782 / 1,743
小学生編
ゆめの国 12
しおりを挟む
「バッチリ撮れていますね。『ゆめの国』の『海』には、家族3人で初めて来たので……勝手が分からなくて助かりましたよ」
「わぁ! 初めてですか。じゃあお父さん、初めてシールを記念に貰って下さいね」
「え? そんなシールがあるんですか。知らなかったな」
宗吾さんが調査不足を悔やむ顔をした。
いやいや、もう充分調べまくっていますって!
「それって、大人でも?」
「えぇ、大人になってから初めていらっしゃる人もいますものね」
「欲しい! 俺もシール欲しかったんだ。どこでもらえますか」
「あ、地図でいうと、ここかここになります」
「ありがとう! 恩に着るよ」
「はい! 引き続きよい時間をお過ごしください」
宗吾さんの目がキラーンと輝いていた。
「瑞樹、ちょっと貰ってきてもいいか。実は俺だけシールがなかったの寂しくてな」
「くすっ。もちろん、いいですよ」
「じゃあ急いで行ってくるから、瑞樹と芽生はこのベンチに座っていてくれ」
「はい、分かりました」
こういう時の宗吾さんは止められない。爆走するのみだ。
すごい勢いで消えてしまった。
「パパってば~」
「宗吾さんだけシールなかったの寂しかったんだね」
「うんうん、パパはお兄ちゃんが大好きだから、なんでもいっしょがいいんだね」
「え! えっと」
うわぁ……照れるなぁ。まだ6歳の子にそんな風に言われると。でも芽生くんの素直な言葉が、僕はいつも嬉しいんだよ。ありがとうね。
もっともっと芽生くんのように素直に喜んで、幸せに歩み寄っていきたい。
ベンチで座っていると、何故か通りすがりの人にちらちら見られて恥ずかしくなった。
「お兄ちゃん、はずかしいの?」
「う……うん」
「じゃあ手をつないであげるよ」
「うん?」
手を差し出すと芽生くんがギュッと握り、僕の顔を見つめてニコっと笑ってくれた。
「今日のお兄ちゃんは瑞樹パパだよ~」
『きゃ、可愛い親子発見! ぬいぐるみもってキュート‼』
『絵になる親子だね』
そんな声が聞こえてきたので、ドキドキしてしまった。
そんな中、芽生くんは満足そうにお喋りを続けた。
「『ゆめの国』ってすごいね! ボクたちのこと、ぜーんぶ分かっちゃうなんて! もしかしたら、みーんな、魔法がつかえるのかもしれないよ! みずきパパって言ってくれて、うれしかったね」
芽生くんは興奮した様子だった。
瑞樹パパか。
さっきのスタッフさん、すごいな。瞬時に僕の左手薬指の指輪を見て判断してくれた。更に僕が女性になるのを望んでいないことまで気付いてくれて、本当に嬉しい。
『ゆめの国』のスタッフさんって、すごい。ゲストの夢を壊さないように努力されている。深い洞察力と寄り添う心を持って……それはスタッフさん自信が、心から仕事を楽しんでいるから出来ることだ。
「おーい、待たせたな」
颯爽と現れた宗吾さんに、僕の心は浮き立った。
健康的で逞しい姿に、僕を抱く姿を重ねてしまい、慌てて首を横に振った。
もう、僕――近頃少し変だ!
「お疲れさまです。ちゃんと、もらえましたか」
「あぁ、ほら見てくれよ」
宗吾さんの胸元には『はじめて来ました!』シールがキラキラと輝いていた。
もう、子供みたいに笑って――憎めない人だ。
「よかったですね。これでみんな一緒です」
「ねー、パパ、ボクお昼ごはん食べて元気いっぱいだよ。何かのりものにのりたいな」
「よーし、この先に『海底探検号』があるぞ、いくか」
「こわい? パパ、それ、こわい?」
「どうだろ? こわくても瑞樹パパとお父さんがいるから、大丈夫だろ」
宗吾さんが『瑞樹パパ』と、堂々と口にしてくれる。それがまた嬉しくて溜まらない。
『海底探検号』は案内板によると、小さな潜水艦型の乗り物で、深い海底を探索すようだ。これは身長制限もないし大丈夫かな?
