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小学生編
見守って 28
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家に戻っても、僕たちはまだ高揚した気分だった。
生まれたての小さな命を、目の当たりにしたからだ。
子供が産まれるって……すごいことだ。
まさに命のリレーだ!
彩芽ちゃん……美智さんの元に産まれて来てくれてありがとう。僕たちの大切な芽生くんの従姉妹という存在になってくれてありがとう。
仲良くして欲しいよ。とても親しい所に産まれた君だから。
「なんかまだ興奮してんな。でも明日は平日だ。さぁ早く風呂に入ってこい」
「はい! お先に」
芽生くんと湯船に浸かっていると、芽生くんがうっとりした表情で呟いた。
「お兄ちゃん、あーちゃん、ちいさくてかわいかったねぇ」
「そうだね」
「あ……あのね」
「ん?」
「……なんでもないよ」
あれ? 恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまった。
「どうしたのかな?」
「ううん……」
少し元気がない?
何かを言いたいのに言えないのか……もじもじした様子だ。
「あのね、芽生くんを、赤ちゃんみたいに抱っこしたいんだけど、駄目かな?」
「え? でも……ボクもう6さいだよ。しょうがくせいだし……だめだよ」
「そうなの? あーぁ、したかったなぁ」
「お、お兄ちゃんがしたいなら……し、してもいいよ」
少しずつ芽生くんも成長している。だから素直に甘えられない気持ちも分かるよ。
僕も夏樹が生まれてから、抱っこやおんぶしてもらうのが恥ずかしくなったからね。でもたまに無性にして欲しい時もあったよ。
今日は芽生くんを抱きしめたい。
「ありがとう。おいで! 芽生くん」
「うん!」
まだまだ幼児体型のぽっこりお腹の芽生くんが、僕にぎゅっと抱きついてきてくれた。
「おにーちゃん、だーいすき!」
「うん! 僕も芽生くんが大好きだよ」
僕は女性ではないので、柔らかさとは縁遠い。男性特有の硬い身体なのに、芽生くんは人肌恋しそうに頬を胸元にすり寄せてくれた。
こんな時……女性だったら膨よかな胸で子供を包み込んで安心させられるのに。
僕の気持ちを察したのか、芽生くんが重たい口を開いてくれた。
「……お兄ちゃんのここがいい。だってやさしい音がするんだもん」
あ……心臓の音のことかな?
「ありがとう。僕も芽生くんの体温が気持ちいいよ」
「あのね……お兄ちゃん、ボクも赤ちゃんのとき、あーちゃんみたいにかわいかったのかなかぁ? みんな……よろこんでくれたのかなぁ。ママも……」
胸の奥がズキっとした。
そうだよね。ママのお腹から生まれてきたのだから、今日はママを思い出してしまうよね。分かるよ、僕も母を思い出していたから。
「芽生くん、君は皆が待ち望んだ大切な赤ちゃんだったんだよ。花の蕾が膨らむようにママのお腹の中でスクスクと成長して、今日のあーちゃんみたいに、この世にやってきたんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ、みんなそうやって生まれてくるんだよ。そうだ……お風呂から上がったら、芽生くんが赤ちゃんの時の写真を見せてくれるかな?」
芽生くんが嬉しそうに笑ってくれた。
「うん! えっと、パパに出してもらう!」
「楽しみだよ」
「お兄ちゃん……」
「何かな」
「あのね……お兄ちゃんがここにいてくれて、よかった」
胸の奥がキュンとなる。
まだたった6歳だ。理解したといっても、たまにママに会いたくなるだろう。しかしママは新しい赤ちゃんのママになったばかりで遠慮しているのかもしれない。
「芽生くん……僕を……ここにいさせてくれてありがとう」
芽生くんを横抱きにして、ゆらゆらと揺らしてあげると、キャッキャッと笑ってくれた。
だが……その後……芽生くんは突然泣いた。
「うう……うぐっ、わーんっ」
ずっと我慢していたのだろう、色々なことを。
今日だけではない。少しずつ積もり積もった我慢が決壊したのだ。
僕は芽生くんを赤ちゃんのように、優しく抱きしめた。
そこに泣き声を聞きつけた宗吾さんが、慌ててやってきた。
「どうした? 二人とも! 怪我でもしたのか」
「ちがうんです……でも、少し心が疲れちゃったみたいで……宗吾さん、芽生くんの赤ちゃんの頃のアルバムってあります? あれば一緒にみましょう」
「だが……瑞樹、いいのか」
「当たり前ですよ」
玲子さんに強い嫉妬はない。何故なら……僕に芽生くん託してくれた人だし、芽生くんをこの世に産んでくれた人だから。
僕は女性になりたいわけではないけれど、母なる大地はやはり偉大だとしみじみと感じていた。
「ぐすっ、お兄ちゃん、もっと、だっこ~」
「うんうん」
「お兄ちゃんって、お花のにおいするね、おちつく。ボク……ここがすき」
ママではなくて?
