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小学生編
ゆめの国 13
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「ふぎゃ……ふぎゃああ」
「み、美智、彩芽が泣いてるぞ」
「ん……おむつ……かなぁ。さっきおっぱい飲んで……寝かせたばかりなのに」
美智は病室のベッドで、うとうとしていた。
産後間もないし不慣れな赤ん坊の世話で、疲れ果てているのだ。
どうやら……ここは私の出番のようだ。
「よ、よし。私が替えてやるからな」
手を洗いシャツを腕まくりして、一度深呼吸する。
落ち着け憲吾……冷静になるんだ。しかし裁判官の時はいくらでも冷静に冷酷にすらなれたのに、子育ては違う。いくらでも彩芽に気持ちを持って行かれる。
彩芽が泣けば悲しい気持ちになり、笑えば幸せな気持ちになる。
「ふぎゃああああー!」
彩芽は顔を真っ赤にして、むずっている。
そっと手を差し入れ抱きしめれば……この子はまだ小さくて頼りない存在だと、再び実感する。
「よーし、よし、おむつが気持ち悪いのか」
そっと彩芽のおむつを外して、先ほど教えてもらった通りに優しくお尻を拭いて、新しいおむつをさし込んで、お腹で優しくテープを留めた。
先ほどまで泣き叫んでいた彩芽が、黒い瞳でじっと私を見つめている。
そっと抱きしめて……柔らかな頬に触れてみた。
人肌のやわらかな温もりに、眼鏡の奥の瞳が潤んでしまうよ。
「私がパパだよ」
「本当に憲吾がお父さんになったのね」
振り向けば母さんが立っていた。
「母さん!」
「しー、美智さん、きっと疲れちゃったのね」
「そうなんだ、私が付き添っている間は、少しでも眠って欲しくて」
「優しいわね、憲吾らしい」
優しい? 私が……?
母さんからそんな風に言われたことは滅多にないので、驚いてしまった。
「まぁ、いやね。なんて顔をしているの?」
「その……珍しい台詞だったので……私は厳しいとか難しいと言われることが多かったので」
「それは一見ね。母さんね、瑞樹くんと出会ってから、ちゃんと相手のいい所を口に出して伝えたいなって思えるようになったのよ。小さい頃はちゃんと言っていたのに……息子が大人になると気恥ずかしくなって……」
母が茶目っ気たっぷりにウィンクしたので、呆気に取られてしまった。
それを言うなら母もまた変わった。宗吾が離婚して芽生の世話をするようになってから? いや瑞樹くんと出会ってからだ。
「私は……瑞樹くんを見て、もっと柔らかく生きてみようと改心したのですよ。彼のように……草花のように強風に吹かれても咲き誇れるように、自分という根をしっかり張って」
「まぁ、母さんと同じ事考えていたのね、嬉しいわ。ところで宗吾たちは今日は来ないの?」
母が会いたそうに目を細める。
会いたいと恋しがってもらえる存在に、宗吾たち家族はなったのだ。
私たちも、そんな家族になりたい。
「今頃『ゆめの国』で遊んでいますよ。ほら」
写真を見せようとスマホを開くと、新着があった。
「ん? また送ってきてくれたのか。どれどれ」
今度は、宗吾と瑞樹くんと芽生の並ぶ家族写真だった。
「ははっ、お揃いのぬいぐるみまで抱いて、可愛いことを」
「まぁ可愛い! 本当に可愛い子ね、芽生も瑞樹も……そして宗吾の自慢げな顔」
「いやぁこれは自慢したくもなりますよ。こんな可愛い人に囲まれたんじゃ」
「いい時間を過ごせているのね。憲吾でしょう? こんな時間をプレゼントしたのは」
「え……? なんで分かるのですか」
「息子の考えることですもの」
母はまた、少女のようにウィンクをしていた。
****
「はぁ~密室最高だぜ!」
『海底探検』を終えて地上に生還すると、宗吾さんが嬉しそうに叫んだ。
「も、もう! 密室ってなんですかぁ」
「パパ、お兄ちゃん、あそこには何人のれるの?」
「えっと本当は6人かな」
「じゃあ来年はおじさんとおばさんとあーちゃんも一緒にのって、貸し切りだね」
「えー それだと密室じゃなくなるぞ」
宗吾さんが口をとがらせば、芽生くんも負けていない。
「ボクがこわーいイカさんから、あーちゃんを守るから一緒にのるんだ」
キュン!
ま、まずい。僕の心がキュンとしてしまう。
芽生くんの将来が楽しみであり心配だ。
「芽生、お前、カッコよすぎ。あー、俺も頑張らないとな。いつまでも瑞樹にカッコいいって思ってもらいたいからさ」
宗吾さんが茶目っ気たっぷりな顔でウィンクする。なんかこういう所、宗吾さんのお母さんに似ているなと苦笑してしまう。
「宗吾さんはいつもカッコいいですよ♡」
耳元で甘く囁くと(ゆめの国スペシャル対応ですからね)、宗吾さんが珍しく顔を赤くした。
「みみみみ、みずき……反則だ。それ!」
「だ、だいじょうぶですか~」
「隊長、これを!」
芽生くんが戦隊ごっこモードになって、鞄からティッシュを差し出すのだから、もう!
「ははは、芽生、お父さんが鼻血を出すと思ったのか」
「だってぇ、前、ほんとうに出したもん」
「う……」
話の方向が、全然『ゆめの国』ではないのですけれど!