「よーし、出発だ」
潜水艦型の乗り物は僕たちで貸し切りで、小さな椅子に座るとすぐにゴボゴボという水音が聞こえた。
窓の外を見ると、本当に水の中に沈んでいるようなリアルな様子だった。
やがて海底風景が広がる。
「わぁぁ、本当に海の中だ~!」
芽生くんがワクワクした表情で窓にぴたっと張り付いた。
最初は綺麗な魚や珊瑚が見えたので楽しく眺めていたが、海底に近づくと、辺りが真っ暗になってしまった。
時折、稲妻と共に、大きなイカが潜水艦を追ってくるのが分かり、芽生くんが小さな悲鳴を上げた。
「お、おにいちゃん~」
芽生くんが手を泳がして僕を探したので、すぐにつないであげた。
「ここにいるよ」
「お兄ちゃん~こわいよぉ。大きなイカさんにつかまりそうだよ~」
芽生くんがギュッと目を瞑って僕に縋ってくると、その横で宗吾さんが少し寂しそうな顔をしたのが見えた。
途端に、宗吾さんの胸元に、僕が飛び込みたい衝動に駆られた。
突然、宗吾さんに甘えたくなったのだ。
ここには僕たちしかいないし、いいですよね?
「わぁ! 芽生くん、イカだよ~ 函館でもあんな大きなの見たことないよ! こ、怖いよ!」
大袈裟に怖がると、宗吾さんが嬉しそうに僕を抱きしめてくれた。
「大丈夫さ! 俺がいるだろ」
少々お芝居がかっていたけれど、芽生くんは大興奮。
「パパとお兄ちゃんがいるから、大丈夫なんだね」
「そうだよ。芽生くんは、ひとりじゃないよ」
僕たちは支え合う。
見守りあって生きていく。
この先もずっとずっとね。
あとがき(不要な方はスルーです)
****
連日『ゆめの国』でのお話しです。
こちらは物語的に大きな展開はなく、同じことの繰り返しになっているかもしれません。こんなご時世で外出もままならないので、私自身の癒やしも込めて書いています。
読者さまも一緒に『ゆめの国』をまわっている気分で、宗吾さんと瑞樹、芽生と一緒に楽しんで下さったら嬉しいです。
「わぁ! 初めてですか。じゃあお父さん、初めてシールを記念に貰って下さいね」
「え? そんなシールがあるんですか。知らなかったな」
宗吾さんが調査不足を悔やむ顔をした。
いやいや、もう充分調べまくっていますって!
「それって、大人でも?」
「えぇ、大人になってから初めていらっしゃる人もいますものね」
「欲しい! 俺もシール欲しかったんだ。どこでもらえますか」
「あ、地図でいうと、ここかここになります」
「ありがとう! 恩に着るよ」
「はい! 引き続きよい時間をお過ごしください」
宗吾さんの目がキラーンと輝いていた。
「瑞樹、ちょっと貰ってきてもいいか。実は俺だけシールがなかったの寂しくてな」
「くすっ。もちろん、いいですよ」
「じゃあ急いで行ってくるから、瑞樹と芽生はこのベンチに座っていてくれ」
「はい、分かりました」
こういう時の宗吾さんは止められない。爆走するのみだ。
すごい勢いで消えてしまった。
「パパってば~」
「宗吾さんだけシールなかったの寂しかったんだね」
「うんうん、パパはお兄ちゃんが大好きだから、なんでもいっしょがいいんだね」
「え! えっと」
うわぁ……照れるなぁ。まだ6歳の子にそんな風に言われると。でも芽生くんの素直な言葉が、僕はいつも嬉しいんだよ。ありがとうね。
もっともっと芽生くんのように素直に喜んで、幸せに歩み寄っていきたい。
ベンチで座っていると、何故か通りすがりの人にちらちら見られて恥ずかしくなった。
「お兄ちゃん、はずかしいの?」
「う……うん」
「じゃあ手をつないであげるよ」
「うん?」
手を差し出すと芽生くんがギュッと握り、僕の顔を見つめてニコっと笑ってくれた。
「今日のお兄ちゃんは瑞樹パパだよ~」
『きゃ、可愛い親子発見! ぬいぐるみもってキュート‼』
『絵になる親子だね』
そんな声が聞こえてきたので、ドキドキしてしまった。
そんな中、芽生くんは満足そうにお喋りを続けた。
「『ゆめの国』ってすごいね! ボクたちのこと、ぜーんぶ分かっちゃうなんて! もしかしたら、みーんな、魔法がつかえるのかもしれないよ! みずきパパって言ってくれて、うれしかったね」
芽生くんは興奮した様子だった。
瑞樹パパか。
さっきのスタッフさん、すごいな。瞬時に僕の左手薬指の指輪を見て判断してくれた。更に僕が女性になるのを望んでいないことまで気付いてくれて、本当に嬉しい。
『ゆめの国』のスタッフさんって、すごい。ゲストの夢を壊さないように努力されている。深い洞察力と寄り添う心を持って……それはスタッフさん自信が、心から仕事を楽しんでいるから出来ることだ。
「おーい、待たせたな」
颯爽と現れた宗吾さんに、僕の心は浮き立った。
健康的で逞しい姿に、僕を抱く姿を重ねてしまい、慌てて首を横に振った。
もう、僕――近頃少し変だ!