今日の僕はやはり少しだけ女性という存在に嫉妬していたのかな?
僕の胸にしがみついて、ここが好きといってくれる子供と出会えたのに。
「僕も……僕もここが好きなんだ……」
僕もポタポタと落涙してしまった。
「あ……しょっぱい……」
涙が、芽生くんの口元にあたってしまったようだ。
「ご、ごめんね」
「んん……お兄ちゃんとボクって、泣くときもいっしょだね。やっぱりにているね」
「あ……うん」
僕たちの様子を、大きなバスタオルを持ってオロオロ見守っていた宗吾さんが、最後は笑いながら近づいてきた。
バスタオルを持った両手を大きく広げて……ガバッと僕たちを包み込んでくれた。
「こいつら~ 可愛いな。ふたりとも大好きだ~!」
「わ! パパ、苦しいよ」
「そ、宗吾さん、くるし」
宗吾さんに、僕と芽生くんは抱きかかえられた。
まるで大きな白い羽に包まれているようで、とても安心できる場所だ。
……
みーくん、また考え過ぎて……
あのね、好きな気持ちに……男とか女とかは関係ないのよ。
だって愛に性別はないでしょ。
広くて深ーい愛があるだけ。
だから、大きな心で見守ってあげて。
……
母の声が聞こえる。
本当にそうだね。
僕たちは僕たちだ。
生まれたての小さな命を、目の当たりにしたからだ。
子供が産まれるって……すごいことだ。
まさに命のリレーだ!
彩芽ちゃん……美智さんの元に産まれて来てくれてありがとう。僕たちの大切な芽生くんの従姉妹という存在になってくれてありがとう。
仲良くして欲しいよ。とても親しい所に産まれた君だから。
「なんかまだ興奮してんな。でも明日は平日だ。さぁ早く風呂に入ってこい」
「はい! お先に」
芽生くんと湯船に浸かっていると、芽生くんがうっとりした表情で呟いた。
「お兄ちゃん、あーちゃん、ちいさくてかわいかったねぇ」
「そうだね」
「あ……あのね」
「ん?」
「……なんでもないよ」
あれ? 恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまった。
「どうしたのかな?」
「ううん……」
少し元気がない?
何かを言いたいのに言えないのか……もじもじした様子だ。
「あのね、芽生くんを、赤ちゃんみたいに抱っこしたいんだけど、駄目かな?」
「え? でも……ボクもう6さいだよ。しょうがくせいだし……だめだよ」
「そうなの? あーぁ、したかったなぁ」
「お、お兄ちゃんがしたいなら……し、してもいいよ」
少しずつ芽生くんも成長している。だから素直に甘えられない気持ちも分かるよ。
僕も夏樹が生まれてから、抱っこやおんぶしてもらうのが恥ずかしくなったからね。でもたまに無性にして欲しい時もあったよ。
今日は芽生くんを抱きしめたい。
「ありがとう。おいで! 芽生くん」
「うん!」
まだまだ幼児体型のぽっこりお腹の芽生くんが、僕にぎゅっと抱きついてきてくれた。
「おにーちゃん、だーいすき!」
「うん! 僕も芽生くんが大好きだよ」
僕は女性ではないので、柔らかさとは縁遠い。男性特有の硬い身体なのに、芽生くんは人肌恋しそうに頬を胸元にすり寄せてくれた。
こんな時……女性だったら膨よかな胸で子供を包み込んで安心させられるのに。
僕の気持ちを察したのか、芽生くんが重たい口を開いてくれた。
「……お兄ちゃんのここがいい。だってやさしい音がするんだもん」
あ……心臓の音のことかな?