えっと……僕がすべきことは……そうだ
「瑞樹、軌道修正を頼む」
「了解です! 芽生くん、次は『にんぎょひめの国』に行こうか。芽生くんが乗れる乗り物が沢山あるよ」
「わぁ~ 行く! 行きたい! のりたい!」
「み、美智、彩芽が泣いてるぞ」
「ん……おむつ……かなぁ。さっきおっぱい飲んで……寝かせたばかりなのに」
美智は病室のベッドで、うとうとしていた。
産後間もないし不慣れな赤ん坊の世話で、疲れ果てているのだ。
どうやら……ここは私の出番のようだ。
「よ、よし。私が替えてやるからな」
手を洗いシャツを腕まくりして、一度深呼吸する。
落ち着け憲吾……冷静になるんだ。しかし裁判官の時はいくらでも冷静に冷酷にすらなれたのに、子育ては違う。いくらでも彩芽に気持ちを持って行かれる。
彩芽が泣けば悲しい気持ちになり、笑えば幸せな気持ちになる。
「ふぎゃああああー!」
彩芽は顔を真っ赤にして、むずっている。
そっと手を差し入れ抱きしめれば……この子はまだ小さくて頼りない存在だと、再び実感する。
「よーし、よし、おむつが気持ち悪いのか」
そっと彩芽のおむつを外して、先ほど教えてもらった通りに優しくお尻を拭いて、新しいおむつをさし込んで、お腹で優しくテープを留めた。
先ほどまで泣き叫んでいた彩芽が、黒い瞳でじっと私を見つめている。
そっと抱きしめて……柔らかな頬に触れてみた。
人肌のやわらかな温もりに、眼鏡の奥の瞳が潤んでしまうよ。
「私がパパだよ」
「本当に憲吾がお父さんになったのね」
振り向けば母さんが立っていた。
「母さん!」
「しー、美智さん、きっと疲れちゃったのね」
「そうなんだ、私が付き添っている間は、少しでも眠って欲しくて」
「優しいわね、憲吾らしい」
優しい? 私が……?
母さんからそんな風に言われたことは滅多にないので、驚いてしまった。
「まぁ、いやね。なんて顔をしているの?」
「その……珍しい台詞だったので……私は厳しいとか難しいと言われることが多かったので」
「それは一見ね。母さんね、瑞樹くんと出会ってから、ちゃんと相手のいい所を口に出して伝えたいなって思えるようになったのよ。小さい頃はちゃんと言っていたのに……息子が大人になると気恥ずかしくなって……」
母が茶目っ気たっぷりにウィンクしたので、呆気に取られてしまった。
それを言うなら母もまた変わった。宗吾が離婚して芽生の世話をするようになってから? いや瑞樹くんと出会ってからだ。
「私は……瑞樹くんを見て、もっと柔らかく生きてみようと改心したのですよ。彼のように……草花のように強風に吹かれても咲き誇れるように、自分という根をしっかり張って」
「まぁ、母さんと同じ事考えていたのね、嬉しいわ。ところで宗吾たちは今日は来ないの?」
母が会いたそうに目を細める。
会いたいと恋しがってもらえる存在に、宗吾たち家族はなったのだ。
私たちも、そんな家族になりたい。
「今頃『ゆめの国』で遊んでいますよ。ほら」
写真を見せようとスマホを開くと、新着があった。
「ん? また送ってきてくれたのか。どれどれ」
今度は、宗吾と瑞樹くんと芽生の並ぶ家族写真だった。
「ははっ、お揃いのぬいぐるみまで抱いて、可愛いことを」
「まぁ可愛い! 本当に可愛い子ね、芽生も瑞樹も……そして宗吾の自慢げな顔」
「いやぁこれは自慢したくもなりますよ。こんな可愛い人に囲まれたんじゃ」
「いい時間を過ごせているのね。憲吾でしょう? こんな時間をプレゼントしたのは」
「え……? なんで分かるのですか」
「息子の考えることですもの」
母はまた、少女のようにウィンクをしていた。
****
「はぁ~密室最高だぜ!」
『海底探検』を終えて地上に生還すると、宗吾さんが嬉しそうに叫んだ。
「も、もう! 密室ってなんですかぁ」
「パパ、お兄ちゃん、あそこには何人のれるの?」
「えっと本当は6人かな」
「じゃあ来年はおじさんとおばさんとあーちゃんも一緒にのって、貸し切りだね」
「えー それだと密室じゃなくなるぞ」
宗吾さんが口をとがらせば、芽生くんも負けていない。
「ボクがこわーいイカさんから、あーちゃんを守るから一緒にのるんだ」
キュン!
ま、まずい。僕の心がキュンとしてしまう。
芽生くんの将来が楽しみであり心配だ。
「芽生、お前、カッコよすぎ。あー、俺も頑張らないとな。いつまでも瑞樹にカッコいいって思ってもらいたいからさ」
宗吾さんが茶目っ気たっぷりな顔でウィンクする。なんかこういう所、宗吾さんのお母さんに似ているなと苦笑してしまう。
「宗吾さんはいつもカッコいいですよ♡」
耳元で甘く囁くと(ゆめの国スペシャル対応ですからね)、宗吾さんが珍しく顔を赤くした。
「みみみみ、みずき……反則だ。それ!」
「だ、だいじょうぶですか~」
「隊長、これを!」
芽生くんが戦隊ごっこモードになって、鞄からティッシュを差し出すのだから、もう!
「ははは、芽生、お父さんが鼻血を出すと思ったのか」
「だってぇ、前、ほんとうに出したもん」
「う……」
話の方向が、全然『ゆめの国』ではないのですけれど!
えっと……僕がすべきことは……そうだ
「瑞樹、軌道修正を頼む」
「了解です! 芽生くん、次は『にんぎょひめの国』に行こうか。芽生くんが乗れる乗り物が沢山あるよ」
「わぁ~ 行く! 行きたい! のりたい!」
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