オレは馬鹿か、こんな話、瑞樹にしたらまずいだろう。
瑞樹だって……パニックを起こしそうになったばかりなのにさ。
「笑顔みたいなブーケだったよ」
「あ……そう思ってくれるのか」
「うん。僕も今度夏樹に作ってあげようかな。夏樹が好きな花は向日葵だったから」
「そ、そうか」
瑞樹は心を建て直していた。
「あ……、そっか」
「ん? どうした?」
「いや、なんでもないよ」
瑞樹の綺麗な手……男のくせに真っ直ぐでほっそりとした指にキラリと光るものを見つけて、納得した。
「それより芽生くんは?」
「ちょっと下がらせた」
「そうか。芽生くん? どこかな?」
瑞樹が中に入ると、芽生くんが少し強ばった顔を花のショーケースの向こうから覗かせた。
「お兄ちゃん……もうそっちにいってもいい?」
「もちろんだよ。お店番ちゃんと出来て偉かったね」
芽生くんが手を広げて瑞樹に向かって走ってくる。
「お、おにいちゃーん‼」
瑞樹が両手で受け止めて、そのまま抱っこした。
「どうしたのかな?」
「メイ……メイはどこにもいかないからね! おにいちゃんのそばにいるからね。こわくないからね」
「あ……、うん! ありがとう」
瑞樹が嬉しそうに擽ったそうに頬笑む。
あぁそうか……オレも幼い頃、こんな風に素直に言ってあげれば良かったんだな。芽生坊を見ていると、さっきから浮かぶのは小さな後悔ばかりだ。
少し凹んでいると、宗吾さんに肩を組まれた。
「潤、今からでも遅くないぞ~! 俺の瑞樹は天使並に優しいからな。ははっ」
豪快に笑う宗吾さんの左手薬指にも、キラリと光るものがあった。
そっか、結婚指輪って……天使の輪みたいだな。
天使と言えば……
「そうだ! 広樹兄さんはどうなった?」
「さっき連絡があったぞ」
「どっち?」
「女の子さ」
「あ……」
一人の少女がこの世を去り、新しい命が舞い降りた。
人の命と命は、どこかですれ違っているのかもしれない。
優しさを受け継いで……
「へぇ、ずいぶん大きな声を出せるんだな」
「はずかしいけど、がんばっているんだ!」
「そうか」
瑞樹が愛情を注いで丁寧に育てている芽生坊は、2月に軽井沢で会った時より、更にしっかりしていた。
やはり小学生になったから、心構えが違うのか。
オレもかつて、瑞樹に沢山の愛情を注いでもらったことを思い出した。
瑞樹だってまだ10歳だったのに、オレに優しく接してくれた。それが、くすぐったくも嬉しかったのを覚えている。
当時のオレはまだ幼稚園児だった。
一方、広樹兄さんはもう中学生だったから、一緒に遊んでくれなかったし、母さんは仕事が忙しくて……愛情に飢えていた。
オレも……芽生坊みたいに素直に瑞樹に甘えて、素直に愛情を受け止めれば良かったなぁ。
「すみません……花束を作ってもらえますか」
そこに喪服を着た人がやってきた。お母さんの方は泣きはらした目をしている。
店の雰囲気がガラリと変わった。
「芽生坊、ちょっと奥で休憩しておいで」
「あ……うん」
深刻そうな雰囲気だったので、芽生坊を一旦下げさせた。
「花束ですか」
「えぇ……娘が好きだったから」
好きだったか……亡くなってしまったのかな。
「あの子の好きだったオレンジ色チューリップでブーケを作って下さい。仏様のお花ばかりでは寂しいの。まだ5歳だったのに……なんで……ううっ、小さいから寂しくないように、うっ……」
「おい、しっかりしろ」
よろける奥さんの身体を、旦那さんがしっかりと支えていた。
幼い娘を亡くし、これからお葬式なのだろうか。耐えられずに娘の好きだった花を求めに来た母親の心情を思えば、気が引き締まる。
花は人を癒やす。
瑞樹から学んだことを実践してみよう。
花の中に娘さんの笑顔が見えるように、蕾ではなく満開のチューリップばかりでブーケを作った。
「あ……ありがとう。娘の笑顔みたいに可愛いわ」
「いえ、お役に立てば」
オレは無力だった。
瑞樹が両親と弟を交通事故で一気に失ったと知ったとき、自分が何の役にも立たないと分かりがっかりした。まして瑞樹の死んだ弟と同い年で、何かにつけて瑞樹が比べているなんて決めつけてさ、ひねくれて最低最悪だった。
「ありがとう。心が少し落ち着いたわ」
「いえ……精一杯の気持ちだけは込めました」
「うれしいわ。また利用させてね」
「は、はい!」
泣きそうだ。
喪服のご夫婦を見送るために下げた頭を、すぐには上げられなかった。
すると肩をポンポンと優しく叩いてくれる人がいた。
「じゅーん、いいお花だったよ」
「瑞樹……っと、兄さん、いつの間に……見たのか」
「あ、店の前で喪服のご夫婦が色鮮やかなオレンジのリューリップの花束を持っていて……」
「そっか」
「……亡くなったのはお子さんだったのか」
「そうみたいだ。幼い娘さんだったと」
「……そうか」
オレは馬鹿か、こんな話、瑞樹にしたらまずいだろう。
瑞樹だって……パニックを起こしそうになったばかりなのにさ。
「笑顔みたいなブーケだったよ」
「あ……そう思ってくれるのか」
「うん。僕も今度夏樹に作ってあげようかな。夏樹が好きな花は向日葵だったから」
「そ、そうか」
瑞樹は心を建て直していた。
「あ……、そっか」
「ん? どうした?」
「いや、なんでもないよ」
瑞樹の綺麗な手……男のくせに真っ直ぐでほっそりとした指にキラリと光るものを見つけて、納得した。
「それより芽生くんは?」
「ちょっと下がらせた」
「そうか。芽生くん? どこかな?」
瑞樹が中に入ると、芽生くんが少し強ばった顔を花のショーケースの向こうから覗かせた。
「お兄ちゃん……もうそっちにいってもいい?」
「もちろんだよ。お店番ちゃんと出来て偉かったね」
芽生くんが手を広げて瑞樹に向かって走ってくる。
「お、おにいちゃーん‼」
瑞樹が両手で受け止めて、そのまま抱っこした。
「どうしたのかな?」
「メイ……メイはどこにもいかないからね! おにいちゃんのそばにいるからね。こわくないからね」
「あ……、うん! ありがとう」
瑞樹が嬉しそうに擽ったそうに頬笑む。
あぁそうか……オレも幼い頃、こんな風に素直に言ってあげれば良かったんだな。芽生坊を見ていると、さっきから浮かぶのは小さな後悔ばかりだ。
少し凹んでいると、宗吾さんに肩を組まれた。
「潤、今からでも遅くないぞ~! 俺の瑞樹は天使並に優しいからな。ははっ」
豪快に笑う宗吾さんの左手薬指にも、キラリと光るものがあった。
そっか、結婚指輪って……天使の輪みたいだな。
天使と言えば……
「そうだ! 広樹兄さんはどうなった?」
「さっき連絡があったぞ」
「どっち?」
「女の子さ」
「あ……」
一人の少女がこの世を去り、新しい命が舞い降りた。
人の命と命は、どこかですれ違っているのかもしれない。
優しさを受け継いで……
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