「ありがとう。僕も芽生くんの体温が気持ちいいよ」
「あのね……お兄ちゃん、ボクも赤ちゃんのとき、あーちゃんみたいにかわいかったのかなかぁ? みんな……よろこんでくれたのかなぁ。ママも……」
胸の奥がズキっとした。
そうだよね。ママのお腹から生まれてきたのだから、今日はママを思い出してしまうよね。分かるよ、僕も母を思い出していたから。
「芽生くん、君は皆が待ち望んだ大切な赤ちゃんだったんだよ。花の蕾が膨らむようにママのお腹の中でスクスクと成長して、今日のあーちゃんみたいに、この世にやってきたんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ、みんなそうやって生まれてくるんだよ。そうだ……お風呂から上がったら、芽生くんが赤ちゃんの時の写真を見せてくれるかな?」
芽生くんが嬉しそうに笑ってくれた。
「うん! えっと、パパに出してもらう!」
「楽しみだよ」
「お兄ちゃん……」
「何かな」
「あのね……お兄ちゃんがここにいてくれて、よかった」
胸の奥がキュンとなる。
まだたった6歳だ。理解したといっても、たまにママに会いたくなるだろう。しかしママは新しい赤ちゃんのママになったばかりで遠慮しているのかもしれない。
「芽生くん……僕を……ここにいさせてくれてありがとう」
芽生くんを横抱きにして、ゆらゆらと揺らしてあげると、キャッキャッと笑ってくれた。
だが……その後……芽生くんは突然泣いた。
「うう……うぐっ、わーんっ」
ずっと我慢していたのだろう、色々なことを。
今日だけではない。少しずつ積もり積もった我慢が決壊したのだ。
僕は芽生くんを赤ちゃんのように、優しく抱きしめた。
そこに泣き声を聞きつけた宗吾さんが、慌ててやってきた。
「どうした? 二人とも! 怪我でもしたのか」
「ちがうんです……でも、少し心が疲れちゃったみたいで……宗吾さん、芽生くんの赤ちゃんの頃のアルバムってあります? あれば一緒にみましょう」
「だが……瑞樹、いいのか」
「当たり前ですよ」
玲子さんに強い嫉妬はない。何故なら……僕に芽生くん託してくれた人だし、芽生くんをこの世に産んでくれた人だから。
僕は女性になりたいわけではないけれど、母なる大地はやはり偉大だとしみじみと感じていた。
「ぐすっ、お兄ちゃん、もっと、だっこ~」
「うんうん」
「お兄ちゃんって、お花のにおいするね、おちつく。ボク……ここがすき」
ママではなくて?
今日の僕はやはり少しだけ女性という存在に嫉妬していたのかな?
僕の胸にしがみついて、ここが好きといってくれる子供と出会えたのに。
「僕も……僕もここが好きなんだ……」
僕もポタポタと落涙してしまった。
「あ……しょっぱい……」
涙が、芽生くんの口元にあたってしまったようだ。
「ご、ごめんね」
「んん……お兄ちゃんとボクって、泣くときもいっしょだね。やっぱりにているね」
「あ……うん」
僕たちの様子を、大きなバスタオルを持ってオロオロ見守っていた宗吾さんが、最後は笑いながら近づいてきた。
バスタオルを持った両手を大きく広げて……ガバッと僕たちを包み込んでくれた。
「こいつら~ 可愛いな。ふたりとも大好きだ~!」
「わ! パパ、苦しいよ」
「そ、宗吾さん、くるし」
宗吾さんに、僕と芽生くんは抱きかかえられた。
まるで大きな白い羽に包まれているようで、とても安心できる場所だ。
……
みーくん、また考え過ぎて……
あのね、好きな気持ちに……男とか女とかは関係ないのよ。
だって愛に性別はないでしょ。
広くて深ーい愛があるだけ。
だから、大きな心で見守ってあげて。
……
母の声が聞こえる。
本当にそうだね。
僕たちは僕たちだ。
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