「お疲れさまです。ちゃんと、もらえましたか」
「あぁ、ほら見てくれよ」
宗吾さんの胸元には『はじめて来ました!』シールがキラキラと輝いていた。
もう、子供みたいに笑って――憎めない人だ。
「よかったですね。これでみんな一緒です」
「ねー、パパ、ボクお昼ごはん食べて元気いっぱいだよ。何かのりものにのりたいな」
「よーし、この先に『海底探検号』があるぞ、いくか」
「こわい? パパ、それ、こわい?」
「どうだろ? こわくても瑞樹パパとお父さんがいるから、大丈夫だろ」
宗吾さんが『瑞樹パパ』と、堂々と口にしてくれる。それがまた嬉しくて溜まらない。
『海底探検号』は案内板によると、小さな潜水艦型の乗り物で、深い海底を探索すようだ。これは身長制限もないし大丈夫かな?
「よーし、出発だ」
潜水艦型の乗り物は僕たちで貸し切りで、小さな椅子に座るとすぐにゴボゴボという水音が聞こえた。
窓の外を見ると、本当に水の中に沈んでいるようなリアルな様子だった。
やがて海底風景が広がる。
「わぁぁ、本当に海の中だ~!」
芽生くんがワクワクした表情で窓にぴたっと張り付いた。
最初は綺麗な魚や珊瑚が見えたので楽しく眺めていたが、海底に近づくと、辺りが真っ暗になってしまった。
時折、稲妻と共に、大きなイカが潜水艦を追ってくるのが分かり、芽生くんが小さな悲鳴を上げた。
「お、おにいちゃん~」
芽生くんが手を泳がして僕を探したので、すぐにつないであげた。
「ここにいるよ」
「お兄ちゃん~こわいよぉ。大きなイカさんにつかまりそうだよ~」
芽生くんがギュッと目を瞑って僕に縋ってくると、その横で宗吾さんが少し寂しそうな顔をしたのが見えた。
途端に、宗吾さんの胸元に、僕が飛び込みたい衝動に駆られた。
突然、宗吾さんに甘えたくなったのだ。
ここには僕たちしかいないし、いいですよね?
「わぁ! 芽生くん、イカだよ~ 函館でもあんな大きなの見たことないよ! こ、怖いよ!」
大袈裟に怖がると、宗吾さんが嬉しそうに僕を抱きしめてくれた。
「大丈夫さ! 俺がいるだろ」
少々お芝居がかっていたけれど、芽生くんは大興奮。
「パパとお兄ちゃんがいるから、大丈夫なんだね」
「そうだよ。芽生くんは、ひとりじゃないよ」
僕たちは支え合う。
見守りあって生きていく。
この先もずっとずっとね。
あとがき(不要な方はスルーです)
****
連日『ゆめの国』でのお話しです。
こちらは物語的に大きな展開はなく、同じことの繰り返しになっているかもしれません。こんなご時世で外出もままならないので、私自身の癒やしも込めて書いています。
読者さまも一緒に『ゆめの国』をまわっている気分で、宗吾さんと瑞樹、芽生と一緒に楽しんで下さったら嬉しいです。
11
お気に入りに追加
834
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる